遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

19 / 35
フレンドシップカップ開幕です。
アニメの展開から大きく変えてます。


魂の在り処

 ◆

 

 この世界は、“上”と“下”で分けられている。

 上をトップス、下をコモンズと言う。

 トップスはコモンズを管理・運営し、世界をよりよい方向へ発展させる。

 その積み重ねの成果が、この世界だ。

 技術は革新的な発展を遂げ、デュエルはスピードの世界へ。

 新たな世界。

 新たな景色。

 新たな刺激を求めて、我々は進化し続ける。

 

「――とはいえ、それだけでは社会は成り立たない。

 強者は勝ち続け、弱者は負け続ける。これでは弱者の不満は募るばかり。

 だからこそ、こういった場が必要なのです」

 

 白いスーツの男が、窓越しに眼下の景色を見下ろした。

 人波で埋め尽くされたスタジアム。

 サーキットには、走行用のラインが淡く光を放ち。

 観客達は、開始の宣言を今か今かと待っている。

 

「フレンドシップ・カップ。

 トップス、コモンズの両者が一同に介し、親睦を深める。

 しかし、その実態は真逆のもの。

 デュエルという儀式により、強者と弱者を再分別する。それがこの大会の真実なのです」

 

 凡百の砂粒から、価値ある金を見つけ出す。

 トップスとコモンズの親睦?

 否。ただの詭弁だ。

 弱者による下剋上?

 これも否。

 弱者に埋もれていた強者が、芽を出すだけのこと。

 

「――おや?」

 

 男の視線が一点に止まる。

 その先には……いつか見た、一人の少年。

 次元の彼方に埋もれていた原石。

 

「……なるほど。エンタメ決闘者というのも、あながち間違いではなかったようです」

 

 男は席につき、放置されていた資料を手に取った。

 

 ◆

 

 会場の熱気が一段と高まる。

 デュエルは、最終局面を迎えていた。

 

「――ペンデュラム召喚!

 現れろ、俺のモンスター達!」

 

 天空の門が開く。

 光彩を帯びた穴から、三つの光が遊矢の元へ降り立った。

 

「《EM(エンタメイト)ゴールド・ファング》!

 《EM(エンタメイト)チアモール》!

 《EM(エンタメイト)キングベアー》!」

 

 狼、土竜、そして熊。

 三種のモンスターが並び立つ。

 

『出たあー! ペンデュラム召喚!

 一度に複数のモンスターを召喚する、榊遊矢の十八番!

 今回召喚されたモンスターも錚々たるメンバー! さて、一体どんな攻撃を見せてくれるのかー!』

 

 陽気な実況。湧き上がる歓声。

 いよいよ大詰め、クライマックス。

 会場の熱気は最高潮に達している。 

 

「ゴールド・ファングの効果発動!

 誇り高き金狼よ! その咆哮で、我らの闘志に火を点けろ!」

 

 金狼が吼える。

 泰然自若たる王の瞳に、野生の眼光が宿る。

 

「チアモールの効果発動!

 鼓舞する土竜よ! その献身で、我らを支える礎となれ!」

 

 土竜のエール。

 王の巨体が、さらに一回り膨れ上がる。

 

「キングベアーの効果発動!

 王冠戴く野獣よ! その威容で、最強を示せ!」

 

 野獣が、獲物を捉えた。

 《甲化鎧骨格(インゼクトロン・パワード)》。

 分厚い装甲を纏った昆虫兵器。

 野獣の王は拳を握り、マントを翻し――踏み込んだ。

 ――その、瞬間。

 

「罠発動! 《万能地雷グレイモヤ》!」

 

 セットした罠が起爆する。

 視界は一瞬で煙に覆われた。

 観客達は目を覆う。

 モンスターを破壊する地雷兵器。直撃したキングベアーはひとたまりもないだろう。

 ――だが、それを覆してこその王。

 舞い上がる黒煙を切り裂き、その奥から、野獣が姿を現す。

 

「何!?」

 

 驚く対戦相手。

 野獣の王に、小手先の搦め手は通じない。

 

「やれ、キングベアー!」

 

 その鋼鉄の外殻ごと、キングベアーの拳が叩き割った。

 

 ◆

 

 ――なんだろう、この感覚は。

 選手に与えられた控室で、遊矢は一人、物思いに耽っていた。

 大会は、順調だ。

 順調すぎると言っていい。

 一試合目。

 ペンデュラム召喚の初披露。

 未知の召喚法を駆使し、勝利した。

 観客は、とにかく驚いていた。珍しいものを見れた、といった具合に。

 二試合目。

 シンクロ召喚による逆転。

 劣勢をシンクロ召喚で立て直し、勝利した。

 観客は、湧いていた。見慣れた戦術を見て、興奮したのだろう。

 三試合目――歓声は、確かにあった。

 

 ……そして、現在。

 エンタメデュエルは成功している。

 多少の想定外も、アドリブで乗り越えられている。

 舞網デュエルフェスティバルの経験が生きているのかもしれない。

 

 ――だというのに、何かが足りない。

 物足りないと感じてしまう自分がいる。

 ……なんて礼儀知らず。

 対戦相手だって、手を抜いていたわけじゃない。

 自分が勝つための最強の戦術、最善の策を用意していたはずだ。

 

『だが――貴様の魂はどこにある?』

 

 ジャックの言葉を思い出す。

 魂の在り処。

 誰を見て戦うか。

 言葉の意味なら、もう分かっている。

 

 観客だけを見るな。

 対戦相手を見据えろ。

 

 あのデュエルで、ジャックは俺にそう言ったのだ。

 だが――具体的には?

 分からない。

 どうすれば、相手と向き合えるのか。

 これまで俺が倒してきた決闘者達は……ちゃんと、笑顔に出来ていたのか……?

 

「まーた難しい顔してんなー」

 

 知った声に、顔を上げる。

 扉の前には、顔中マーカーまみれの男……クロウの姿があった。

 

「ほれ」

 

 ぽい、と何かが投げられた。

 慌ててキャッチする。

 

「差し入れだ。大事に飲めよ?」

 

 渡されたのは、ペットボトルのカフェオレだった。

 ……何で?

 こういう時、普通はスポーツドリンクとかじゃないのか?

 それとも、珈琲好きのジャックへの当てつけか?

 

「しっかし、お前のそういうとこ、ユーゴとは正反対だよな」

「……いいだろ、別に」

「おっと、珍しく不機嫌か?

 決闘者たるもの、メンタルケアもしっかりしとかねーと、デッキは応えてくれないぜ?」

「ほっといてくれ」

 

 ボトルのキャップを開け、カフェオレを喉に流し込む。

 珈琲の苦みが、ミルクの甘味を引き立てる。逆もまた然り。相反する二つが混ざり合い、味覚を刺激する。

 ……美味いと言えば、美味い。

 試合前に飲むものじゃないけど。

 

「考えすぎだと思うけどな」

「――え?」

 

 クロウの呟きに耳を貸す。

 

「エンタメデュエルってやつ? 正直、俺にはよく分かんねえ。お前が目指す先も、見えてる景色も。多分、俺には見えねーもんが見えてんだろうな。

 けど――あいつが怒った理由なら、痛ぇほど分かる」

「っ……!」

 

 あいつ。

 その人物の影が思い浮かぶ。

 

「ま、心配すんな。

 次のデュエルで――嫌でも、その気にさせてやっからよ」

 

 空気が冷える。

 今まで向けられなかった敵意が、全身を射抜く。

 それは、紛れもない宣戦布告。

 倒す、という意味じゃない。

 そんな次元の話はしていない。

 

 ――お前の本性を、引きずり出してやる。

 

 エンタメという殻で覆われた、その奥。

 自分でさえ曖昧になってしまった何かを暴いてやると、この男は言ったのだ。

 

「そんじゃあな。お互い、いいデュエルにしようぜ」

 

 クロウは肩を竦めて笑い、部屋を後にした。

 

『いよいよフレンドシップカップも大詰め! 残すところはあと一試合!

 これに勝利した決闘者が、絶対王者ジャック・アトラスへの挑戦権を得ます!

 異邦より現れたエンターテイナー、榊遊矢!

 対するは、コモンズを駆ける鉄砲玉、クロウ・ホーガン!

 どちらも文句なしの凄腕Dホイーラー! 最後まで目が離せません!』

 

 ◆




読んでくださってありがとうございます。
遊矢対クロウ、遊矢対ジャックのインパクトを薄めたくなかったので、ランサーズの面々不参加、かつ決勝まで省略しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。