遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

16 / 35
王者の咆哮

 トップスはデュエルが盛んな街だ。

 こうして街中でデュエルが始まること自体は日常風景である。

 ただしそれは、一般人同士のデュエルの話。

 

 片や、榊遊矢。異邦からの決闘者。

 片や、ジャック・アトラス。無敗の絶対王者。

 あまりにも日常からかけ離れた組み合わせは、人々の目を引いた。

 

決闘(デュエル)!」

 

 噴水の水面が、一際大きく波を打つ。

 人々は足を止め、相対する二人に目を向ける。

 そして……遊矢もまた、無数の視線を肌で感じ取っていた。

 このデュエルは見られている。聞かれている。

 観客はこの場にいる一般人全て。

 だったら――やるべきことは、一つだ。

 

「――レディース、エーンド、ジェントルメーン!」

 

 遊矢は一度、ジャックから目を離し、周囲の人々に向かって声を張り上げた。

 その行為に、この場にいる全員――対戦相手であるジャックですら、驚いていた。

 

「憩いの一時を過ごす皆様方! 申し訳ありませんが、どうかお耳を拝借!

 私の名前は榊遊矢! この街の外から来訪した、旅の決闘者でございます!

 これより始まる催しは、この私と、匿名希望の絶対王者様によるエンタメデュエル!

 興味を惹かれたお方! どうか足を止め、我々のデュエルをご照覧あれ!」

「なんだ? 何かの劇団か?」

「あれ、もしかしてキングじゃね?」

 

 道行く人々は足を止め、二人を見る。

 次に、組み合わせを見て驚愕する。

 いつの間にか遊矢たちは、野次馬という名の観客に囲まれていた。

 

「……どういうつもりだ?」

 

 普段は人目を気にしない王者も、一連の行為に疑問を持ったらしい。

 遊矢は、ジャックに向き直る。

 

「失礼、どうかお許しを。断じて、笑いものにしたいわけではありません。

 ただ――楽しいことは、共有した方がいいと思ってさ」

「共有だと?」

「ああ。では、改めて――

 俺は榊遊矢。いつか、エンターテイナーとして舞台に立つ決闘者だ。

 約束する。このデュエルで、絶対に貴方を満足させてみせる」

「――ほう」

 

 ジャックは笑みを浮かべる。

 

「その気概だけは認めてやる。来るがいい、榊遊矢!」

「キングよ、お望みのままに!

 私のターン!」

 

 遊矢は手札から二枚を選び取る。

 

「私はスケール2の《EM(エンタメイト)オッドアイズ・バトラー》と、

 スケール8の《EM(エンタメイト)オッドアイズ・ユニコーン》で、

 ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 ティーセットを手にした執事と、角を携えた幻獣。

 二色の目を持つモンスター達が、天空へと浮上する。

 

「これでレベル3から7のモンスターが同時に召喚可能!

 揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

 巨大な振り子が大きく、ゆっくりと振れ始める。

 光の軌跡が円を描き、異世界へと続くゲートが作られた。

 次の瞬間、光の柱が立ち上る。

 

「――ペンデュラム召喚!

 気まぐれなる猫魔女よ、どうか姿をお見せください!

 《EM(エンタメイト)ウィム・ウィッチ》!」

 

 現れたのは……マントを羽織った小さな猫魔女。

 以上である。

 

「……え?」

 

 誰かの呟き。

 大仰な召喚法の割には、小さなモンスターが一体のみ。

 そのあっけなさに、一瞬、観客の視線が訝し気になる。

 

「おっと、この程度と判断するのは早いですよ!

 ウィム・ウィッチはペンデュラムモンスターをアドバンス召喚する際、二体分のリリースになることができます!

 私はウィム・ウィッチをリリース!」

 

 猫魔女の全身が光に包まれ、分解される。

 そして――次第に、別のモンスターへと変化していく。

 

「おいでませ、笑顔を作る楽しい仲間! 《EM(エンタメイト)ラフメイカー》!」

 

 光が膨らみ、弾け飛ぶ。

 中から現れたのは、黄色の衣装を纏った奇術師。

 右手には紫のステッキ、左手には奇術のタネらしきカード。

 人々に笑顔をもたらす奇術師、それがラフメイカーである。

 

「おお……!」

 

 先ほどまで半信半疑だった観客の間から、感嘆の声が漏れる。

 

「私はこれでターンエンド!

 さあ皆さん、お待ちかね!  王者の一手、とくとご覧あれ!」

 

 ターンが明け渡される。

 自然と、観客の目線はジャックへ。

 

「――フン」

 

 ジャックの目が、遊矢を射抜くように捉える。

 エンターテイナー。

 なるほど、確かに素質はある。

 場の空気を支配し、盛り上げ、主役を明け渡す。

 ――だが、それだけではない。

 その瞳の奥には、隠しきれない闘志が宿っている。

 場を盛り上げる。

 が、それはそれとして勝つ。

 その飽くなき闘志こそ、ジャック・アトラスが求めているもの。

 ――少なくとも、今はそう見える。

 

「いいだろう、ならば見せてやる! 俺のターン!」

 

 王者のターンが開始する。

 

「相手の場にのみモンスターがいる時、このカードは攻撃力を半分にして特殊召喚できる!

 いでよ、《バイス・ドラゴン》!」

 

 ジャックの場に、紫の肌を持つ竜が現れた。

 攻撃力は僅か1000。だが、この数値に意味などない。

 誰もが悟っていた。これは布石に過ぎないと。

 

「さらにチューナーモンスター、《ミラー・リゾネーター》を召喚!」

 

 次に現れたのは、巨大な鏡を背負った悪魔。

 その手には、音叉が握られている。

 ――来る。

 遊矢は、次の衝撃を予測し、身構えた。

 

「俺はレベル5の《バイス・ドラゴン》に、

 レベル1の《ミラー・リゾネーター》をチューニング!」

 

 《ミラー・リゾネーター》が音叉を叩いた瞬間、分解され、一つの星となった。

 星は《バイス・ドラゴン》の周囲を走り、輪を描く。

 竜もまた光を帯び、輪郭が歪む。

 やがて一筋の光が差し込み、視界を真っ白に埋め尽くした。

 

「赤き魂、ここに1つとなる! 王者の雄叫びに震撼せよ!

 ――シンクロ召喚!

 現れろ、《レッド・ワイバーン》!」

 

 竜が新生する。 

 炎を纏う、赤き翼竜。

 竜は全身に炎を走らせ、開戦を告げる雄叫びを上げた。

 

「《レッド・ワイバーン》の効果発動!

 このモンスターより攻撃力が高いモンスターを、破壊する!」

 

 指示を受けた翼竜は、全身の炎を一点に集中させる。

 標的はラフメイカー。

 次の瞬間、奇術師を焼き尽くすべく、熱線が走った。

 

「手札から《EM(エンタメイト)レインゴート》の効果発動!」

 

 遊矢がカードを切る。

 それを合図に、ラフメイカーは両手を合わせた。

 手の平から現れたのは、水色の雨合羽。

 雨合羽は一瞬だけ羊の形を取り、次の瞬間、盾のように広がった。

 熱線が阻まれる。

 ――一瞬の奇術。

 

「手札のモンスターで凌いだか……ならば俺は、カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 観客の緊張が一気に解ける。

 

「私のターン!」

 

 しかし、デュエルは待ってくれない。

 遊矢はドローしたカードを確認した後、再び空に手をかざした。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!

 ――ペンデュラム召喚!

 現れろ、私のモンスター達!」

 

 軌跡が描かれ、門が開く。

 光が降り注ぎ、その中からモンスターが姿を現す。

 

「《EM(エンタメイト)ゴールド・ファング》!

 《EM(エンタメイト)ウィム・ウィッチ》!」

 

 鋭利な牙を持つ金狼。

 マントを羽織った猫の魔女。

 二種類の仲間(エンタメイト)が、ラフメイカーの両隣に並び立った。

 

「おお……!」

「二体のモンスターを同時に召喚……!?」

 

 その召喚法は、再度観客の視線を釘付けにした。

 最初は、猫魔女だけだった。

 今回で、金狼が追加された。

 観客は悟る。

 ペンデュラム召喚とは一発限りのトリックではなく、舞台を徐々に盛り上げるショーなのだ。

 

「ショーは、まだまだ終わらない!

 ゴールド・ファングの効果発動!

 このモンスターを召喚したターンの終了時まで、全ての《EM(エンタメイト)》の攻撃力が200アップします!」

 

 金狼が空に吼える。

 遠吠えは街中まで届き、噴水の水面を僅かに揺らす。

 

「さらに、ラフメイカーの効果発動!

 攻撃力が元の数値よりも高い場合、さらに1000ポイントアップ!」

 

 金狼に呼応して、奇術師の衣装が光を帯びた。

 

「攻撃力……3700」

 

 ジャックの眉が僅かに動く。

 

「バトル!

 さあ、ラフメイカー! 《レッド・ワイバーン》に攻撃!」

 

 ラフメイカーがカードを高く放り投げる。

 宙に舞ったカードは光を帯び、笑い声のような火花を散らし始めた。

 パチパチと弾ける音が連なり、やがて一つの光の奔流となって《レッド・ワイバーン》へと降り注ぐ。

 

「――“ラフィング・スパーク”!」

 

 光を浴びた瞬間、翼竜のシルエットが白く染まり――

 次の瞬間、粒子となって弾け飛んだ。

 

ジャック

LP:4000 → 2700

 

「お次はこちらの二匹!

 ゴールド・ファング! ウィム・ウィッチ! キツイのをお見舞いしてやれ!

 ダイレクトアタックだ!」

 

 金狼と猫魔女が、ジャックに向かって飛び掛かる。

 観客達は息を呑む。

 この攻撃が通れば遊矢の勝利となり、絶対王者の陥落となる。

 ――おそらく、止められる。

 遊矢は攻撃を指示しながらも、半ば確信していた。

 

「手札から《バトルフェーダー》の効果発動!

 このモンスターを特殊召喚し、このターンのバトルフェイズを強制的に終了する!」

 

 攻撃を受ける直前、ジャックが手札からモンスターを召喚する。

 現れたのは、振り子時計のような小さな悪魔。

 振り子が揺れると同時に音波が発せられ、二体の動きを停止させた。

 

「流石はキング、そう簡単には勝たせてくれませんか。ですが、まだまだこれから!

 私はこれで、ターンエンド!」

 

 観客達が安堵の息を漏らす。

 だが一人だけ、ジャックの視線は鋭さを増していた。

 ――本気ではなかったな。

 最後の攻撃の狙いは、ジャックを倒すことではなく、防御カードを消費させること。

 それ自体は戦略として正しい。

 ――しかし、何かが引っかかる。

 視線が手札に戻る。

 カードは、既に揃っていた。

 ――ならば、己が魂で見極めるのみだ。

 

「俺のターン!

 俺は、《シンクローン・リゾネーター》を召喚!」

 

 召喚されたのは、金属を重ねた共鳴装置を背負う、小柄な悪魔。

 その手には、やはり音叉が握られていた。

 

「さらに、手札から《レッド・ウルフ》の効果発動!

 《リゾネーター》の召喚に成功した時、攻撃力を半分にして特殊召喚できる!」

 

 続けて現れたのは、全身に炎を纏った狼男。

 攻撃力は半減され、700にまでダウンする。

 しかし、この数値に意味はない。

 ジャックは腕を振り上げ、三体に指示を下す。

 

「レベル6、《レッド・ウルフ》と、

 レベル1、《バトルフェーダー》に、

 レベル1、《シンクローン・リゾネーター》をチューニング!」

 

 共鳴の悪魔は音叉を鳴らした瞬間、一つの星へ。

 星は輪を描き、二体のモンスターを囲う。

 

「王者の咆哮、今天地を揺るがす!

 唯一無二なる覇者の力を、その身に刻むがいい!」

 

 二体のモンスターが光を帯び、新たな一体に新生する。

 

「――シンクロ召喚!

 荒ぶる魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!」

 

 閃光を切り裂いて現れたのは、炎を纏った悪魔竜。

 折れた右角。右腕に刻まれた傷。傷んだ羽。

 それらは歴戦の証。積み重ねた勝利の軌跡。

 傷跡は鼓動のように淡く光を放ち、煉獄がその部位を覆う。

 炎の腕、炎の翼こそが、己の武器なのだと告げていた。

 

「っ――」

 

 胸の奥が脈を打つ。

 血液が沸騰するような感覚。

 言いようのない興奮が遊矢を覆う。

 けれど、決して不快ではない。

 むしろ逆だ。

 この感覚をもっと味わいたい。

 何もかもを忘れて、この男と我武者羅に戦ったらどうなるのか。

 

「ついに出た!」

「キングのエースモンスターだ!」

「…………」

 

 観客の声が熱を冷ます。

 その歓声は、決闘者ではなく“観客席”のものだった。

 遊矢は体内の熱を逃がすように、大きく息を吐いた。

 高まった本能を、理性で蓋をする。

 決して吹きこぼれないように、厳重に。

 ……本気で戦えば、それはきっと楽しい。

 でも、今やりたいのは違う。

 だって――俺は、エンタメ決闘者なのだから。

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の効果発動!

 スカーライトの攻撃力以下の、特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、一体につき500ポイントのダメージを与える!」

 

 悪魔竜の右腕に炎が集う。

 

「――“アブソリュート・パワー・フレイム”!」

 

 掌底と共に熱線が放たれる。

 金狼と猫魔女は焼き払われ、奇術師だけがフィールドに残った。

 

遊矢

LP:4000 → 3000

 

「バトル!

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》で、《EM(エンタメイト)ラフメイカー》を攻撃!」

 

 傷跡が脈を打ち、光を放つ。

 右腕の次は、喉。

 

「――“灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”!」

 

 紅炎が走る。

 ――爆炎が視界を覆う。

 笑顔を作る奇術師は、瞬きの間に消滅していた。

 

遊矢

LP:3000 → 2500 

 

「っ――」

 

 遊矢の膝が折れる。

 モンスターは消え去り、手札も尽きた。

 ジャックの場には魂たるエース。

 最早、勝ちの目はない。

 ――少なくとも、観客にはそう見えていた。

 

「俺は、カードを一枚伏せてターンエンド!

 さあ……貴様のターンだ」

 

 だが、ジャックは違っていた。

 勝ち負けの話ではない。

 そもそも絶対王者たるこの男にとって、自身の勝利は絶対だ。勝てるかどうか、は考えるに値しない。

 ――追い詰められた状況で、どうするか。

 ジャック・アトラスが見ているのはその一点のみ。

 

「流石はキング、ジャック・アトラス。噂に違わぬ、といったところですね」

 

 遊矢は立ち上がる。

 その表情は――笑顔だった。

 

「……ほう。この状況で笑ってみせるか」

「勿論。俺は……いや。

 ――私は、エンタメ決闘者ですからね。

 劣勢を覆してこそのエンターテイナーというもの。まだ、勝負は分かりませんよ」

「……そうか」

 

 遊矢は冷や汗を浮かべながらも、不敵に笑ってみせた。

 強がりなのは百も承知。それでも立ち上がった点は流石と言えよう。

 

「――お楽しみは、これからだ!」

 

 遊矢は空を指差し、声を張り上げた。

 

「観客の皆様方、どうかご注目を!

 このデュエルも佳境に入りました! 状況は私の圧倒的不利!

 ですが、最後まで何が起こるか分からないのがデュエルというものです!

 私の手札はゼロ! 全ては次のドローに掛かっています!

 見事逆転できましたら、拍手喝采を!」

 

 ……一瞬の間。

 観客はみな、遊矢に注目した。

 しかし……その視線は、どこか生暖かい。

 期待しつつも諦めているのだ。

 “この状況で逆転は無理だろう”

 “それはそれとして、よく戦った”

 言葉になっていなくとも、そういった意図が感じ取れた。

 ――だったら、しっかりとその目で見ておけ。

 遊矢の指が、デッキに添えられた。

 

「私の……ターン!」

 

 風を切る音。

 カードをめくる。

 その瞬間……散らばっていたピースが、音を立てて繋がった。

 

「私は《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》を召喚!」

 

 黒と紫、髑髏を思わせる色合いの道化師が、宙を舞いながら登場した。

 道化師は帽子を取り、その中からカードを一枚、遊矢に向かって投擲する。

 

「サンキュー、ジョーカー!」

 

 受け取り、めくる。

 描かれていたのは――二色の目を持つ龍の姿。

 

「ジョーカーの効果により、私はデッキから新たな仲間を手札に加えました。

 そして――これより始まるは華麗な逆転劇!

 絶対王者へ挑む雄姿、とくとご覧あれ!」

 

 遊矢は三度、天空を仰ぐ。

 振り子が揺れ、光の軌跡を描き出す。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!

 ――ペンデュラム召喚!

 雄々しくも美しく輝く二色の眼! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 閃光を伴って現れたのは、紛れもない真打。

 異色の双眸を持つ赤色の龍――《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が、大地を踏みしめ、王たる悪魔龍を睨みつけた。

 

「バトル!

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》に攻撃!」

 

 龍の瞳が一際強く輝き、喉奥にエネルギーを蓄え始めた。 

 観客がざわつく。

 オッドアイズの攻撃力は2500。スカーライトの攻撃力には届かない。

 だったら、仲間の力を借りて届かせる……!

 

「この瞬間、私は《EM(エンタメイト)オッドアイズ・ユニコーン》のペンデュラム効果を発動!

 《オッドアイズ》モンスターがバトルする時、一度だけ他の《EM(エンタメイト)》の攻撃力を加えることができます!

 ジョーカー、ユニコーン! 君達の力を貸してくれ!」

 

 道化師は幻獣に手をかざし、幻獣は龍に角を向けた。

 次の瞬間、三体が連結する。

 龍は髑髏を象ったオーラを纏い、己の力を増幅させる。

 

「今だ! 放て、オッドアイズ!

 ――“ストライク・スカル・バースト”!」

 

 力が放出される。

 龍の炎は毒を纏い、紫焔となって悪魔龍を穿つ。

 攻撃力は4300。

 瞬間的ではあるものの、オッドアイズの力はスカーライトを確実に上回っていた。

 

「罠発動! 《ハーフ・アンブレイク》!

 このターン、スカーライトは戦闘で破壊されず、発生するダメージを半分にする!」

 

 ジャックが伏せカードを起動する。

 スカーライトもまた、全身に紅炎を纏い、紫焔を受け止めた。

 吹き荒ぶ紫焔。

 肉を覆う紅炎。

 本来ならば風穴が空くはずの攻撃を、王者たる悪魔龍は耐えきった。

 

ジャック

LP:2700 → 1400

 

「っ……このダメージは……。

 なるほど。モンスターとの戦闘ダメージを倍加させるドラゴンか」

 

 ライフの減少量から、能力を推察する。

 もしも戦闘ダメージを半減していなければ、今の攻撃で残りライフは100。

 最初のターンで運よく《ハーフ・アンブレイク》を引けていなければ、極限の状態まで追い詰められていた。

 ――だからこそ、気に入らない。

 もしもこの少年が、最初から全力でぶつかってきていたら。

 そんな想像が、頭を過ぎった。

 

「あー、惜しい!」

「流石はキングってことかー」

 

 観客の緊張が緩む。

 逆転するかと思われた一撃は、かろうじて届かなかった。

 遊矢の胸に沸いたのは、少しの無念……そして、賞賛だった。

 

「……お見事。まさか今の一撃を耐えられるとは、思いもしませんでした」

 

 オッドアイズの攻撃力が減少し、元の2500に戻った。

 ユニコーンによる強化は自分のターンのみ、かつ瞬間的なもの。次のターン、ジャックの攻撃を耐えきれる保障はない。

 それでも……まだ、勝負は分からない。

 

「私はこれでターンエンド!

 さあキング、次は貴方のターンです」

「ああ……そうだな。

 俺のターン、ドロー」

「?」

 

 ジャックのターンが開始される。

 だが……彼の明らかな変化に、遊矢は困惑した。

 前のターンに見せた昂りは何処へやら。

 王者は冴え切った目で、遊矢と盤面を見つめている。

 

「……榊遊矢、と言ったな。

 貴様には……少々がっかりした」

「――え?」

 

 冷水を浴びせるような一言。

 遊矢は、一時停止でもしたかのように凍り付いた。

 

「貴様のデュエルは、独り善がりに過ぎない。

 確かに観客受けは申し分ない。エンタメデュエルというのも頷ける。

 だが――貴様の魂はどこにある?

 貴様は今、誰を見て戦っている?」

「――――」

 

 思考が鈍くなる。

 鈍器で殴られたみたいだ。

 ジャックの言葉が、耳の奥で繰り返される。

 独り善がり。

 魂。

 誰を見ている。

 ……誰を見て戦っているか、だって?

 そんなの、決まっているじゃないか。

 

「……それ、は」

 

 言葉が詰まる。

 決まっている……はずだった。

 俺の瞳はジャックを見ている。

 なら、魂は?

 俺は一体、誰を見て――誰を満足させようとしていた?

 

「やはり……そうか。

 この……未熟者め……!」

 

 ジャックは握り拳を作り、己の心臓を叩いた。

 

「ならば教えてやろう!

 デュエルとは魂と魂のぶつかり合い!

 荒ぶる決闘者達の姿を見て、観客は一喜一憂する!

 貴様の魂は観客を見るばかりで、この俺を見ていない!

 そんなデュエルしかできんやつに、この俺を倒すことなどできはしない!

 ――罠発動! 《スカーレッド・カーペット》!」

 

 ジャックの場の、残り一枚のカードが起動した。

 

「俺の場にドラゴン族シンクロモンスターが存在する時、墓地から《リゾネーター》モンスターを二体、特殊召喚する!

 甦れ、《ミラー・リゾネーター》! 《シンクローン・リゾネーター》!」

 

 調律の悪魔が蘇生する。

 次の瞬間――ジャックの瞳が、赤く輝いた。

 いや、瞳だけではない。

 全身。心臓を中心に、炎のようなオーラが立ち上る。

 

「しかとその身に刻め! ジャック・アトラスの真のデュエルを!

 俺は、レベル8の《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》に、

 レベル1の《ミラー・リゾネーター》と、レベル1の《シンクローン・リゾネーター》を――

 ――ダブルチューニング!」

 

 二体の悪魔が音叉を鳴らした瞬間、その姿を変えた。

 星ではなく、炎。

 炎は輪となり、悪魔龍を包み込む。

 召喚者の鼓動に応えるように、龍は咆哮を上げた。

 

「王者と悪魔、今ここに交わる!

 赤き竜の魂に触れ、天地創造の雄たけびをあげよ!

 ――シンクロ召喚!

 現れろ! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》!」

 

 王者は、僭主へと新生した。

 傷は塞がり、角は修復され――その上から、鎧のように獄炎を纏う。

 炎の下には、岩のように隆起する筋肉。

 地面が軋み、大気が乾く。

 純粋なる力の化身。

 弱者の屍の上に君臨する、頂点の姿だった。

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》の効果発動!

 このカード以外の、全てのカードを破壊する!

 ――“アブソリュート・パワー・インフェルノ”!」

 

 フィールドが焼き尽くされる。

 観客の歓声が一瞬、遠のいた気がした。

 

 そこには何も残らなかった。

 ――胸の奥が、ひどく軋んだ。

 龍も。道化師も。幻獣も。

 何も、ない。

 圧倒的な力を持つ僭主(タイラント)だけが、そこに立っていた。

 ……ライフはまだ残っている。

 それでも――勝敗は、誰の目から見ても明らかだった。

 

 観客が湧いている。

 何故?

 理解が追いつかない。

 

 ――いや。本当は分かっている。

 

 胸の奥が疼いている。

 魂が昂っている。

 だからこそ――後悔の念が胸を刺す。

 俺は……間違えた。

 勝ったとか、負けたとか、そういう話じゃない。

 ジャック・アトラスが求めていたのは、 この疼きだったのだ。

 

 ◆

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。