遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

17 / 35
決闘者の目

 

「ちっくしょー、全然見つからねー! 何処だー、リーン!!」

 

 はぐはぐ、はぐはぐ。

 山盛りの炒飯をかきこみながら、ユーゴは天井に向かって叫んだ。

 

「うるせーぞ! メシくらいに静かに食いやがれ!」

 

 クロウの怒鳴り声が部屋中に響き渡る。

 

「だってよお! リンが見つからねーんだよ! これでもう何日経ったか分かんねーよ!」

「だー! 分かったから静かにしろ! ご近所さんの迷惑も考えやがれ!」

 

 ……クロウの住まいは決して広くない。

 規模的には、家というよりは秘密基地だ。

 当然、防音設備なんてものはない。

 そしてこの周辺は、クロウと同じような境遇の人達……“ワケ”あり達の溜まり場だ。

 少し離れた場所には、似たような住処が幾つも建っている。

 要するに、クロウとユーゴの会話は、殆ど筒抜けだった。

 

「いや、今日は惜しいところまで行ったんだよ! もう殆どリンだったんだよ!」

「はぁ? 何言ってんだお前。人探しに“惜しい”があるかよ」

「あったんだよ! ほんとに、あとちょっとでリンだった女の子がいてさ! 髪とか服が違うだけで、マジでリンだったんだよ!」

「そりゃ人違いってヤツだな。よくあるこった」

「そーいうレベルじゃないくらいに似てたんだって!

 ほら、どっかのエライ学者も言ってただろ? 自分と同じ顔の人間は三人いるって話。

 あれ、マジだぜ。実際にこの目で見てきたからな!」

「あーそうかい、そりゃよかったな」

「あ! 信じてねーだろ!」

 

 騒がしいユーゴを他所に、クロウは食事を進める。

 その最中……ちらり、ともう一人を見た。

 遊矢である。

 がつがつと喰らい続けるユーゴとは対照的に、遊矢は一口も手を付けていない。

 その代わりに……彼の視線は、手元の“それ”に釘付けになっていた。

 

 

『そいつに参加しろ。

 最後まで勝ち残ることができたなら……貴様に、もう一度チャンスをくれてやる』

 

 

 シティで開催される一大イベント――『フレンドシップ・カップ』

 トップス・コモンズの格差をなくし、互いに友好を深めるためのライディング・デュエルの大会――ということになっている。

 優勝者には賞金と共に、現キングであるジャック・アトラスへの挑戦権が与えられる……らしい。

 遊矢の手元には、その参加券の束が握られていた。

 ……一枚あれば事足りるのにわざわざ束で渡すあたり、流石はキングと言えるだろう。

 

「……んぐ。

 んおーい、どうしたんだよ遊矢。まだ食欲ねーのか?」

 

 ユーゴはもぐもぐ咀嚼しながら、遊矢の顔色を伺う。

 

「へっへっへー、なんならまた半分食ってやっていいんだぜー……って」

 

 視線がチケットの山に止まった。

 次の瞬間、ユーゴは目を丸くして身を乗り出した。

 

「もしかしてこれ……『フレンドシップ・カップ』の参加チケットじゃねーか!

 遊矢! お前、これ、どこで見つけたんだ!?」

「え? あ、いや……」

 

 ユーゴの豹変に若干怯みながらも、遊矢は答える。

 

「ちょっと昼間に、ジャック・アトラスとデュエルしてさ――」

「ジャックとデュエルしたぁー!!?」

「わっ――!?」

 

 キィン――。

 鼓膜が震える。

 至近距離からの爆音波だった。

 

「それで!? どうだった、生ジャック・アトラスは! やっぱり王者!って感じでかっこよかったのか!? デュエルの勝敗はどうなったんだ!? あーそれからレッドデーモンズドラゴンは!?」

「ま……待って、ちょっと待ってくれ」

 

 一気に捲し立てるユーゴに、遊矢は圧倒されていた。

 一方、クロウはマイペースに、スプーンで炒飯を口に運ぶ。

 

「こいつ、根っからのジャックファンなんだよ。フレンドシップ・カップでデュエルすんのが夢なんだと。

 ったく、あんなののどこがいいんだか」

「なんだよー。決闘者なら頂点を目指すのは当然だろー? ああいう大舞台なら猶更だ」

「じゃあお前も出たらどうだ? あの野郎、なんでか知らんが大量にくれたしな」

「いや、そういうわけにもいかねえ。こいつはリンとの夢でもあるしな。とにかくまずはリンを見つけねーと」

 

 そう言って、ユーゴは紙コップに入れられた水を一息で飲み干した。

 ……フレンドシップ・カップは、ユーゴにとって憧れの舞台なのか。

 

「……ふう。

 で? 遊矢はどうすんだ?」

「え?」

「それだよ、それ」

 

 ユーゴがチケットを指差す。

 

「フレンドシップ・カップ。

 ジャック・アトラス直々に招待されたんだ。当然、出るんだよな?」

「……それ、は」

 

 つい、言い淀んでしまった。

 言葉にならない。

 どうすればいいんだ、俺は。

 

 ……独り善がり。

 ……魂。

 ……未熟者。

 

 ジャックの言葉が、胸の中に浮かんでは消えていく。

 だが――

 今は、それどころじゃない。

 融合次元。

 エクシーズ次元。

 侵略と戦争。

 こうしている間にも、何処かで誰かが戦っている。

 それを何とかするために、俺達ランサーズはこの次元に来た。

 

「……な、遊矢」

 

 ユーゴはにこりと笑い、遊矢の肩に手を置いた。

 

「出ろよ。フレンドシップ・カップに」

「ユーゴ……?」

「何を悩んでるのかは知らねーけど……今のお前は出た方がいい。絶対にな。

 気づいてねーみたいだから教えてやるけど……今のお前、すげーいい目をしてるぜ。

 決闘者の目だ。そんな時は何も考えず、思いっきりぶつかった方がいい。

 要するに――当たって砕けろ、だ」

「……はは。なんだよ、それ」

 

 思わず笑いが零れた。

 要領を得ない、勢いだけの論法。

 でも――それこそが、榊遊矢に不足していたものだ。

 当たって砕けろ。全くもってその通り。

 遊矢はチケットを握り締める。

 その目に宿っていたのは、荒ぶる闘志。

 紛れもなく、決闘者の目だった。

 

「なんだよ。やっぱりお前ら、似た者同士じゃねーか」

 

 クロウはニヤリとほくそ笑み、立ち上がる。

 そして……遊矢の持つチケットの束から、一枚をかっさらった。

 

「クロウ?」

「悪いな、一枚貰ってくぜ。

 どこかの馬鹿二人を見て……久しぶりに、昂っちまったからよ」

 

 ◆

 

『遊矢。

 ……ようやく通信に出たか』

「ごめん、零児」

 

 開口一番、画面越しの相手に謝罪する。

 

『何かあったのか』

「何もない。でも――これから、起こす」

『……どういう意味だ』

「事後報告になっちゃうけどさ。

 俺は……ジャック・アトラスと戦いたい」

『ジャック・アトラス……この次元で、キングとして君臨している決闘者か』

「ああ。

 俺は……失敗したんだ。勝ち負けじゃなくて、もっと大事なことを見落としてた。

 だから、もう一度戦いたい」

『……やれやれ。制御不能の問題児集団だな、ランサーズは』

 

 零児はこれ見よがしに、重い溜息をついた。

 ……本当に頭が上がらない。

 だけど、これは譲れない。

 こうして言葉にしてみて、はっきりと分かった。

 今ここで、もう一度あの王に挑む。

 でないと……俺の魂は、ずっと立ち止まったままだ。

 

『では、こちらも一つ相談しておこう。

 柊柚子への対処は、どうすればいい?』

「……は? 柚子? なんであいつが出てくるんだよ」

『君を心配している。ここのところずっと上の空でね。どうしたものかと頭を悩ませていたところだ』

「あー……ごめん、なさい」

『謝罪すればいいのか? それで納得するとは思えないが?』

「いやいや、そうじゃなくて……!

 ……あ、そうだ」

 

 少し考えてから、続けた。

 

「じゃあ、こう言っといてくれ。

 “お楽しみは、これからだ”――ってさ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。