遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子 作:名もなきWater
「「
融合次元とエクシーズ次元。
対立する二陣営が見守る中で、決戦の火蓋が切られた。
「先行は譲るノーネ。ピエロはピエロらしく、愉快に踊ってみせるがいいノーネ」
長身痩躯の金髪の男――クロノスが、俺を見て笑みを浮かべる。
それに釣られてか、彼の後ろに控えているアカデミアの面々も、ゲラゲラと嘲笑し始めた。
――好都合だ。
このデュエルで、その評価を変えてみせる。
「そうさせてもらう! 俺の先行!」
手札から二枚を選び、空へと掲げた。
「俺は、スケール3の《
スケール8の《
不死鳥と幻獣。
異色の目を持つ二体が天空へ浮上し、スケールを示した。
「これでレベル4から7のモンスターが同時に召喚可能!
揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」
ペンデュラムが光芒を放ち、軌跡を記す。
幾重にも重なった線は輪を描き、異次元への門を開く。
「――ペンデュラム召喚!
現れろ、神秘繰りし魔導の龍! 《オッドアイズ・ウィザード・ドラゴン》!」
光が収まり、輪郭が露わになる。
赤と緑、二色の目を持つ灰色の龍。
右手に赤、左手に緑――それぞれ異なる魔方陣が展開された。
「なんだ、あの召喚は……」
「融合でも、エクシーズでもないぞ……」
アカデミアとレジスタンス、双方からざわめきの声が聞こえてきた。
だが、クロノスは動じていない。
クロノスは何かを確かめるように、一度だけ小さく頷いた。
「守備力2500。リリース無しで上級モンスターを召喚するとは、中々ユニークな召喚ナノーネ」
「……俺はこれで、ターンエンド!」
「よろしい。
では、私のターン!」
クロノスがカードを引き、手札に加える。
そして、僅かにほくそ笑んだ。
「貴方に教えてあげるノーネ! デュエルとは、そんな大道芸だけで勝てるほど甘くはないノーネ!
私は、《
鈍い駆動音と共に、機械の指揮官が姿を現す。
赤く光る単眼が、戦場を冷たく見渡した。
「《
私はこのカード……《
バイクと見紛う戦車に跨る、青い単眼の機械兵。
戦車と右腕――二つの砲口が、同時にこちらを向いた。
「さらに、《
このモンスターの召喚に成功した時、手札から《
――現れるノーネ! 《
鈍重な駆動音が轟く。
機械仕掛けの巨人が起動し、ゆっくりと身を起こした。
「《
「驚くのはまだ早いノーネ!
《
《
指揮官が手をかざすと同時、地面が唸りを上げた。
歯車の駆動音と共に、二体目が立ち上がる。
戦場を覆い被さる巨体。
それが――二つ。
「流石はクロノス教諭! 一ターンで《
「これでヤツも終わったな」
アカデミアの面々から、歓声が湧き上がる。
賞賛と嘲笑が、無遠慮にこちらへ向けられる。
――だが。
クロノスはそれらに一切の興味を示さず、ただ俺を見据えていた。
「これで分かったノーネ?
上級モンスターを召喚する方法など、いくらでもあるノーネ」
「……ならこっちは、さっきのアンタの台詞をそのまま返すよ。
そんな大道芸だけで勝てるほど、デュエルは甘くない」
「フフン、生意気言ってくれるノーネ。
ならば私は、この魔法カードを発動するノーネ」
クロノスは手札から一枚のカードを選び、デュエルディスクにセットした。
「永続魔法《強者の苦痛》!
このカードが存在する限り、貴方のモンスターの攻撃力は、自分のレベルにつき100ポイントダウンするノーネ!
つまり、上級モンスターを多用する貴方のデッキの天敵ナノーネ」
「っ……!」
クロノスの言う通りだ。
攻撃力3000の《
「さらに私は、《
《
唐突に、戦車兵の砲身が指揮官へと向けられた。
間髪入れず弾が発射され、機械の指揮官が破壊される。
「これによりターン終了時まで、二体の《
「何っ……!?」
《
攻撃力3600の巨人が二体と、1900の戦車兵が一体。
「《
貴方の場には守備力2500のモンスターが一体のみ!
これでジ・エンドナノーネ!
《
――“アルティメット・パウンド”!」
巨人の拳が、魔導の龍を貫いた。
貫通効果により、ライフが減少する。
遊矢
LP:4000 → 2900
「っ……まだだ!
《オッドアイズ・ウィザード・ドラゴン》は破壊された時、デッキから新たな《オッドアイズ》を特殊召喚できる!
来い! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」
龍が残した魔法陣から、新たなしもべが召喚される。
中心には――二色の眼を持つ赤い龍。
「さらにその後、デッキから魔法カード《螺旋のストライクバースト》を手札に加える!」
「まだ私の攻撃は残ってるノーネ!
二体目の《
――“アルティメット・パウンド”!」
二体目の鉄槌が龍を砕く。
ライフが削られる。
遊矢
LP:2900 → 1300
「ここまでナノーネ、シニョール遊矢!
《
――戦車兵の砲身が、標的を捉えた。
即座に、ペンデュラムゾーンへ手をかざす。
「この瞬間、《
ダイレクトアタックされる時、対となるペンデュラムゾーンのカードを破壊して、このモンスターを特殊召喚する!」
幻獣は粒子となって霧散し、不死鳥は天空より舞い降りた。
――砲弾が放たれる。
不死鳥は俺の前に割って入り、自ら盾となって消滅した。
「……スプレンディード。まさか全ての攻撃を防ぎきるとは。
ですが……まだまだナノーネ、シニョール遊矢。
今の攻防で貴方は、ペンデュラム召喚の要たるスケールを失った。貴方の戦術は封じられたも同然ナノーネ」
「っ……どうして、そのことを?」
「貴方のことは既に、タイラー姉妹から報告済みナノーネ。
見慣れない召喚法を使う未熟者。戦う覚悟を持たないドロップアウトボーイ、と」
「覚悟、だって……?」
「イエス。
シニョール遊矢、貴方のポテンシャルは認めましょう。
しかし――貴方のデュエルには、決定的に覚悟が欠けているノーネ!」
「っ……勝手なことを言うな!
覚悟なら……ちゃんと、できてる」
「…………」
クロノスの視線が、俺を捉えている。
誤魔化しは許さない、と。
「では問いましょう。
貴方は先ほど、我々アカデミアとレジスタンスの戦いに割って入りました。ですがあれは、一体何を考えての行動だったノーネ?」
「何をって……それは勿論、無益な戦いを止めるためだ!」
勝った方が、負けた方をカードにする。
そんな戦いは意味がない。勝っても負けても悲しいだけだ。
「無益かどうかは関係ありませンーノ。何故なら我々は、命とプライドを掛けて戦っているノーネ。
アカデミアとレジスタンス。この二つには、一つだけ共通点がありマス。
それは――決闘者それぞれが、魂の赴くままに戦っているというコト。
……そこに割って入る覚悟が、貴方にはあるのですカ?」
「魂……」
その言葉は、これまで何度も耳にしてきた。
……“魂の赴くままに”。
頭では分かっていても、そうせずにはいられないという衝動。
融合とエクシーズ。
両者の溝は、俺が思っていたよりずっと深かったみたいだ。
言葉だけで治める段階を、とっくに超えてしまっている。
「……確かに、そうかもしれない。俺は、アンタたちの事情なんて考えてなかった。
――それでも」
これだけは違う、と言えることがある。
呼吸を整え、クロノスを見据えて――高らかに宣言した。
「デュエルは決して、戦争の道具なんかじゃない!
人を傷つけるためのものでもない!
デュエルは、誰かを笑顔にするものだ!」
自分か。
相手か。
観客か。
あるいは全てか。
誰を笑顔にするのかは、決闘者によって違うだろう。
だけど、その笑顔によって決闘者は進む。
“またやろう”
“次は俺が勝つ”
そうして――デュエルがデュエルを呼び、人と人が繋がっていく。
「――――」
突然の大声に驚いたのか、クロノスは黙っている。
さっきまであれだけ饒舌だったのに、言葉が続かない。
「……デュエルとは、本来――」
一瞬。
ほんの一瞬だけ――クロノスが、笑った気がした。
「……フン。口でならなんとでも言えるノーネ。理想を語る前に、まずは力を示したらどうナノーネ。
力無き思想は誰にも届かない。聞く価値なんてないノーネ」
「なら示してやる。理想を貫くための力を。
そして思い出させてやる。
デュエルっていうのは、俺達が思っている以上に、もっと大きな可能性を秘めているものだって!」
俺の敵は融合次元でも、ましてやエクシーズ次元でもない。
戦争の手段になってしまった、彼らのデュエルそのものだ。
カードは決闘者の武器。
でも、決して凶器じゃない。
それをここで証明する。そのために培ってきた力だ。
「――よろしい。
それでは、抜き打ち実力テストといくノーネ!
シニョール遊矢! 貴方に世界を変えるだけの力があるか……この場で示してみなサーイ!」
「俺の……ターン!」
引いたカードは――《竜穴の魔術師》。
デッキが応えている。
カードが呼んでいる。
――確信だ。
今なら、もう一歩踏み出せる。
「俺は魔法カード、《ペンデュラム・コール》を発動!
手札を一枚捨てた後、デッキから《魔術師》を二枚、手札に加える! そして次のターンの終了時まで、俺のペンデュラムゾーンの《魔術師》は破壊されない!」
手札に加えたのは白と黒。
対をなす二体の魔術師。
「俺は、スケール1の《白翼の魔術師》と、
スケール8の《黒牙の魔術師》で、
ペンデュラムスケールをセッティング!」
浅緑の翼を持つ、白き魔術師。
龍を模した槍を持つ、黒き魔術師。
空席となった天空へ、二体が浮上する。
「これでレベル2から7のモンスターが、同時に召喚可能!
揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」
再度、魂が揺れる。
右へ、左へ。さながら、迷いを写す鏡のように。
そして。
見出した答えを示すかのように、光彩の門が開かれた。
「――ペンデュラム召喚! 現れろ、俺のモンスター達!
手札から、《竜穴の魔術師》!
EXデッキから甦れ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」
流水を操る青き魔術師。
異色の眼を持つ赤い龍。
相反する二体が、フィールドに降り立った。
「……なるほど。即座にスケールを用意し、モンスターを呼び出すとは……流石に戦い慣れてるノーネ。
しかし! 永続魔法《強者の苦痛》の効果により、シニョールのモンスターは全て弱体化するノーネ!」
「それは――レベルを持っていたら、の話だろ」
「ぬ?」
魂に眠る、力の源泉。
即ち竜穴。
溢れ出す、力の流れ。
即ち龍脈。
その先には――新たな龍の脈動。
「――俺は!
レベル7の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と、《竜穴の魔術師》!
この二体で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」
黒い渦が出現する。
漆黒の空間と、点在する光の粒。
無限に広がる可能性。
その中から、一つの竜穴を掘り当てる……!
「二色の眼の龍よ! 蒼き氷光をその身に宿し、希望の未来を守り抜け!
――エクシーズ召喚!
現れろ、ランク7! 氷を統べし不屈の龍!
《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》!」
その瞬間、世界は凍結する。
氷の霧が視界を覆う。
奥で輝くのは、異色の双眸――
その主たる龍の影が、静かに鎮座していた。
「これは……インクレディービレ……!
こんな報告は、これっぽっちも聞いてないノーネ……!」
「エクシーズモンスターはレベルを持たない。よって《強者の苦痛》の効果は受けない!
さらに俺は、《黒牙の魔術師》のペンデュラム効果を発動!
ターン終了時まで、相手モンスター一体の攻撃力を半分にする!」
《黒牙の魔術師》が槍を振るった瞬間、薄紫の稲妻が空を裂き、機械の巨人を貫いた。
《
「バトルだ!
《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》で、《
――“氷獄のゼロバースト”!」
双眸が輝き、鎮座していた龍が動く。
放たれるは氷嵐。
絶対零度の息吹が、暗黒の巨人を貫いた。
クロノス
LP:4000 → 2700
「ぐぅ……! わ、私の《
「まだだ!
手札から魔法カード《螺旋のストライクバースト》を発動!
俺の場に《オッドアイズ》カードが存在する時、フィールドのカードを一枚破壊する!
行け、オッドアイズ・アブソリュート!
――“螺旋のストライクバースト”!」
続けざまに、螺旋のブレスが放たれる。
赤い息吹は大気を捩じ切り、二体目の巨人を貫いた。
「ぬぅっ――!」
「俺はこれで、ターンエンド!」
ターンを終え、氷の龍は静止する。
二色の瞳は、戦場に在る全てを見透かしているかのようだった。
「……この土壇場でエクシーズ召喚を行うとは。どうやら、甘く見ていたのは私の方だったノーネ。
しかし! 何度も繰り返すように、デュエルは大道芸だけでは勝てないノーネ!
私のターン、ドロー!」
クロノスが、氷の龍を見据える。
「私は、《
現れたのは一体の置物。
《
「《
このモンスターをリリースすることで、手札またはデッキから、《
像が消失する。
次の瞬間、地響きと共に三体目の《
機械仕掛けの巨人が、またもや立ち塞がる。
「《強者の苦痛》を受けないとはいえ、攻撃力は僅か2800! そのモンスター単体では、《
バトル!
《
――“”アルティメット・パウンド!」
巨人が拳を放つ。
それに反応して、龍の瞳が一際強く輝いた。
「《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》の効果発動!
一ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ使い、モンスターの攻撃を無効にする!
――“リフレクト・フォース”!」
鉄拳が遮られる。
大気中の冷気が集い、氷壁となって攻撃を阻んでいた。
「そして攻撃を無効にした後、手札か墓地から《オッドアイズ》モンスターを一体、特殊召喚できる!
甦れ――《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」
ひび割れた氷の壁から、一体の龍が姿を現す。
青龍と赤龍。
異色の眼を持つ龍が二体、フィールドに並び立った。
「なるほど……仲間を守り、次へと繋ぐ。それが貴方の力というわけですか。
……スプレンディード。素晴らしいノーネ、シニョール遊矢」
その光景に――クロノスは目を細め、感嘆の息を漏らしていた。
「……え?」
……どうして。
アカデミアの決闘者が、どうしてそんな顔をしている。
「――《強者の苦痛》の効果により、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は700ポイントダウンするノーネ!」
「っ……!」
オッドアイズが苦し気に唸る。
攻撃力は1800。
《
「私は《
さらに魔法カード《
手札を一枚捨て、デッキから任意の魔法カードを一枚、フィールドにセットするノーネ」
「魔法カード……」
クロノスの場に、一枚の伏せカードが置かれた。
「ターンエンドナノーネ。
さあ、シニョール遊矢。私が選んだカードが何か……貴方に読めますか?」
「…………」
手札を一枚、コストにしてまで選んだカード。
間違いなく、何かある。
「……俺のターン!」
だとしても、止まるわけにはいかない。
「たとえ何が待っていようと、全力で挑んでやる!
俺は、《黒牙の魔術師》のペンデュラム効果発動!
《
魔術師が再度槍を振るい、落雷が襲った。
巨人の至る箇所に電流が走り、破損する。
攻撃力は――1500。
「……《ペンデュラム・コール》の効果は既に失われている。
よって《黒牙の魔術師》は、ペンデュラム効果の発動後、破壊される」
能力の代償として、《黒牙の魔術師》は粒子となって散っていった。
「これで《
加えて、そのモンスターは三体目。ここで倒すことができれば、主力モンスターを失った貴方に勝利はない」
「やってみるがいいノーネ」
クロノスの視線が伏せカード、そして墓地へと移る。
「《
そして、コストにしたカード。
この二枚で《
何故なら――」
「ペンデュラムスケールが欠けたから、だろ?」
「コレット。どうやら、分かっているノーネ」
ペンデュラムゾーンには《白翼の魔術師》が一体のみ。
片方が欠けている時点で、ペンデュラム召喚は行えない。
だからこそ……攻めるなら今、このタイミングしかない。
「……行くぞ!」
覚悟を決め、龍に指示を下す。
「《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《
――“螺旋のストライクバースト”!」
応えるように、龍の眼が輝いた。
紅の炎は巨人を穿つべく、一直線に突き進む。
「速攻魔法! 《リミッター解除》!」
――止まる。
炎は、巨人によって堰き止められていた。
「《リミッター解除》は、機械族モンスターの攻撃力を二倍にするノーネ!
さらに墓地から罠カード《競闘-クロス・ディメンション》を発動!
このカードを除外することにより、《
「――――」
……不覚にも、感心してしまった。
《
《競闘-クロス・ディメンション》によって自壊のデメリットを予防している。
本来なら諸刃の剣であるはずの《リミッター解除》を、計算された戦術として使いこなしている。
――だけど。
今回は、俺が貰う。
「速攻魔法、発動!」
カードを叩きつける。
その瞬間――
巨人は、凍結した。
「んなっ――!? こ、これは一体――!」
吹き荒ぶ螺旋の炎。
忍び寄る絶対零度。
《
螺旋の炎は、氷ごと装甲を抉る。
「速攻魔法――《星遺物を巡る戦い》!
アブソリュートを除外して、その攻撃力分だけ、相手モンスターの攻撃力をダウンする!」
《
続けて《リミッター解除》が適用。
しかし――0の二倍は、0。
「さらにオッドアイズは、モンスターとの戦闘で与えるダメージを二倍にする!」
双眸が光を放つ。
龍の口内に、更なる炎が生み出される。
――教師である彼の戦術は、堅実の域を出ない。
一瞬の爆発力なら、こちらが僅かに上回る……!
「――“リアクション・フォース”!」
追撃の烈炎は、鋼鉄の装甲を捩じ切り――巨人の胴に、風穴を開けた。
クロノス
LP:2700 → 0
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