遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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※本作のライディングデュエルでは、マスターデュエルのイベントを参考にした独自ルールを採用しています。
デュエル開始時、双方のフィールドに永続魔法《ライディング・デュエル! アクセラレーション!》が発動した状態で用意されます。


初陣のアクセラレーション

 

『シティのみなさーん、こんばんはー! 今日も元気にデュエルしてますかー!』

 

 場にそぐわない明るい声が、スピーカーから発せられた。

 

『やや! あそこで走っているのは最近話題のデュエルチェイサー! 検挙率100%との噂の、エリートセキュリティです!

 これは決闘者ならば見逃せません!

 というわけで実況はこの私、メリッサ・クレールがお送りいたしまーす!』

「実況だって……?」

 

 意味が分からない。

 今、俺は追われている。

 明らかに冤罪のはずだ。

 なら、どうしてあいつらを止めない?

 それどころか――どうして、助長するような真似を……?

 困惑が困惑を呼ぶ。

 しかし、世界は待たない。

 そうこうしているうちに、画面にはLPとフィールドが表示されていた。

 ……なおのこと、意味が分からない。

 どうしてこんな状況でデュエルを?

 俺達は今――バイクで走ってるんだぞ……!?

 

「先行は貰った!

 私は《ジュッテ・ナイト》を召喚!」

 

 バイクで疾走する男の隣に、十手を持った小人が召喚された。

 

「さらに、自分の場に戦士族モンスターが存在する時、このモンスターが特殊召喚できる!

 いでよ、《キリビ・レディ》!」

 

 続けて現れたのは、火打石を手にした女性の小人。

 

「私は、レベル1の《キリビ・レディ》に、レベル2の《ジュッテ・ナイト》をチューニング!」

 

 《キリビ・レディ》が石を鳴らす。

 それを合図に、《ジュッテ・ナイト》は二つの星に姿を変え、《キリビ・レディ》を包み込む。

 ――光が、疾走する。

 

「お上の力を思い知れ!

 ――シンクロ召喚!

 現れろ! レベル3、《ゴヨウ・ディフェンダー》!」

 

 右手に十手、左手に巨大な盾を構えた小人。

 身の丈ほどの大盾からは、標的を決して通さない圧を感じた。

 

「《ゴヨウ・ディフェンダー》の効果発動!

 自分の場に戦士族・地属性のシンクロモンスターしか存在しない場合、EXデッキから新たな《ゴヨウ・ディフェンダー》を特殊召喚できる!」

 

 もう一体、盾が召喚される。

 そして――

 

「二体目の《ゴヨウ・ディフェンダー》の効果発動!

 三体目……《ゴヨウ・ディフェンダー》を、特殊召喚!」

 

 さらに、もう一体。

 合計三体の盾が、男のフィールドに並び立つ。

 もはやそれらは盾ではなく、壁だった。

 

「ターンエンド。さあ、精々足掻いてみせろ。この鉄壁を超えられるのならばな!」

「くっ……」

 

 恐る恐る片手を離す。

 バイクの姿勢は安定していた。

 画面にはAUTO PILOTの文字。

 ……オートパイロット。

 初心者でも運転できているのはこれのお陰みたいだ。

 これなら、なんとかなる。

 

「……俺の、ターン!」

 

 カードを引く。

 同時に、画面の端で何かのカウンターが溜まった。

 カウンターの行く先は、一枚の永続魔法。

 ……見慣れないカードだ。

 よく見ると、相手のフィールドにも同じカードが置いてある。

 いつの間に置かれたのか。

 今のターン、相手は魔法カードを一枚も使っていないはず……

 

「何をしている! 早くデュエルを進めろ!」

「っ――!」

 

 苛立ち混じりの言葉に、一瞬だけ硬直する。

 考えるのは後だ。今はとにかく、動かなければ――!

 

「俺は《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》を召喚!」

 

 兵隊服を着た虎が現れ、横に並んで疾走する。

 

「《EM(エンタメイト)》の召喚に成功した時、このカードは手札から特殊召喚できる!

 来てくれ、《EM(エンタメイト)ヘルプリンセス》!」

 

 続けて召喚したのは紫の姫。

 その手には、手を模したステッキが握られている。

 

「さらに魔法カード《破天荒な風》を発動!

 これにより、ヘイタイガーの攻撃力・守備力を1000ポイントアップさせる!」

 

 ヘイタイガーの周囲に一陣の風が吹き荒れ、稲妻が奔る。

 これで攻撃力は2700。ヘルプリンセスは1200。

 男のフィールドには《ゴヨウ・ディフェンダー》が三体。

 一体の攻撃力は、僅か1000。

 なら――!

 

「バトルだ!

 ヘイタイガーで《ゴヨウ・ディフェンダー》に攻撃!」

 

 風を纏った兵隊が、小人の盾に特攻する。

 数値の上では上回っている。

 如何に強固に見えようと、ヘイタイガーの攻撃は盾を突破して――

 

「《ゴヨウ・ディフェンダー》の効果発動!

 このモンスターは攻撃を受けた時、ダメージステップ終了時まで攻撃力を上げる!

 その数値は、他の戦士族・地属性のシンクロモンスターにつき1000ポイント!

 つまり、攻撃力は――!」

 

 電子音が唸り、数値が上昇する。

 

「攻撃力――3000!?」

「迎撃しろ、《ゴヨウ・ディフェンダー》!」

 

 嵐を纏った兵隊の突撃。

 しかしそれは、大きな壁によって防がれた。

 《ゴヨウ・ディフェンダー》は、身の丈ほどの大盾を軽々と振るい、ヘイタイガーを打ち上げる。

 その直後……右手の十手が、兵隊を貫いた。

 

遊矢

LP:4000 → 3700

 

『おおっと、デュエルチェイサー227、見事な攻防です!

 ヘイタイガーの怒涛の攻めを、その大きな盾で防ぎましたぁー!』

「っ――!」

 

 遊矢は悔し気に歯噛みする。

 ――今の反撃は、読めていたはずだ。

 攻撃力1000のシンクロモンスターが、何の意味もなく攻撃表示なんて有り得ない。

 普段なら。あるいは通常のデュエルなら、犯すはずのない失敗だった。

 ――視界が高速で流れている。

 走行ラインの光が、瞬く間に通り過ぎていく。

 思考が置き去りになる。

 背後から見えない壁が迫ってくる。

 僅かでも体重をずらせば、そのまま倒れてしまいそうだった。

 

「俺は……カードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 次のターンに希望を託す。

 だが――そもそもの話。

 その時まで、俺はちゃんと走れているのか――?

 

「私のターン!」

 

 ターンの開始と同時に、画面端のカウンターが一つ溜まった。

 男は、口元に笑みを浮かべる。

 

「――《ライディング・デュエル! アクセラレーション!》!」

 

 その瞬間、男のバイクが速度を上げた。

 距離が一気に縮まり、あっという間にゼロへ。

 遥か後方にいたはずの男は……気付いた時には、隣にいた。

 

『きたぁー! デュエルチェイサー227、ここで一気に加速しましたぁー!』

「シグナルカウンターが二つ溜まったこのカードを墓地に送り、デッキからカードを二枚ドローし、一枚を墓地に送る!」

『《スピード・ワールド・ネオ》により、デュエル開始時、互いのプレイヤーのフィールドには加速用のカードが設置されます!

 その名も《ライディング・デュエル! アクセラレーション!》

 戦況を有利に進める227! このまま勝負を決めるつもりかー!?』

 

 陽気な実況を背に、二台のバイクが併走する。

 男は……笑っている。

 勝利を、確信した笑みだ。

 

「さあ……追いついたぞ。観念してもらおうか」

「……誰がするか」

「強がりはやめろ、見苦しい。

 この際だから訊いてやる。貴様、ライディング・デュエルは素人だな?」

「――――」

 

 遊矢は口元を結ぶ。

 それを見て、男の笑みが強くなった。

 

「ふん、やはりな。

 だが――獅子は兎を狩るにも全力を尽くす。

 ましてやそれが、記録更新が掛かっているなら猶更のこと。

 このデュエルは私が貰った! 貴様は大人しく牢に叩き込まれるがいい!」

 

 先ほどの加速により、男の手札には潤沢なリソースが揃っていた。

 男はその中から一枚を選択する。

 

「私は《シャインナイト》を召喚!」

 

 現れたのは、光を纏った白銀の騎士。

 

「さらに、墓地に送った《ゾンビキャリア》の効果発動!

 手札を一枚デッキトップに戻すことで、このモンスターを墓地から特殊召喚できる!

 甦れ、《ゾンビキャリア》!」

 

 続けて現れたのは、不自然に腕が膨らんだゾンビ。

 

「私はレベル3の《シャインナイト》に、レベル2の《ゾンビキャリア》をチューニング!」

 

 指示を受けたゾンビは二つの星となり、輪を描いた。

 輝く騎士を囲い、更なる光が差し込む。

 

「地獄の果てまで追い詰めよ! 見よ、清廉なる魂!

 ――シンクロ召喚!

 出でよ、レベル5! 《ゴヨウ・チェイサー》! 」

 

 巨大な十手を構えた和装の男。

 赤い熊取と鋭い視線は、そのモンスターが追跡者であることを示していた。

 

「さらに私は永続魔法《一族の結束》を発動!

 墓地のモンスターの種族が一種類のみの場合、その種族のモンスターの攻撃力を800アップする!」

 

 《ゾンビキャリア》は除外されている。

 現在、227の墓地には戦士族のみ。

 そして、ゴヨウモンスターもまた戦士族。

 

「そして《ゴヨウ・チェイサー》の攻撃力は、このカード以外の戦士族・地属性シンクロモンスター一体につき、300アップする!

 よって攻撃力は――3600!」

「っ――!」

 

 遊矢の背筋に寒気が走る。

 追跡者の攻撃力は圧倒的だ。

 何より、そんな攻撃を受けてしまったら――

 

「バトル!

 やれ、《ゴヨウ・チェイサー》! 《EM(エンタメイト)ヘルプリンセス》を攻撃!」

 

 巨大な十手を構えた追跡者が、踏み込む。

 その瞬間だった。

 視界が――歪んだ。

 走行ラインが、横に引き延ばされる。

 光が、蛇行する。

 身体が、遅れてついてくる。

 

「――っ!」

 

 ハンドルが、ふっと軽くなる。

 まずい。

 そう思った時には、もう遅かった。

 《ゴヨウ・チェイサー》の十手が振り抜かれる。

 光の軌跡が、ヘルプリンセスを捉え――砕いた。

 弾けるように、紫の光が散る。

 

遊矢

LP:3700 → 1300

 

 同時に、強い衝撃が走った。

 バイクが跳ねる。

 タイヤが、地面を弾く。

 身体が、浮いた。

 

「うわ――!」

 

 視界が回転する。

 上下が、分からなくなる。

 ハンドルから、指が離れかけた。

 ――落ちる。

 頭をよぎったのは、それだけだった。

 

 次の瞬間。

 ぐい、と。

 何かに引き戻される感覚。

 

 ハンドルが、手のひらに戻る。

 傾いた車体が、強引に起こされる。

 エンジン音が、一拍だけ低く唸った。

 

 ……俺は、何もしていない。

 それなのに。

 バイクは、真っ直ぐ前を向いていた。

 

 赤と緑、二色の眼が、暗闇の中で瞬く。

 まるで――

 「大丈夫だ」とでも言うように。

 

『さあ、227! 攻めの手を緩めません!』

 

 無邪気な実況が、背後を流れていく。

 俺は、息を呑んだまま、ハンドルを握りしめた。

 

 ――今のは。

 偶然なんかじゃない。

 このバイクが。

 オッドアイズが――俺を、支えた。

 

 ◆

 

「母さん、またバイクの手入れ? いつ乗ってるんだよ、それ」

「分かってないね、遊矢。乗るとか乗らないとかじゃないんだよ。

 こいつは私の相棒。魂が宿ってんのさ」

「魂って、大げさだな」

「大げさなもんかい。

 ま、アンタにもいずれ分かるさね。

 バイクであれ、カードであれ、愛情を込めた道具には――」

 

 ◆

 

「――魂が宿る、か」

 

 遊矢の顔に笑みが浮かぶ。

 ……一人じゃない。

 俺には、この(カード)がついている。

 

「《ゴヨウ・チェイサー》の効果発動!

 戦闘で破壊したモンスターを、攻撃力を半分にして私の場に特殊召喚する!

 さあ頂くぞ、お前のモンスターを!」

 

 男のフィールドに紫光が灯る。

 次の瞬間、破壊されたはずのヘルプリンセスが男の隣に召喚された。

 

「囚われの姫君、といったところか。

 しかし残念ながら、勇者はここで脱落する!

 やれ、《ゴヨウ・ディフェンダー》!」

 

 三つの大盾が迫る。

 

「これで連続検挙記録更新! 昇進確定だ!」

 

 男の目が狂気に染まる。

 弱者を踏み台に、より高みへ登ろうとする目。

 だが――

 

「リバースカード、オープン!

 《EM(エンタメイト)ピンチヘルパー》!」

 

 ――窮鼠、猫を噛む。

 突撃は見えない膜に阻まれ、完全に押し留められている。

 《EM(エンタメイト)ピンチヘルパー》の結界が、三方向からの攻撃を同時に受け止めていた。

 その中心にいたのは、音楽家のマントを羽織った小さな悪魔――《EM(エンタメイト)バロックリボー》。

 

「《EM(エンタメイト)ピンチヘルパー》は、相手モンスターのダイレクトアタックを無効にし、デッキから《EM(エンタメイト)》を特殊召喚する」

「おのれ、悪あがきを……!」

 

 男は怒りを露わにするが、すぐに余裕の笑みを浮かべた。

 

「まあいい、貴様のような素人には何も出来まい。

 私はこれでターンエンド!」

「それは……どうかな」

「何?」

 

 男は怪訝な顔で遊矢を見る。

 

「確かに俺は素人だ。でも、勝てないと決まったわけじゃない。

 ビギナーズラック、なんて言葉もある」

「知らんな、そんなものは。

 常識で考えろ。検挙率100%のこの私が、お前のようなDホイーラーに、後れを取るわけがない」

「だったら、このターンでひっくり返してやるさ。アンタたちの常識をな」

 

 遊矢は、己のバイクに手を添える。

 

「……行くぞ、オッドアイズ。

 もしもお前に魂があるのなら――俺を、助けてくれ。

 そして――俺に、ついてきてくれ」

 

 赤と緑。異色に輝くライトが、一際強く光を放つ。

 恐怖はある。不安はある。

 それでも……こいつと一緒なら、全部抱えて踏み出せる。

 

「俺の……ターン!」

 

 シグナルカウンターが溜まる。

 数は二。

 条件は揃った。

 覚悟も決まった。

 後は一歩を踏み出すだけ。

 それは――今、ここだ!

 

「――《ライディング・デュエル! アクセラレーション!》!」

 

 カードを切った瞬間、景色が後方へ弾け飛んだ。

 思考が加速する。

 見えない壁を置き去りにする。

 倒れるよりも速く、前へ――!

 

『おおっと! デュエルチェイサーに続き、こちらのDホイーラーも加速しましたー!

 しかし戦況は圧倒的に不利! 彼はここから巻き返せるのでしょうか!』

「この加速により、俺はカードを二枚ドローし、一枚を墓地に捨てる!

 そして俺は、このモンスターを召喚!

 来い、《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》!」

 

 呼び出したのは、黒い仮面をつけた道化師。

 道化師は軽やかに宙返りしながら帽子を脱ぎ、その中から一枚のカードを遊矢に投げつけた。

 カードは意志を持つかのように、遊矢の手の中へ滑り込む。

 

「ジョーカーの召喚に成功した時、俺はデッキから仲間を一体手札に加えることができる!

 さらに俺は、墓地の《EM(エンタメイト)スプリングース》の効果発動!

 ジョーカー! バロックリボー! バトンタッチだ!」

 

 次に発動したのは、先の加速で墓地に送られたカード、

 《EM(エンタメイト)スプリングース》。

 両脇を守るモンスター達はカードに姿を変え、遊矢の手札に帰還した。

 

「せっかくの壁モンスターを手札に戻すとは……ついに勝負を諦めたか?」

「いいや、仕切り直すのさ。

 ――お楽しみは、これからだ!」

 

 手札は六枚。

 その中から二枚を選び、空に掲げた。

 

「俺はスケール3の《EM(エンタメイト)ヒックリカエル》と、スケール8の《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 蝶ネクタイをつけたカエル。

 アクロバティックに舞う道化師。

 二体のモンスターが天空へ浮上する。

 

「これでレベル4から7のモンスターが同時に召喚可能!

 揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

 遥か上空で振り子が揺れる。

 光の軌跡が幾重にも重なり、円を描く。

 円。

 すなわち、門。

 

「――ペンデュラム召喚!

 音叉を響かせ現れろ! 《調弦の魔術師》!」

 

 門が開かれ、音叉を手にした白衣の魔術師が、遊矢の隣に降り立った。

 

『こ、これは……!?

 今の召喚法は、過去のライディングデュエルでも一切記録がありません!

 このDホイーラーは、一体何者なのでしょうか……!?』

 

 実況の声が、遅れて追いつく。 

 

「っ……ハッタリだ!」

 

 セキュリティの男が吐き捨てる。

 

「どれだけ派手なことをしようが、攻撃力0のモンスターに何ができる!

 そんなカードで私の追跡を振り切れると思うな!」

「思ってないさ」

 

 遊矢は前を見据えたまま、カードを掲げる。

 

「俺はもう逃げない。今度は正面から、アンタを打ち破る!

 《調弦の魔術師》の効果発動!」

 

 音叉が鳴り、フィールドに新たな振動が走る。

 

「ペンデュラム召喚に成功した時、デッキから《魔術師》を特殊召喚できる!」

 

 路面が――脈打った。

 バイクの下を走る大地が光を帯び、見えない流れを描き出す。

 

「来い、《竜脈の魔術師》!」

 

 竜脈の奔流の中心に、少年の魔術師が立つ。

 

「な……二体だと……?」

 

 セキュリティの声に、遊矢は答えない。

 視線は前方、迫るコースと、完成しつつある盤面だけを見据えていた。

 速度が、さらに上がる。

 

「俺はレベル4の《竜脈の魔術師》に、レベル4の《調弦の魔術師》をチューニング!」

 

 音叉の響きが空を裂き、大地の脈動が呼応する。

 二つの魂が、進むべき道を照らし出す。

 

「剛毅の光を放つ勇者の剣!

 今ここに、閃光と共に目覚めよ!」

 

 光が一点に収束する。

 

「――シンクロ召喚!

 現れろ、《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》!」

 

 銀白の鎧が形を成す。

 無駄のない装甲、その背に宿るのは剛毅の輝き。

 両の手に握られたのは、対を成す二振りの剣。

 交差した刃が、澄んだ音を響かせる。

 その姿は、まさしく――覚醒の魔導剣士。

 

「《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》の効果発動!

 墓地の魔法カードを一枚、手札に戻す!」

 

 遊矢は迷いなく告げる。

 

「俺が選ぶのは《破天荒な風》!

 そしてこのカードを、《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》を対象に発動!」

 

 鋭い気合と共に、魔導剣士が嵐を纏った。

 台風の目の如く風が渦巻き、稲妻が迸る。

 

『シンクロモンスターが魔法カードによって強化!

 攻撃力は――3500!

 ですが、あと僅かに100、《ゴヨウ・チェイサー》には届きません!』

「相手が悪かったようだな!」

 

 セキュリティの男が叫ぶ。

 

「確かに派手だが……その程度のスピードでは、私からは逃げられん!」

「それはどうかな!」

 

 遊矢のバイクが加速する。

 風を切る感触に、恐怖はない。

 今の遊矢は、紛れもなくDホイーラーだった。

 

「速さを追い求めるのは結構ですが――少しは、後ろを振り返った方がいいと思いますよ!」

「何……?」

「《EM(エンタメイト)ヒックリカエル》のペンデュラム効果発動!

 モンスター一体の攻撃力と守備力を、ターン終了時まで入れ替える!」

 

 遊矢は、はっきりと指を突き付けた。

 

「俺は、《ゴヨウ・チェイサー》を選択!」

 

 3600まで引き上げられていた数値が、反転する。

 常識が、裏返った。

 

「攻撃力、たったの1000だと……!?」

「そして――《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》は、バトルで相手モンスターを破壊した時、その元々の攻撃力分のダメージを与える!」

「何っ……!?」

 

 急転直下、男の顔から血の気が引く。

 

『こ……攻撃力3500と1000! ここに効果ダメージ1900が加算されて――。

 合計ダメージ4400!

 これってまさか、ワンショットキル……!?』

 

 実況が、思わず叫んだ。

 だが、もう遅い。

 

「バトルだ!

 行け、《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》!

 《ゴヨウ・チェイサー》に攻撃!」

 

 魔導剣士の双剣が交差する。

 嵐を裂き、追跡者を切り捨てた。

 

227

LP:4000 → 0

 

 ◆

 

「ば……バカな! こんなことがあってたまるか!

 こんな素人に、私の検挙率が――!」

 

 男の叫びは、風の中にかき消えた。

 勝敗は、既に決していた。

 

『こ……これは、驚きの結果となりました!

 あのデュエルチェイサーが、まさかの敗北!』

 

 メリッサの声が、シティ中に響き渡る。

 

『まさかのダークホース出現に、シティの期待は高まるばかり!

 それでは、本日のデュエルはここまで!

 実況は私、メリッサ・クレールがお送りいたしましたー!』

 

 勝利を告げるアナウンスが、余韻を引き連れて遠ざかる。

 ――カチリ、と。

 マイクが切られた音。

 肩の力を抜いたメリッサが、ぽつりと呟く。

 

「アイツ、絶対目ぇ付けられたわ……」

 

 その予感が現実になるのは――そう遠くない。

 

 ◆

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