遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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共鳴する双龍

 ◆

 

「「決闘(デュエル)――!」」

 

 ――さっきまでの和気藹々とした空気が、ふっと変わる。

 わずかな緊張が、場を張り詰めさせた。

 目の前に立つユーゴを見据える。

 まるで鏡写し。

 ――来る。

 先に動いたのは、ユーゴだった。

 

「先行は俺だ!

 手札から《SR(スピードロイド)ベイゴマックス》を特殊召喚!」

 

 ぱちぱちと火花が散る。

 直後、空中に複数の独楽が弾けるように出現した。

 

「ベイゴマックスの効果により、デッキから新たな《SR(スピードロイド)》を手札に加える!

 さらに《SR(スピードロイド)三つ目のダイス》を通常召喚!」

 

 正四面体のダイスモンスター。

 それぞれの面には目のマーク。そのうちの一つから炎を吹き出し、ダイスが飛行する。

 

「俺はレベル3の《SR(スピードロイド)ベイゴマックス》に、

 レベル3の《SR(スピードロイド)三つ目のダイス》をチューニング!」

 

 召喚者の指示に応え、二体は姿を変える。

 ダイスは光の輪となり、独楽の周囲を囲んだ。

 

「十文字の姿もつ魔剣よ! その力ですべての敵を切り裂け!

 ――シンクロ召喚!

 現れろ、レベル6! 《HSR(ハイスピードロイド)魔剣ダーマ》!」

 

 現れたのは巨大なけん玉。

 ――いや、剣だ。

 けん玉の形をした魔剣が、旋風と共に現れた。

 

「挨拶代わりだ! 魔剣ダーマの効果発動!

 一ターンに一度、墓地の《SR(スピードロイド)》を除外して、相手に500ポイントのダメージを与える!」

 

 ユーゴは墓地の《SR(スピードロイド)ベイゴマックス》を取り除いた。

 剣先にエネルギーが収束する。

 それは旋風と共に、刃となって解き放たれた。

 ――ライフが、削られる。

 

遊矢

LP:4000 → 3500

 

「っ……一ターン目からいきなりダメージを……!」

「俺はカードを二枚伏せてターンエンド!

 さあ来い遊矢! フレンドシップカップ優勝者の実力……しっかり見せてもらうぜ!」

 

 ユーゴのターンが終わる。

 

「望むところだ!

 ――俺のターン!」

 

 ユーゴの盤面と手札を確認する。

 ――行ける。

 確信と共に、二枚を選ぶ。

 

「俺はスケール5の《EM(エンタメイト)チアモール》と、

 スケール8の《EM(エンタメイト)クラシックリボー》で、

 ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 ポンポンを手にしたチアの土竜。

 指揮棒を手にした毛玉の悪魔。

 二体の《EM(エンタメイト)》が、空高く浮上する。

 

「これでレベル6から7のモンスターが同時に召喚可能!

 揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

 巨大な振り子が出現し、揺れ始める。

 振り子の先端に光が灯る。

 軌跡は円を作り――門となって龍を呼ぶ。

 

「――ペンデュラム召喚!

 雄々しくも美しく輝く、二色の眼!

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 光彩を放ち、龍が顕現する。

 大地が揺れる。

 身体の一部たる宝石は淡く光を放ち――

 真紅と深緑、二色の眼が、射抜くように標的を見つめていた。

 

「――うっ!?」

 

 ――ドクン、と。

 鼓動が、一拍遅れた。

 体勢が崩れそうになるのを、踏ん張って耐える。

 

「……なんだ?」

 

 手の平を見つめる。

 自分の身体が、自分のものじゃなくなるような感覚。

 ほんの一瞬。

 オッドアイズを呼び出した一瞬だけ、違和感を感じた。

 ……今はもうない。

 ……ただの、疲労か?

 

「おーい、どうしたー?」

 

 ユーゴの声で現実に戻される。

 ……やっぱり、ただの疲労か。

 フレンドシップカップ本選に、クロウ、そしてジャック。

 冷静に考えれば、疲れてないわけがないよな。

 

「――ふぅ」

 

 深呼吸し、肩の力を抜く。

 これは後夜祭なんだ。

 今はただ――全力のデュエルを、気楽に楽しむ。

 

「――よし。行くぞ、ユーゴ!

 俺は続けて《EM(エンタメイト)小判竜(ドラゴリモーラ)》を通常召喚!」

 

 額に小判をつけた小さな辰。

 金色の光を振り撒きながら、忙しなく空中へ舞い上がった。

 

「チアモールのペンデュラム効果により、俺の全てのペンデュラムモンスターは、攻撃力が300アップする!

 そして小判竜(ドラゴリモーラ)の効果で、オッドアイズの攻撃力はさらに500アップ!」

 

 《EM(エンタメイト)小判竜(ドラゴリモーラ)》――攻撃力2000。

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》――攻撃力3300。

 二体の龍が、けん玉とユーゴを睨みつける。

 

「バトル!

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《HSR(ハイスピードロイド)魔剣ダーマ》を攻撃!」

 

 二色の眼が輝く。

 それに呼応するように、龍の口には炎が蓄えられた。

 

「オッドアイズは、モンスターとの戦闘で与えるダメージを二倍にする!

 行け、オッドアイズ!

 ――“螺旋のストライク・バースト”!」

 

 炎の奔流が螺旋を描く。

 金属の装甲を一気に貫き、魔剣ダーマを粉砕した。

 攻撃力の差は1100。その倍の数値、2200がユーゴのライフを削る。

 

ユーゴ

LP:4000 → 1800

 

「へっ、思った通りやるじゃねーか! やっぱそいつが、お前のエースか!」

「まだ俺の攻撃は残ってる!

 行け、小判竜(ドラゴリモーラ)! ダイレクトアタックだ!」

 

 金の辰が、黄金のブレスを放つべく、口を大きく膨らませた。

 

「甘いぜ遊矢!

 罠発動! 《ダイスロール・バトル》!

 手札と墓地から《SR(スピードロイド)》を一体ずつ除外して、その合計と同じレベルのシンクロモンスターを特殊召喚する!

 俺は手札の《SR(スピードロイド)-OMKガム》と、墓地の《HSR(ハイスピードロイド)魔剣ダーマ》を除外!」

 

 二体のモンスターが実体化する。

 魔剣ダーマ、そしてロボットのようなモンスター。

 ロボットは光の輪に変換され、魔剣ダーマを囲う。

 

「その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!

 ――現れろ、レベル7!

 《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》! 」 

 

 一瞬の閃光。

 大気を切り裂いて、その龍は現れた。

 浅緑の翼がはためき、一陣の風を巻き起こす。

 純白の龍は空を舞い、地上の龍たちを静かに見下ろしていた。

 

「《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》……!? 」 

 

 興奮から、ついその名を叫んだ。

 ――違和感。

 初めて口にしたはずなのに……何故か、妙に馴染む音だった。

 ……まるで、ずっと前から知っていた名前みたいだ。

 

「遊矢! お前のデッキの象徴がそのドラゴンなら、俺はこいつ! 《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!

 本当の勝負はここからだぜ!」

「……ああ、そうこなくっちゃな。

 新しいモンスターが召喚されたことで、バトルは巻き戻る。

 俺は小判竜(ドラゴリモーラ)の攻撃を中止。

 カードを二枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 ターンを終了する。

 しかし、これは序章。

 地を踏む赤き龍。

 空を舞う白き龍。

 正反対の二体が、互いを見据える。

 

「俺のターン!」

 

 ――そう。

 ここまでが、序章。

 我らが目覚めは、ここより始まる。

 今こそ一つに。

 

「――え?」

 

 ……誰だ?

 初めて聞くはずなのに――妙に聞き覚えがある声。

 

「「■■■■■■――――!!」」

 

 赤き龍の眼が、妖しく光り――

 白き龍の翼が、大きくはためく。

 二体の龍が、空に向かって咆哮する。

 ……いや、違う。

 これは、共鳴だ――

 

「……あ、れ?」

 

 ――視界が歪む。

 意識が急速に薄れていく。

 

 ◆

 

「――なんだ、これ」

 

 目の前には、光と闇があった。

 光。

 歓声が、決闘者を飲み込んでいた。

 観客は熱狂し、狂ったようにその名を称えている。

 誰一人、負けた決闘者など見ていない。

 ――榊遊矢の理想。

 

「うう……」

 

 呻き声に、振り返る。

 闇。

 ひたすら深い闇の中で、一人の決闘者が倒れていた。

 ……怪我を、している。

 

「大丈夫か――!」

 

 反射的に駆け寄ろうとした、その瞬間。

 

「何処へ行く?」

 

 背後から、低い声が響いた。

 ……知っている。何処かで聞いた声だ。

 

「そいつは敗者だ。お前が見るべきは光だろう。

 ――期待に応えるべきだ。より多くの観客の。それこそが、真のエンタメ決闘者だ」

「……かもしれない」

 

 単純な多数決。

 より多くを笑顔にしたいなら、光を取るべきだ。

 

「でも――見なかったことには、できない」

 

 デュエルでみんなを笑顔にする。

 勝者も。

 観客も。

 そして――敗者もだ。

 これはきっと、甘い理想なのだろう。

 それでも――

 (そっち)には、俺が目指す道はない。

 俺は躊躇なく、闇へ踏み込んだ。

 

「……ならば見せてみろ。

 その甘い理想で、どこまで救えるのかを」

 

 ◆

 

 ――気づいた時には、視界は戻っていた。

 オッドアイズ。

 クリアウィング。

 デュエルフィールド。

 そして、群がる観客達。

 全てが元のままだ。

 

「……なんだ、今の」

 

 ただの幻覚だったのか?

 ……そう思った瞬間。

 

「――今こそ一つに」

 

 ユーゴが顔を上げる。

 その瞳が、禍々しく輝いた。

 そして――

 口元が、ゆっくりと歪んだ。

 

「――俺のターン」

 

 ――誰だ、お前は。

 背筋に寒気が走る。

 心臓が早鐘を打つ。

 頭が回らない。

 それでも――決闘者としての本能が、危機を訴えている。

 

「俺は《SR(スピードロイド)シェイブー・メラン》を召喚」

 

 ブーメランのようなマシンが、白竜の隣に現れた。

 

「シェイブー・メランの効果発動。

 このモンスターを守備表示にすることで、モンスター一体の攻撃力を800ダウンさせる」

「な……まさか、オッドアイズの攻撃力を……?」

「そんな小細工に興味はない。

 見せてやろう、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の力を!

 モンスター効果発動! シェイブー・メランの効果を無効にし、破壊する!

 ――“ダイクロイック・ミラー”!」

 

 クリアウィングの翼から薄緑の光が放たれ、隣のモンスターを破壊した。

 

「自分のモンスターを、自分で破壊した……!?」

「この瞬間、クリアウィングの効果発動!

 自身の効果で破壊したモンスターの攻撃力を、クリアウィングの攻撃力に加える!」

 

 粒子となって消滅――そう思われたモンスターは、今度はクリアウィングの翼に吸収されていく。

 シェイブー・メランの攻撃力は2000。

 つまり――クリアウィングの攻撃力は、4500に跳ね上がる。

 

「さらに、罠発動! 《タイラント・ウィング》!

 このターンのみ、ドラゴン族モンスター一体の攻撃力を400アップし、二回攻撃を可能にする!」

 

 両翼が展開される。

 その上から、巨大な光が翼を覆った。

 疾風、そして閃光。

 クリアウィングは二つの力を纏い、攻撃の構えを取る。

 

「攻撃力4900の、二回攻撃だって……!?」

「これで終わりだ。

 ――今こそ、一つに!

 バトルだ!

 やれ、我が眷属よ! まずは《EM(エンタメイト)小判竜(ドラゴリモーラ)》を攻撃!

 ――“旋風のヘルダイブスラッシャー”!」

 

 回転。

 突撃。

 風を切り裂き、光を纏った、質量の一撃。

 

「くっ……罠発動! 《スノーマン・エフェクト》!

 これにより、オッドアイズの元々の攻撃力を、小判竜(ドラゴリモーラ)に加える!」

 

 攻撃力上昇――4500。

 僅かに足りない。

 白龍は止まらない。

 風は刃となり、無慈悲にも小判竜(ドラゴリモーラ)を切り裂いた。

 

遊矢

LP:3500 → 3100

 

 小判竜(ドラゴリモーラ)が消滅したことで、オッドアイズの攻撃力が2800に減少する。

 対してクリアウィングは、飛行しながら軌道を変え、今度はオッドアイズに狙いをつけた。

 

「まだだ! 二回目の攻撃!

 ――“旋風のヘルダイブスラッシャー”!」

 

 再び、あの一撃。

 風と光、そして凄まじい回転を纏ったクリアウィングが、オッドアイズを叩き飛ばす。

 巨体が宙を舞う。

 次の瞬間――砕けるように、粒子となって消えていった。

 

遊矢

LP:3100 → 1000

 

「ぐっ……!」

「かろうじて耐えたか。無駄なことを。

 まあいい、少々戯れてやる。俺はこれでターンエンド」

 

 エンド宣言と同時に《タイラント・ウィング》が消滅する。

 クリアウィングの攻撃力も、元に戻った――はずだ。

 だが、ユーゴは戻らない。

 その瞳は、狂気に染まったままに見える。

 戻るどころか、悪化している気配すらある。

 ――だけど。

 やるべきことは、決まっていた。

 

「っ……俺の、ターン!」

 

 ――このデュエルは、絶対に負けられない。

 目の前のこいつは誰なのか。

 何が起きているのか。

 そんなことはどうでもいい。

 大切なのは――

 

「行くぞユーゴ! 今、お前の目を覚ましてやる!」

 

 ――ユーゴは絶対に、こんな決着は望まないということ。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

 もう一度、天空に手をかざす。

 描かれたのは光の門。

 そして――この龍こそが振り子の象徴。

 何度倒されようと、その度に立ち上がる。

 

「――ペンデュラム召喚!

 EXデッキから甦れ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 光が落下する。

 大地に根を下ろすかのように、龍は着地した。

 そして再び――空駆ける白龍を睨みつける。

 

「チアモールのペンデュラム効果により、オッドアイズの攻撃力は300アップする!」

 

 オッドアイズが吼える。

 攻撃力上昇――2800。

 僅差ではあるものの、クリアウィングの攻撃力を上回った。

 

「バトル!

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を攻撃!

 ――“螺旋のストライク・バースト”!」

 

 放たれる螺旋の炎。

 白龍を貫くべく、大気を捩じ切り、一直線に走る。

 

「墓地から《SR(スピードロイド)三つ目のダイス》の効果発動!

 このカードを除外して、相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にする!」

「何っ!?」

 

 ――阻まれる。

 炎とクリアウィングの間に四面体のダイスが出現し、身代わりとなっていた。

 ダイスが、塵も残らず消滅する。

 だが――クリアウィングは、無傷だった。

 

「愚かな。そんな攻撃が通るとでも思ったのか?」

「っ……ターン、エンドだ」

 

 答えず、ターンを終える。

 

「……まだ抗うか。

 だが、じきに終わる。

 もうすぐだ。

 今こそ……今こそ、一つに――」

「――黙ってくれ」

 

 その一言で、“何か”が初めて揺らいだ。

 喉から零れたのは、低く、鋭い声。

 空気が凍り付く。

 “敵”の手が止まる。

 

「……今、何と言った?

 黙れ、と聞こえたが」

「――二回目だ。黙ってくれ。

 俺はお前と話してるんじゃない。ユーゴに話してるんだ」

「貴様――」

「ユーゴ。お前はそんな勝ち方でいいのか?

 借り物の力で俺に勝って、それで満足なのか?」

 

 雑音を遮り、語りかける。

 目の前のこいつが誰か、なんてどうでもいい。

 これは俺とユーゴのデュエルだ。他人の出る幕なんてない。

 

「――うるせえ」

 

 腹の底から、振り絞るような声が届いた。

 まるで別人。

 荒々しく、感情がむき出しの声。

 いや――これが、ユーゴだ。

 

「うるせえよ、ホントに。

 借り物で満足なんて――するわけねえだろ!」

 

 込められていたのは、怒り。

 狂気の光が薄まる。

 片方の瞳には――確かに、ユーゴの意志が宿っていた。

 

「ユーゴ!」

「そこまで言うなら見せてやるよ。

 正真正銘――

 俺の、最後の切り札をな!」

 

 痛快な啖呵。

 ユーゴは自分のデッキに指を添え、デュエルを再開する。

 ――ここからが、本番だ。

 

「俺の――ターン!

 俺は《SR(スピードロイド)赤目のダイス》を召喚!」

 

 召喚されたのは、黄色いダイスのモンスター。

 それぞれの面には、赤い瞳が記されている。

 

「俺は、レベル7の《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》に、

 レベル1の《SR(スピードロイド)赤目のダイス》をチューニング!」

 

 ダイスは光の輪となり、龍はその中心へ。

 狂気は、静かに研ぎ澄まされ――

 代わりに、気高き輝きが龍を包む。

 

「神聖なる光蓄えし翼煌めかせ、その輝きで敵を討て!

 ――シンクロ召喚!

 いでよ、レベル8! 《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

 

 水晶の翼が現出する。

 風が吹き荒れる。

 光が弾ける。

 結晶の輝きの中から、一体の龍がゆっくりと姿を現す。

 透き通る翼が大気を震わせ、空気が澄み渡っていく。

 

「っ……なんて圧だ。

 これが、ユーゴの本気のドラゴン……!」

 

 新たな切札。

 劣勢。

 そのはずなのに――

 俺は……自分でも驚くくらい、デュエルを楽しんでいた。

 

「行くぜ、遊矢!

 《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》で、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!」

 

 水晶の翼が大きく広がる。

 次の瞬間――

 白銀の疾風が、フィールドを切り裂いた。

 結晶の龍が一直線に突っ込む。

 

「――永続罠発動! 《EM(エンタメイト)ピンチヘルパー》!」

「どんな罠だろうと無駄だぜ!」

 

 ユーゴが即座に叫ぶ。

 

「《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》は、レベル5以上のモンスターとバトルするダメージ計算時、相手モンスターの攻撃力分アップする!」

 

 オッドアイズの攻撃力は、現在2800。

 つまり、クリスタルウィングの攻撃力は――5800。

 

「――“烈風のクリスタロス・エッジ”!」

 

 ――空気が軋む。

 天変地異じみた破壊力。

 龍の身体が宙へ弾き飛ばされる。

 抗う暇すらなく――光となって霧散した。

 ……だが。

 俺はまだ、立っている。

 ライフは減っていない。

 本当に間一髪。

 

「なっ……ライフが減ってねえ。どういうことだ……?」

「《EM(エンタメイト)ピンチヘルパー》の効果を使ったのさ。

 攻撃宣言時、このカードを墓地に送ることで、俺が受けるダメージを0にする」

「……そっか。あの罠はそのための――」

「信じてた。ユーゴならきっと、俺を倒せるだけの切り札を召喚するって」

「……ははっ」

 

 ユーゴが肩を揺らす。

 心底可笑しい、とでも言うように。

 

「やっぱ……お前最高だな、遊矢!」

「……え?」

「普通はビビるとこだろ。明らかにおかしくなってたしな、俺。

 ……けどさ。

 それなら――こっちの期待にも、応えてくれよな」

 

 目つきが、変わる。

 

「俺はこれでターンエンド!

 さあ来いよ! どんな攻撃も、俺のクリスタルウィングで受け止めてやるぜ!」

「――ああ!」

 

 手札は一枚。

 相手のフィールドには、《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》。

 逆転は困難。

 だけど――不可能じゃない。

 それを実現してこそ、エンタメ決闘者というものだ。

 

「俺の――ターン!」

 

 ――来た。

 思わず、口元に笑みが浮かんだ。

 

「俺はフィールド魔法、《天空の虹彩》を発動!」

 

 世界は塗り替えられる。

 遥か上空に振り子が現れ、光を連れて揺れ始める。

 発するは七色の輝き。

 描かれるは光の軌跡。

 極彩色のベールのように、夕焼けの空を鮮やかに彩る。

 

「《天空の虹彩》の効果発動!

 一ターンに一度、自分の表側表示のカードを一枚破壊して、デッキから《オッドアイズ》カードを手札に加える!

 俺はペンデュラムゾーンの《EM(エンタメイト)チアモール》を選択!」

 

 チアモールは、最後に目一杯ポンポンを振り上げてエールを送った後、光の粒子となって消滅した。

 そして光は、この手の中に。

 一枚のカードとなって、右手に収まった。

 ――手繰り寄せた。

 勝利を掴むための、最後のピースを。

 

「へっ……来るなら来い!」

 

 それは、ユーゴも理解している。

 この状況で加えた一枚が、状況を打開できないはずがない、と。

 だから、まずは――!

 

「次に俺は、スケール3の《EM(エンタメイト)シール・イール》を、ペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

 シルクハットを被ったウナギのようなモンスターが、泳ぐように浮上する。

 天空には、再び二体の《EM(エンタメイト)》が揃った。

 

「シール・イールのペンデュラム効果発動!

 ターン終了時まで、相手モンスター一体の効果を封じる!」

「何っ!?」

 

 シール・イールから無数のテープが、弾けるように発射された。

 美しく輝く水晶の翼に、黒と黄色のテープが何重にも貼られてしまう。

 まさしく、使用禁止といったところか。

 

「くっ……だが、効果を封じたくらいじゃ、こいつには勝てねえぜ!」

「いいや……お楽しみは、これからだ!」

 

 ――準備は整った。

 さあ、ショータイムだ。

 

 瞳を閉じて、思い出す。

 ――まだ、あの熱を覚えている。

 踏み出せ。

 振り切れ。

 振り切った限界を、また乗り越えて――

 俺は、強くなる。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

 天空の振り子が、大きく揺れる。

 同時に、スケールの表記が切り替わる。

 スケール0。ペンデュラム召喚不可能。

 それを代償として――ここに、新たな軌跡を描く。

 

「――オーバースケール・ペンデュラム!

 現れろ、二色の目を持つ幻想の龍よ!」

 

 切り開かれる天空の門。

 その奥から、ゆっくりと、巨大な影が現れる。

 

「運命の狭間で止まった振り子が、新次元で新たな時を刻む!

 レベル8! 《オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン》!」

 

 光彩煌めく天空から、新たな龍が舞い降りた。

 翼、角、骨格の節々に宝石をつけた、黄土色の龍。

 七色の光と共に、幻想の翼が展開され――龍は静かに、水晶の龍を見据えた。

 

「《オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン》は、俺のEXデッキにオッドアイズがいる時、スケールに関係なく召喚できる!」

「こいつが、あのジャック・アトラスを倒したドラゴン……!

 いいぜ……そいつを、待ってたんだ……!」

「バトル!

 《オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン》で、《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》を攻撃!」

 

 待っていた。

 そう言わんばかりに、二色の眼が輝きを放つ。

 

「この瞬間、《オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン》の効果発動!

 EXデッキのペンデュラムモンスター一体につき、相手モンスターの攻撃力を1000ポイントダウンさせる!

 散っていった仲間の想いが――今、ここに応える!」

 

 虹色の両翼が広がり、三つの影が出現した。

 《EM(エンタメイト)小判竜(ドラゴリモーラ)》。

 《EM(エンタメイト)チアモール》。

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。

 三体は同時に声を張り上げ、水晶の龍に向かって突撃する。

 

「迎え撃て、クリスタルウィング!」

 

 水晶の龍もまた、翼を広げる。

 いかな妨害を受けていようと、その気高さは健在。

 クリスタルウィングは全身を回転させ、輝きを帯びる。

 そして――向かってくる影達を、瞬く間に一掃した。

 だが――影を蹴散らす度、その翼は陰る。

 攻撃力は――0。

 

「これが俺達の全力だ! 受けてみろ、ユーゴ!」

「……来い、遊矢!」

 

 視線が交わる。

 

 龍と龍。

 虹と水晶。

 

 鏡合わせの――けれど、確かに違う二人。

 

「――“ファンタスティック・フォース”!」

 

 解き放たれる光の奔流。

 一瞬だけ、世界が拮抗する。

 

 ――届いた。

 

 次の瞬間――

 クリスタルウィングの体表に、無数の亀裂が走った。

 

「……やるじゃねえか」

 

 水晶の翼が砕ける。

 光が溢れ出す。

 そして――白龍は、光の粒子となって空に散った。

 

ユーゴ

LP:1800 → 0

 

 デュエルディスクの警告音が勝敗を告げる。

 ――ユーゴは、笑っていた。

 

 ◆

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

 割れんばかりの歓声。

 拍手。

 口笛。

 気が付けば、周囲の観客達は総立ちになっていた。

 

「……え?」

 

 二人で、ほぼ同時に声を漏らす。

 ……すっかり忘れていた。

 今日は、フレンドシップカップの後夜祭。

 つまりこのデュエルは、観客達にとって――

 最高のショーだったのだ。

 

「すげえデュエルだったなあ! 君、どうして本選に出なかったんだよ!」

「いやー、ちょっと色々あってな」

 

 ユーゴは頭を掻きながら苦笑する。

 ――そのときだ。

 ふと、周囲の様子が目に入った。

 拍手。歓声。

 さっきまで自分たちを包んでいた空気とは、まるで違う。

 

「……悪くねえな。こういうの」

 

 ぽつり、とユーゴは呟いた。

 胸の奥に、まだ熱が残っているようだった。

 

「今度は……リンも一緒に――」

「ユーゴ……」

 

 そういえば、ユーゴはずっと誰かを探していた。

 その人は……まだ、見つかっていないはずだ。

 

「……いや、何でもねえ!」

 

 ユーゴは慌てて首を振る。

 

「それより遊矢、ありがとな! いいデュエルだったぜ!」

 

 そしていつもの調子に戻り、親指を立てて笑った。

 

「流石はエンタメ決闘者ってか?」

「……それは何より。

 こっちこそ、ありがとう」

「――けど」

「?」

「次は、負けねえからな」

 

 ユーゴの視線が、真っ直ぐ向けられる。

 

「お前にも――そして、アイツにも」

「……ああ」

 

 あの瞬間。

 ユーゴの瞳を染めた、禍々しい気配。

 

「俺も負けない」

 

 ユーゴにも。

 そして、あの気配にも。

 

「へへっ」

 

 ユーゴは、白い歯を見せて笑った。

 

「遊矢! またデュエルしようぜ!」

 

 ――その言葉をかき消すように、再び大きな歓声が二人を包んだ。

 

 ◆

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