遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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※本作のライディングデュエルでは、マスターデュエルのイベントを参考にした独自ルールを採用しています。
デュエル開始時、双方のフィールドに永続魔法
《ライディング・デュエル! アクセラレーション!》が用意されます。


黒き疾風

 

「ライディング・デュエル! アクセラレーション!」

 

 カウントがゼロになった瞬間、エンジンが唸りを上げ、疾走を開始した。

 駆けるのは赤と黒。

 歓声が沸き起こる中、二台のDホイールが風を切る。

 性能は拮抗。

 だが、操る者の腕が違う。

 第一コーナーを制したのは黒いDホイールだった。

 ――先行は、クロウ・ホーガン。

 永続魔法に、シグナルカウンターが一つ溜まる。

 

「先行は貰ったあ!

 俺は手札から《BF(ブラックフェザー)-逆風のガスト》を特殊召喚!」

 

 クロウの隣に疾風が吹き荒れた瞬間、モンスターが出現する。

 その名は《BF(ブラックフェザー)》、空を駆る黒き翼。

 黒と緑の羽を持つ男――逆風のガスト。

 

「さらにこいつは、俺の場に《BF(ブラックフェザー)》がいる時、手札から特殊召喚できる!

 来い! 《BF(ブラックフェザー)-白夜のグラディウス》!」

 

 もう一体。

 銀の鎧、二刀の小剣を持つ鴉。

 

「そして、《BF(ブラックフェザー)-下弦のサルンガ》を通常召喚!」

 

 さらに、もう一体。

 弓を持つ小さな鴉。

 ガスト、グラディウス、サルンガ。

 三種三様の《BF(ブラックフェザー)》が、クロウに追随する。

 

「カードを一枚伏せてターンエンド!

 さあ来い遊矢! この戦術を読み切れたら、裸踊りを踊ってやらあ!」

『おおっと、流石はクロウ・ホーガン! 強気な挑発だ!

 チューナーがいるにもかかわらず、シンクロ召喚をしない! これは明らかに罠だー!

 さあこれに対し、後攻の榊遊矢!

 ダークホースのエンターテイナーはどのように攻めるのか、目が離せません!』

 

 響き渡る実況に、観客はヒートアップする。

 

「相変わらず盛り上げ上手なこった。

 そんじゃ、いつでも来な! お得意のエンタメデュエルってやつを披露してもらおうか!」

 

 Dホイールの画面越しに、クロウは笑う。

 でも――

 

「――本当に、そう思ってるのか?」

 

 気付けば、口が先に動いていた。

 

「クロウ・ホーガン。

 貴方は本当に……俺のエンタメデュエルを望んでいるのか?」

「…………」

 

 こちらの問いかけに、クロウは一瞬だけ口を閉ざした。

 

「――当たり前だろ。お前はそうやって勝ち進んできたんじゃねーか」

 

 クロウは、いつもの調子で答えた。

 ……嘘では、ないのだろう。

 しかし、真実でもない。

 ……逡巡の後、ゴーグルの奥で目を細める。

 明らかな違和感を感じながらも、遊矢はターンを開始する。

 観客向けの笑顔を張り付け、仰々しく、身振り手振りを交えながら。

 

「――レディース、エーンド、ジェントルメーン!

 長く続いたフレンドシップカップも、此度で大詰め!

 最後に勝利を飾り、かの王への挑戦権を手にするのはどちらか! 観客の皆様方、しかとその目にお刻み下さい!

 それでは――私のターン!」

 

 カードを引くと同時に、永続魔法にカウンターが溜まった。

 それを尻目に、遊矢は手札から二枚の《魔術師》を選択する。

 ――答えは出ない。

 それでも、立ち止まるわけにはいかない。

 

「私はスケール1の《竜脈の魔術師》と、スケール8の《竜穴の魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 青と白。

 流水を思わせる二対の魔術師が、空高く浮上する。

 

「これでレベル2から7のモンスターが召喚可能!

 揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

 ペンデュラムが揺れる。

 天空には光の軌跡が折り重なり、やがて円を描いた。

 

「――ペンデュラム召喚!

 現れろ! 雄々しくも美しく輝く、二色の眼!

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 円から光が放たれる。

 現れたのは、二色の目を持つ赤き竜。

 オッドアイズは天空から着地した後、サーキットを踏みしめ、地を駆ける。

 

「たとえ罠が待っていようと、突き進むのみ!

 バトル!

 さあ、オッドアイズよ! 下弦のサルンガに攻撃!」

 

 異色の瞳が標的を捉える。

 攻撃力の差は2000。そして《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は、モンスターとの戦闘ダメージを二倍にする。

 攻撃が通れば一瞬でゲームオーバー。

 だが、クロウには罠がある。

 場に伏せられた一枚のカード。

 その正体に、この場にいる全員が注目した。

 

「手札から罠発動! 《ブラック・ソニック》!」

 

 ――が、その前提を覆される。

 

「手札から罠!?」

「こいつは俺の場が《BF(ブラックフェザー)》三体のみの場合、手札から発動できる!

 相手の攻撃表示モンスターを、全て除外する!」

 

 竜目掛けて雷が放たれる。

 モンスターの除外。破壊より一段上の除去手段。

 ――通すわけにはいかない。

 

「速攻魔法《禁じられた聖槍》!

 オッドアイズの攻撃力を800下げる代わりに、このターン、魔法・罠への耐性を与える!」

 

 雷が走り、命中する。

 が、一瞬の後、オッドアイズは両目を輝かせながら電撃を振り払った。

 竜が吠える。

 今度こそサルンガを撃ち抜くべく、炎を蓄えた。

 

「耐えやがったか……!

 だったら次だ! 罠発動、《緊急同調》!」

 

 クロウの伏せカード。第二の罠が発動する。

 

「このカードにより、俺はバトルフェイズ中にシンクロ召喚を行うことができる!

 レベル2、逆風のガストと、

 レベル3、白夜のグラディウスに、

 レベル2、下弦のサルンガをチューニング!」

 

 サルンガは二つの星に姿を変え、光の輪を描いた。

 二体の《BF(ブラックフェザー)》はその中心へ。三体の影が重なり、光が差し込む。

 

「漆黒の翼翻し、雷鳴と共に走れ! 電光の斬撃!

 ――シンクロ召喚!

 降り注げ、《(アサルト) BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》!」

 

 一閃。

 帯びた光を両断しながら、それは姿を現した。

 黒一色の体毛の中に、鋭く光る鋼の刃。

 その刃が振るわれるたび、戦場の均衡は断ち切られる。

 全てを切り裂く黒き剣豪が、空より降り立った。

 

「相手ターン中にシンクロ召喚だって……!」

「ライキリの攻撃力は2600! 弱体化した今のドラゴンじゃあ、手も足も出ねえだろ!」

 

 仮面の下で奥歯を噛む。

 第一の罠は耐えたが、第二の罠までは突破できない。

 

「――手札からの罠に、相手ターンにシンクロ召喚!

 なんという離れ業! 流石は鉄砲玉、といったところでしょうか!

 私はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」

『凄まじい攻防です!

 トリックスターもかくやと言わんばかりの戦術と、見事に対応するエンターテイナー!

 決勝というだけあって、ハイレベルな戦いです!』

 

 即座に挟まれる実況。

 波のように広がる歓声。

 互いの初手が終わっただけにも関わらず、盛り上がりは最高潮に達していた。

 

 ――だというのに。

 歓声が、どこか遠い。

 観客に視線を送る。

 クロウを応援する者。榊遊矢を応援する者。

 ざっと見た感じ、割合は半々。

 エンタメデュエルは既に成功。ここからどう盛り上げるかが決闘者の個性。しかし、どう転んでも失敗にはならない。

 

「それが気に入らねえんだよ、俺達は」

「……え?」

 

 クロウの呟き。

 ごくごく、小さなもの。

 だけど何故か、はっきりと聞こえた。

 

「デュエルでみんなを笑顔にする。

 馬鹿げた話だが、笑い話でもねぇ。そいつを本気で目指すお前を、俺たちは笑わねぇ。

 だが、今のお前はそれ以前の問題だ。決闘者として一番大事なもんを見失っちまってる。

 ……そいつを、このターンで教えてやるぜ」

 

 ヘルメット越しに鋭い視線が向けられる。

 明確な敵意。

 いや――殺意。

 

「俺のターン!」

 

 クロウがカードを引く。

 次の瞬間――

 

「――《ライディング・デュエル! アクセラレーション!》!」

 

 全てを置き去りにし、鉄砲玉は加速した。

 

「デッキからカードを二枚ドローし、手札を一枚墓地に送る!

 さらに《BF(ブラックフェザー)-極北のブリザード》を召喚!」

 

 薄い水色の羽を持つ鳥獣が、クロウの元に舞い降りた。

 

「極北のブリザードの効果発動!

 墓地からレベル4以下の《BF(ブラックフェザー)》を一体、守備表示で特殊召喚する!

 来い! 《BF(ブラックフェザー)-逆風のガスト》!」

 

 続けて、二体目のモンスター。

 素材として使われたはずの鴉が呼び出された。

 そして――それを待っていたかのように、ライキリの刀が煌めく。

 

「ライキリの効果発動!

 一ターンに一度、ライキリ以外の《BF(ブラックフェザー)》の数だけ、相手のカードを破壊する!

 やれ、ライキリ!」

 

 雷光が火花を散らす。

 ライキリが刀を振り抜いた瞬間、二つの稲妻がフィールドを襲った。

 標的は――天空からこちらを見下ろす、二体の《魔術師》。

 

「速攻魔法、発動! 《揺れる眼差し》!

 互いのペンデュラムゾーンのカードを全て破壊する!」

 

 魔術師は、自分自身を粒子に変え、ライキリの雷を回避した。

 

「《揺れる眼差し》は破壊したカードの枚数により、複数の効果を発動する!

 一枚以上の場合、相手に500ポイントのダメージを与える!」

 

 ヘルメットを叩く閃光。

 粒子は雨となり、クロウに降りかかる。

 

クロウ

LP:4000→ 3500

 

「二枚以上の場合、デッキからペンデュラムモンスターを一枚、手札に加える!」

「ライキリの効果を躱したか……だが、まだだ!

 墓地から《BF(ブラックフェザー)-下弦のサルンガ》の効果発動!

 《BF(ブラックフェザー)》シンクロモンスターが存在する時、墓地のこのカードを除外して、表側表示のカードを一枚破壊する!」

 

 ライキリの背後に、一体の《BF(ブラックフェザー)》――サルンガが出現し、弓を構えた。

 矢の穂先は、竜を射抜こうとしている。

 

「手札から《EM(エンタメイト)レインゴート》の効果発動!

 このターン、オッドアイズはバトル・効果では破壊されない!」

 

 矢が放たれる――

 しかしその直前、竜の前に水色の雨合羽が出現した。

 雨合羽は一枚の盾となり、鉄の矢を弾く。

 

「こいつも凌ぐとはな。やっぱ一筋縄じゃ行かねーか……!

 だったら、三度目の正直と行こうじゃねえか!」

 

 クロウのDホイールが唸りを上げる。

 

「何をするつもりだ……!?」

「《BF(ブラックフェザー)》を素材にシンクロ召喚されたライキリは、チューナーとして扱う!

 俺は、レベル2の逆風のガストに、

 レベル7の驟雨のライキリをチューニング!」

 

 ライキリが刀を振るった瞬間、澄んだ金属音と共に光の輪に変換された。

 数は七。

 逆風のガストに、七重に折り重なった光が収束する。

 

「漆黒の翼! 叢雲に翻し、天空を分かつ剣となれ!

 ――シンクロ召喚!

 降臨せよ! レベル9、《(アサルト) BF(ブラックフェザー)-叢雲のクサナギ》!」

 

 光を切り裂き、剣士が飛翔する。

 鋼の翼、赤い鎧。

 その手には歪な巨剣。

 その一刀は天を分かち、神すら断ち切る。

 武の真髄を極めた鴉の武者。

 

「クサナギの効果発動!

 このターンの終了時まで、素材となったシンクロモンスターの攻撃力の合計分アップする!」

 

 攻撃力上昇――5600。

 クサナギの周囲に、ライキリの雷鳴が迸る。

 

「バトルだ!

 叢雲のクサナギで、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!」

 

 稲妻を纏った斬撃が、大気を引き裂く。

 神すらも草のように薙ぐ一撃が、オッドアイズに直撃した。

 レインゴートの効果により、破壊はされない。

 しかしダメージは、確実に遊矢のライフを削った。

遊矢

LP:4000 → 900

 

「ぐっ――!」

 

 遊矢は、全身に衝撃を受けながら、どこか違和感を感じていた。

 圧倒的なダメージ量。絶体絶命とも言える状況。

 しかし――“これからだ”。

 鼓動が早くなる。

 追い詰められていながら、興奮している自分がいる。

 ずっと感じていた物足りなさが、ピースをはめ込んだみたいに埋まっていく。

 

「ようやく分かったか?」

「え……?」

「お前が見失っていたのは、今感じてるそれだ。

 つまり、お前自身なんだよ」

「俺自身……?」

「今のお前がやってることは、天からの施しだ。そんなもんで、本当の笑顔は生まれねえ。

 誰かに手を差し伸べるなら、笑いながら。誰かを救うってのは、そういうことだろうが」

「…………」

 

 それは、実体験を根拠にした言葉だった。

 思えば、この男はいつも笑っていた。

 子供のように。

 気取ったように。

 不敵に。

 クロウ・ホーガンは、いつも笑いながら、俺を助けてくれていた。

 

「今のお前はどうだ。このデュエルで、心の底から笑えてるか?」

「――笑えてない」

 

 零れた言葉は、観客を沸かせるエンターテイナーではなく――

 ただの、榊遊矢としてのものだった。

 

「クロウの言う通りだ。俺はこのフレンドシップ・カップで、どこか物足りなさを感じていた」

 

 全力でデュエルした。

 観客は笑顔だった。

 対戦相手は笑っていた。

 だからこそ、思った。

 エンタメデュエルは成功していた。

 デュエルでみんなを笑顔に出来ていた、と。

 ――心の奥底で、物足りなさを感じながら。

 俺は、笑顔の仮面をつけていた。

 

「……ああ、そうか」

 

 気付いてしまった。

 俺は、笑ったふりをしていたんだ。

 本気で立ち向かってきた相手に、小手先のエンタメで答えていた。

 ……なんて礼儀知らず。

 そりゃあ、ジャックとクロウも怒るさ。

 

「いいのかな。もう少し、我儘になっても」

「知るか。テメーで考えやがれ」

 

 突き放される。

 そこまで責任は持てない、と。

 それで覚悟は決まった。

 

「……分かったよ。

 なら俺は――今から、少しだけ我儘になる」

 

 他者への配慮を脇に置く。

 目の前の相手だけを見る。

 言うなれば――

 勝利への、リスペクト。

 

 ――そして。

 “敵”は、笑みを浮かべた。

 

()のターン!」

 

 仮面を剥ぎ取り、己を晒す。

 視界が澄み渡る。

 雲が晴れ、新たなルートに光が差す。

 

「――《ライディング・デュエル! アクセラレーション!》!」

 

 Dホイールが、竜の如く咆哮する。

 遠のいていた背中は、一気に目の前へ。

 

「この効果で俺はカードを二枚ドローし、手札を一枚捨てる!

 そして、《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》を召喚!」

 

 髑髏の道化師が、アクロバットに登場する。

 道化師は懐からカードを一枚取り出し、投擲。

 カードはまるで手品のように、遊矢の手元に収まった。

 

「ドクロバット・ジョーカーの召喚に成功した時、デッキから仲間を一枚手札に加えることができる!

 俺が選んだのは《白翼の魔術師》!

 そしてこのカードを、ペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

 白と青の意匠、浅緑の翼。

 疾風を操る白き魔術師が、天空へと舞い上がる。

 

「さらに墓地から、《貴竜の魔術師》の効果発動!

 オッドアイズのレベルを3下げることで、このモンスターを特殊召喚!」

 

 白と赤の意匠、巨大な杖。

 炎を操る少女魔術師が現れ、遊矢の隣を滑空する。

 

「レベル4となった《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》に、

 レベル3の《貴竜の魔術師》をチューニング!」

 

 少女が杖を振るい、星へと変わる。

 竜もまた、その中心へ。

 星が、竜を包み込む。

 

「二色の眼の龍よ! 命の炎をその身に宿し、絆を繋ぐ星となれ!

 ――シンクロ召喚!

 現れろ、紅炎纏いし流星の竜! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」

 

 現れたのは隕石。

 あるいは流星――世界を跨ぐ流れ星。

 轟々と燃える炎の身体。二色の輝きを放つ眼。

 疾風は熱風に変わり、戦いの熱を直接叩きつける。

 

『こ……このドラゴンは、初めて見るカードです! あのデュエルチェイサーとのデュエルですら、記録にありません!』

「ハッ、随分強そうなモンスターを呼んだじゃねーか。

 だが、クサナギには届かねえ!」

「確かにその通りだ!

 だけど、こいつは戦うドラゴンじゃない。想いを繋ぐ絆の星だ!

 オッドアイズ・メテオバーストの効果発動!

 ――“ボンド・オブ・フレイム”!」

 

 炎の竜が咆哮し、サーキットに轟かせた。

 遥か頭上に炎が灯る。

 ……《白翼の魔術師》。

 風を操る魔術師が、全身に炎を纏っていた。

 

「こいつは……!」

「メテオバーストは自身のバトルを放棄することで、ペンデュラムゾーンのモンスターを特殊召喚できる!

 来い! 《白翼の魔術師》!」

 

 天空から地上へ。

 魔術師は炎と共に、隕石となって落下した。

 舞い上がる煙を、風を操り吹き飛ばす。

 中心に立っていたのは、《白翼の魔術師》。

 

「続けて行くぞ!

 俺は、レベル4の《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》に、

 レベル4の《白翼の魔術師》をチューニング!」

 

 魔術師が杖を振るい、星へと変わる。

 それを皮切りに、ジョーカーは勢いよく飛び出した。

 空を舞い、風を纏わせ――道化師は、新たな姿に生まれ変わる。

 

「剛毅の光を放つ勇者の剣! 今ここに、閃光と共に目覚めよ!

 ――シンクロ召喚!

 現れろ! 《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》!」

 

 白銀の鎧、鋼の二刀。

 細部には、時計を模した意匠。

 魔術の斬撃は時空を狂わせ、引き裂く。

 剛毅の光を灯す双眸が、鴉の武者を見据えていた。

 

「《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》の効果により、墓地から魔法カードを一枚選び、手札に戻す!

 俺は《禁じられた聖槍》を手札に戻し、もう一度発動! クサナギの攻撃力を800ダウンさせる!」

「何っ――!?」

 

 クサナギの剣に、僅かに亀裂が走った。

 

「バトル!

 行け、《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》!

 《(アサルト) BF(ブラックフェザー)-叢雲のクサナギ》を攻撃!」

 

 気合の一声と同時に、魔導剣士が跳躍する。

 クサナギもまた、応えるように斬りかかる。

 斬撃が交差する。

 一撃目。魔導の刃が、巨大な剣を砕く。

 二撃目。返す刀で、鎧ごと武者を両断した。

 

クロウ

LP:3500 → 3200

 

「さらに、《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》の効果!

 戦闘で破壊したモンスターの、元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

 三撃目。二振りの剣が魔力を纏い、飛ぶ斬撃となってクロウを切り裂く。

 

クロウ

LP:3200 → 200

 

 クロウの身体が傾く。

 転倒しない。

 しかし、速度は瞬く間に減少した。

 その隙を――赤いDホイールが追い越す。

 

「俺は、カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 遊矢の両脇に、二枚のカードが伏せられた。

 少し遅れて、体勢を立て直したクロウが遊矢を追いかける。

 

『クロウの加速から始まったシンクロ召喚による応酬!

 和気藹々としたエンタメデュエルは何処へやら!

 しかし、これはこれで目が離せません!』

 

 実況、そして歓声。

 ……もしここで観客席に振り向けば、もっと派手に笑わせられる。

 けど、今は違う。

 俺がやりたいのは、そういうデュエルじゃないんだ。

 決意を新たに、“敵”を見据える。

 

「やるじゃねえか」

 

 敵は、やはり笑っていた。

 

「ペンデュラムカードを使った連続シンクロとは恐れ入った。

 それでこそ、倒し甲斐があるってもんだぜ!

 行くぜ遊矢! 俺のターン!」

 

 切札と思しきモンスターを倒されてなお、クロウは笑う。

 いや――逆境だからこそ、笑うのだろう。

 

「俺は、極北のブリザードをリリース!

 《BF(ブラックフェザー)-刻夜のゾンダ》を、アドバンス召喚!」

 

 ブリザードが分解され、新たな《BF(ブラックフェザー)》が形を成す。

 剣を構えた紅の鳥人。

 ゾンダは召喚されるや否や、炎の竜に向かって飛び立った。

 

「刻夜のゾンダの効果発動!

 このモンスターの召喚に成功した時、モンスター一体を手札に戻す!

 自慢のドラゴンにはご退場願おうか! やれ、ゾンダ!」

 

 斬撃が、竜の肌を削る。

 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》は、その身を光に変え――次の瞬間、遊矢のEXデッキに戻っていった。

 

「さらにこいつは、自分の場に他の《BF(ブラックフェザー)》がいる時、手札から特殊召喚できる!

 来い! 《BF(ブラックフェザー)-突風のオロシ》!」

 

 赤い喉袋を持つ小型の鴉が、嵐のように呼び出される。

 並び立つ二体。片方はチューナー。

 クロウは、次なる指示を下す。

 

「レベル6、《BF(ブラックフェザー)-刻夜のゾンダ》に、

 レベル1、《BF(ブラックフェザー)-突風のオロシ》をチューニング!」

 

 オロシは光の輪となり、ゾンダはその中心を通り抜ける。

 

「漆黒の翼濡らし、そぼ降る雨に響け、雷鳴の一撃!

 ――シンクロ召喚!

 突き抜けろ!  《(アサルト) BF(ブラックフェザー)-涙雨のチドリ》!」

 

 抜剣。

 光が弾け飛び、漆黒の翼が現出する。

 黒き翼、緑の鎧。左手には、鈍く光る鋼の剣。

 その刃に切れぬ者はない。

 あらゆる敵を切り捨てる鴉の処刑人が、空より降り立った。

 

「チドリの攻撃力は、俺の墓地の《BF(ブラックフェザー)》一体につき、攻撃力を300アップする!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-突風のオロシ》。

 《BF(ブラックフェザー)-極北のブリザード》。

 《BF(ブラックフェザー)-逆風のガスト》。

 《BF(ブラックフェザー)-白夜のグラディウス》。

 《BF(ブラックフェザー)-刻夜のゾンダ》。

 《A(アサルト) BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》。

 《A(アサルト) BF(ブラックフェザー)-叢雲のクサナギ》。

 ――合計、七体。

 上昇値、2100。

 チドリの背後に、散っていった《BF(ブラックフェザー)》達が浮かんでは消えていき――やがて、一本の刀に集束する。

 チドリの攻撃力は、4700にまで跳ね上がった。

 

「こいつで終わりだ!

 涙雨のチドリで、《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》を攻撃!

 雷鳴の一撃! ライトニング・スラッシュ!」

 

 雷光を帯びた刃が、魔導剣士を両断するべく振り下ろされる。

 

「罠発動! 《反転世界(リバーサル・ワールド)》!

 全ての効果モンスターの攻撃力と守備力を反転させる!」

「何ッ!?」

 

 交差した魔導剣が、雷光の斬撃を食い止める。

 剣戟が火花を散らす。

 距離を取ったのち、両者は再度斬りかかる。

 刀は魔導剣士を、剣は黒い翼を断ち切った。

 ――相打ち。

 ――だが。

 クロウは、笑みを浮かべた。

 

「この瞬間、チドリの効果発動!

 このモンスターが破壊され、墓地に送られた時、鳥獣族シンクロモンスターを墓地から特殊召喚できる!

 蘇れ! 《A(アサルト) BF(ブラックフェザー)-叢雲のクサナギ》!」

 

 それは、勝利の確信。

 一陣の風が吹き荒れ、その中央から巨大な剣が降臨した。

 

「行け、クサナギ! 遊矢にダイレクトアタック!」

 

 万物を薙ぐ一撃。

 

「まだだ! 罠発動、《EM(エンタメイト)コール》!

 相手モンスターのダイレクトアタックを無効にする!」

 

 それを阻む、透明な壁。

 剣は、すんでのところで止められていた。

 

「《EM(エンタメイト)コール》の効果により、俺はデッキから二体まで《EM(エンタメイト)》を手札に加える。

 ただし次のターン、EXデッキからモンスターを特殊召喚できない」

 

 遊矢はデッキから、鍵となる二体を手札に加えた。

 リソースは確保した。

 しかし、出力は制限された。

 次のターン、オッドアイズを呼ぶ事はできない。

 

「どうやら、闘志はまだ消えてねえらしい。

 だが……詰めが甘いぜ、遊矢。

 クサナギは守備表示モンスターを攻撃した時、相手に貫通ダメージを与える。

 お前はもう、こいつの間合いから逃げられねえ」

「でも、俺のライフは残ってる」

 

 反射のように、言葉が出た。

 クロウは、更に笑みを強くした。

 その言葉を待っていた、と言わんばかりに。

 

「言うじゃねーか! だったら見せてみな! お前の本気ってやつを!

 俺はこれで、ターンエンド!」

「俺の……ターン!」

 

 ――応えてくれ。

 祈りにも似た想いを込めて、カードを引き抜いた。

 

「――俺は魔法カード《死者蘇生》を発動!

 墓地からモンスターを一体選び、フィールドに特殊召喚する!

 戻って来い! 《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》!」

 

 答えが実体化する。

 白銀の鎧と、二対の刃。

 変わらぬ決意を秘めた魔導剣士が、再びフィールドに立つ。

 

「この土壇場でそのカードを引くとはな!

 だがそいつの攻撃力じゃ、クサナギは倒せねえ!」

「だとしても――俺は一人じゃない!

 手札から《EM(エンタメイト)レディアンジュ》を、ペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

 純白のドレスの少女が、天使の翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。

 

「レディアンジュのペンデュラム効果!

 手札からペンデュラムモンスターを墓地に送り、相手モンスターの攻撃力を1000ポイントダウンさせる!」

「なんだと……!?」

 

 レディアンジュが光を放ち、クサナギの片翼を穿つ。

 

「これで最後! 俺達の本気だ!

 行け、《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》!

 《A(アサルト) BF(ブラックフェザー)-叢雲のクサナギ》を攻撃!」

 

 魔導剣士が踏み込む。

 再び武者を両断するべく、二刀を振りかざす。

 抗うは巨大な剣。

 剣と剣が衝突し、砕ける。

 残されたのは一刀。

 魔導剣士は、ありったけの魔力をつぎ込み、最後の一撃をお見舞いした。

 

クロウ

LP:200 → 0

 

『決まったあー!

 フレンドシップ・カップ決勝を制したのは、本気を魅せた決闘者・榊遊矢!

 観客席の皆様方! どうか今一度、彼らに拍手を!』

 

 ◆

 

「あーあ、負けちまったぜチクショウ!」

 

 クロウは空を仰ぎ、思いっきり叫んだ。

 ――雲一つない、青空だった。

 互いに視線を交わす。

 

「次は、負けねえぞ」

「ああ。俺もだ」

 

 それと、もう一つ。

 

「……ありがとう」

「こっちの台詞だ」

 

 歓声が、遅れて押し寄せてきた。

 




読んでくださってありがとうございます。
今回のデュエル構成で意識したのは剣対刀です。
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