遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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榊遊矢

 

「父さんから教わったデュエルでアンタに勝って、父さんが誰よりも強いってことを証明してみせる!」

「……言ったな」

 

 石島の口元が、ゆっくりと吊り上がる。

 それは怒りでも、嘲笑でもない。純粋な闘志そのものの笑みだった。

 

「だが、肝心の主役とやらの攻撃力は2500。攻撃力3000の《バーバリアン・キング》に敵うわけがねえ!」

「それはどうかな?」

 

 その一言に、石島の眉が僅かに動く。

 遊矢の手札は三枚。その中の一枚に、指が添えられた。

 

「確かにオッドアイズだけだと《バーバリアン・キング》には敵わない。だったらどうするか。

 簡単さ。力を合わせればいい!」

 

 遊矢は、そのカードをディスクに叩きつける。

 

「魔法カード発動! 《ミニマム・ガッツ》!

 行けえ、ヒッポ!」

「ヒポォー!」

 

 その瞬間、遊矢のフィールドにいたディスカバー・ヒッポが光を纏い、《バーバリアン・キング》に突撃した。

 直後、爆散する。バーバリアンではなく、ヒッポが、だ。

 無駄死にか? 石島の中で疑問が生まれる。

 しかし、答えはすぐに出た。

 《バーバリアン・キング》の攻撃力が、3000から0に下がっていたのだ。

 

「《ミニマム・ガッツ》は、自分のモンスターを一体リリースすることで、相手モンスターの攻撃力をターン終了時まで0にする! そしてそのモンスターがバトルで破壊された時、元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「っ!?」

 

 遊矢の解説の直後、ストロング石島、そして観客席が一斉にどよめいた。

 《オッドアイズ・ドラゴン》の攻撃が決まれば、合計ダメージは5500。石島のライフは0となり、ワンショットキルが成立する。

 

「すげえ……チャンピオンを押してるぞ……!?」

「バトルだ! 《オッドアイズ・ドラゴン》で《バーバリアン・キング》に攻撃!」

 

 遊矢は腕を突き出し、龍へ攻撃命令を下す。

 赤と緑の双眸が獲物を捕らえ、龍の口元に灼熱のエネルギーが渦巻く。

 

「――“スパイラル・フレイム”!」

 

 《オッドアイズ・ドラゴン》の咆哮と共に、螺旋状の炎が解き放たれた。

 森そのものを捻じ曲げるかのような熱波が走り、バーバリアンを完膚なきまでに焼き尽くす――

 ――かのように思われた。

 

「なっ――!?」

 

 煙が晴れたそこには、無傷のバーバリアンの姿があった。

 

「俺もアクション魔法を発動させたのさ。アクション魔法《奇跡》をな!」

 

 疑問に答えたのは他ならぬ石島。

 彼の隣には、アクション魔法《奇跡》があった。遊矢が森の中でアクション魔法を探している間、石島もまた城の中でアクション魔法を見つけていたのだ。

 

ストロング石島

LP:4000 → 2750

 

 《奇跡》はモンスター一体を戦闘破壊から守りつつ、ダメージを半減させるカード。

 《ミニマム・ガッツ》は、戦闘で破壊した場合にのみダメージを与える。破壊そのものを耐えられては、3000ダメージは与えられない。

 

「流石はチャンピオン! 抜かりなくアクションカードをゲットしていたか!」

 

 観客から歓声が沸き上がる。流石はチャンピオン、と。

 決まると思われた必殺の一撃を間一髪凌いだのだ。当然と言えば当然か。

 一瞬、悔しさが胸を突く。

 届かなかったことに対して。そして何より――ストロング石島が、エンタメデュエルをしていることに対してだ。

 勿論、本人は意識していないだろう。ただの結果論だ。

 それでも遊矢には、今のストロング石島が眩しく見えていた。

 

「っ……」

 

 だが、まだだ。

 まだ、デュエルは終わっていない。

 

「俺は、カードを一枚伏せてターンエンド」

 

 龍の背後に一枚、ひっそりとカードが置かれる。

 遊矢は、その一枚に希望を託した。

 

「所詮、榊遊勝のデュエルなどこの程度だ! お前のターンが終了したことで、《バーバリアン・キング》の攻撃力は3000に戻る!

 俺のターン! 引導を渡してやるぜ!

 手札から魔法カード《蛮族の狂宴LV5》を発動! 手札から戦士族・レベル5のモンスターを二体まで特殊召喚できる!

 現れろ! 《バーバリアン1号》! 《バーバリアン2号》!」

 

 二体の蛮族が咆哮を上げ、《バーバリアン・キング》の横に並び立つ。

 まるで、王を守る近衛兵のように。

 

「《蛮族の狂宴LV5》で特殊召喚されたモンスターは、このターン攻撃ができない。

 だが――《バーバリアン・キング》の効果発動! 俺は《バーバリアン1号》、《バーバリアン2号》をリリース!」

 

 二体の蛮族が、同時に雄叫びを上げた。

 逃げる様子はない。

 それどころか――誇らしげに、拳を突き上げる。

 次の瞬間。

 1号と2号の身体が砕け、真紅のエネルギーとなって《バーバリアン・キング》へと吸い込まれていく。

 

「これにより、《バーバリアン・キング》はこのターン、三回攻撃が可能となる!

 更に永続罠発動! 《バーバリアン・レイジ》! 《バーバリアン・キング》の攻撃力を1000ポイントアップ!」

「ってことは……攻撃力4000!?」

「それが三回も!?」

 

 観客席からの驚愕の声。

 攻撃力4000の三回攻撃。合計ダメージは12000。文字通り桁違いの圧倒的なパワー。その破壊力は、榊遊矢を二度倒して余りある。

 

「っ――」

 

 周囲に視線を巡らす。

 アクションカードは――ない。攻撃は防げない。耐えるしかない。

 

「行け、《バーバリアン・キング》! 《オッドアイズ・ドラゴン》を攻撃!」

 

 蛮族の王が跳躍し、全体重を乗せた一撃を放つ。

 《オッドアイズ・ドラゴン》の身体が大きく吹き飛ばされ、粒子となってフィールドから消え去った。

 

遊矢

LP:4000 → 2500

 

「《バーバリアン・レイジ》の効果により、《オッドアイズ・ドラゴン》は墓地にはいかず手札に戻る。

 フン、アクションカードを拾おうとしなかったな。その潔さだけは認めてやろう」

 

 相棒たる龍が消え去ったフィールド。その余韻すら許さぬように、《バーバリアン・キング》は再び得物を振り上げていた。

 

「これで終わりだ! 《バーバリアン・キング》、ダイレクトアタック!」

「……ここだ!」

 

 遊矢は顔を上げる。

 エースの散り際を目の当たりにしてなお、その目は折れてはいなかった。

 

「罠発動! 《EM(エンタメイト)コール》!

 相手モンスターのダイレクトアタックを無効にする!」

 

 カードが光り、遊矢の前に結界のような光の幕が展開される。

 得物は結界に弾かれ、衝撃は霧散した。

 

「更にこのカードの効果で、デッキから新たな仲間を二体まで手札に加える!」

「……しぶとい野郎だ。だが、最後の一撃がまだ残ってるぜ!

 フィールドはがら空き! 今度こそ防ぐ手立てはねえ!

 行け、《バーバリアン・キング》!」

 

 巨体が突進する。

 誰もがもう終わりだと思った。

 ――だが、その直前。

 遊矢は、高らかにカードを掲げた。

 

「手札から《EM(エンタメイト)クリボーダー》の効果を発動!」

 

 遊矢の間に小さな影が現れる。

 ふわり、と。

 まるで恐怖を知らないかのように、《バーバリアン・キング》の前に飛び出した。

 

「ダイレクトアタックを受ける時、このカードを特殊召喚し、相手モンスターとバトルを行う!」

 

 三回目の攻撃を、クリボーダーの小さな身体が受け止める。光が弾け、衝撃は霧のように消えていく。

 そして――霧は潤いとなって、遊矢の傷を癒す。

 

遊矢

LP2500 → 6200

 

「ライフが回復した、だと……!」

「クリボーダーの戦闘で発生するダメージは無効となり、代わりに俺のライフを回復する」

 

 さっきまで張り詰めていたはずの空気が、少しだけ温度を取り戻した。

 

「……そうか。さっきの罠で手札に加えたカード。それが今のモンスターということか」

「ご名答。そしてそれだけじゃない。アンタの場の《バーバリアン・レイジ》の効果により、破壊されたクリボーダーは墓地にはいかず、手札に戻る。つまり、もう一度効果を使えるってことさ」

 

 これで遊矢の手札は四枚。《オッドアイズ・ドラゴン》、《EMクリボーダー》、《EM》、そして不明の一枚。

 攻撃力を1000アップし、墓地で発動するモンスター効果を封じる《バーバリアン・レイジ》。しかし今は、遊矢に逆転の芽を与えていた。

 

「……成程。《バーバリアン・キング》を強化する俺の罠カードが、逆にお前にチャンスを与えてしまったわけか」

 

 三度の攻撃。もし直撃していれば、総ダメージは12000。

 《奇跡》すら許さず、確実に仕留めるはずだった全力の攻撃。

 それを凌ぎ切り、あまつさえライフを回復させた。

 ストロング石島は、じっと榊遊矢を見据える。

 少年は冷や汗を浮かべながら、次の一手を模索している。窮地を脱しただけで逆転できたわけではない。それどころか、流れは未だストロング石島にある。《バーバリアン・キング》の健在が何よりの証明だ。

 

「……へっ」

 

 やがて、石島は低く笑った。

 

「臆病者の息子かと思ったが……」

 

 観客席が静まり返る。

 

「違ったみてえだな」

「――え?」

 

 その変わりように、誰もが目を疑った。

 観客も。司会者も。そして、榊遊矢も。

 尤も、石島にとってはどうでもいいことだ。彼は何も気にせず、デュエルを続行する。

 

「俺は魔法カード《マジック・プランター》を発動する。自分の場の永続罠を墓地に送り、カードを二枚ドローする。《バーバリアン・レイジ》を墓地へ送り、カードを二枚ドロー」

 

 デッキの上からカードを二枚引き、確認する。

 そのうちの一枚を選び、デュエルディスクに静かにセットした。

 

「さらに、カードを一枚伏せてターンエンド。

 さあ来い、榊遊矢! 逃げるだけの臆病者でないことを証明してみせろ!」

 

 遊矢は、一瞬だけ驚いたように目を見開き……すぐに、真っ直ぐに向き直る。

 

「ああ……勿論!」

 

 意気揚々とした返事を、石島は鼻で笑った。

 だが、その笑みは――どこか清々しい。

 ここにいるのは『榊遊勝の息子』ではない。

 『榊遊矢』という、一人の決闘者なのだ。

 

 ――まずは目の前の私と向き合ってもらわないと。

 

 全くもってその通りだと、石島は痛感していた。

 今、俺が戦っているのは、かつて逃げた臆病者ではなく、新時代を担うチャレンジャーなのだと。

 

「俺のターン――!」

 

 遊矢がデッキに手を伸ばす。逆転の幕が上がる。この場にいる誰もがそう期待した。

 ――その時。

 胸の奥、否。

 もっと深い、深い暗闇から“声”が響いた。

 

『まだだ。俺はまだ、満足していない』

 




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