ようこそ神楽坂優樹がいる教室へ   作:ちーる

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一年生一学期
1話:入学


 

 

高度育成高等学校の校門前の桜並木は、今日もこれでもかというほど満開で、花びらが風に乗ってひらひらと舞っている。その中心を、まるで主役と書いて「センター」と読むかのように歩いてくる人物がいた。

そう、みんな大好き優樹君だ。

 

優樹は満開の桜を背景に、心の中でファンファーレを鳴らしていた。

 

(来た……来たぞ新学期!入学初日、桜、校門、視線集中……これはもう主人公ムーブ確定だろ)

 

歩調は自然と軽くなり、歩く度に脳内ではどこかで聞いたことのある学園物アニメBGMが再生されていた。

 

 

その瞬間までは、完璧だった。

 

優樹は、桜吹雪の中で一瞬だけ立ち止まり、あえて視線を斜め四十五度に流すという高度な主人公テクを発動させた。

(よし……ここで誰かと目が合う。できれば美少女。イベント発生だ)

 

――発生した。

 

ただし、思ってたのと方向性が違った。

 

「……ちょっと」

 

背後から、凛とした、しかし温度の低い声。

優樹が振り向くより早く、肩がコツン、とぶつかる。

 

「邪魔よ」

 

一言。

それだけ。

 

ズバァン、と心に直撃。

 

脳内ファンファーレ、強制終了。

 

(え、待って。今の流れ、僕が悪い?主人公、悪い?いやでもほら、校門前で立ち止まるのってテンプレだし……)

 

そこに立っていたのは、艶やかな黒髪を腰まで流した美人だった。切れ長の目に、桜よりも冷たい視線。いかにも「近寄るな、話しかけるな、でも成績はトップクラスです」みたいなオーラを全身から放っている。

 

(ツ、ツンデレだ……!黒髪美人系ツンデレだ!

いや待て、これはツンしかない初期状態! デレどこ!?)

 

「えっ、ああ!ごめん。道を塞いじゃってたかな」

「そう、分かればいいわ」

 

そう言い残すと目も向けず、そのまま歩いていってしまった。残されたのはションボリした優樹だけ。

現実は非常である。

 

「……僕もそろそろ行くか」

 

 

思考をおふざけモードから切り替えて、校門をくぐると、そこには新学期特有のざわめきが広がっていた。期待と不安が半々に溶けた空気。あちこちで制服姿の生徒たちが集まり、クラス分けの掲示板の前には人だかりができている。

 

「さて……僕の学園生活、運命のクラスは……」

 

クラス分けが表示されている掲示板を見て4つのクラスからどこに配属されたのか探す。

 

「坂柳……おっとこっちは有栖の名前だった。優樹の方はどこだ?これか……Bクラスっぽいね」

 

 

見ると有栖はAクラスで僕はBクラスだった。

まあ、同じクラスだったら尻に敷かれて雑用とかさせられそうだし違ってよかった〜

 

「……坂柳か?」

 

 

後ろから声をかけられたので振り向くと、見知った顔があった。真面目な感じでイケメンの神崎隆二だ。

 

「ん?おー!隆二じゃん!久しぶりー。4年ぶりくらい?」

「ああ、最近はお互い親が忙しくて会ってなかったからな。俺はBクラスだったがお前はどうだ?」

 

「まじ!?僕もBクラスだったよ。これからよろしくー!せっかくだし一緒に教室行こうぜ」

 

 

 

◇◆◇

 

 

『1-B』とある教室に入ると既に30名ほどクラスメイトが入っていて談笑していた

 

 

(……見た感じ、協調性が高い人が多いっぽいね。入学初日で会って間もないのに談笑してるって、なかなかだな)

 

 

神崎と別れ、席に座ってしばらくするとチャイムが鳴り、軽い足音を響かせながら担任が現れた。

 

 

「みんな、入学おめでとうっ! 君たちBクラスの担任の星乃宮知恵だよー!普段は保険医やってるから、体調悪くなったら来てね」

 

 

元気と明るさを濃縮したような先生だった。その声だけで教室の空気が一段階明るくなる。その後、この学校についての説明を始めた。

 

 

説明はテンポがよく、内容も聞き取りやすい。思わず「この先生、当たりかも」と思ってしまうほどだった。

 

 

この学校の説明と一緒に学生証が配られた。説明で重要だと感じたのは、この学校にはSシステム────1ポイントが1円と同価値のポイント制度、があることだ。このポイントは敷地内であらゆるものが買え、譲渡も可能ならしい

 

さらに衝撃だったのは、この学校はクラス替えがないことだ

────つまり、人間関係でミスったら『詰み』ってこと

 

 

「それと皆の学生証には既に10万ポイントが振り込まれてるから自由に使ってね〜。ポイントは毎月一日に振り込まれるよ」

 

僕も学生証を見るとそれが振り込まれているのを確認する。

 

【100,000ppt】

 

本当に10万。桁を間違っていない。

 

(どう考えても、ノーリスクで10万という大金を得られるわけが無いね────なにか仕掛けがあるんだろうけど現時点では情報が少なすぎるな)

 

 

「最初に伝えておくけど、この学校では実力で生徒を測る。倍率が高い高校入試をクリアしてみせたみんなには、それだけの価値があるって学校が評価したんだ。あ、でもでも、卒業後はどれだけポイントが残っていても現金化は出来ないから注意してね。仮に1000万ポイント、100万ポイント貯めていたとしても意味は一切ないからね。あと、学校はいじめや恐喝には敏感だからしないように」

 

「質問は……ないみたいだね、じゃあ入学式には遅れないようにしてね〜」

 

 

それだけ言い残すと先生は足早に教室から去っていった。

 

先生が去り、支給されたポイントのことで浮き足立っている教室で

 

「1つ皆に提案があるんだけどいいかな?」

 

1人の女子生徒が立ち上がってそう言った

 

 

「私たちはこれから三年間同じ教室で過ごすから、みんなで自己紹介をしたいと思うんだけどどうかな?」

 

「賛成ー!まだみんなの名前とか知らないしね」

 

みんなの賛成が得られたところから自己紹介が始まった。

 

「言い出しっぺの、私から言うね。私の名前は一之瀬帆波。中学の時は皆から帆波って言われていたから、気軽に帆波って呼んでくれると嬉しいな。ここでは生徒会に入りたいと思ってるんだ。よろしくね!」

 

The優等生って感じの自己紹介だね。見た感じ、彼女は打算とかが全くない、完全に善性の塊みたいな人間だ

 

しばらく他の人の自己紹介を聞いていると僕の番がやってくる。隆二は素っ気ない自己紹介だった。もっと人と関わり持った方がイケてると思うんだけどなあ

 

 

「こんにちはー!坂柳優樹です。文武共に平均くらいの一般男子生徒だよー。絶賛友達募集中!仲良くしてね」

 

「坂柳って理事長の……?」

「私、確かお姉さんが凄い賢かったの覚えてるよ」

「兄弟共に美男美女か……」

 

有栖はやっぱりみんなに知られてるみたいだ。まあ入試の筆記も余裕で上位だったし当然か

 

自己紹介が進むにつれ、Bクラスの特徴が浮かび上がってきた。

 

・明るく親しみやすい生徒

・基本的に成績は平均より上

・運動が突出して得意な人がいない

・極端な秀才や問題児はいない

 

つまり──このクラスは『バランス型』だ。

 

言葉にすると聞こえはいいけど、裏を返せば「決定打に欠ける」とも言える。

 

(なるほど……Bクラスって、そういう立ち位置か)

 

Aクラスは成績エリートの集団。

Dクラスには問題児や落ちこぼれが集められている可能性が高い。

Cクラスはその中間。

 

そしてBクラスは──「扱いやすい優等生」。

 

優樹は理事長である父からこの学校について、直接聞いているわけではない。しかし天才であるため、この学校の大元の仕組みを、見聞きした情報からある程度理解していた。

 

例えば、クラスごとに特色が違う生徒が集められており、Aクラスが優秀。Dクラスが不良品というように分けられていることなどだ

 

 

◇◆◇

 

入学式は形式的だった。

校長の長い話。そして例年通りの「この学校は君たちの可能性を〜」という決まり文句。

 

優樹は半分聞き流しながら、別のことを考えていた。

 

(10万ポイント。譲渡可能。)

 

この二点だけで十分すぎるほど"匂う"。さらに先生が言った『ポイントは敷地内であらゆるものを買える』という点が引っかかる。言葉通りなら、テストの点、人材、なんならクラス移動でさえできるのではないだろうか

 

長ーい入学式が終わり、一度教室へ戻った後解散となった。

 

そのため僕は帰路に着こうとしたんだけど────

 

「おーい、坂柳!一緒にカラオケ行かねーか?」

「柴田と渡辺じゃん。いいね、僕も一緒に行くよ!」

 

こんな感じでクラスの男子生徒数人とカラオケに行くことになった。

 

 

「坂柳ってさ、思ったよりフツーだよな」

「それ、どういう意味だよ柴田」

「いや、ほら。理事長の息子って聞いてたから、もっとこう……近寄りがたい感じかと思ってた」

 

 

カラオケに向かう道中、そんな会話が飛び交う。

メンバーは柴田颯、渡辺紀仁、それともう一人、……確か別府良太だったかな。

 

 

「それ褒めてる?」

「褒めてる褒めてる。話しやすいって意味な」

 

「ならよかったよ。僕も普通の学園生活を満喫したい一般人だからさ。姉はいわゆる天才ってやつだけど僕はただの一般人だからね」

 

そう言うと、全員が笑った。

――この距離感。悪くない

 

 

 

カラオケは、思っていたよりも盛り上がった。

 

誰が最初に歌うかで揉め、結局ジャンケンに負けた渡辺が昭和寄りの熱唱を始め、全員でツッコミを入れる。柴田は無難に流行りの曲、別府は謎にアニソン縛り。優樹はというと、あえて少し古めの学園アニメ主題歌を選んだ。

 

しばらくして落ち着いた頃、話題は男子高校生らしいものに変わる

 

「柴田、一之瀬さんのこと目で追ってただろ?好きなんじゃねーの?」

「んな!そういう渡辺だって網倉さん見てたくせに!」

 

「ち、違ぇよ! 別に見てただけだろ!」

「それがもうアウトだろ」

 

ワイワイと不毛な言い争いが始まる中、優樹はマイクを置き、ソファに深くもたれかかった。

 

「で? 坂柳はどうなんだよ」

「え?」

 

突然、話題の矛先がこちらに飛んでくる。

 

「気になる女子とかいねーの?」

「そうそう、あの一之瀬さんとかさ」

 

(来たな……恒例イベント"恋バナ強制参加")

 

「うーん……一之瀬さんは確かにいい人だよね。明るいし、クラスの空気をまとめてるし」

「お、歯切れ悪いな」

「つまり"ナシ"ではない?」

「いや、評価が妙に理性的すぎるんだよ」

 

三方向からツッコミが飛んでくる。

 

「いやいや、初日だよ? 今日会ったばっかだし。そんな秒速で恋に落ちるほど恋愛脳じゃないから、僕」

「その割に校門でキメ顔して立ってたらしいじゃん」

「誰だよそれ言ったの!」

 

渡辺の一言に、思わず声が裏返る。

 

(なぜ知っている……? まさか、目撃者がクラス内にいて噂を流した!?)

 

結局その場は、他人の恋愛をネタにして笑い合う、平和そのものな時間で終わった。

 

 

────────────────────────

 

氏名 坂柳優樹

 

 

クラス 1年B組

 

 

部活 無所属 

 

 

誕生日 3月12日

 

 

評価

 

 

・学力B

 

・知性B

 

・判断力B

 

・身体能力B

 

・協調性B

 

担当官からのコメント

 

学業・運動・社会貢献全てにおいて、平均より少し上。Aクラスの坂柳有栖の双子の弟。特筆する点は中学生の二年次 、一度だけ全国模試で一位を取った過去がある。その後はまた平均より少し上を維持するようになった。これらの点を踏まえ、Bクラス所属とする

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