遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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※複数人でのデュエルはタッグフォースルールをベースにしています。
(LP4000スタート。フィールド・墓地・除外ゾーン・LPは共有、手札・デッキ・エクストラデッキは各自別扱い)


対を成す決闘

 ◆

 

「「決闘(デュエル)――!」」

 

 金と銀。

 姉妹と思われる二人の決闘者がデュエルディスクを構え、決闘の開始を告げた。

 半ば反射的に、俺もまたデュエルディスクを構える。

 考えるよりも先に、身体は動いていた。

 

「先行は貰う!

 私は手札から魔法カード《融合》を発動し、《アマゾネス女王(クイーン)》と《アマゾネスの剣士》を融合する!」

 

 金髪の決闘者がカードを掲げる。

 二体のモンスターが出現し、青と緑の渦に巻き込まれていく。

 

「密林の女王よ! 勇猛なる剣士の力を取り込み、すべてを統べる帝国を築け!

 融合召喚!

 現れろ! レベル8、《アマゾネス女帝(エンプレス)》!」

 

 骨の兜を戴く女帝。

 鍛え抜かれた四肢と無骨な巨剣は、歴戦の戦士であることを物語っていた。

 

「融合召喚……!

 まさか……アンタたちが、アカデミアなのか……!?」

 

 こちらの問いに、二人は笑う。

 まるで、獲物を追い詰める狩人のように。

 

「今頃気づいたのか? だが、もう遅い」

「逃げ遅れたものから狩られる。それが戦場よ。

 貴方はもう、私達からは逃げられない」

「せめてもの情けだ。多少の抵抗は許してやろう。

 私はカードを一枚伏せてターンエンド。

 さあ、足掻け。そして私を楽しませてみろ」

「っ……」

 

 ――楽しませてみろ。

 同じ言葉なのに、こうまで違うのか。

 

「俺の……ターン!」

 

 逃げることはできない。

 話も通じない。

 なら――デュエルの中で語るしかない。

 

「俺はスケール1の《EM(エンタメイト)ゴムゴムートン》と、

 スケール8の《EM(エンタメイト)オッドアイズ・バレット》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 桃色と緑色の、ゴムボールのような羊。

 赤と緑、オッドアイの従者。

 二体の《EM(エンタメイト)》が天空に浮上する。

 

「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!

 揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

 天上の振り子が、光芒を連れて揺れる。

 灰色の空に、光の軌跡が描かれる。

 

「ペンデュラム召喚! 現れろ、俺のモンスター達!

 《EM(エンタメイト)パートナーガ》!

 《EM(エンタメイト)インコーラス》!」

 

 シルクハットを被った黄色の大蛇。

 三位一体、色取り取りのインコたち。

 二種類のモンスターが、俺を守るように並び立つ。

 

「俺は、カードを一枚伏せてターンエンド!」

「何だと……?」

 

 金髪の女性は眉をしかめ、不愉快そうに口を開く。

 

「大仰な召喚法でモンスターを並べたかと思いきや、守りを固めてターンエンド。

 ……私達を舐めているのか」

 

 殺意と怒気。

 否応なく、空気が引き締まる。

 

「待って。落ち着きましょう、グロリア姉さん」

 

 後ろから出てきたのは銀髪の女性。

 その人は穏やかな表情を浮かべながら、金髪の女性――グロリア、と呼ばれた女性を窘める。

 

「グレース……」

「次は私の番でしょ? すぐ熱くなるのはお姉ちゃんの悪い癖。

 心配しなくても……あんな化けの皮、すぐに剥がしてやるから」

「っ――」

 

 さっきまでとは、また違った感覚。

 凛々しさを帯びた姉とは対照的に、どこか涼し気な気配。

 

「待たせたわね。それじゃあ、私のターン!」

 

 ターンが切り替わった直後。

 

「リバースカード、オープン!

 《グラヴィティバインド-超重力の網-》!」

 

 有無を言わせず、伏せておいたカードを発動させた。

 警戒と、少しの恐怖。

 自分でもよく分からないが、この女性と長く話すのは危険な気がした。

 

「そのカードは……」

「グラヴィティバインドがある限り、俺達はレベル4以上のモンスターで攻撃できない。

 そしてパートナーガの効果により、レベル5以下のモンスターは攻撃ができない。

 つまり――この二枚によって、俺達は全ての攻撃が封じられた」

「そう……モンスターと罠による二重のロックってわけ?」

「これが俺の意志だ。攻撃は勿論、戦うつもりもない」

 

 グレース。

 そう呼ばれていた女性を、静かに見つめる。

 君達を攻撃する意志はない。

 俺達はお互い、何も見なかった――

 いや、違う。

 少なくとも“俺は”、何も見ていないのだと。

 

「戦うつもりはない、ね……。

 ――嘘ばっかり」

 

 くすり、と。

 愉快そうに、グレースは笑った。

 

「嘘じゃない! 俺は本当に――!」

「なら、その仮面を引っ剥がしてあげる!

 罠発動! 《トラップ・スタン》!

 このターン、全ての罠カードの効果を無効にする!」

「なっ――!」

 

 バチリ、と音を立てて赤いエフェクトが奔った。

 攻撃を縛る重力の網は、既に効力を失っていた。

 

「そんなカードで誤魔化そうとしてもムダ。

 ……私達は幾つもの戦場を経験してきた。だから分かるのよ。

 貴方は強い。そして、本能的に強者を求めている」

 

 好奇の視線が向けられる。

 

「草食獣を装った肉食獣。それが本当の貴方。違う?」

「っ……違う!」

 

 反射的に言い返す。

 そんなわけがないと、自分に言い聞かせる。

 

「あら、強情。じゃあ、ちょっとだけ攻めてあげる。

 私は《アマゾネスペット(タイガー)》を召喚!」

 

 グレースの場に、モンスターが現れる。

 隻眼の赤い虎……あるいは、猛獣。

 

「《アマゾネスペット(タイガー)》の攻撃力は、《アマゾネス》モンスター一体につき400アップする。よって攻撃力は、1900!

 バトルよ!

 まずは《アマゾネス女帝(エンプレス)》で、パートナーガを攻撃!」

 

 女帝は剣を構え、跳躍する。

 一撃のもとに、大蛇は両断された。

 そして――

 

「《アマゾネス女帝(エンプレス)》の効果!

 全ての《アマゾネス》は守備表示モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を超えていれば、貫通ダメージを与える!」

 

 女帝は剣を逆手に持ち替え、返す刀で衝撃波が放たれる。

 

遊矢

LP:4000 → 3300

 

「これでレベル5以下のモンスターも攻撃できるようになった。

 《アマゾネスペット(タイガー)》、インコーラスに攻撃!」

 

 女帝に続くは猛獣。

 インコーラスに抗う術はなく、細切れに引き裂かれた。

 

遊矢

LP:3300 → 1900

 

「くっ……だがここで、インコーラスの効果発動!

 戦闘で破壊された時、デッキからペンデュラムモンスター以外の《EM(エンタメイト)》を特殊召喚できる!

 来い! 《EM(エンタメイト)セカンドンキー》!」

 

 合唱(コーラス)は仲間を呼ぶシグナルとなって、ロバの《EM(エンタメイト)》を呼び出した。

 そしてここから、更に繋がる……!

 

「セカンドンキーの効果発動!

 召喚に成功した時、デッキから《EM(エンタメイト)》を手札に加えることができる!

 俺はデッキから、《EM(エンタメイト)ペンデュラム・マジシャン》を手札に加える!」

「あら、やるじゃない」

 

 確信に満ちた、嬉々とした表情。

 だというのに――今の彼女の笑顔は、何処か不気味に思えた。

 

「だったらこういうのはどう?

 ――速攻魔法発動! 《アマゾネスの秘術》!

 手札またはフィールドのモンスターを素材とし、《アマゾネス》モンスターを融合召喚する!

 私は手札の《アマゾネスの斥候》と、フィールドの《アマゾネスペット(タイガー)》を融合!」

「なっ……!」

 

 思わず息を呑む。

 いや、考えてみれば当然だ。

 もう一人の方は、一ターン目から融合召喚を行ってきた。

 ならこっちも、同じことができたって不思議じゃない。

 

「牙剥く密林の野獣よ。獲物を狙う戦士の目を得て、新たな猛獣となりて現れよ!

 融合召喚!

 出現せよ、レベル7! 《アマゾネスペット虎獅子(ライガー)》!」

 

 隻眼の獣。

 獅子のたてがみを持つ猛虎が咆哮を上げ、大気を震わせる。

 獣の眼光はそれこそ、飢えた捕食者のように危険な色を帯びていた。

 

「目つきが変わったわね。そうこなくっちゃ。

 行け、《アマゾネスペット虎獅子(ライガー)》! セカンドンキーを攻撃!」

「っ……この瞬間、《EM(エンタメイト)オッドアイズ・バレット》のペンデュラム効果発動!

 俺のEX(エクストラ)デッキのペンデュラムモンスター一体につき、相手モンスターの攻撃力を300ダウンする!」

 

 EXデッキにはパートナーガとインコーラスの二体。

 よって攻撃力は――1900。

 

「これで《アマゾネスペット虎獅子(ライガー)》の攻撃力は、セカンドンキーの守備力を下回る!」

「流石。でも残念!

 この瞬間、《アマゾネスペット虎獅子(ライガー)》の効果発動!

 攻撃宣言時、虎獅子(ライガー)の攻撃力は500アップする!」

 

 再び変動する。

 攻撃力は――2400。

 

「さあ、逆転したわよ。せっかくの策も届かなかったわね」

「ゴムゴムートンのペンデュラム効果発動!

 セカンドンキーを、戦闘による破壊から守る!」

「!」

 

 強靭な爪が襲い来る。

 が、標的を切り裂く直前、ゴムの膜がセカンドンキーを覆った。

 一瞬にしてゴムは裂かれる。

 貫通効果でライフは削られる。

 

遊矢

LP:1900 → 1500

 

 ――しかし、セカンドンキーは健在。

 

「……なーんだ。やればできるじゃない」

 

 グレースは呼吸を整えた後、改めて俺を見た。

 

「……何度でも言う。俺に、戦う意志はない」

「なら、どうしてパートナーガの時にゴムゴムートンの効果を使わなかったの?

 あのモンスターさえいれば、少なくともレベル5以下のモンスターの攻撃は防げたのに。

 でも、貴方はそうしなかった。次のターン、私達へ反撃するために。さっきの召喚法を使ってね」

「っ……」

 

 声音は柔らかい。含みも感じない。

 彼女は本当に、心から賞賛を送っている。

 ……だからこそ、逃げ道が塞がれる。

 このデュエルを制し、彼女達を下し……最後には、カードに変える。

 口では何を言おうと、俺の行動は全て、そのための行動に帰結している。

 ――違うって、言ってるだろ。

 俺がやりたいのはこんな、誰かを傷つけるデュエルじゃない。

 

「フフ……まあいいわ。戦う理由が必要なら、こっちで用意してあげる。

 私はカードを三枚伏せてターンエンド」

 

 グレースの足元に、三枚の伏せカードが出現する。

 

「さあ、存分に楽しみましょうか。見せて頂戴、本当の貴方を」

「……どうしてだ。どうしてそこまで、俺と戦おうとする」

「どうしてって……ああ、戦う理由が欲しいのね。

 楽しいから。それじゃダメかしら?」

 

 ――その一言に、初めて手が止まった。

 

「……楽しい、のか。命のやり取りが」

「少し違うわ。デュエルが楽しいのよ。それ以外は……まあ、スパイスってところね。

 命のやり取りも、こうやって貴方を責めるのも、何もかも。

 だから貴方も、もっと気楽にやりましょう? カードにするのもされるのも、結局のところは暇潰しなんだから」

「――は?」

 

 ――その言葉で、思考が停止した。

 命のやり取りが楽しい。

 てっきり、そう答えると思った。

 だから、感情が死んで、怒りが沸き上がった……はずだった。

 ――なんだよ、それ。

 

「なんだよ……それ。暇潰しって……そんな理由で、人がカードにされるのか……!」

「それが戦場ってものよ。どんな決闘者も、ここでは数でしかないの。貴方も、私達もね。

 でもそれだと、流石に味気ないってものでしょう?

 だから楽しむの。命懸けのデュエル、そのものをね」

「――――」

 

 噛み合って、いない。

 同じデュエルをしているはずなのに、見ているものが、まるで違う。

 重みが違う。

 この二人の視点は、あまりにも、命が軽すぎる――

 

「二体一とは感心しないな」

「!」

 

 静かで落ち着いた声が、辺り一帯に響いた。

 顔を上げる。

 盛り上がった高台。

 そこには――。

 初めて見るはずなのに、どこか見覚えのある顔の少年がいた。

 

「新手か……!」

 

 グロリアが警戒を強める。

 しかし当の本人は全く意に介さず、高台から飛び降りて、俺の隣に着地した。

 

「大丈夫か、遊矢」

「え……なんで、俺の名前……」

「俺はユート。詳しい説明は後でする。今はとりあえず、味方だと思ってくれていい。

 行くぞ。即席のタッグだが、俺達で奴らを倒す!」

 

 ユート。

 そう名乗った少年は、使い古した黒コートを靡かせ、デュエルディスクを展開した。

 

「――誰、貴方」

「知る必要はない。何故なら……お前達は、ここで終わる」

 

 ユートが、デッキの上に指を添えた。

 本来なら俺のターン……だが、その進行は強引に書き換えられる。

 二対一ではなく、二対二。

 即ち、タッグデュエル。

 

「俺のターン!

 遊矢! 早速だがお前のカード、使わせてもらう!」

「使うって……どうするつもりだよ!」

「見てれば分かるさ……!」

 

 突然、ユートは空へと手をかざした。

 その先は灰色の空。

 そして――軌跡を描く、ペンデュラム。

 

「俺はセッティング済みのスケールを使い、ペンデュラム召喚!

 現れろ、俺のモンスター達よ!」

 

 鏡に映したかのような、全く同じ動き。

 光彩煌めくゲートの奥から、三体のモンスターが落下する。

 

「《幻影騎士団(ファントムナイツ)ダスティローブ》!

 《幻影騎士団(ファントムナイツ)ラギッドグローブ》!

 《幻影騎士団(ファントムナイツ)フラジャイルアーマー》!」

 

 埃塗れの外套。

 傷んだ手甲。

 壊れかけの鎧。

 持ち主を失った遺品たちに霊魂が宿り、再起動した。

 

「さらに俺は、レベル4の《幻影騎士団(ファントムナイツ)フラジャイルアーマー》と、《EM(エンタメイト)セカンドンキー》でオーバーレイ!」

 

 ユートの足元に黒い渦が現れ、二体のモンスターが中心に吸い寄せられた。

 姉妹が使った融合召喚とは、似ているようで別物。

 ――雷鳴が、迸る。

 

「漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今降臨せよ!

 エクシーズ召喚!

 現れろ、ランク4! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

 暗雲を払うように、その黒龍は現れた。

 顎には、過剰なまでに発達した牙――否、逆鱗。

 紫電を帯びた両翼が広がった途端、辺り一帯の空気が震撼する。

 

「《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》……!?」

 

 その圧倒的な存在感に、つい名前を叫んだ。

 ――違和感。

 初めて口にしたはずなのに、妙に馴染む音。

 まるで――ずっと前から、知っているかのような。

 

「ダスティローブの効果発動!

 このモンスターを守備表示にすることで、ダーク・リベリオンの攻撃力を、相手ターン終了時まで800アップする!」

 

 黒龍が吼える。

 攻撃力は――3300。

 

「そして、レベル3の《幻影騎士団(ファントムナイツ)ダスティローブ》と、《幻影騎士団(ファントムナイツ)ラギッドグローブ》でオーバーレイ!」

 

 再度、ユートは黒い渦を展開する。

 

「戦場に倒れし騎士たちの魂よ! 今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ!

 エクシーズ召喚!

 現れろ! ランク3、《幻影騎士団(ファントムナイツ)ブレイクソード》!」

 

 折れた巨剣。

 持ち主のいない馬鎧に、青い炎が灯る。

 それらは人馬一体の黒騎士となって、ユートの元に現れた。

 

「素材となったラギッドグローブの効果により、ブレイクソードの攻撃力は1000ポイントアップ!」

 

 ペンデュラム召喚を起点に――気づけば。

 フィールドには、二体のエクシーズモンスター。

 攻撃力3300の黒龍――あのドラゴンと、攻撃力3000の黒い騎士。

 一気に、形勢が覆る。

 

「《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の効果発動!

 オーバーレイユニットを二つ使い、相手モンスター一体の攻撃力を半分にし、更にその数値をダーク・リベリオンの攻撃力に加える!

 ――“トリーズン・ディスチャージ”!」

 

 帯電した翼が広がる。

 狙う先は、《アマゾネスペット虎獅子(ライガー)》。

 龍が吼えると同時に、肉食獣に紫電が発せられた。

 

「永続罠発動! 《ディメンション・ゲート》!

 《アマゾネスペット虎獅子(ライガー)》をゲームから除外する!」

 

 紫電が虎獅子(ライガー)を捉える、直前。

 グレースの発動した罠が、虎獅子(ライガー)を異空間へと逃がす。

 

「これでそのドラゴンの攻撃力は上がらない」

「だが、攻撃力はこちらが上!

 バトルだ!

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》で、《アマゾネス女帝(エンプレス)》を攻撃!

 ――“反逆のライトニング・ディスオベイ”!」

 

 ユートは怯まず、攻撃を下す。

 逆鱗が稲妻を帯びる。

 黒龍は翼を広げて滑空し、女帝目掛けてその凶器を突き立てた。

 

グロリア・グレース

LP:4000 → 3500

 

 《アマゾネス女帝(エンプレス)》はシルエットと化し、粒子となって散る。

 

「っ……《アマゾネス女帝(エンプレス)》の効果発動!

 融合召喚したこのモンスターがフィールドを離れた時、《アマゾネス女王(クイーン)》を特殊召喚できる!」

 

 散ったはずの粒子が再構成され、別のモンスターを象る。

 だが――

 

「そのモンスターはフィールドに残さない!

 ブレイクソードの効果発動!

 一ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ使い、互いのカードを一枚ずつ選び、破壊する!

 俺はグラヴィティバインドと、《アマゾネス女王(クイーン)》を破壊!」

 

 グラヴィティバインドのカードが消滅し、同時に黒騎士の剣に炎が灯る。

 剣が振り抜かれる。

 青い炎は斬撃となって、《アマゾネス女王(クイーン)》を破壊した。

 ……ユートの攻撃は終了した。

 ライフこそ大きく削れなかったが、彼女達のフィールドには、モンスターは一体も残っていない。

 

「っ……やってくれるわね」

「お前達のことは、既に調べがついている。

 《アマゾネス》デッキを使う姉妹。キーカードは……《融合》。攻撃そのものを封じるより、素材となるモンスターを殲滅する方が効果的だ。

 俺はカードを三枚セットし、ターンエンド」

 

 ユートの前に、三枚の伏せカードが出現した。

 

「このターンで倒すことはできなかったが……お前達を待ち受けるのは、三種のトラップ。

 ――逃がしはしない。今度は、俺達が狩る側だ」

「ユート……?」

 

 ……なんだ、今の感覚は。

 苛烈に攻める中でも冷静さを失わなかったユートに、別の感情が灯る。

 ――怒り、だ。

 

「……はぁ。狩る側と狩られる側、ねえ。

 正直、今はそういう気分じゃないのよね」

 

 グレースは髪をかき上げ、またもや溜息をつく。

 俺と向き合っている時とは、明らかに温度が違っていた。

 

「じゃあお姉ちゃん、あとはよろしく」

「どうした、急に」

「萎えちゃった。はい、タッチ」

 

 ポン、と。

 グレースは踵を返し、もう一人の肩を軽く叩いて、後ろに下がった。

 

「萎えた、だと……? 舐めているのか、貴様!」

「そういうのはいいから。大体、これはタッグデュエルでしょ? 貴方の相手はお姉ちゃんがするわ」

 

 グレースは、ひらひらと手を振りながら、もう一人と交代する。

 その途中――一瞬だけ、目が合った。

 期待と落胆。

 いや……未練、か?

 

「相変わらずだな。

 まあ……私としては、望むところだが。

 ――そこのお前」

 

 入れ替わりで、グロリアが前に出る。

 

「お前、エクシーズ次元の決闘者だな」

「……その通りだ。

 貴様等がゲームと称して狩ってきた仲間達……彼らの意思を受け継ぎ、俺はここにいる」

「なるほど。では、戦場を駆けてきた先達として、一つアドバイスをくれてやる。

 ――戦場では、お前のような決闘者ほど早死にする」

「何っ……!」

「おっと、勘違いはするな。

 仲間を見捨てられない者、という意味じゃない。

 そのドラゴンのような、巨大な力を振りかざして勝ち誇る決闘者のことだ!

 私のターン!」

 

 向こうにモンスターはいない。

 こっちには黒龍と黒騎士。

 それでも、グロリアの笑みは揺るがない。

 ……何かを、狙っている?

 

「私は魔法カード《パラレルツイスター》を発動!

 自分の魔法・罠カードを一枚墓地に送り、フィールドのカードを一枚破壊する!

 私は《ディメンション・ゲート》を墓地に送り、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を破壊!」

 

 罠カードが消滅する。

 除外の楔が外れた――次の瞬間、黒龍の足元に竜巻が発生した。

 

「その程度の戦術で崩せると思うな!

 罠発動! 《幻影剣(ファントムソード)》!

 このカードを、ダークリベリオンに装備する!」

 

 ダークリベリオンの眼前に、禍々しい気配を帯びた魔剣が出現する。

 

「《幻影剣(ファントムソード)》は装備モンスターが破壊される時、身代わりになることができる!」

「甘い!」

 

 グロリアが、残り一枚の手札を切る。

 

「速攻魔法《サイクロン》を発動! 《幻影剣(ファントムソード)》を破壊!」

「何っ……!?」

 

 第二の竜巻が発生する。

 風の奔流は矢のように、《幻影剣(ファントムソード)》を撃ち抜いた。

 身代わりを失った黒龍を、竜巻が容赦なく呑み込む。

 支えを断たれた反逆の竜は、そのまま掻き消えた。

 

「っ――ダーク・リベリオン……!」

「《ディメンション・ゲート》が墓地に送られたことで、除外された《アマゾネスペット虎獅子(ライガー)》は、フィールドに帰還する!

 さらに永続罠発動、《アマゾネスの意地》!

 墓地から《アマゾネス》モンスターを特殊召喚する!

 戦場へ舞い戻れ、《アマゾネス女帝(エンプレス)》!」

 

 虎獅子と女帝。

 一度はフィールドを離れた二体が並び立つ。

 

「《アマゾネス女帝(エンプレス)》が存在する限り、他の《アマゾネス》モンスターは破壊されない。

 バトル!

 《アマゾネスペット虎獅子(ライガー)》で、《幻影騎士団(ファントムナイツ)ブレイクソード》を攻撃!」

 

 虎獅子(ライガー)が駆け、黒騎士が迎え撃つ。

 互いの攻撃力は互角。

 しかし《アマゾネス女帝(エンプレス)》の効果により、虎獅子(ライガー)は破壊されない。

 野生の一撃が、鍛え抜かれた鎧ごと黒騎士を打ち砕く。

 

「これで貴様の場はがら空きだ。引導を渡してやる。

 行け、《アマゾネス女帝(エンプレス)》! プレイヤーへダイレクトアタック!」

「くっ……罠発動! 《エクシーズ・リボーン》!

 墓地からエクシーズモンスター一体を特殊召喚する!

 甦れ――《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

 空いた場に、再び黒き龍が舞い戻る。

 

「ドラゴンを盾にして致命傷を避けるつもりか。

 哀れだな、エクシーズ使い! 己の命可愛さに、切札を使い捨てるとは!」

 

 女帝は片手で剣を振るい、黒龍に斬りかかる。

 《アマゾネス女帝(エンプレス)》の攻撃力は――2800。

 今のダークリベリオンを上回っている。

 

「使え、ユート!」

「っ……! ああ!」

 

 声を張る。

 それだけで、俺の意思は伝わってくれた。

 ユートは即座に、天空のモンスターへ手をかざす。

 

「俺は《EM(エンタメイト)ゴムゴムートン》のペンデュラム効果を発動!

 ダーク・リベリオンを、戦闘による破壊から守る!」

「何ッ――!?」

 

 二体の間に、ゴムの障壁が出現する。

 繰り出される斬撃。

 ゴムは、一瞬にして塵芥と化した。

 

遊矢・ユート

LP:1500 → 1200

 

 だが、その一瞬が致命傷を食い止める。

 ダーク・リベリオンは健在だ。

 

「パートナーに救われたか……だがここで、《アマゾネスペット虎獅子(ライガー)》の効果発動!

 《アマゾネス》が攻撃する度、攻撃力を800ダウンする!」

 

 《アマゾネスペット虎獅子(ライガー)》の効果により、ダーク・リベリオンの攻撃力は瞬く間に下がっていく。

 最後に示された数値は――1700。

 反撃の手は、ここで封じられた。

 

「切札のドラゴンは死屍累々。ライフは風前の灯火。

 勝負あったな。お前達に勝ち目はない」

「まだだ。まだ勝負はついていない。

 俺達レジスタンスは、ライフが尽きるまで諦めない!

 いや! たとえライフが尽きようと、俺の意志は次の決闘者に受け継がれる! そして必ず、お前達アカデミアを倒す!」

「ほう……流石はレジスタンス、見事な覚悟だ。

 巻き込まれる側の気持ちを考えなければ、な」

「!」

 

 ユートが固まる。

 燃えるような闘志が、徐々に薄れていく。

 代わりに残ったのは――罪悪感、か。

 

「……遊矢、すまない。俺は――」

「大丈夫だ」

 

 敢えて、ユートの言葉を遮る。

 

「ユートは前を見ててくれ。進む道は、俺が作る」

 

 デュエルディスクを構え直す。

 ユートの想いは、今の二ターンで十分伝わってきた。

 謝罪の必要なんて、これっぽっちもない。

 ……相変わらず気は進まない。

 かといって、ここで引き下がるほど薄情にもなれない。

 

「意外だな。てっきり、戦う意志はない、などとほざくと思ったが」

「その通りだ。戦う意志はない。

 単に、見て見ぬ振りができないだけだ。

 だから――アンタたちの望み通り、戦ってやる。ただし……」

 

 相手の二人を見据える。

 

「俺が戦うのは、相手を倒すためじゃない。互いが相手を、理解し合うためだ」

「理解……か。

 甘いな。甘すぎて反吐が出そうだ」

 

 射抜くような視線が、今度は俺を捉えた。

 それを、真っ向から受け止める。

 

「できると思っているのか、そんなことが」

「できるかどうかは関係ない。俺はただ、俺が信じるデュエルをするだけだ。

 ――行くぞ! 俺のターン!」

 

 カードを引く。

 戦いの熱が灯る。

 手を空にかざす。

 光の門が描かれる。

 

「俺は、セッティング済みのスケールでペンデュラム召喚!

 現れろ、俺のモンスター達!」

 

 舞い降りるは三つの光。

 二つの舞台裏から、それぞれモンスターが出現する。

 

「EXデッキから、《EM(エンタメイト)パートナーガ》!

 手札から、《EM(エンタメイト)バリアバルーンバク》!

 そして、《EM(エンタメイト)ペンデュラム・マジシャン》!」

 

 黄色の大蛇。

 紫色の風船。

 赤い手品師。

 三種のモンスター達が、傷ついた黒龍を守るように陣取った。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果発動!

 特殊召喚に成功した時、俺の場のカードを二枚まで破壊し、その枚数だけデッキから《EM(エンタメイト)》を手札に加える!

 ペンデュラムゾーンのゴムゴムートンと、オッドアイズ・バレットを破壊!」

 

 防御の要だった二枚を消し去る。

 それらは粒子に変換され、俺の手元に新たなカードとして収まった。

 

「手札に加えるのは《EM(エンタメイト)カード・ガードナー》と、《EM(エンタメイト)ヒックリカエル》!

 そして俺は、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を守備表示に変更!」

 

 黒龍は手を交差させ、翼を折り畳み、防御の姿勢を取った。

 

「守備表示だと……?

 何かと思えば、また守りを固めるだけか」

「それはどうかな?」

 

 たった今、手札に加えた一枚をかざす。

 

「俺は、スケール8の《EM(エンタメイト)カード・ガードナー》を、ペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

 カードそのものとも言えるモンスターが、天空の空いた席に浮上する。

 

「カード・ガードナーのペンデュラム効果発動!

 俺の場の守備表示モンスターの守備力の合計を、ダーク・リベリオンに加える!」

 

 三体からオーラが立ち上り、一体の元へ。

 守備力上昇――6900。

 黒龍は翼を丸め、更に守りを固めた。

 

「やはり守りの一手か。そんな戦術が通用するとでも――!」

「仕込みは終わった」

「――何?」

「この際だから白状するよ。アンタたちの読み通りさ。

 俺は最初から、いざって時のためにこの戦術を用意していた」

 

 手札に加えた、もう一枚を選ぶ。

 

「来い! 《EM(エンタメイト)ヒックリカエル》!」

 

 シルクハットとスーツで着飾ったカエルが、姿を現す。

 

「ヒックリカエルの効果発動!

 ダーク・リベリオンを攻撃表示に変更し、攻撃力と守備力をターン終了時まで入れ替える!

 もう一度立ち上がってくれ! ダーク・リベリオン!

 その逆鱗を研ぎ澄ませ、今こそ反逆の狼煙を上げろ!」

 

 文字通り、引っ繰り返す。

 ダーク・リベリオンは丸めた翼を震わせ、勢いよく広げた。

 突風が吹き荒れ、雷鳴が奔る。

 それらはやがて、ある一点へ。

 全ての力は、龍の武器たる逆鱗へと集束する。

 

「攻撃力、6900だと……!?」

「これで終わりだ!

 俺は、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》で――」

「退いて、グロリア!」

 

 それは、遠雷のように。

 

「罠発動! 《巨星堕とし》!」

 

 けれども確かに、ここに着弾した。

 重力が発生する。

 限定的かつ局所的な拘束は、しかし――

 

「――えっ!?」

 

 ダーク・リベリオンのあらゆる動作を、完全に封じ込めていた。 

 

「《巨星堕とし》は、レベルを持たないモンスターの攻撃力を、ターン終了時まで0にする!」

「なんだって!?」

 

 グレースを見る。

 ――してやったり。

 彼女は、得意気に笑っていた。

 

「ほら、やっぱり。警戒しておいて正解だった。最初に言ったでしょ?

 貴方は強い。だからこそ、私達を倒す用意をしてくる。

 ――でも貴方は、一つだけ致命的なミスを犯した。

 どうして、貴方自身の切り札を使わなかったの?」

「……え?」

 

 その言葉に、またもや思考が止まった。

 違和感が走る。

 今まで向けられていた敵意とも、嘲りとも違う。

 

 ――今にして思えば。

 この人はずっと、俺だけを見ていた。

 

「私が見たかったのは――」

 

 グレースは僅かに目を細める。

 その先には……俺の手札。

 残された一枚。

 確かに存在した、もう一つの勝ち筋(ルート)

 

「罠発動! 《エクシーズ・リフレクト》!」

「!」

 

 沈みかけた心が、無理矢理引き上げられた。

 ユートの発動した罠カード。

 それをトリガーに、黒龍は再び紫電を纏う。

 

「エクシーズモンスターを対象とする効果を無効にし、相手に800ポイントのダメージを与える!」

 

 重力を撥ね退け、稲妻が奔る。

 ここに――黒龍は、完全復活を遂げた。

 

グロリア・グレース

LP:3200 → 2400

 

「行くぞ、遊矢!」

「……――ああ!」

 

 ――考えるべきことがある。

 ……今は、いい。

 俺がやってるのは、命のやり取りじゃないのだから。

 語る機会はいくらでもある。

 なければ作ればいい。

 だから、今は――

 

「行け、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

「《アマゾネスペット虎獅子(ライガー)》を攻撃!」

 

 ――今はただ、このデュエルを制するのみ。

 

「「――“反逆のライトニング・ディスオベイ”!」」

 

 黒龍は翼を広げ、高速で滑空する。

 研ぎ澄まされた逆鱗は刃のように、虎獅子(ライガー)を切り裂いた。

 

グロリア・グレース

LP:2400 → 0

 

 ◆

 

「俺の……いや。俺達の勝ちだ」

「っ……」

 

 悔し気に歯噛みして、ユートを睨むグロリア。

 不満を持ちながらも、半ば諦めているグレース。

 それに対して、ユートは無表情。

 ……不自然すぎるほどに。

 

「融合次元の決闘者よ。ここは君達の礼儀に倣うことにしよう。覚悟はできているな?

 ――いや、出来てないとは言わせない。お前達は既に、俺の仲間を何人もカードにした。その報いをここで受けろ」

「待ってくれ」

 

 二人とユートの間に、身体を割り込ませる。

 ユートは一瞬、驚きの表情を見せる……が、次の瞬間には元の無表情に戻っていた。

 

「なんでだ、ユート。なんでそこまでカード化にこだわるんだ。

 今のデュエルを通して分かった。お前はそんな酷いことをする奴じゃないだろ」

「っ……」

 

 ユートは腕を下げたまま、拳を握り締めた。

 まるで――感情そのものを殺すかのように。

 

「……ここは、戦場だ。非情に徹さなければ守れないものがある」

「だったら、甘さを貫くことで守れるものもあるはずだ」

「…………」

 

 沈黙が場を支配する。

 

「へえ……意外な展開ね。デュエルではあれだけ息ピッタリだったのに、仲間割れ?」

 

 背後からグレースの声。

 その声音は、今の状況を楽しんでいるように思えた。

 ……思いたかった、の間違いかもしれないけど。

 

「そんなんじゃない。でもほっといてくれ。これは俺達の問題だから」

「あら、余裕。それじゃあお言葉に甘えて逃げちゃうけど、いいのね?」

「ああ。ただし約束してくれ。リベンジする時は、真っ先に俺を狙うって」

「――舐めてるの?」

「逆さ。認めたから逃がすんだ」

「え?」

「ある決闘者が言ってたんだ。

 強者とは、常に戦いの中に身を置くものだって。

 ……俺もそう思う。

 勝った人が強いんじゃない。勝ち負けなんかに縛られず、戦い続ける人が強いんだ」

 

 俺は彼女達に勝利した。

 なら次は、俺が追われる番だ。

 

「……は?」

 

 ……心が折れそうになった。

 何を言ってるのか分からない、とでも言いたげだった。

 

「えっと……要するに、またデュエルしようぜ、ってこと。

 俺は榊遊矢。デュエルの申し出なら、どんな時でも受けるよ」

「……ふうん。その言葉、覚えておくことね。後悔させてやるから」

「どうぞご自由に」

 

 俺は、これでもかと言うほどに、不敵に笑って答えた。

 

 ◆

 

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