遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子 作:名もなきWater
アニメの展開から大きく変えてます。
◆
この世界は、“上”と“下”で分けられている。
上をトップス、下をコモンズと言う。
トップスはコモンズを管理・運営し、世界をよりよい方向へ発展させる。
その積み重ねの成果が、この世界だ。
技術は革新的な発展を遂げ、デュエルはスピードの世界へ。
新たな世界。
新たな景色。
新たな刺激を求めて、我々は進化し続ける。
「――とはいえ、それだけでは社会は成り立たない。
強者は勝ち続け、弱者は負け続ける。これでは弱者の不満は募るばかり。
だからこそ、こういった場が必要なのです」
白いスーツの男が、窓越しに眼下の景色を見下ろした。
人波で埋め尽くされたスタジアム。
サーキットには、走行用のラインが淡く光を放ち。
観客達は、開始の宣言を今か今かと待っている。
「フレンドシップ・カップ。
トップス、コモンズの両者が一同に介し、親睦を深める。
しかし、その実態は真逆のもの。
デュエルという儀式により、強者と弱者を再分別する。それがこの大会の真実なのです」
凡百の砂粒から、価値ある金を見つけ出す。
トップスとコモンズの親睦?
否。ただの詭弁だ。
弱者による下剋上?
これも否。
弱者に埋もれていた強者が、芽を出すだけのこと。
「――おや?」
男の視線が一点に止まる。
その先には……いつか見た、一人の少年。
次元の彼方に埋もれていた原石。
「……なるほど。エンタメ決闘者というのも、あながち間違いではなかったようです」
男は席につき、放置されていた資料を手に取った。
◆
会場の熱気が一段と高まる。
デュエルは、最終局面を迎えていた。
「――ペンデュラム召喚!
現れろ、俺のモンスター達!」
天空の門が開く。
光彩を帯びた穴から、三つの光が遊矢の元へ降り立った。
「《
《
《
狼、土竜、そして熊。
三種のモンスターが並び立つ。
『出たあー! ペンデュラム召喚!
一度に複数のモンスターを召喚する、榊遊矢の十八番!
今回召喚されたモンスターも錚々たるメンバー! さて、一体どんな攻撃を見せてくれるのかー!』
陽気な実況。湧き上がる歓声。
いよいよ大詰め、クライマックス。
会場の熱気は最高潮に達している。
「ゴールド・ファングの効果発動!
誇り高き金狼よ! その咆哮で、我らの闘志に火を点けろ!」
金狼が吼える。
泰然自若たる王の瞳に、野生の眼光が宿る。
「チアモールの効果発動!
鼓舞する土竜よ! その献身で、我らを支える礎となれ!」
土竜のエール。
王の巨体が、さらに一回り膨れ上がる。
「キングベアーの効果発動!
王冠戴く野獣よ! その威容で、最強を示せ!」
野獣が、獲物を捉えた。
《
分厚い装甲を纏った昆虫兵器。
野獣の王は拳を握り、マントを翻し――踏み込んだ。
――その、瞬間。
「罠発動! 《万能地雷グレイモヤ》!」
セットした罠が起爆する。
視界は一瞬で煙に覆われた。
観客達は目を覆う。
モンスターを破壊する地雷兵器。直撃したキングベアーはひとたまりもないだろう。
――だが、それを覆してこその王。
舞い上がる黒煙を切り裂き、その奥から、野獣が姿を現す。
「何!?」
驚く対戦相手。
野獣の王に、小手先の搦め手は通じない。
「やれ、キングベアー!」
その鋼鉄の外殻ごと、キングベアーの拳が叩き割った。
◆
――なんだろう、この感覚は。
選手に与えられた控室で、遊矢は一人、物思いに耽っていた。
大会は、順調だ。
順調すぎると言っていい。
一試合目。
ペンデュラム召喚の初披露。
未知の召喚法を駆使し、勝利した。
観客は、とにかく驚いていた。珍しいものを見れた、といった具合に。
二試合目。
シンクロ召喚による逆転。
劣勢をシンクロ召喚で立て直し、勝利した。
観客は、湧いていた。見慣れた戦術を見て、興奮したのだろう。
三試合目――歓声は、確かにあった。
……そして、現在。
エンタメデュエルは成功している。
多少の想定外も、アドリブで乗り越えられている。
舞網デュエルフェスティバルの経験が生きているのかもしれない。
――だというのに、何かが足りない。
物足りないと感じてしまう自分がいる。
……なんて礼儀知らず。
対戦相手だって、手を抜いていたわけじゃない。
自分が勝つための最強の戦術、最善の策を用意していたはずだ。
『だが――貴様の魂はどこにある?』
ジャックの言葉を思い出す。
魂の在り処。
誰を見て戦うか。
言葉の意味なら、もう分かっている。
観客だけを見るな。
対戦相手を見据えろ。
あのデュエルで、ジャックは俺にそう言ったのだ。
だが――具体的には?
分からない。
どうすれば、相手と向き合えるのか。
これまで俺が倒してきた決闘者達は……ちゃんと、笑顔に出来ていたのか……?
「まーた難しい顔してんなー」
知った声に、顔を上げる。
扉の前には、顔中マーカーまみれの男……クロウの姿があった。
「ほれ」
ぽい、と何かが投げられた。
慌ててキャッチする。
「差し入れだ。大事に飲めよ?」
渡されたのは、ペットボトルのカフェオレだった。
……何で?
こういう時、普通はスポーツドリンクとかじゃないのか?
それとも、珈琲好きのジャックへの当てつけか?
「しっかし、お前のそういうとこ、ユーゴとは正反対だよな」
「……いいだろ、別に」
「おっと、珍しく不機嫌か?
決闘者たるもの、メンタルケアもしっかりしとかねーと、デッキは応えてくれないぜ?」
「ほっといてくれ」
ボトルのキャップを開け、カフェオレを喉に流し込む。
珈琲の苦みが、ミルクの甘味を引き立てる。逆もまた然り。相反する二つが混ざり合い、味覚を刺激する。
……美味いと言えば、美味い。
試合前に飲むものじゃないけど。
「考えすぎだと思うけどな」
「――え?」
クロウの呟きに耳を貸す。
「エンタメデュエルってやつ? 正直、俺にはよく分かんねえ。お前が目指す先も、見えてる景色も。多分、俺には見えねーもんが見えてんだろうな。
けど――あいつが怒った理由なら、痛ぇほど分かる」
「っ……!」
あいつ。
その人物の影が思い浮かぶ。
「ま、心配すんな。
次のデュエルで――嫌でも、その気にさせてやっからよ」
空気が冷える。
今まで向けられなかった敵意が、全身を射抜く。
それは、紛れもない宣戦布告。
倒す、という意味じゃない。
そんな次元の話はしていない。
――お前の本性を、引きずり出してやる。
エンタメという殻で覆われた、その奥。
自分でさえ曖昧になってしまった何かを暴いてやると、この男は言ったのだ。
「そんじゃあな。お互い、いいデュエルにしようぜ」
クロウは肩を竦めて笑い、部屋を後にした。
『いよいよフレンドシップカップも大詰め! 残すところはあと一試合!
これに勝利した決闘者が、絶対王者ジャック・アトラスへの挑戦権を得ます!
異邦より現れたエンターテイナー、榊遊矢!
対するは、コモンズを駆ける鉄砲玉、クロウ・ホーガン!
どちらも文句なしの凄腕Dホイーラー! 最後まで目が離せません!』
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読んでくださってありがとうございます。
遊矢対クロウ、遊矢対ジャックのインパクトを薄めたくなかったので、ランサーズの面々不参加、かつ決勝まで省略しました。