幼馴染枠は序盤で消費されるって本当ですか?〜〜青髪幼馴染による負けヒロイン回避戦争〜〜   作:ペンタス

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第1話 幼馴染は今日も尊い

 

 私の幼馴染は、陰キャだ。

 

 念のため言っておくけど、これは悪口じゃない。

 私はそういうところも好きだから。

 

 

 朝霧しずく。

 前髪は目にかかるほど長く、声も小さい、姿勢は若干猫背。

 教室ではだいたい窓際の後ろの席に自然発生しているタイプの女子。

 

「……おはよう、ひなた」

 

「おはよ、しずく。今日も声が儚いね。風に攫われない?」

 

「……ひなたの声が大きいだけだと思う」

 

 あぁ、かわいい。

 

 いや、違う違う違う……

 今のは心の声。口に出してない。セーフ。

 

 私──結城ひなたは、自慢じゃないが、クラスではだいたい『陽キャ』扱いされている人間だ。

 成績はそこそこ、運動もそこそこ、誰とでも話せて、先生受けも悪くない。

 

 だがしかし。

 

 その中身は、百合ラノベとアニメとネット考察で構成されたただのオタクなんです。

 

 昨日も深夜二時まで『幼なじみ 負け』『百合 当て馬』みたいな検索をしていた。

 もう、情緒はボロボロだ。

 

 

 私としずくの関係は家が隣で、物心ついた頃から一緒。

 登校も下校も一緒。

 もはや生活動線が重なりすぎて、分岐イベントすら存在しない。

 

 ──だからこそ、私は今日も不安だった。

 

(幼馴染って、負けるんだよなぁ……)

 

 脳内に浮かぶ、昨日も見たネットの反応。

 

『はいはい幼馴染は負け』

『青髪の時点で、分かるわwww』

『最初からヒロインとして見てない』

 

 私は立ち止まり、その場で頭を抱えた。

 

「ひなた?」

 

「ちょっと待って、今しずくが幼馴染敗北ルートを全力で踏み抜く未来が見えた」

 

「……だ、大丈夫?」

 

 心配そうに覗き込んでくるしずくの顔が近い。

 

 近い。

 近すぎる。

 前髪の隙間から見える目が、朝の光を反射して──

 

(かわいいいいいいいい!!)

 

 私は反射的に、近くの校門の壁にゴン、と軽く額を打ちつけた。

 

「っだぁ……!はぁはぁ……」

 

「えっ、ひ、ひなた!? 大丈夫、痛い!?」

 

「大丈夫大丈夫! 尊さに耐えきれなかっただけだから!」

 

「……それはそれで、なんか心配なんだけど」

 

 しずくは本気で不安そうな顔をしている。

 それがまた、致命的にかわいい。

 

 そう……もう気づいているだろうか。

 この子、自覚がないのだ。

 本当に、致命的に。

 

 前髪の下に隠れている顔立ちが、かなり整っていることも。

 静かに本を読んでいる横顔が、妙に絵になることも。

 何より──

 

(声ちっさいのに、たまに芯のあること言うのほんとに反則だよぉ……)

 

 私は知っている。

 この子は、百合ラブコメ世界において後半で全部持っていくタイプだ。

 

 陰キャ。

 無自覚。

 実は美少女。

 幼馴染がいる。

 

 うむ、役満である。

 

「ねえ、しずく」

 

「なに……?」

 

「もしさ、もしだよ?もしだからね? 誰かに告白されたらどうする?」

 

 しずくはぴたりと足を止めた。

 

「……ない、と思う」

 

「即答!?」

 

「だって……私だし」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私は再び壁に頭をぶつけた。

 

「ひなた!? だから危ないって……!」

 

「違うんだよなぁ……」

 

 私は壁に額をつけたまま、深いため息をつく。

 

「しずくはさ、自分をヒロインじゃない側だと思ってるでしょ」

 

「……うん」

 

「でもそれ、ラブコメ的には一番ヤバいやつだからね?」

 

「……よく分かんない」

 

 だろうね。

 君は何も知らない、そこもかわいいんだけどね……!

 

 自分がどれだけ危険な存在かも。

 どれだけ可愛いかも。

 そして──

 

(私がどれだけ、君に惚れてるかも)

 

 校舎が見えてきて、しずくが小さく息を吐く。

 

「今日も、一日……がんばろうね」

 

「うん。負けないために」

 

「……なにに?」

 

 しずくは首を傾げる。

 前髪がふわっと揺れる。

 

(あ、やっぱりこれ、将来誰かが惚れるやつだ)

 

 私は心の中で拳を握った。

 

 この子は、負けヒロインなんかじゃない、どっちかというと主人公に近い。

 だからなおさら──

 

 幼馴染の私は、何もしなかったら確実に負ける。

 

 だから私は今日も

 しずくの隣で

 必死に笑って、

 必死にツッコんで

 必死に抗うのだ。

 

 ──幼なじみという、あまりにも不利な立場に。

 

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