遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

30 / 31
勝者の責任

 

「――俺の勝ちだ」

「――エザット。私の敗北、ナノーネ」

 

 ライフが尽き、デュエルが決着する。

 クロノスはデュエルディスクを収め、恭しく一礼していた。

 その顔は……戦場に似つかわしくない、穏やかな笑みだった。

 

「シニョール遊矢。貴方は私とのデュエルを通し、また一段と強くなった。素晴らしいデュエルだったノーネ。

 ところで――デュエル前に私が言ったことは、覚えてるノーネ?」

「……ああ。

 俺が勝ったら、アカデミアは撤退する。貴方は……確かにそう言った」

「よろしい。

 此度の戦争は一勝一敗。両者、痛み分けということで治めるノーネ。

 シニョール遊矢。異論は無いノーネ?」

「え――?」

 

 一瞬、面食らってしまった。

 この人は、本当に撤退するつもりなのか。

 デュエルに負けたから、約束通りに。

 

「何を驚くノーネ。ここは戦場であり、貴方は勝者。

 勝者である貴方には、敗者の行く末を決める責任があるノーネ」

「…………」

 

 分からない。

 アカデミアの決闘者が、どうしてそんなことを言う?

 ゲーム感覚で、エクシーズ次元の決闘者を狩っているんじゃなかったのか……?

 

「――ふざけるな!」

「!?」

 

 どこかで、誰かが叫んだ。

 

「クロノス教諭が負けたからなんだ!

 これはゲームなんだ! エクシーズ次元の連中など、狩られて当然!」

「俺達で汚名を雪いでやればいいんだ!」

 

 声の出所はアカデミア。

 青い仮面の決闘者達が、血相を変えて叫んでいた。

 

「っ……!」

 

 反射的に身構える。

 クロノスの宣言などお構いなしに、今すぐにでも乱戦になりそうな気配だ。

 

「退け」

 

 背後から、一人の決闘者が前に出る。

 黒いコートを着た金髪の青年。右手には、グローブ代わりに赤いスカーフを巻いている。

 

「クロノス・デ・メディチを退けたのは見事だった。

 だが、貴様はもう用済みだ。余所者は引っ込んでいろ」

 

 青年はデュエルディスクを展開した。

 視線の先にはアカデミア。

 ここからが本当の闘いだと言わんばかりに、青年は一歩、また一歩と歩を進める。

 

「待て、カイト」

 

 カイト。

 そう呼ばれた青年は、その声を聞いて足を止める。

 止めたのは、ユートだった。

 

「……ユート。戻っていたのか。

 丁度いい、お前は他の連中の尻拭いをしてやれ。奴らは俺一人で片づける」

 

 カイトは一瞬だけユートを見た後、再びアカデミアに向かって歩き出す。

 しかし――それを遮るように、ユートはカイトの前に立ち塞がった。

 

「……何のつもりだ」

「あの男の話を聞いてなかったのか?

 遊矢はクロノスに勝った。このまま放っておけば、アカデミアは撤退する。無闇に深追いする意味はない」

「相変わらず甘いな。連中が隙を見せた今こそ、僅かでも戦力を削いでおくべきだろう。

 ――そこを退け」

「断る。

 たとえアカデミアでも、敵の背中を狙い撃つ趣味はない。

 俺達はレジスタンス。ゲームと称して俺達を狩り続けた、あいつらとは違う」

「それが甘いと言っているんだ。

 これは戦争だ。個人の趣味が入り込む余地はない。

 ――これが最後だ。そこを退け」

「…………」

 

 返答はない。

 それこそが、ユートの答えだった。

 

「貴様……」

 

 カイトの視線が鋭さを増す。

 ユートも同様に。お互い、引く気配は微塵もない。

 

「ちょっと……待てよ、二人共!

 ユート! 二人は仲間なんだろ? どうして仲間同士で争わなきゃいけないんだよ!」

 

 声を張り上げても、二人には届いていないようだった。

 ――アカデミアの方を見る。

 向こうは向こうで、デュエルの準備を進めている。

 それを見たレジスタンスの面々も、デュエルディスクを展開している。

 

 ――次元戦争。

 今、目の前で起きようとしているのは、まさしく想像通りのもの。

 混沌が混沌を呼ぶ戦乱。

 あとに残るのは、無残にカード化された決闘者のみ。

 

 ……これじゃあ、無意味だ。

 俺は、何のためにクロノスに勝ったんだ――?

 

 

「――のぼせ上がってるんじゃないノーネ!!」

 

 

 戦場の中心で、特徴的な語尾の男が叫んだ。

 ――クロノス・デ・メディチ。

 彼はデュエルディスクを展開し、四枚のカードを叩きつけるようにセットした。

 

 

「――融合召喚!

 現れるノーネ! 《古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)》!」

 

 

 巨大な影が、戦場を覆い尽くす。

 鋼の剛腕と、巨大な鉤爪。

 人馬一体、機械仕掛けの巨神兵が、地響きと共に降臨した。

 赤い単眼が光を放つ。

 向き先はレジスタンスではなかった。

 かといって、アカデミアでもない。

 敢えて言うなら……この場にいる、全員。

 

「なんだよ、あれ……」

「あれが、クロノス教諭の切り札……?」

 

 両陣営から困惑の声が上がる。

 それだけじゃない。

 ユートも――そしてカイトですら、その存在に圧倒されていた。

 

「アカデミア、そしてレジスタンス諸君! よく聞くノーネ!

 私とシニョール遊矢は、プライドを賭けたデュエルを行い、お互いが納得する形で決着したノーネ!

 この結末にケチをつけるノーハ、シニョール遊矢、そしてこのクロノス・デ・メディチを侮辱しているも同然ナノーネ!

 それでもなお戦いたいと言うのであれば――順番にかかってくるがいいノーネ!

 アカデミアもレジスタンスも、この私が全員まとめてボコボコにしてやるノーネ!」

 

 ――全員が、圧倒されていた。

 さっきのデュエルでは見せなかった――おそらくは、アカデミアですら知り得ない真の切札と。

 クロノス・デ・メディチという決闘者の気迫に。

 

 文句があるならかかってこい。

 どちらでも倒す。

 

 あの男はそう言っているのだ。

 そして、それを可能にする根拠が――今、戦場を支配している。

 

「く、クロノス教諭……」

「ご冗談を……」

「冗談では無いノーネ。

 よろしいですカ? 私は確かに、貴方達にこう言いました。一人一枚、カード化した決闘者を提出するように、と。

 その目的は、デュエルの結果を己の経験として昇華するため。そして行く行くは、誇り高き決闘者へと成長してもらうためナノーネ。

 そもそもデュエルとは、魂と誇りをぶつけ合うもの。感情任せに有象無象を狩るデュエルなど、時間の無駄でしかないノーネ」

 

 狼狽えるアカデミアの面々に、クロノスは迷いなく言い切った。

 一部の者は反論しようとするが、言葉が続かない。

 誰もが理解しているのだ。

 反論が浮かんだところで、それを口にする資格がない。

 クロノスを押し退けるだけの力が、自分にはないのだと。

 

『理想を語る前に、まずは力を示したらどうナノーネ。

 力無き思想は誰にも届かない。聞く価値なんてないノーネ』

 

 ……これがそうなのか、クロノス・デ・メディチ。

 自分の信念を貫くには――それ相応の力と、覚悟が必要なのだと。

 

「――言いたいことはそれだけか?」

 

 冷徹な声が、戦場に響いた。

 

「貴様等アカデミアの理屈など知ったことか。そんなことは俺の管轄外だ」

 

 カイトが一歩、前に出る。

 刃のような視線が、クロノスに向けられた。

 

「……シニョールカイト。やはり貴方は、私と戦うのデスカ?」

「当然だ。そこにアカデミアの決闘者がいる。戦う理由など、それだけで十分だ」

 

 その目にあるのは自負。

 自分ならこいつを倒せるという、力への信頼。

 そして……信念を貫くための、覚悟だった。

 

「っ……止まれ、カイト」

「くどいぞユート。邪魔立てするなら貴様ごと――」

「――ストップだ」

 

 二人の間に、割って入る。

 

「……貴様」

「ユートが止まれって言ってるだろ?

 俺のことは無理でも、仲間の話くらい聞いたらどうなんだ?」

「部外者は黙っていろ。これは俺達エクシーズ次元と、融合次元の戦いだ」

「部外者はそっちの方だろ。

 これは俺と、クロノスって人のデュエルだったんだ。この結末にケチをつけるのは、俺達を侮辱してるようなもんだ。

 どうしても気に入らないって言うなら――俺達、()()と戦うことになるぞ?」

「何……?」

「な――」

 

 カイト、そしてユートもまた、一瞬だけ戸惑いの表情を見せた。

 どうやら三人という人数に違和感を覚えたらしい。

 ちなみに俺、ユート、そしてクロノスである。

 

「――正気か、貴様。

 アカデミアの決闘者を倒しておきながら、今度はアカデミアを逃がすために俺と戦うと?」

「俺の目的はアカデミアを倒すことじゃない。戦いそのものを治めることだ。

 ……戦わずに済むのなら、それが一番だろ」

「――――」

 

 刺すような視線が、今度は俺に向けられた。

 先程、クロノスに向けた視線と同等のもの。

 ……カイトから見た榊遊矢は、“敵”と認識されてしまったらしい。

 

「――フム。中々見所のあるボーイナノーネ」

 

 クロノスはゆっくりと前に出る。

 巨大な機械巨人が、その一歩に合わせて軋むように唸りを上げた。

 

「シニョールカイト。貴方の言い分も理解できるノーネ。

 戦場において、敵を見逃すという選択が愚かであることも」

 

 だが、と。

 クロノスは静かに首を振った。

 

「この場においては、その理屈は当てはまらないノーネ。

 何故なら――この戦いは、既に終わっているノーネ」

「……終わっている、だと?」

「そうナノーネ」

 

 クロノスは振り返ることなく、背後のアカデミアへ告げた。

 

「全軍、撤退。これは命令ナノーネ」

「し、しかし――!」

「命令――ナノーネ」

 

 短い一言。

 それだけで、全てが止まった。

 反論しようとした者も、デュエルディスクを構えたままの者も、誰一人として動けない。

 クロノスはゆっくりと、こちらへと視線を向けた。

 

「シニョール遊矢。

 貴方が示したものは、確かにこの戦場に届いたノーネ」

 

 やがて、機械巨人の姿が光に包まれ、消えていく。

 それを合図にするように、アカデミアの決闘者達も、次々と戦場から離脱していった。

 誰一人として、振り返ることはなかった。

 残されたのは、静寂。

 つい先程まで、あれほどまでに張り詰めていた戦場の空気が、嘘のように消えていた。

 

「……終わった、のか」

 

 誰かが呟く。

 その声には、安堵とも困惑ともつかない色が混じっていた。

 勝ったから終わったのではない。

 終わらせると決めた者がいたから、終わったのだ。

 

 

 ◆

 

 

 ――だが。

 遊矢の視線の先には、まだ一人。

 戦場を去らずに立ち尽くす、金髪の青年がいた。

 

「――戦わずに済むのなら、だと?」

 

 その眼差しは、まるで断罪そのものだった。

 それは――遊矢へと向けられている。

 

「――戯言だ。

 戦いは終わらない。敗者が許しを請う、その時までは」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。