元ヤン×文学少女 作:エンドレスG5
感想評価ありがとうございます。
自分の執筆能力を試す作品だったので、色々な意見があって有難いです。
今後も応援よろしくお願いします。
翌日の朝、昨晩掛けていたアラームの音が脳に鳴り響き、俺は重い身体を起こして目を擦る。窓のカーテンから差し込む朝日は暗い部屋を照らし、舞い上がる埃を浮かび上がらせる。
「……知らない天井だ」
誰もいない部屋で俺は言ってみたかったセリフを呟いた。起き上がってからだったのでタイミングが合わず部屋の壁を見ながら言ってしまったが、それでも満足だ。
昨晩遅くまでみんなと遊んでいたせいで、身体がいつもより重く感じる。慣れない環境で過ごした影響も大きい。正直言ってかなり学校に行きたくないっていうか、放課後まで部屋で時間を潰して、授業を終えたみんなと合流してまた遊ぶ、そんな留年まっしぐら大学生のような生活を送りたい。
(…………もう休んじまおうかな……)
──そんな考えが脳裏に浮かんだ瞬間、ふとあの夏の出来事を思い出した。俺が本に興味を持った日、俺が勉強を本格的に始めた日、俺があの文学少女と出会った日。
あの子はきっと今も支度をして学校へ向かおうとしているはずだ。化粧品とかじゃなく、お気に入りの小説や授業で使う教材を鞄に入れて、制服をきちんと着こなして身だしなみを整え、春風に吹かれながら登校するはずだ。
(…………こんなんじゃダメだよな)
ここで学校をサボったら何のためにあの時必死に勉強したのか分からなくなる。そうなればいずれ自分自身を見失うかもしれない。そんな俺を俺は見たくない。もう不良の頃の俺じゃないんだ。
──俺は変わったんだ。
心の中でそう呟きながら淡々と支度を進め、部屋の鍵を持って靴を履き、扉を開けたその瞬間、俺は目を疑った。
「うぅえっ?」
「あ、相良君……お、おはよう」
驚いたことに扉を開けた先には昨晩放課後をともに過ごし、お互いに楽しく一日を終えた少女、軽井沢恵が自身の髪をいじりながら気恥ずかしそうな様子で立っていた。
⚪︎
学校生活二日目の朝。完全にコミュニティが出来上がっていないこの時期の朝の教室は騒然としていない。まだ眠そうに机に突っ伏しているやつもいれば、昨日の続きみたいに友達と話しているやつもいる。
この時間の教室には、特別なことは何も起きない。
ただ、これから始まる一日の前触れだけが、ゆっくりと広がっている。
ある人は窓の外を見ながら、ぼんやりと思うだろう。この何気ない朝も、いつか思い出になるのだろうか、と。ため息を吐きながら。
しかしそんなある人も思わず吐いた息を飲み込むような、静かな教室が一気にざわつくような、そんな出来事が入学式の翌日にして起きた。
教室の扉が開き、中へと入ってきたのは長身の金髪男子相良圭と制服を着崩し満足そうな様子の金髪ギャル軽井沢恵、これは余談だが、後にケイケイてぇてぇと呼ばれる二人だ。
「おはよー皆んな〜」
「か、軽井沢さん!?何で相良君と手繋いでるの!?」
もちろん二人が同時に教室に入ってきただけでこんなに騒ぎになるはずがない。この騒ぎの要因はまさに、二人が手を繋いで入ってきた事にある。
「え〜?これくらい普通だよ、ね?相良君」
「ふ、普通ではないと思うけど……」
「そう?私は別に相良君と手を繋いでも嫌じゃないけどね」
「嫌とかそういう問題じゃないと思うんですけど!?」
ここでナレーションを俺に戻そう。まさに俺は今よく分からない状況に置かれている。
今朝部屋を出ると軽井沢さんに出待ちされていて、それから流れるように手を繋がれて一緒に周りの視線を集めつつも他愛のない会話をしながら登校し、教室に入るや否や男子から親の仇を見るかのような目で睨まれまくる始末。もう何が何だかさっぱりだ。
「おのれ相良ァ……やっぱり相良ヤリ○ン説は立証だったわけかクソォォ!!」
「は、はぁ?」
「俺は分かってたぜ。初日からあの顔面偏差値の中でカラオケ行ってた時点であっち側の人間だって事がよ」
「お前は誰だよ……」
名前もよく知らない男子からやいやい言われて流石に俺もいい気がしない。だが実際今の自分が非モテ男子から敵意を向けられる状態でいる事は自覚済みだ。『テメェごときが俺の何を知ってんだよ』って言ってやりたいが、今の俺にそんな事言う資格はない。
とりあえず今は軽井沢さんの手を離す事を優先しよう。
「軽井沢さん、もう教室着いたから、ね?離してくれない?」
「あ、うんもういいよ。じゃあまた昼休みね。相良君っ」
「え?」
軽井沢さんからウインクをもらった俺はそれをしっかり受け取った上で頭上にハテナマークを浮かべる。昼休みも不本意な敵意を向けられるのかと思うと気分が下がるな……。
その後俺は男子達からの質問攻めに耐えつつ、授業もまともに集中できないまま昼休みを迎えた。
△
昼休みの時間を知らせるチャイムが校内に鳴り響く。学校生活二日目だからか、多くの生徒がコンビニ飯を机の上に広げていた。
食堂へと向かう生徒はすでにコミュニティの中に属している生徒であり、それ以外は教室でぼっち飯。俺もそのぼっち飯族の一部になるのだろうと思っていたのだが…………
「相良君っ」
「あ……軽井沢さん」
満面の笑みで俺の席へとやってきた軽井沢さん。笑顔を崩さない彼女は流れるような手つきで俺の手を握り、席から立ち上がるよう促してくる。
「食堂行こ!ここだと話したい事も話せないし、それに知ってる?この学校の食堂って凄く広いんだよ!」
「あぁ、うん。そうらしいね」
「行ってみようよ〜。それとも、もうご飯用意してある感じ?」
ここで嘘はいくらでもつける。ごめんもう昨日の時点でご飯買ってあるんだ、とか、先約があってさ〜ごめんね、とか言ってすぐ後ろにいる綾小路に助けを求めることもできる。
ただ毎日推理小説を読みまくっている俺の思考回路は推理小説をベースに構成されているため、嘘をついても、その嘘はいずれバレて後々痛い目に遭うという考えに至ってしまう。そんな自分を俯瞰して見れてしまう点も踏まえ、俺は良い意味でも悪い意味でも推理小説に毒されているのだ。
色々考えてると自分が嫌になってくるなこれ。変に難しいこと考えるな俺。キモイぞ俺。よし、ここは素直に行きたくない!って言おう。
「ごめん軽井沢さん、俺先約g」
「え?何?なんか言った????」
「…………何でもありません。行きましょう」
「うんっ!」
あんなに鋭い目つきで睨まれたのは久々だ。自分よりも遥かに小さい女の子にひよる瞬間が訪れるとは……。軽井沢さん恐るべし。
そんなこんなで俺は軽井沢さんに手を握られたまま食堂へと連れ去られた。
「…………行っちゃったか」
「誘われ待ち、だったかしら?見るに堪えないほど愚かね綾小路君」
「相良から誘われる雰囲気はあったんだけどな……オレも軽井沢くらい人と話せる能力があれば……」
「想像するとそれはそれで気味が悪いわね」
「はぁ……」
×
食堂へとやってきた俺と軽井沢さんは各々定食を注文し、受け取り口で料理を受け取ったのち席を探す。
「どこかないかなー」
おぼんに乗せたスペシャル定食を片手に周囲を見渡して席を探す軽井沢さん。そんな遠くの方を探さずとも、すぐそこの席が空いているというのに。何をしているのだろうか。
「軽井沢さん、ここの席じゃダメなの?」
「えっ?あー、うんダメ。できれば端っこ、もっと言うなら人があまりいないとこがいいかなー」
え、なんで?軽井沢さんみたいな性格の人はそういうの気にしないと思ってたんだが。なんなら今朝も見せびらかすように俺と手を繋いで登校したし。まさか、えっ、な話でもするつもりなのか?なんてな。
「あ、いい席発見!あそこにしよ」
「あぁ、うん」
軽井沢さんが座った席は二人用のテーブル席で、食堂の中でもかなり端の方のスペースにある席だ。
食堂へくる生徒の大半は三人以上で来ており、さらに皆んなソファー席やボックス席へ好んで座る。そのため端っこかつ椅子テーブル席かつ二人用のこのスペースには人がほとんどいない。
俺も定食を机の上に置いて席に座る。すると座るや否や軽井沢さんは急に神妙な顔つきになって話しかけてくる。
「あのね、相良君。食べる前に聞いてほしい話があるんだけど、いいかな?」
「……あぁ、うん。いいよ」
先程まで笑顔だった軽井沢さんの顔が曇り始める。何か大事な話があるようだ。
「単刀直入に言うね、相良君。私の彼氏のフリをしてくれない?」
「…………えっ?」
軽井沢さんが言った事に俺は耳を疑った。だが彼女の顔を見ればわかる。これは何のおふざけもない真剣な頼みだ。
「えっと、何で?ストーカーとか、不審者とかいるの?」
「ストーカーでも不審者でもないけど、私にとってはそれらよりもタチが悪いかな…………」
中々自分から理由をサッと言い出せなさそうな雰囲気だ。きっと彼女は長い間それを自分の中だけに閉じ込めていたのだろう。
それを知り合って二日しか経ってない相手にさらっと打ち明けるのは難しいことだ。
「……軽井沢さん」
「な、何?」
「軽井沢さんが理由を言いたくないなら言わなくてもいいよ。俺にだって他人に言いたくない事の一つや二つ、いや割と結構たくさんあるし。それに俺と軽井沢さんってまだそこまで打ち解けた仲じゃないから」
「あ……うん。それはそうだけど」
こういうときこそ、俺の馬鹿正直な性格を存分に表に出して素直な気持ちを伝えるべきだ。
「でもこれから同じクラス、ましてや彼氏のフリをする事になったら、もっとお互いの事を理解し合える関係になれると思う。まだ出会って二日だから想像しづらいかもしれないけど、そういう関係って凄く良いものだと思う」
「う、うん」
「俺は軽井沢さんとそういう関係になりたい。軽井沢さんだけじゃなくて平田や松下さん、昨日の放課後遊んだメンツとはそういう関係になりたい。だから軽井沢さん、自分のペースでいいから、理由を教えてほしいな」
俺は柄にもない笑顔でそう言った。
我ながらクサいセリフを吐いたな。こんな事言うの初めてだし、なんならちょっと恥ずかしい。一昔前の俺が今の俺を見たら、きっと気持ち悪すぎてゲボ吐くだろうな。
「……うん、ありがとう相良君。理由はね、守ってほしいからなんだ。詳しくはあまり言えないんだけど、とりあえず、私を守ってほしい」
「わかった。俺が軽井沢さんの彼氏のフリをして、軽井沢さんを守れるなら」
「ありがとっ!相良君」
結局詳しい理由は聞けなかったし、何から守ればいいのかも分からなかった。正直、よく分からないまま彼氏のフリをすることになってしまったが……
「んーっっ!このハンバーグ美味しっ!相良君もスペシャル定食にすればよかったのに〜」
「俺はいいよ。本を買うために節約しないとだし」
「え──、見た目とのギャップえぐすぎ〜」
軽井沢さんに笑顔が戻ったことだし、理由なんてどうでもいっか。
にしてもこの山菜定食……あまり美味くねぇな。
女たらしみたいな主人公になっちゃった…。
投稿頻度は安定しませんが、未完結で終わらせるつもりはないのでよろしくお願いします。