そのあひる、狂暴につき   作:グゥワバス

7 / 22
閑話・あひるの皮に騙されたふれんず

--side 車谷由夏

うちの子は背が低い。

バスケをする分にはどうにもならないハンデを背負っている。

 

それでもバスケに対する飽くなき向上心を持っている。

だから私は持てる技術の全てを息子に叩き込んだ。

 

、、、叩き込んだつもりでいたんだけどなぁ。

息子の成長は私の想像の斜め上を行った。

 

旦那曰く「軽く発破をかけたつもりだったんだけどな」とのこと。

旦那にとっても想定外の伸び代だったようである。

 

息子は自身の未来図を私に語ってくれるが、惜しむべくはその完成形を目にすることが叶わないことであろうこと。

本当に残念ではあるが、精一杯その可能性を目に焼き付けて生きたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--side 車谷智久

息子の成長が著しい。

今まではスモールプレーヤーよろしく、ちっこくて素早しっこく掻き乱し、だけど外が本命というスタイルであったが、妻が入院してからはゴリゴリに中に切り込むプレースタイルを軸にしだした。

 

武器を増やすといった点では間違いではない。

体格的な不利はあれど引出し多い方がいいのだから。

 

驚いたのはパワープレーをしだしたことだ。

その体格でインサイドプレーはどうかと思ったが、とりあえず静観することにした。

 

 

始めはチーム練習でもコーチに散々止めるよう言われたらしいが、「どうせ試合に出られないんだから好きにさせてほしい」と直談判して口を挟ませなかったようだ(息子は昔から口が達者だった)

 

普段の生活でも食事の量が明らかに増えだし、同時に運動量も明らかに増え出した。

曰く身体により厳しい負荷を与えて鍛えているんだとか。

 

身長伸びを待っててもしょうがないから、やれるだけのことをやることにしたらしい。

 

 

確かに発破を掛けたつもりだったが、まさかフィジカル面の成長を目指すとは俺も想定外だった。

 

更には俺や妻の伝でマンツーでマッチアップしてくれる大人はいないかと言ってくる始末。

 

当然始めは俺が相手をしていたが、息子の成長が著しいため俺じゃすぐに抑え切れなくなってしまった。

同時にフィジカル面での成長の早さに驚愕してしまった。

 

 

その後は俺の伝で地元の社会人チームをメインに相手をしてもらっていたが、急激に順応→フィジカル圧倒という進化を見せつけられ「息子さんを抑え切れず申し訳ない」とチームから謝罪された。

 

それでもチームにはよく帯同させてもらい、非公式ではあるが数多くのゲーム経験も積ませてもらっていた。

チームとしても息子の存在がはいい刺激になるみたいで、それなりに重宝してもらったらしい。

 

息子は息子で「OFはともかくDFは上通されたら終わりだから、チームにあまり貢献できない。できれば接触を誘発し、ファウルを貰わない程度に相手を押し返したい」と自身の能力を冷静に分析して、意味が分からないことを呟いていた。

 

 

息子には理想の選手像が見えているのだろう。

俺にも朧気ながらその理想像が見え始めていたが、同時に無謀な挑戦だと思っていた。、、、思っていたんだよなぁ。

 

気がついたら社会人チームのDFを一蹴するくらいのフィジカルを身につけた息子を見て、いよいよ高校選びも大変なことになる、と思った矢先に妻の容態が一変した。

 

 

 

ここで息子は妻の病院に近い高校を選択し、俺と盛大に喧嘩をした。

 

俺の言い分は一貫して「家庭に囚われるな」という事だったが、息子の返しは「僕を逃避先の理由にするな」だった。図星だった。

 

 

曰く高校三年間程度自分の練習位面倒は見れる。

練習相手の見つけ方は父さんが教えてくれたじゃないか。

何より母との時間を大切にしたい。ここを妥協したら一生後悔する。

 

 

何も言い返せなかった。

 

返しを考えていたら義母に連絡を取り付け、生活基盤の確保をすでに終えている始末。

挙げ句経済面での不安要素も取り除こうとする徹底ぶり(リンゴの銘柄が伸び続けているのを見る度に戦慄している)

 

 

ーー息子の動きを中心に俺は流されているだけ。家庭に囚われているのは俺の方だったってオチだ。

 

この話を妻に打ち明けたら盛大に笑われて「で、私との時間が増えたってわけね。愛されてるわね、私」無茶苦茶からかわれた。

 

看護師さんからも「素敵な関係ですね」と言われて恥ずかしかったが、不思議と悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--side 藪内円

男バスにとんでもない新人がやって来た。

結果だけ言うと男バスが不良の巣窟だと注意を促したらその日の内に部員を締め上げていた。意味が分からなかった。

 

 

 

 

 

私の注意に聞く耳を持たずコートでアップをしようとバッシュを履こうとしていたら案の定百春達と遭遇。

 

百春達の挑発に怯む様子もなく反論したら安原がいきなり新入生を蹴りつけてきた。

体格の差など気にしない容赦ないもので、当然新入生は盛大に吹っ飛ばされてしまう。

 

流石に不味いと介抱に向かおうと思ったら、新入生がいきなり立ち上がり、「よっしゃぁあああ、正当防衛じゃぁあああ!」と、叫びながら安原に向かって突っ込んでいた。

 

まさかの真っ向勝負。

 

当然安原も迎え打とうと身構えていたけど、体格差を物ともせず勢いそのままマウントを奪って、透かさず安原の顔面に頭突きをしていた。何度も。

 

 

素人目に見ても容赦というものを一切感じず、慌てて茶木と鍋島が引き離しにかかってたけど、マウントのまま腕力だけで2人を吹っ飛ばし、立ち直りの遅かった鍋島の顔面にサッカーボールキックお見舞いしていた。

鍋島は顔面を抑えて動かなくなった。

 

立ち上がった茶木も新入生に向かっていったけど、新入生も物凄い勢いで茶木の鳩尾当たりに頭から突っ込み、安原同様マウントを奪って今度は拳落とし続けていた。

 

 

 

ここで百春が散乱していた新入生のバッシュを拾い上げ「焼却炉で燃やすぞ!」と言って新入生に対面。

 

冷静になって考えてみればバッシュ程度で手を止めることは無いと思ったけど、新入生にとっては余程大事物だったらしい。百春にとって幸運にも。

 

ただその後は不幸としか言いようがない。

新入生はとんでもない跳躍で百春の顔面に膝を叩き込んでいた。

 

百春も馬鹿力で新入生に2、3拳を返していたけどそんな攻撃どこ吹く風と、百春の髪の毛を徐に掴んで「そぉおおいい!」と言って顔面をコートに打ち付けていた。

 

一度や二度では無く、徹底的に、何度も。

百春が大人しくなった所でそれは終わったけど、新入生はまだ髪の毛を離そうとせず、百春を引き摺り体育館の外に出ようとしていた。

 

行き先を尋ねると「焼却炉です」と笑顔で返された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 百春

何だこの化物。躊躇いが一切ねぇ。

ヤスが瞬殺されてナベとチャッキーも秒殺されて。

 

何とかしねぇとという思いであいつのバッシュを手にして挑発をすると、あいつはチャッキーを殴る手を止めた。

 

一瞬安堵の気持ちが勝ったが、間もなくそんなことも考えられなくなった。

 

さっき以上にぶちギレた顔で俺に迫って来たのだ。

当然俺も迎え撃ったが、どこを殴っても固く、全然効いた様子が見えなかった。

 

そのまま俺は髪の毛を掴まれ、コートに顔面を叩きつけれた。

俺も反撃しようと力を込めていたが、尋常じゃない膂力で抑え込まれ、二度三度と顔面がコートに打ち付けられた。

 

 

霞がかってく意識の中でマジで殺されるんじゃ、と思い至った所で気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

次に目を覚ました時は俺の隣で千秋が仰向けに倒れ込んでおり、満身創痍の姿で俺に話を振ってきた。

 

 

「お前、あいつに何したんだ」

「袋にしようとして返り討ちにあった挙げ句、あいつの私物を燃やそうとした」

「バカだなぁお前。喧嘩売る相手完全に間違えてたぞ」

「だろうな。千秋は」

「お前がマジで殺されそうだと思ったから止めようと思って返り討ちにあった。直後にサッチーら先生達が来て大人しくなった」

「マジで悪かったな」

「情状酌量の余地もなくお前らかっこ悪いぞ。俺もそうだけど」

 

 

今までは暴力で相手を黙らせてきたけど、巡りめぐって俺達が黙らせられる立場になっただけ。

 

気にしたこともなかったけど、どうしようもなく惨めだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

--side 安原

気に入らなかったらオラ付いて暴力入れる。

大体それで我を通してきた。

時たま他校の連中ともやりあうこともあったけど、それでも滅多な事じゃ負けることは無かった。

 

サシでやっても大体負けることはねぇし、人数揃えて袋にされても必ずお礼参りは行っていたし。

勝って気持ちよくなるか、負けても言い訳垂れて条件揃えて仕返ししてトントンってことにしていた。

 

例え俺がやられても、チャッキーやナベ達がいる。

百春や最悪千秋だって出張ってくれる。

負けることは先ずねぇと思ってた。

 

 

 

「先ず4対1ってのがだせぇ。

 新入生、それも自分より体格に劣る奴にイキルのもだせぇ。

 バスケ部って看板背負って学校の庇護下にあるってのも中途半端にだせぇ。

 見回りとか馬鹿じゃねぇのかって思う。

 

 僕にバチクソしばかれて、外野に助けられて不貞腐れた態度とかくそだせぇ。

 先生方の手前僕も大人しくしているけど、いなくなった時にそんな態度を取れるのか。

 この後何のお咎めも無ければ僕は間違いなく同じことを繰り返しますよ。

 

 ねぇ、まさか自分らは守られてると思ったから未だにそんな不遜な態度で入られるの?

 ねぇ、何でそんな余裕そうな態度なの?」

 

 

上には上がいた。

ただそれだけの話だ。

 

しかも徹底的に詰めて来る。

先生らの前でも関係ねぇとばかりに俺たちに圧力をかけてくる。

 

悪夢でしかねぇ。

結局全員謹慎処分となった。

勿論同様の事案を起こしたら退学、場合によっては警察を呼ぶこともあると。

 

 

「こいつら如きに自分の進退は賭けられません。

 良かったですね先輩方。社会のルールに守られてて。

 

 あーあ。こんなことなら先輩らにやられた善良な生徒達の分もシバいとけばよかった」

 

 

情けねぇけど、心の底から安堵した。

 

 

 

 

 

 

その後は謹慎期間に入り、監督者のじいさんや百春達とも話し合った。

 

監督者には今の気持ちを素直に口にしてみなさいと言われたから「あいつが怖ぇ」と言った上で「びびってることがだせぇし、仕返しをしたいと思うことはある。だけど怖くてできない」と正直に話した。

 

「そうか。なら安原君は当分ここにいなさい」

「何でだよ」

「自身で言ったではないか。仕返しをしたいと。その子も同じ気持ちだと仮定して、仕掛けて来る可能性があるじゃろ。この謹慎期間中位ここで大人しくなさい」

 

 

あり得ると思った。

同時に百春達にも同じことを話した。

 

すると百春にはすでに接触があったみたいで、患者件喧嘩を吹っ掛けた件で親父さんと話し合ったらしい。

 

特に謝罪を求められることは無かったようだが、親父さんを通して「だせぇ喧嘩を息子さんに吹っ掛けられたのでその経緯を聞くだけ聞いてください」と愚痴られたらしい。

 

その上で「放任主義も構いませんが当人らにケジメ位付けさせるよう発破はかけてください」と言われたらしい。

 

いかれてると思った。

同時に謹慎が解けたら詫びを入れることにした。

もう抵抗の気力も無かった。百春達も同様のことを悟ったらしい。

あいつならまだまだ追い込みかねないと。

 

 

じいさんにも話は通した。

素直に「本気で怖いので謝罪をする」と。

 

「、、、その子はそんなに恐ろしいのかの」

「まだイラつくこともあるけど、そいつにオラつかれたらブルッちまう位には。

後ダチに話を聞いたら家にも顔を出してきたらしい。

俺はもう反抗する気力も起きねぇよ」

「ホンにおっそろしぃのぉ」

「だから悪ぃけど、もうちょい迷惑かけるかもしれねぇ」

「今更じゃて。しかしこんなことで安原君のしおらしい態度を目にするとはのぉ」

 

 

 

 

前まで持っていたギラギラした感情が急速に萎んでいくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 迫田稔

押尾先生との面談の最中にそのチビはやって来た。

五月先生のホットラインに俺がバスケを齧っていると知り勧誘に来たようであった。

 

確かに入学間もない頃は熱量があった。

だから部室に集まった柄の悪い連中にも声をかけた。

結果は散々だったが。

 

ああ、こういう星の巡り合わせなんだなと、物事と言うのは上手く事が進まないことを知る気きっかけとなった。

要するに、バスケを諦めた。

代わりに現場仕事の要領を学んだ。

 

もう一年、みっちり修行を積めば来年からでも働きに出れるとお墨付きも貰っている。

 

だからこのチビには悪いが、もうバスケに関わることは無いと答えたのだが、割と食い下がってきたのだ。

 

 

曰く、

不良をシバいてバスケ部を再始動出せた。

ついでにこのチビの練習相手にするためシバいた不良達を目下仕込んでいる最中である。

人手が足りないので経験者の手を借りたい。

別に毎日来なくてもいい。

やりたいようにやればいい。

 

 

「何でこんな面倒なことしてんだ」と尋ねたら「不良のせいで僕が折れるなんてださいことしたく無かった」て返された。押尾先生が苦虫を噛み潰したような表情をしていて面白かった。

 

しかしこのチビが花園達をシバいたと言われてもにわかに信じ難い。

先生の反応や花園達が大人しくなったことを鑑みるにガチなのは分かるが。

 

 

さて、申し出自体には正直惹かれている。

花園達と活動というのは正直気に入らないが、ラフにバスケをする程度であればまあ顔出しくらいは別にいいか、と思う位には。

 

学外に目を向ければ何かしらバスケサークル的なものもあるんだろうが、学校で出きるのであればそれに越したことはない。時間を有効に使える。

 

総合して、このチビの提案は悪くないと思った。

花園達をシバいたというのも個人的にはざまあみろとも思ったし。

 

「とりあえず見学していいか」と聞いたら二つ返事でOKを貰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の認識が甘かった。

このチビ、ガチだ。

 

コートでは花園とチビが延々と1on1を行っていた。

色々とシチュエーションを変えて行っていたが、総じてこのチビは190近い花園をパワーで圧倒していた。

 

特にゴール下から始まった1on1で花園を押し込みシュートを決めているのだから恐ろしい。

 

あの身長で密着状態から跳躍されるとそりゃ頭もぶつかるが、それでいてチビの方は無傷そうに見えるから理不尽な身体していると思う。

 

 

花園もよく食らいつく。

動きも経験者のそれだ。

 

途中花園が倒れ込んでも安原達が代役としてチビの相手をする。

 

流石にあのチビも加減をしているようで、何だったら合間合間にDFの構えやシュートフォームのチェックなどかなり親身になって教えている。

で、確認したらすぐ実践。

 

正直、かなり恵まれた環境下でこいつらはバスケをしているように思える。

人数が少ないからできることだろう。

 

 

 

「迫田先輩相手してくれません。見てるだけじゃ退屈でしょ」

「お前、いい性格してるな」

「ブランク持ちみたいなので加減しますよ」

「乗ってやるよ。舐めんな、後輩」

 

 

こいつらの面倒を見ながら花園の代役か。

このチビと1on1ができるならお釣りがくるだろう。

人数も俺含め6人なら校外でゲームだってできそうだ。

 

 

 

「先輩、ちょっと力はありますね」

「押し込めねぇよ、くそったれ」

「0.7百春君位の力ですね。あ、そのジャンプショットは届きませんので僕には効きます」

 

 

入ればですけど。と言葉を添えられた。

ミドルレンジから打たされるがこのチビの攻略は先ずはこれだろう。

 

とりあえず、直近の目標のチビからゴールを奪う方法を確立させることからだ。

 

自分でも驚くくらいやる気になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 五月

新入生が花園達をシバいた。

 

第一報がそれだった。

意味も分からず現場に駆けつけたらその通りだった。しかも兄弟揃って。

 

とにもかくにも止めねばならん。と思ったら新入生はすぐ大人しくこちらの指示に従ってくれた。

 

その後は指導室で経緯を聞いたが、まあ頭が痛い。

 

花園達は確かに悩みの種であった。

それ以上の悩みの種が出てきてしまった。

 

花園達は非行を何となくで行っているが、車谷は手段として花園達に行った。きっちり言い訳まで用意して。

 

 

車谷の言う通り、元は私達大人がしっかり監督できていなかったら故に起きてしまった事案でもある。

思い切りの良すぎる新入生過ぎではあると思うが、それは私達の言い訳だ。

 

暴力はいかんだと言っても「じゃあ黙ってリンチを受けてれば良かったですかね」と言われれば何も返せない。

「耐える痛みを知りなさい」なんて事は間違っても言えないし、この子には響きもしないだろう。

 

花園達を解放した後によくよく話を聞いても「バスケがしたいだけです」と結局それだけなのだ。

 

だから反省の意思も見られないし、何を省みさせればいいのかも分からない。

 

ことの結果から処分を逆算して、情状酌量の余地を見出だすしかないとのことで、謹慎処分とした。

 

 

これからしばらくバスケ部は荒れる。

私や他の先生達もこの時は同じように考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風向きが変わったのは謹慎処分が解かれたその日からだった。

 

花園達の謹慎期間中にバスケ部の監督者をどうするのか話し合いの場が設けられていたが、案の定生徒指導に当たっている私にお鉢が回ってきた。

 

とても嫌ではあったが仕事と割り切るしかない。

覚悟した矢先に生徒達がやって来たのだ。

 

早速何があったのか。

 

代表して車谷が「伺いたいことがあります」と切り出してきたので生徒指導室で話を聞くことにした。

 

 

そしたらなんてことはない。

ただただ当人同士で折り合いが着き、車谷が謝罪を受け入れたとのことである。

 

で、お騒がせして申し訳ないと先生方の代表である私に謝罪を申し出たと。

 

正直思ったのが「何を企んでいる」である。

 

案の定、続けざまに御祓は済んだとばかりに部活動の再開についてしれっと申し出てきた。

 

活動停止と言いたいところだが、結局は部員同士のいざこざであり、それも当人同士で解決したようであれば止めさせる名目はない。

 

ましてや車谷が真っ当にバスケがしたいがために起こした騒動である。

止めさせたら正直もっと拗らせてくる。

 

部活動については認めざるを得ない、と言うのが職員間で出した結論だった。

但し、次問題を起こしたら活動は停止させると釘を指した上で。

 

併せて監督者を務めることになったことを言うと「つまり顧問をされると?」聞いてきた。何を当たり前な。

 

、、、何故か車谷の目が輝き出した。

コートの使用権についても切り出したら更に輝き出した。意味が分からない。

 

運動部のコート利用について説明を終えたところで車谷は花園達に「問題を絶対起こすな」と強く釘を刺してきた。

いや、確かに問題を起こされたら監督不届と言うことで処分が下される可能性はあるが、別に進退を迫られる程では無いぞ(多分)

 

と言うか飲酒に喫煙って、、、、やってないよな。

うん、やってなかったことにしておこう。

大切なのはこれからだ。

 

しかし相変わらず車谷の言うことは圧が強い。

花園達も妙に覚悟を決めたような表情をしているし。

 

暴力を正当化するつもりは毛頭無いが、強引に引っ張っていく強さというものもあるのかと、ある意味感心させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 鍋島

何故かバスケ部として真っ当に活動することになった。

 

いや、色々思うところはあったけど、結局行き着くところは空坊にびびってるってことなんだと実感した。

 

だってマジで殺されると思ったし。

ただ他の連中のやらっれっぷりを聞いてると俺は一撃で済んで良かったのかもしれない。

大きな外傷も無かったし。

 

謝りに言っても俺らの態度が悪かったからまた圧をかけてきた時は焦った。

四の五言わず謝った。

 

 

職員室に向かう最中に「着火点が低すぎだろ」って言ったら「あんた達にやられた人達だって僕みたいな腕力があったら同じことをしてる」って返された。「それは、そうか」としか言えなかった。

やっぱだせぇよなぁ。

今まで弱そうな連中にしかイキってなかったんだとしみじみと思った。

 

 

職員室でも空坊は相変わらずだった。

俺らを労力としてだけではなく喧嘩、飲酒、タバコを絶対するなと釘を刺してきた。

 

ヤスが反論しようとしたが、更に空坊が畳み掛けてきて完全に俺らは戦意喪失。

言うだけ言って「文句あるか」ってまんま俺らがやってたことだ。もうぐぅの音も出ない。

 

 

プライドはずたぼろ。

反抗するにも報復が怖い。

、、、俺らってこんなことしてたんだ。

 

バスケ部ではどんなことをさせられるのか。

なるようにしかならないと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、悲壮感漂わせていたけど、やってることは真っ当に部活動だった。

 

始めは百春への当たりを見てやべぇと思ったけど、ルールに則ったプレーと聞いて「バスケやべぇ」と感じたりもしたが、やべぇのは空坊の方だった。

 

百春でさえ「単純にパワーと体格の違いだ」と言ってるのだからそうなのだろう。

お前にそれ言わせるって、もうやだこの新入生。

 

 

俺らに代役なんて無理だろと思いもしたが、今は育成期間のようで、無茶苦茶分かりやすくやることと練習の目的を教えてくれる。

 

ハンドリングやらドリブル練やらDFやらシュートやら内容は盛り沢山だけど、じっと百春がボコボコにされてるのを見てるよりは身体を動かしている方がずっといい。

 

、、、サボったら空坊が何言ってくるか分からないってのもあるしな。

 

 

一度「なんで俺ら何ぞの練習に目をかけるんだよ」と聞いたことがあったが「使えるもの使ってるだけですよ」とあっけらかんと言われた。

 

続けて「もっといびる思ってたけど」とも聞いたが「一遍絞めたからそれでチャラかと。またふざけたことしたらあれですけど」とも言われた。やっぱりたまに怖い。

 

 

でも昔話野球部にた身からしたら、練習内容に理不尽がないのは以外だし、説明も分かりやすいからなんかこう、充実してきてるって最近は思い始めていたりする。

紆余曲折ありすぎたけど。

 

 

 

 

 

 

ーーside 茶木

始めはやらされてるなぁ、と正直思った。

空坊もそれを承知で俺らに教えてる節があった。

教え方はくっそ分かりやすかったが。

 

それでも百春や千秋みたいに熱くなってはいなかったし、ヤスやナベのように我武者羅に取り組む気持ちもなかった。

 

確かに空坊はおっかなかったけどその本人がチャラと言ったのだ。

釘は刺されたがそれは禁止行動についてである。

 

バスケについてはあくまでやれ、ってだけであり本気で取り組むことは強制していない。

 

だから素人三人の中では一番運動量が少ない。

、、、と言うかヤスもナベも元はスポーツマンであったため基礎体力がちげぇ。

 

適当にやって匙加減探ってぼちぼちサボることも憶えっべ。

そんなことを考えていたら迫田が入部してきた。

 

 

 

「迫田だ。そこの後輩に言いくるめられて練習に参加することになった」

「先輩方が1年間拗らせたため入部が遅れたようです。

幸いにも僕が真っ当にバスケ部を再開させたので本人はやる気になってくれましたが、1年間時間を無駄にしています。あんた達の最大の罪だ」

 

 

 

強烈だった。

思えば考えたことも無かった。本気でこの高校でバスケをしようとしていた奴らのことを。

 

 

 

「別にグレようが何だろうが知ったこっちゃ無かったんですけど、バスケ部である必要は無かったと思うんです。

 

さっさと部を明け渡してあんたらだけで完結してりゃ良かった。

 

本当にろくなことをしない、、、って言っても今更ですね。

だから寄越せ。残りのあんたらの青春はバスケに死ぬ気で取り組んで少しでも迫田先輩に還元しろ。

 

くそが。

被害者がいなけりゃ僕もこんなこと言いたかなかったですよ」

 

「、、、気にしてねぇとは言えないが、お陰で別なことに時間を費やせた。

だからここから先はとことんバスケにのめり込むつもりだ」

 

本当に俺らは、俺はどうしようもない。

同級生の一年を無駄にしたのだ。

得ていたのはしょぼいプライド。

 

、、もういらねぇよ、くそったれ。

 

 

 

「と言うわけで九頭高バスケ部、強制的に再始動です。文句は受け付けません。死ぬ気で取り組んでください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 夏目健二

親に見放され、バスケに集中せんと思ったら、入学早々部室行ったら悪い先輩らに袖にされ。

 

時間が少し経ち何故わしがバスケにまで妥協せんとあかんのかと思い立ち、コートでストレスを発散してる時にそのチビが跳んで来て、わしにドロップキックをかましてきて、、、

 

そうじゃの、完膚なきまでにぼこされたんじゃ。

今までの鬱憤を晴らそうと思ったら何度も顔面を部室の床に打ち付けられて、あいつ、笑ったとったんじゃ。

 

自分より圧倒的な強者が笑いながら迫るとチビだろうが怖いと学んだわ。

 

で、話を求められ、何故こうなったのか経緯を説明したところ「女子バレー部は関係ないだろう」と正論をかましてきて。

 

頭に血が上って1対1をすろことになったんじゃが、まあそこでもボコボコにされた。

 

 

圧倒的だった。

対面で先ず抜けん。反射神経と瞬発力が恐ろしくいい。

強引に抜こうとしてもあのチビに逆に弾かれる始末じゃ。

ありゃ肉体にゴリラをインストールしとるわ。

 

ボコボコにされ過ぎて途中から外聞もへったくれもなく躊躇せずアウトレンジも使うようにした。

 

それでもタイトにディフェンスしとくる。

体勢を崩されたシュートじゃあまり精度もようならん。

 

加えてスタミナじゃ。

あのチビは息も上がっとらんのにこっちはぼろぼろ。

 

まさに課題を突きつけられた気分じゃった。

 

 

最後は本家顔負けのインサイドプレーでゴール下までボールを運ばれて。

始めからそれで余裕でしたと言わんばかりに舐めぷさせられてしまいじゃ。

 

 

 

『で、兄ちゃんは坊主になったといわけなんじゃな』

 

『まあの。あんチビ怖すぎじゃ』

 

『兄ちゃんがそこまで言うんじゃあ相当なチビなんじゃな』

 

 

 

相当なチビだったからこそ最後のプライドも捨てた。

あそこで謝らず坊主にしとらんかったら関わりすら消えておったと思う。

それは機会の損失じゃ。

そこまで愚かにならんくて良かったわ。(単純に怖いのもあったが)

 

負けて悔しいと思いもしたが、あそこまでとことんやって負けたんじゃけ。根本から変えるしかないと言う思いが強かった。

 

 

 

「少なくとも食って寝ることまで考えてバスケしてるよ。身長が無いから身体を鍛えない、とはならないでしょ。

 

だからむっちゃ鍛えてる。2m級の筋肉達と身体能力でタメ張れる程度に。

 

だからうちの先輩らを使い物にして鍛えるもっと自分を高めるつもり。190台が3人経験者ってのは恵まれてるしね。

 

で、技術面は正直供給過多ではあるんだよね。少なくとも社会人級を相手に磨いていたから、これ以上となると本当にプロに足突っ込んだ人が欲しいんだけど、少なくとも君じゃ全然足りない。

 

足りないけどいないよりマシかなってレベル。

で、成長してくれるなら儲けものかなって。

 

実際君レベルの高校生って見たことはないけど、高校生の範疇なら凄いってことは分かるよ、流石に」

 

 

 

こげんこと言われたら火がつく。

ボロかすに言われたがコイツの実力は間違いない。

 

頭位いくらでも丸めたると思ったわ。

 

 

 

その副産物か。

かつてわしを袖にした先輩らもよくしてくれちょる。

 

下手くそばりに文字通り必死にやっちょるし、わしの練習にもよく付き合ってくれちょる。

 

坊主のわしを見て真っ青な表情で「空坊に何された」と心配して聞いてくれたしの。

むしろつい最近まで聞かん坊だった先輩らがわしを気遣ってくれる方が気になる。

 

あんチビに何されたらここまで心変わりするのか。

 

 

お互いの身の上を話し合ったら、お互いがお互いに優しくなった。

そりゃあんだけこかされたらやり返す気力も無くなると。

 

 

 

「正直トビの時間まで無駄にしなくて良かった。そしてすまなかった」

 

「今があるからもうええ」

 

 

後はもう開き直って伸びるだけじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 花園千秋

引き摺られている百春を見た瞬間一気に頭が沸騰した。

そいつに向かって浴びせ蹴りをぶちかましに行ってた。

会心の一撃だった。

 

 

「1発は1発」

 

 

お返しは強烈な拳だった。

次に気がついた時は百春の隣だった。

 

話を聞くと言い訳のしようもない位に百春達が悪かった。

我が弟ながらしょうもない。

尤も手を貸そうとした俺も同罪だが。

お互い生温い環境に浸かりすぎた。

 

 

さて、どうしたものか。

 

 

なんて悠長に考えてたらあいつは更に畳みかけてきた。

まさか実家に仕掛けてくるとは。

 

おかげで親父ともう一戦する羽目になった。

傍観者気取ってるから痛い目見ると。その通りだ本当に。

 

 

正直気は進まないが俺は俺であいつと向き合わないといけないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百春にバスケ部に集まるように言われた。

理由を聞いたら同級生の1年を補えと。

 

頭を抱えた。

迫田のことがここで尾を引くとは。

腹を括るしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誠意をもって謝ったら許してくれた。

但しバスケ部として全力でバスケに臨めと。

 

驚く位に拍子抜けだった。

まとめるにこいつは単純に自分のためにバスケをしたいだけ。

 

その道中に迫田がいたから百春ら(俺も含め)を強制的に焚き付け自分の利になるように動かした。

で、トビはついでに拾った。

 

突出する腕力を最大限に活かして自分の利益を強引に引き寄せたというとこだろ。

 

恐ろしい位に自分勝手だけどそれに救われた。

人に迷惑かけるより自分のしょうもないプライドに向き合った方が建設的だ。

 

 

過去のバスケ部のやり取りをこいつに話したら案の定鼻で笑われた。

尤もその後に指導者の指導力がくそ過ぎると言ってくれたおかげか、俺も百春も少しは救われた気分だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。