遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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振り切った先

 

「ライディングデュエル、アクセラレーション!」

 

 先陣を切る白き王。

 追随する赤き挑戦者。

 歓声と熱気に覆われたサーキットを、二台のDホイールが駆け抜ける。

 第一コーナーを制したのは白。

 ――先行は、ジャック・アトラス。

 

「行くぞ、榊遊矢!

 今一度このデュエルで、貴様の本質を見極めてくれる!」

「ああ……望むところだ!」

 

 両者の視線が交わる。

 以前のような余裕はない。

 互いに、本気で相手を倒すと決めた目だ。

 

「フン、少しはマシになったらしい。

 だが! このジャック・アトラスは、心を入れ替えた程度で勝てるほど甘くはない!

 俺はチューナーモンスター、《レッド・リゾネーター》を召喚!」

 

 音叉を持った炎の悪魔が、王に追随する。

 

「《レッド・リゾネーター》の召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる!

 いでよ! 《覚星師ライズベルト》!」

 

 続けて呼ばれたのは、悪霊を従えた黒ずくめの少年。

 

「ライズベルトの効果発動! 一ターンに一度、モンスターのレベルを上げることができる!

 これにより、ライズベルトのレベルを4から5に上昇!

 レベル5となった《覚星師ライズベルト》に、

 レベル2の《レッド・リゾネーター》をチューニング!」

 

 炎の悪魔が、その身を星に変えた。

 星はライズベルトの周囲を回り、輪を描いた。

 その中心に、一筋の光が走る。

 

「新たなる王者の脈動、混沌の内より出でよ!

 ――シンクロ召喚!

 誇り高き、《デーモン・カオス・キング》! 」

 

 紅蓮の炎が迸る。

 両腕、肩、そして頭。身体のあらゆる部位が炎に覆われていた。

 能面のような仮面の奥には、狂気を帯びた瞳。

 混沌をもたらす悪魔の王――《デーモン・カオス・キング》。

 

「初めて見るモンスター……!」

 

 白き王の背を追いながら、遊矢は目を見張る。

 

「キングとは常に複数の戦術を用意するもの! 以前と同じ手が来るとは思わんことだ!

 カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

「っ……俺のターン!」

 

 ――だとしても。

 それは、こっちも同じだ……!

 

「俺はスケール1の《EM(エンタメイト)レディアンジュ》と、スケール8の《EM(エンタメイト)ジェントルード》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 天使の翼を持つ白い少女――《レディアンジュ》。

 悪魔の翼を持つ黒き紳士――《ジェントルード》。

 二体の《EM(エンタメイト)》が空高く浮上し、デュエルの開幕を告げる。

 

「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!

 さらに、ジェントルードのペンデュラム効果!

 対となるペンデュラムゾーンにレディアンジュがいる時、デッキから《オッドアイズ》カードを手札に加えることができる!」

 

 デッキの奥底から、一枚のカードが顔を出す。

 遊矢はそれを掴み――空へと手をかざす。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

 巨大な振り子が現れ、左右に揺れ始めた。

 振り子の先には、神秘の光。

 軌跡が幾重にも重なり、やがて円を描きだす。

 

「――ペンデュラム召喚!

 雄々しくも美しく輝く、二色の眼! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 光彩を帯びた円の中から、神秘の龍が出現した。

 異色の目、赤い鱗、宝石の装飾。

 発達した脚部と、鞭のようにしなる尾。

 オッドアイズは着地するや否や、遊矢と並走する。

 

「最初からそのドラゴンを使うか……確かに以前とは違うらしい!

 だが、そいつの攻撃力では《デーモン・カオス・キング》には届かん!」

「だったら、仲間の力で届かせるまで!

 レディアンジュのペンデュラム効果発動! 手札からペンデュラムモンスターを墓地に送り、相手モンスターの攻撃力を1000ポイントダウンさせる!」

 

 天使の光が、混沌の王を穿つ。

 

「よし! 行け、オッドアイズ!

 ――“螺旋のストライク・バースト”!」

 

 すかさず、龍の炎が追撃する。

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は、モンスターとのバトルで与えるダメージを二倍にする。

 攻撃力の差は900。しかしその倍の数値が、ジャックのライフを削った。

 

ジャック

LP:4000 → 2200

 

「俺は、カードを二枚伏せてターンエンド!」

『先制したのはチャレンジャー榊遊矢! いきなり1800ポイントものダメージを与えました!

 しかし、このまま終わるキングではありません! 次のターン、どのような攻防を見せてくれるのかー!』

 

 手に汗握る実況に、会場は更なる熱気に包まれた。

 

「俺のターン!」

 

 ジャックの視線が移る。

 Dホイールの画面。魔法・罠ゾーンに置かれた一枚のカードに、カウンターが溜まった。

 

「――いいだろう。

 ならば心に刻め! ジャック・アトラスのデュエルを!」

 

 それは加速装置。

 カードを切った瞬間。

 アクセルが、踏み込まれた。

 

「――《ライディング・デュエル! アクセラレーション!》!」

 

 白き王が加速する。

 遠い背中は、更に先へ。

 何もかもを置き去りにし、王は独り、先頭を走る。

 

「この効果により、俺はカードを二枚ドローし、手札を一枚墓地へ送る!

 さらに! ダブルトラップ発動!

 《ロスト・スター・ディセント》!

 《リバイバル・ギフト》!」

「ダブルトラップ……!?」

「《ロスト・スター・ディセント》の効果により、墓地から《デーモン・カオス・キング》を特殊召喚!

 この時、効果は無効となり、守備力は0となり、レベルは一つ下がる!」

 

 一枚目は《ロスト・スター・ディセント》。

 カードは光を帯びて輪郭を変え、やがて混沌の王を形作る。

 

「《リバイバル・ギフト》の効果により、俺のフィールドには《レッド・リゾネーター》、貴様のフィールドには《ギフト・デモン・トークン》を二体、それぞれ特殊召喚する!」

 

 二枚目は《リバイバル・ギフト》。

 ジャックの隣には、音叉を持った炎の悪魔。

 遊矢の両脇には、おたまじゃくしのようなモンスターが二体。

 

「チューナーモンスター……まさか――!」

 

 ジャックの場には一体、遊矢の場には二体。

 一見、相手を有利にしてしまうカードに見える。

 しかし、これらは全て布石。

 本命は、次のシンクロモンスター。

 

「俺は、レベル6となった《デーモン・カオス・キング》に、

 レベル2の《レッド・リゾネーター》をチューニング!」

 

 炎の悪魔が音叉を鳴らす。

 金属の澄んだ音を響かせ、悪魔は星へと姿を変えた。

 

「王者の咆哮、今天地を揺るがす!

 唯一無二なる覇者の力を、その身に刻むがいい!」

 

 星は混沌の王を囲い、輪を描く。

 ――王とは仮初めの姿。

 秘められし魂の鼓動が、炎を連れて姿を現す。

 

「――シンクロ召喚!

 荒ぶる魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!」

 

 降臨するは悪魔龍。

 折れた角、傷ついた右腕。それらを覆う紅蓮の炎。

 光が収まった瞬間、赤い炎と魂の熱が、鼓動のように広がっていく。

 悪魔龍は、空に向かって咆哮を上げ――その後、二色の眼を見下ろした。

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴン……!」

 

 ジャックの魂そのものとも言える悪魔龍。

 その炎が、フィールドを焼き尽くそうとしていた。

 

「覚悟は出来ているな! 我が魂の炎、その身をもって知るがいい!

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の効果発動! スカーライトの攻撃力以下の、特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、一体につき500ポイントのダメージを与える!

 ――“アブソリュート・パワー・フレイム”!」

 

 龍の右腕に、炎が収束する。

 放たれる熱線。

 絶え間ない力の奔流が、オッドアイズを、トークンを飲み込む。

 次の瞬間――遊矢の場には、モンスターは一体も残っていなかった。

 

遊矢

LP:4000 → 2500

 

「ぐっ――!」

 

 《リバイバル・ギフト》でトークンを召喚したのは、スカーライトの効果ダメージを増やすため。

 残りライフは2500。

 後はスカーライト自身の直接攻撃でデュエルは終わる。

 

「バトルだ!

 行け、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!

 ヤツに引導を渡してやれ!」

 

 ジャックが悪魔龍に攻撃命令を下す。

 が――

 

「そうはいかない!

 速攻魔法発動! 《イリュージョン・バルーン》!」

 

 遊矢の伏せカードが発動する。

 次の瞬間、色取り取りの風船が五つ出現した。

 

「《イリュージョン・バルーン》は、デッキの上からカードを五枚確認する! その中に《EM(エンタメイト)》がいた場合、一体を選んで特殊召喚できる!」

「フン! そんな運任せのカードが通用すると思うな!」

「どうかな!

 本当に運任せかどうか、デッキが答えを出してくれるさ!

 ――バルーン、オープン!」

 

 遊矢の合図と同時に、五つの風船が弾け飛ぶ。

 シルクハットを被った桃色のカバ。

 黒と紫の、髑髏の奇術師――

 《イリュージョン・バルーン》で公開されたカードは、五枚全てが《EM(エンタメイト)》だった。

 

「ありがとう……お前達の想いは、俺が繋いでみせる!

 俺は五体の中から、このモンスターを守備表示で特殊召喚!

 来い、《EM(エンタメイト)ソードフィッシュ》!」

 

 現れたのは、剣を模した小さな魚。

 しかし、士気は十二分。ソードフィッシュはサングラスの奥から、悪魔龍を睨みつける。

 

「ソードフィッシュの効果発動!

 召喚に成功した時、相手モンスターの攻撃力を600ダウンさせる!」

 

 ソードフィッシュの分身が出現する。

 ――剣の群れ。

 無数の刃が、スカーライトの全身を切り刻んだ。

 

「小賢しい! そんなもので怯むレッドデーモンズではない! 行け!

 ――“灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”!」

 

 だが、悪魔龍はものともしない。

 一瞬の溜めの後、灼熱のブレスが放たれた。

 ソードフィッシュが蒸発する。

 ――だが、傷跡は残した。

 

「俺はカードを二枚伏せて、ターンエンド!」

 

 ジャックのターンが終了する。

 

「俺のターン!」

 

 永続魔法にシグナルカウンターが溜まる。

 数は二つ。

 

「――《ライディング・デュエル! アクセラレーション!》!」

 

 エンジンが唸る。

 風を切り裂く。

 遠い遠い王の背中。

 それを今、ここで追い抜く……!

 

「これによりカードを二枚ドローし、手札を一枚墓地へ送る!

 そして俺は、セッティング済みのスケールでペンデュラム召喚!

 EXデッキから甦れ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 光の門が開き、そこから一体の龍が降下する。

 それに応えるように、スカーライトもまた雄叫びを上げる。

 ――共鳴している。

 互いが互いを高め合い、両者は次の領域へ踏み入れようとしている。

 

「ジェントルードのペンデュラム効果発動!

 俺はデッキから、《EM(エンタメイト)オッドアイズ・バトラー》を手札に加える!

 さらに、レディアンジュのペンデュラム効果発動!

 オッドアイズ・バトラーを墓地に送り、スカーライトの攻撃力を1000ポイントダウンさせる!」

 

 レディアンジュは、手で銃を形作る。

 人差し指に光が収束し――弾丸となって、放たれた。

 光は炎を吹き飛ばし、翼を穿つ。

 

「よし! レディアンジュに続け、オッドアイズ!

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》に攻撃!」

 

 龍の瞳が煌めく。

 全身に力を漲らせ、喉奥に螺旋を蓄えた。

 

「罠発動! 《デモンズ・チェーン》!」

 

 ――しかし、その炎が発せられることはない。

 ジャックの発動した永続罠。

 次の瞬間、無数の鎖が弾けるように飛び出し、オッドアイズの四肢を絡め取った。

 

「オッドアイズ……!?」

「《デモンズ・チェーン》は、モンスター一体の行動を封じる! 貴様の攻撃が届くことはない!」

「っ……カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 鎖に絡め取られたオッドアイズを一瞬だけ見据え、遊矢はカードを勢いよくセットし、ターンを終了した。

 

『と、止められたー!

 榊遊矢、負傷したレッド・デーモンズ・ドラゴンに反撃を試みるも、ジャックの罠に止められ失敗! 流石は王者ジャック・アトラス、生半可な攻撃は通用しません!

 そして次はジャックのターン! この状況で、王の猛攻を止める手立てはあるのでしょうか……!』

「俺の……ターン!」

 

 ジャックの視線が、ドローしたカードを捉え――次に、遊矢の目を見た。

 龍の身動きを封じられながらも、諦めていない。

 むしろ逆だ。

 どうやって喰らいつくか……それだけを考えて、王の背中を追いかけている。

 ――悪くない。

 ジャックは一人、笑みを浮かべた。

 

「……追われるというのは気分がいい。自分がキングなのだと実感できる」

 

 ――だからといって、手を抜くジャック・アトラスではない。

 今のドローで、必勝のルートは完成した。

 ジャックは躊躇いなく、カードを手に取る――

 

「手札から装備魔法発動! 《魂を刻む右(エングレイヴ・ソウル・ライト)》!

 このカードを《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》に装備!」

 

 悪魔龍の右腕に、紋章が浮かび上がった。

 紋章は淡い光を放ち、鼓動のように脈を打つ。

 

「装備魔法の効果により、貴様のモンスターの攻撃力は、スカーライトの攻撃力と同じになる!

 さらに、スカーライトの効果発動!」

 

 龍の右腕に、再び炎が纏う。

 

「――“アブソリュート・パワー・フレイム”!」

 

 巨大な掌が前へ突き出される。

 次の瞬間、その中心から灼熱の光線が解き放たれた。

 

「二度は喰らわない! 速攻魔法発動、《禁じられた聖杯》!

 モンスター一体の攻撃力を400アップする代わりに、効果を無効にする!」

「無駄だ! 《魂を刻む右(エングレイヴ・ソウル・ライト)》を装備したスカーライトは、あらゆる効果を受け付けん!」

「対象に選ぶのはスカーライトじゃない! 俺が選ぶのは、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 全てを焼却せんばかりの煉獄の渦。

 だが――龍の瞳が、鋭く輝く。

 鎖に縛られ、力を封じられてなお、二色の眼は倒れない。

 

「効果を封じるのではなく、攻撃力を上昇させることで、スカーライトの炎を耐え抜いたか……!

 だが、これで終わりとは思わんことだ!」

 

 驚きはしたが、想定の範囲内。

 ジャックは迷わず、次の手を取る。

 

「俺はチューナーモンスター、《チェーン・リゾネーター》を召喚!」

 

 巨大な鎖を背負った、音叉の悪魔。

 悪魔は音叉を二度、打ち鳴らす。

 次の瞬間、悪魔の隣に新たな輪郭が浮かび上がった。

 

「《チェーン・リゾネーター》の召喚に成功した時、俺の場にシンクロモンスターが存在する場合、デッキから新たな《リゾネーター》を特殊召喚できる!

 いでよ! 《シンクローン・リゾネーター》!」

 

 現れたのは、金属板を背負った音叉の悪魔。

 二体の悪魔が、悪魔龍の両隣に並び立つ。

 ――来る。

 遊矢の背筋に寒気が走る。

 だが、それとは反比例するように、内なる心が燃え盛る。

 

「……荒ぶる。

 荒ぶるぞ……俺の、魂が!」

 

 それはジャックも同様に。

 魂の昂りが視覚化する。

 モンスターだけではない。ジャック自身もまた炎のような闘気を帯び、心臓は一際大きく猛る。

 

「俺は、レベル8の《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》に、

 レベル1の《チェーン・リゾネーター》と、

 レベル1の《シンクローン・リゾネーター》を――

 ――ダブルチューニング!」

 

 二体の悪魔が同時に音叉を鳴らし、その身を変貌させる。

 星ではなく、炎。

 炎熱の輪が悪魔龍を囲い――その中心で、魂の叫びが轟いた。

 

「王者と悪魔、今ここに交わる!

 赤き竜の魂に触れ、天地創造の雄たけびをあげよ!

 ――シンクロ召喚!

 現れろ! レベル10、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》!」

 

 角、爪、翼、そして尾。

 全身の傷が癒え、その部位を炎が補強する。

 現れたのは王ではなく――僭主。

 純粋に、力のみで頂点を極めた、絶対王者の姿である。

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》の効果発動!

 このモンスター以外の、全てのカードを破壊する!

 ――“アブソリュート・パワー・インフェルノ”!」

 

 龍の瞳が、世界そのものを捉えた。

 神羅万象を焼き尽くすべく、炎が猛る。

 

「……ここだ!」

 

 ――だが、それを待っていた者が一人。

 天変地異の中、遊矢はDホイールを駆る。

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》……!

 ジャック・アトラスが誇る最強のドラゴン!

 今こそ俺は――貴方を超えてみせる!」

 

 カードが起動する。

 

「カウンター罠発動! 《大革命返し》!

 カードを二枚以上破壊する効果を無効にし、除外する!」

 

 カードを起点に、遊矢の周囲に透明なバリアが張られた。

 炎の嵐がせき止められる。

 拮抗――否、僅かにバリアが上。

 炎は圧され、そのままドラゴンを飲み込まんと、バリアが迫る。

 

「対策を練っていたか……流石だと褒めておこう!

 ――だが! やはり貴様は甘い!

 カウンター罠発動! 《レッド・リブート》!」

「何っ……!?」

 

 ――亀裂が走る。

 発動したはずの罠カードは、再び遊矢の場に伏せられていた。

 

「《レッド・リブート》は罠の発動を無効にし、再びフィールドにセットする! そしてこのターン、貴様はあらゆる罠カードを発動できない!

 やれ! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》!」

 

 視界が染まる。

 音が遠のいていく。

 オッドアイズも、レディアンジュも、ジェントルードも――あらゆるものが炎に呑まれた。

 爆炎。

 黒い煙で目の前が閉ざされる。

 ――それでも。

 アクセルは、まだ止まらない。

 この歩みが止まることだけは、決してない……!

 

「これで終わりだ!

 行け、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》!

 ――“獄炎のクリムゾン・ヘルタイド”!」

 

 煙を切り裂く炎のブレス。

 プレイヤーへの直接攻撃。

 それを――正面から見据える。

 手札に残された可能性を、ここで出し切る。

 

「手札から《曲芸の魔術師》の効果発動!

 魔法・罠の発動が無効にされた時、手札から特殊召喚できる!」

「何……!」

 

 赤い、道化のような魔術師を、フィールドに呼び出す。

 間髪入れず、炎が迫る。

 《曲芸の魔術師》は杖を掲げ、炎を押し留めた。

 だが、それも一瞬のみ。

 次の瞬間にはもう、ただの粒子になっていた。

 

「……俺の《レッド・リブート》をトリガーにし、壁モンスターを召喚したか」

「それだけじゃない! 《曲芸の魔術師》は戦闘で破壊された時、俺のペンデュラムゾーンで復活する!」

 

 散っていった粒子が、天空で再び形を成す。

 

「そして、《EM(エンタメイト)ジェントルード》の効果発動!

 このモンスターが破壊された時、デッキから《EM(エンタメイト)》を一体選び、ペンデュラムゾーンに置くことができる!

 来てくれ! 《EM(エンタメイト)クラシックリボー》!」

 

 小さな毛玉のような悪魔が、くるくると宙を舞いながら天空に浮かんだ。

 《魔術師》と《EM(エンタメイト)》。

 榊遊矢の象徴とも言える二種類が、ペンデュラムゾーンに並び立つ。

 タイラントの一斉破壊を受けてなお、その意志は健在だった。

 

「……面白い」

 

 ――ジャック・アトラスは、笑っていた。

 以前のような苛立ちはない。代わりに、どうしようもないほどの昂りが胸の奥にあった。

 ……冷静に考えれば、ここまでだ。

 いくらペンデュラム召喚の準備を整えようと……《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》では、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》には届かない。

 それが現実。榊遊矢は既に詰んでいる。

 しかし、王には予感があった。

 こちらの予想を、あと一手乗り越える。

 そう思わせるだけの気迫が――魂の鼓動が、今のヤツにはある。

 

「ターンエンド! さあ、来るがいい……榊遊矢!」

 

 ジャックはターンを明け渡す。

 逃げ隠れもしない。たとえどんな手だろうと、正面から受け止める覚悟を以て。

 

「はぁ……――はぁ……――」

 

 ――限界。

 それは遊矢自身も感じていた。

 以前は、タイラントの一撃で敗北した。

 今回は、かろうじて踏み止まった。

 成長の実感と行き止まり。

 希望と絶望。

 相反する二つの感情が、胸の奥でないまぜになっている。

 

 ――俺は、確実に強くなっている。

 ――でも、勝てない。

 

 ……それで、いいのか?

 

「まだだ」

 

 想いは、勝手に口をついていた。

 ――悩むまでもなかった。

 

「あと一歩だ。踏み出せ……いや。

 ――振り切れ!」

 

 遊矢の瞳が、二色に輝く。

 それはさながら、相棒たる龍の如く。

 

「揺れろペンデュラム! 大きく、もっと大きく……!

 俺の……ターン!」

 

 手にしたカードが光を帯びる。

 現れたのは、脈動する新たな力。

 ――龍の鼓動。

 振り切った先で辿り着いた、“次”のカタチ。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

 ペンデュラムが揺れる。

 だが、異変――改変が起きた。

 光の柱に表示されている数字……スケールを示す値が、0に変わる。

 スケール0。ペンデュラム召喚不可能。

 しかしそれらとは真逆に、ペンデュラムは揺れ続ける。

 光の軌跡は、巨大な門を描き出す。

 

「――オーバースケール・ペンデュラム!」

 

 龍が、舞い降りる。

 豪風が吹き荒れ、立ち込めた熱を一気に晴らした。

 

「運命の狭間で止まった振り子が、新次元で新たな時を刻む!

 現れろ! 《オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン》!」

 

 光彩を纏う二色の眼。

 絶え間なく変化する虹色の翼。

 あらゆる束縛から解放され、空を舞う自由の姿。

 二色の眼を持つ幻想の龍――それが、《オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン》。

 

「これは――」

 

 ジャックは、目を見開いた。

 何が起きたのかは不明。どんなモンスターかも不明。

 だが、確実に分かることが一つ。

 榊遊矢は、振り切った。

 限界を超えた。

 目の前で。

 最高の舞台で。

 

「――くく」

 

 ――それだけ分かれば十分だ。

 

「はっはっはっはっは――!

 ――面白い! それでこそ榊遊矢! これこそが、真のデュエル!

 来るがいい! 貴様の今ある全てを、この身に刻んでくれる!」

 

 ジャックの口角が吊り上がる。

 長らく忘れていた興奮。

 何が起きるか分からない期待と不安。

 求めてやまなかった全てが――今、ここにある!

 

「《オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン》の効果発動!

 このモンスターが攻撃する時、相手モンスターの攻撃力を、EXデッキのペンデュラムモンスター一体につき1000ポイントダウンさせる!」

 

 光彩の翼が展開され――その直後、三体の幻影が現れた。

 《EM(エンタメイト)レディアンジュ》。

 《EM(エンタメイト)ジェントルード》。

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。

 

 たとえその身が滅びようと、意志は遺る。

 幻影たちが特攻する。

 僭主たる悪魔龍は、堂々と、それらを待ち受ける。

 右腕。

 左腕。

 そして尾。

 幻影は容赦なく打ち砕かれた。

 だがそれらは、確かな傷として龍を蝕む。

 悪魔龍の力が急速に削がれていく。

 攻撃力は……僅か500。

 ――二色の眼が輝く。

 応えるように、悪魔龍は睨み返す。

 

「行け、《オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン》!

 ――“ファンタスティック・フォース”!」

 

 解き放たれる虹色のブレス。

 迎え撃つは灼熱のブレス。

 光と炎が衝突し、攻撃の余波が世界を震わす。

 一瞬の拮抗。

 ――だが、破れる。

 光彩は獄炎を呑みこみ、悪魔龍を覆い尽くした。

 

ジャック

LP:2200 → 0

 

 ◆

 

 勝利の直後、二人のDホイールが静かに停止した。

 ……動けない。

 体のどこにも、力が入らない。

 ジャックは堂々とDホイールを降り、ゆっくりと近づいてくる。

 ……時間をかけて、地に足を下ろす。

 ふらつきながら、それでも前へ進む。

 

 ジャックは、待っていた。

 

 拳が突き出される。

 俺は――何も言わず、拳を合わせた。

 観客席は、数秒だけ静まり返っていた。

 

 そして――

 二人の拳が触れた瞬間、

 押し殺されていた歓声が、一気に弾けた。

 

「……はは」

 

 俺は、エンタメをしていない。

 ただ、全力でぶつかっただけだ。

 なのに――この充足感は、何だろう。

 勝ったとか、負けたとか、そんなことじゃない。

 特別なことは、何もしていない。

 それなのに――

 かけがえのないものを、手に入れた。

 それだけは、はっきりと分かった。

 

「……お前にも、分かるか」

 

 ジャックが、低く言った。

 

「――決して、忘れるな。

 この景色を。

 お前の魂に、刻み付けておけ」

 

 ◆




ありがとうございました。
シンクロ次元編の執筆開始時に思い描いていたやり取りを、何とか形に出来ました。
まだ書きたいデュエルはいくつかあるので、続きもゆっくり考えていこうと思います。
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