遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子 作:名もなきWater
◆
「――この時を待っていた。
榊遊矢。前回の雪辱を果たさせてもらう」
「ああ。その挑戦、受けて立つ。
前回みたいな即席タッグとは、一味違うぞ!」
「ほう……?」
金髪の女性――グロリアの視線が、俺の隣を射抜いた。
「見ない顔だが?」
「幼馴染さ! ほら、柚子。自己紹介自己紹介」
「えっ……えぇ?
自己紹介って、あの二人はアカデミアなんでしょう?」
「ああ、そうだ。
アカデミアで。
敵で。
そして、決闘者だ。
だったら、俺達のやることは一つだろ?」
ここは戦場。命を掛けて戦う場。
――知ったことじゃない。
俺はこの空気をひっくり返すべく、大きく息を吸い込み。
高らかに、声を張り上げた。
「――レディース、エーンド、ジェントルメーン!
アカデミア、そしてレジスタンスの皆様方!
これより始まるは私、榊遊矢とその相棒・柊柚子によるエンタメタッグデュエル!
一挙手一投足、余すことなくご照覧あれ!」
周囲からは困惑の声。
だが――
「ふむ……まあ、いいだろう。
榊遊矢の幼馴染というのであれば、相応の実力も備えているはずだ」
こっちのほうは、予想外だった。
グロリアは腕を組み、柚子を値踏みするように一瞥した後、デュエルディスクを展開する。
「そう? 見るからに退屈そうな決闘者じゃない?」
対照的に、グレースは不満げだ。
ただしその矛先は、俺ではなく柚子だった。
「……どういう意味よ」
「大層な志を掲げるだけで、中身は空っぽ。口先だけで実力を伴わない……要するに、その辺のヤツと同じってこと。
目を見れば分かる。貴方、絶対に負けられない戦いを経験したことないでしょう?」
柚子が言葉を詰まらせる。
「榊遊矢、貴方も貴方よ。そうやって他人のお世話ばっかりして。私が戦いたいのは、本気の貴方なのに」
グレースの矛先が、今度はこちらに向けられる。
……正直なところ、そう言われて悪い気はしない。
いや、嬉しい。心の底から。
グレースはどうやら、俺という決闘者を随分と買ってくれているらしい。
「それは光栄だな」
ただ、一つだけ間違いがある。
「でも俺は、手加減なんてしてないよ。
今だってそうさ。
俺と柚子でしかできないタッグデュエルで、もう一度アンタたちに勝ってみせる」
「――ふうん。
不思議ね。貴方がそういうと、なんだかワクワクしてくるわ。
いいわ。それでは始めましょう」
グロリアに続き、グレースがデュエルディスクを構える。
俺も腕を掲げ、その起動音に応える。
隣では柚子も静かにディスクを展開していた。
「
◆
「まずは私から行く。
手札から魔法カード《アマゾネス
デッキから《アマゾネス
私が選ぶのは《アマゾネスの戦士長》!
そしてこのカードは、自分の場にモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚できる!」
大槍を携えた、茶褐色の女戦士が現れる。
「《アマゾネスの戦士長》の効果発動!
召喚または特殊召喚に成功した時、デッキから《融合》を自分フィールドにセットする。
そして、セットした《融合》を発動!
手札の《アマゾネス
次いで現れたのは、剣を手にした女王。
蒼き戦意、朱き覇気。
二つの光が一つに溶け合い、新たな戦士を生み出す。
「密林の女王よ! 誇り高き戦士長の力を取り込み、すべてを統べる帝国を築け!
――融合召喚!
現れろ! レベル8、《アマゾネス
骨の兜を頂く、勇ましき女帝。
靡く外套、その下には魔物の刃。
「カードを二枚伏せてターンエンド。
さあ来い、榊遊矢。お前のデュエルを見せてみろ」
……伏せられた二枚のカード。
彼女達の戦術があの時のままなら、あれらは間違いなく罠。
まずは俺が踏み込み、被害を最小限に抑える。それから柚子のターンだ。
「俺のターン――」
「待って、遊矢」
デッキに指をかけた瞬間、柚子から静止の声が届いた。
「柚子……?」
「ここは私から行かせて。
守られてるだけは嫌なの。私も、ちゃんと戦えるってところを見せたい」
真っ直ぐな視線。
そこに迷いはあっても、逃げはなかった。
「……そっか。
わかった。なら、一番手は任せた。柚子のデュエル、期待してるぞ」
「逃げるつもりか?」
グロリアから不満の声が上がる。
「まさか。
柚子は俺の相棒だ。
だったら、最初に飛び出すのが柚子でもおかしくないだろ?」
「……フン。
ならば見せてもらおうか。榊遊矢が選んだ決闘者の力を」
「ああ、期待しててくれ。
それでは――いざ、開演の時! コンサートデュエルの幕開けだ!」
「……私のターン!」
柚子は即座に、手札から二枚のカードを選び抜いた。
「私はスケール1の《幻奏の歌姫ルフラン》と、
スケール9の《幻奏の歌姫クープレ》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」
「えっ――!?」
「ペンデュラムだと……!?」
こちらの驚きを他所に、フィールドは変化する。
左右の端に光の柱が立ち上った。
赤い髪と朱色の肌――ルフラン。
桃の髪と深緑の肌――クープレ。
「これでレベル2から8の光属性モンスターが同時に召喚可能!
――ペンデュラム召喚!
来て、私のモンスター達!」
歌姫たちが合唱する。
光彩を放つ大穴が開き――その奥から、新たな光が降り注いだ。
「《幻奏の歌姫ソプラノ》!
《幻奏の音女セレナ》!
そして、《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》!」
一つは、音域を司る歌姫。
一つは、旋律を司る音女。
そして最後の一つ。
赤を基調としたドレスを纏う指揮者が、堂々とフィールドへ降り立った。
「いつの間にペンデュラム召喚を……凄いじゃないか、柚子!」
絶好調のスタートダッシュに、声が上擦ってしまう。
これではこっちが観客だ。
でも仕方ないだろう。こんなステージを特等席で見せられて、興奮するなという方が無理だ。
「ありがとう。
……私だって、何もしてこなかったわけじゃない。ちゃんと、遊矢の隣で戦える」
「……柚子?」
――その落差に、違和感を覚えた。
新しい召喚法を、大勢の前で披露した。
一周回って、調子に乗ってもおかしくないはずなのに――柚子は、どこまでも冷静だった。
冷静に、対戦相手を――グロリアを、見つめている。
まるで、戦士のように。
「ペンデュラム召喚とはな。確かに驚かされたが……やはり、想定内だ!」
グロリアの口角が吊り上がる。
次の瞬間、伏せられていたカードが勢いよく開かれた。
「永続罠、《アマゾネス拝謁の間》!
その効果により、私は墓地から《アマゾネスの戦士長》を手札に戻す。
そして一ターンに一度、相手フィールドにモンスターが特殊召喚された時、そのうちの一体を選択し、その攻撃力分ライフを回復する!
私はプロディジー・モーツァルトを選択!」
王宮を思わせる空間が広がり、中央に置かれた玉座から黄金の光が溢れ出す。
光は一直線に《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》へと伸び、その身体から力を吸い上げるように、グロリアたちへと流れ込んだ。
グロリア・グレース
LP:4000 → 6600
「そんな、ライフが……」
回復量は2600。
柚子の声に焦りが滲む。
「上級モンスターの召喚が仇となったな」
「っ……いいえ、まだよ!
ソプラノの効果発動!
ソプラノとフィールドのモンスターを素材にして、《幻奏》モンスターを融合召喚する!
私が融合するのは《幻奏の歌姫ソプラノ》と、《幻奏の音女セレナ》!」
歌声と旋律が、光となって重なり合う。
「天使のさえずりよ! 麗しき調べよ!
タクトの導きにより、力重ねよ!
――融合召喚!
今こそ舞台に荘厳の歌を! 《幻奏の音姫スペクタキュラー・バッハ》!」
黒を基調とした華やかなドレスを纏う音姫が舞台へ降り立つ。
その姿はまるで、壮大な楽団を率いる指揮者のようだった。
「スぺクタキュラー・バッハの効果発動!
特殊召喚に成功した時、デッキから新たな《幻奏》モンスターを特殊召喚できる!
来て! 《幻奏の音姫ローリイット・フランソワ》!」
音符が宙を舞い、新たな音姫が姿を現した。
音姫の周囲には、鍵盤を思わせる光。
指先が宙をなぞるたび、澄んだ旋律が戦場へ響き渡る。
「上級モンスターが三体、か。その手際の良さは認めてやろう。
だが、どのモンスターも《アマゾネス
「それはどうかしら。余裕ぶっていられるのも今の内よ!
《幻奏の歌姫クープレ》のペンデュラム効果発動!
一ターンに一度、《幻奏》と名のつく魔法・罠カードを一枚、デッキから手札に加えることができる!」
柚子のデッキから、一枚のカードがせり上がる。
「私が選ぶのは魔法カード、《幻奏協奏曲》!
そして、《幻奏協奏曲》を発動!
手札、フィールドのモンスターを素材として、天使族モンスターを融合召喚する! この時、ペンデュラムゾーンのモンスターも融合素材として使用できる!
私はペンデュラムゾーンの《幻奏の歌姫ルフラン》と、《幻奏の歌姫クープレ》を融合!」
光の柱から、歌姫達が舞い降りた。
朱色と深緑。
相反する二つが、光の中で調和する。
「巡る旋律よ! 綴られし詩節よ! タクトの導きにより、力重ねよ!
――融合召喚!
今こそ舞台へ! 《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》!」
現れたのは、更なる音姫。
朱色の長髪を靡かせ、赤いドレスを翻し、指揮棒を振るう歌曲の女王。
「二体目の融合モンスターだと――!」
「まだ終わらないわ!
融合モンスターが召喚されたこの瞬間、
空白となった柱の中央に光が集い、二対の歌姫が現れた。
「そして、《幻奏の歌姫ルフラン》のペンデュラム効果発動!
デッキから《幻奏》モンスターを墓地に送ることで、そのレベルにつき200ポイント、《幻奏》モンスター一体の攻撃力をアップする!
私が墓地に送るのは、レベル5の《幻奏の音女エレジー》!
スペクタキュラー・バッハの攻撃力を、1000ポイントアップ!」
これでバッハの攻撃力は3500。
《アマゾネス
「ローリイット・フランソワの効果発動!
一ターンに一度、墓地から天使族・光属性モンスターを手札に戻す!
さらに、プロディジー・モーツァルトの効果発動!
一ターンに一度、手札から天使族・光属性モンスターを一体、特殊召喚できる!
来て、《幻奏の音女エレジー》!」
フランソワが奏で、モーツァルトが調律する。
奏でる曲はエレジー。
物憂げな表情の音女が、静かに舞い降りた。
「特殊召喚されたエレジーの効果で、《幻奏》モンスターの攻撃力は300アップし、効果では破壊されない!」
エレジーの旋律により、歌姫達の攻撃力は更に上昇する。
モーツァルト。
バッハ。
フランソワ。
シューベルト。
そして、エレジー。
並び立つ五人の歌姫達。あらゆる旋律を奏でる交響楽団。
その光景は、圧巻の一言に尽きた。
「バトルよ!
スペクタキュラー・バッハで、《アマゾネス
バッハが指揮棒を振るった瞬間、大気が振動する。
壮大な旋律と共に、《アマゾネス
グロリア・グレース
LP:6600 → 5600
「っ……《アマゾネス
戦闘で破壊されたことにより、墓地から《アマゾネス
「そうはさせないわ!
マイスタリン・シューベルトの効果発動!
お互いの墓地からカードを三枚まで除外して、一枚につき攻撃力を200アップする!
私は《アマゾネス
グロリアの墓地からは《アマゾネス
柚子の墓地からは《幻奏の音女セレナ》。
――上手い。
このタイミングで《アマゾネス
そうなれば、残りの歌姫達の総攻撃で一気に勝負は決まる……!
「罠発動! 《戦線復帰》!
自分の墓地からモンスターを一体、守備表示で特殊召喚する!」
「えっ……!?」
――そう、上手くはいかないらしい。
歌姫の動作に差し切るように、罠が起動した。
「私の方が速かったな。
現れろ、《アマゾネス
現れたのは、剣を手にした密林の女王。
次いで、マイスタリン・シューベルトの効果が適用。二枚のカードが除外され、攻撃力が合計400アップする。
しかし――
「《アマゾネス
「っ……私は、カードを一枚伏せてターンエンド」
柚子は悔し気にターンを終える。
グロリアの一手は、これ以上ないほどの的確な守りだった。
――とはいえ。
「ドンマイ、惜しかったな柚子。けど、流石だな!
ペンデュラム召喚と融合召喚! 二つの召喚法をここまで使いこなすなんて!」
二つの召喚法を組み合わせたからこその、強固な盤面。
その甲斐あって、今フィールドを支配しているのは柚子だ。
「……ありがとう、遊矢。
でも、油断は禁物よ。このターン、私が与えたダメージはたったの1000ポイント。与えたダメージより、回復したライフの方が上回ってる……」
「そ。よく分かってるじゃない」
もう一人の声。
グロリアと入れ替わり、グレースが前に出てきた。
「あらあら。気づいてみれば、フィールドには可憐な歌姫がたっくさん。何とも華やかなステージね。
――じゃ、潰すわ」
息を呑む音。
冷徹な一言に、柚子は身構えた。
「私のターン!
私は魔法カード《融合》を発動し、手札の《アマゾネスペット
隻眼の赤い虎が現れ、ほどなくして女王と一つになっていく。
「牙剥く密林の野獣よ! 密林の女王の力を得て、新たな猛獣となりて現れよ!
――融合召喚!
出現せよ! レベル7、《アマゾネスペット
強靭な四肢と鋭い爪、傷で塞がった右目。
獅子のたてがみを持つ獰猛な虎――
「さらに墓地から魔法カード、《アマゾネス
このカードを除外することで、フィールドの《アマゾネス》を一体選択する。そのモンスターはこのターン、全てのモンスターに一回ずつ攻撃できる!」
「なっ――」
《アマゾネスペット
確か、その能力は――
「気づいたようね。
《アマゾネスペット
やっぱりそうだ。
攻撃回数が増えれば増えるほど、破壊力は加速度的に増していく。
そして俺達のフィールドには、モンスターが五体……!
「バトルよ!
《アマゾネスペット
猛獣の狂爪が、音女を切り裂く。
柚子・遊矢
LP:4000 → 3300
「エレジーが破壊されたことで、《幻奏》モンスターの攻撃力は元に戻る!
そして《アマゾネスペット
スペクタキュラー・バッハの攻撃力を、800ポイントダウン!」
エレジーの消滅、
攻撃力は、1700。
「続けてバトル! 今度はスペクタキュラー・バッハを攻撃!」
間髪入れず、第二撃。
黒い指揮棒が、砕かれた。
柚子・遊矢
LP:3300 → 2000
「《アマゾネスペット
次の標的は、マイスタリン・シューベルト!」
第三撃。
歌曲の女王が消滅する。
柚子・遊矢
LP:2000 → 1000
「っ……私の融合モンスターが、たった一ターンで……」
柚子の声が震える。
無理もない。
あれだけのモンスターを並べたにもかかわらず、グレースはそれを真正面から踏み潰してみせたのだ。
「袋の鼠ね。せっかくの努力も水の泡ってこと。
所詮貴方では、本物の戦場を生き抜くことはできない」
追い打ちをかけるような言葉。
フィールドだけではなく、心まで折ろうとしているのが分かった。
「そんな――」
「そんなことはないさ」
――思わず、口を開いていた。
「……え?」
柚子がはっと顔を上げる。
「確かに舞台は破壊されたかもしれない。
それでも、無駄なんて一つもない」
柚子がどれだけこのデッキを磨いてきたのか。
それは、ここまでのターンで十分過ぎるほど伝わっていた。
「遊矢……」
「柚子。俺は、柚子が積み上げてきた努力を信じる」
ここまで戦ってきた軌跡が消えるわけじゃない。
ここにいる俺自身が、何よりの証明。
「……甘いわね」
グレースが小さく首を振る。
「戦場では結果が全て。過程なんて、評価されるわけないでしょう。
これでトドメよ! 《アマゾネスペット
虎獅子が飛び出す。
だが――既に、柚子の表情は変わっていた。
「罠発動! 《トラップトラック》!
自分のモンスターを破壊することで、デッキから罠カードを一枚セットできる! この効果で伏せたカードは、セットしたターンでも発動できる!
私は……ローリイット・フランソワを、破壊!」
野獣の爪が振り下ろされる直前、歌姫は粒子となって消滅した。
一瞬の後、狂爪が空を切る。
「っ……!
攻撃対象を自ら破壊して、バトルそのものを回避したってこと……!」
「ええ。バトルが発生しなかったことで、《アマゾネスペット
よって、プロディジー・モーツァルトは健在よ!」
「だとしても、無駄な足掻きよ。
バトル続行! 《アマゾネスペット
獣の眼光が、次なる標的を捉えた。
五度、爪が襲い来る。
「罠発動! 《
それを遮る、柚子の罠。
直後、歌姫の全身から目も眩むほどの光が発せられた。
標的を見失い、猛獣の足が止まる。
「このカードは、相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にする!
そして次のターンの終了時まで、無効にしたモンスターの攻撃力を、プロディジー・モーツァルトの攻撃力に加える!」
光が止む。
猛獣の視力が戻った時には、形勢は逆転していた。
プロディジー・モーツァルトの攻撃力は――5100。
「これで繋がったわ。次のターン、覚悟しておくことね」
「言ってくれるわね。
ならこっちも出し惜しみはしない。私はカードを二枚伏せて、ターンエンド」
グレースのターンが終了する。
それと同時に柚子は、勝利を確信したかのような笑みを浮かべた。
「遊矢、後は任せたわ。絶対に勝ちましょう」
「そうだな」
頷いて答える。
「けど、その前に……えー、んんっ!」
喉の調子を整えつつ、自分を切り替える。
柚子のデュエルに魅せられて、つい観客になっていた。
次は俺の番だから、しっかりやらないとだ。
「――レディース、エーンド、ジェントルメーン!
此度のデュエルもいよいよクライマックスを迎えます! どうか皆々様、最後までお見逃しなく!
コンサートデュエル、第二楽章の幕開けと行きましょう!」
「……ふうん」
グレースは笑うでもなく、蔑むでもなく、目を細める。
「それが貴方なりのデュエルなの?」
「おや、何かご不満が?」
「そうね。前に戦った時と大して変わってないじゃない。
タッグパートナーに合わせて臨機応変に。要するに、そういうことでしょう?」
苛立ちを晴らすように銀髪をかき上げる。
……やや不満げな様子。しかし、見限ってもいない。
彼女が求めているのはきっと、等身大の榊遊矢。
エンタメでもなく、補助に徹するでもなく、本気の俺との一対一。
「……これは失礼。ですが、ある程度はご容赦いただきたいものです」
これはタッグデュエル。
個人の技を競うのではなく、相方と息を合わせ、ハーモニーを奏でる競技。
タッグデュエルという時点で、彼女の期待に応えることはできない。
「ですが、どうしてもというのであれば――なおのこと、目を離さぬよう」
それでも。
こうして向かい合えば、感じられるものはある。
「耳を澄ませば聞こえてくるはずさ。
世界を綴るクープレ! 魂を揺らすルフランが!
私のターン!」
天空では、巨大な振り子が光芒を引いて揺れ始めた。
「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!
――ペンデュラム召喚!
現れろ、私のモンスター達!」
光彩煌めく門が開き、二体のモンスターが舞い降りる。
「まずは、《相生の魔術師》!
続いて、《
弓を携えた、桃色の衣装の魔術師。
巨大なベルを被った、
「モンスターを特殊召喚したこの瞬間、《アマゾネス拝謁の間》の効果発動!
私は《相生の魔術師》を選択! ライフを500回復する!」
《相生の魔術師》から力が吸い上げられ、グレースたちに降り注いだ。
グロリア・グレース
LP:5600 → 6100
「大した回復量じゃないけど、一応ね。
それで、どうするの? あれだけのことを言ったんだもの、無策ってことはないでしょう?」
「いずれ分かりますよ。ですが、まずは演者を揃えましょうか」
手札から次のカードを選択する。
「私は《
召喚したのは、俺にとっては見慣れたモンスター。
シルクハットを被った桃色のカバ。
「ディスカバー・ヒッポの効果により、私は手札からレベル7以上のモンスターをアドバンス召喚できます!
ディスカバー・ヒッポ、レ・ベルマンをリリース!」
二体は光に変わり、踊るように宙を滑る。
やがてそれらは一つに合わさり、新たなしもべを形作る。
「さあ、拍手でお出迎え下さい! 雄々しくも美しく輝く、二色の眼!
――《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」
龍の鼓動、ここに在り。
真紅と深緑。
二色の眼を輝かせ、歌姫達のステージに堂々たる様子で並び立つ。
「さらに、《相生の魔術師》の効果発動!
《相生の魔術師》は相手に戦闘ダメージを与えられない代わりに、ターン終了時まで自分のモンスターの攻撃力をコピーすることができるのです!
私は、《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》を選択!」
モーツァルトがタクトを振るうと、《相生の魔術師》の弓矢が光を纏った。
攻撃力は、一気に5100まで上昇する。
「バトル!
まずは《相生の魔術師》で、《アマゾネスペット
《相生の魔術師》が攻撃態勢を取った瞬間、《アマゾネスペット
しかし、届かない。
光の矢が、虎獅子を貫いた。
「これで貴方を守るモンスターは消えた!
行け、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!
――“螺旋のストライクバースト”!」
龍は身体をばねのようにしならせ――次の瞬間、灼熱の息吹を叩きつけた。
グロリア・グレース
LP:6100 → 3600
「っ……やってくれるわね!」
「まだまだ! フィナーレを奏でるのはこいつだ!
頼むぞ、プロディジー・モーツァルト!
――“グレイスフル・ウェーブ”!」
指示に応えるように、モーツァルトが高々とタクトを掲げる。
次の瞬間、洗練された旋律が衝撃波となってフィールドを駆け抜けた。
「それは喰らわない!
罠発動! 《ドレインシールド》!
相手モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分ライフを回復する!」
「!」
展開された光の障壁が音の奔流を受け止め、そのまま吸い上げていく。
グロリア・グレース
LP:3600 → 8700
「これで私達のライフは8000を超えた。せっかくの足掻きも無駄に終わったわね」
確かに、数字だけを見れば絶望的だ。
だが――
「お見事! 流石、アカデミアの戦士というだけはありますね!
私はカードを二枚伏せて、ターンエンド!」
「その顔……これだけの差をつけても、まだ勝つ気でいるの?
本当に状況が分かってる?」
「勿論。ですがライフポイントの差など、あってないようなものでしょう。今、舞台を支配しているのは我々なのですから。
――逆転の芽は、それこそいくらでもあるさ」
「…………」
グレースの眉が僅かに動く。
挑発ではなく、純然たる事実。
それは、グレース自身もよく知っているはずだ。
「退け。交代だ、グレース」
「お姉ちゃん……」
「榊遊矢の言葉に間違いはない。ライフこそリードしているが、フィールドを支配しているのは奴等だ。
だが――それも、このターンで終わる。
お前達の舞台とやらは、私の手で叩き壊してやろう」
射抜くような視線が向けられる。
――ああ、それでいい。
来るなら来い。俺は、逃げも隠れもしない。
「私のターン!
魔法カード発動、《シャッフル・リボーン》!
自分の場にモンスターが存在しない時、墓地からモンスターを特殊召喚する!
再び現れろ、《アマゾネス
グレースが伏せていたカードを、グロリアが発動した。
大剣を携えた女帝が復活する。
「さらに手札から再び、《アマゾネスの戦士長》を特殊召喚!」
次に召喚されたのは、大槍を構えたアマゾネス。
「《アマゾネスの戦士長》の効果により、私はデッキから《置換融合》をセットする」
一ターン目の焼き直し。
だがグロリアには、別の狙いがあるように見えた。
「そして、セットした《置換融合》を発動!
フィールドの《アマゾネスの戦士長》と、《アマゾネス
「!」
最初のターンは、戦士長と女王を素材とした融合だった。
しかし今は、戦士長と
「密林を統べる女帝よ! 誇り高き戦士長の力を取り込み、新たな王として君臨せよ!
――融合召喚!
現れろ! レベル10、《アマゾネス
現れた女帝王を見上げ、息を呑む。
ただでさえ強力な《
「アマゾネス……
融合モンスターを素材にした、更なる融合召喚……!」
「その通りだ。
そして融合召喚に成功した時、デッキから新たな《アマゾネス》を特殊召喚できる!
来い、《アマゾネス・スカウト》!」
御供として選ばれたのは、アマゾネスの
「これで終わらせてやる!
行け、《アマゾネス
女帝王は赤いマントを翻し、鋼の刃を振りかざす。
――ここだ。
あらかじめセットしておいた、罠を起動させた。
「リバースカード、オープン! 永続罠、《時空のペンデュラムグラフ》!
一ターンに一度、《魔術師》ペンデュラムモンスター一体と、相手フィールドのカード一枚を破壊する!
俺が選ぶのは《相生の魔術師》と、《アマゾネス
空間を穿つ孔が、二つ開いた。
《相生の魔術師》の身体が光となって砕ける。
その力を受けるように、虚空の孔から巨大な矢が出現した。
標的は――当然、《アマゾネス
「フッ……やはりな! 貴様の事だ、何らかの策を用意してあると思っていた!
この瞬間、《アマゾネス・スカウト》の効果発動!
このモンスターをリリースすることで、《アマゾネス》モンスターはこのターン、効果では破壊されない!」
斥候の姿が粒子となって解け、女帝王を守る障壁へと変換される。
――放たれる相生の矢。
だがそれは、
斥候の障壁によって弾かれた。
「これで貴様の罠は不発に終わった。そして《アマゾネス
「――それはどうかな?」
だがそれは、想定の内。
「思った通りだ。やっぱりアンタたちは強い。
だけどこのターンは、俺が一枚上だ」
孔が開く。
場所は――《アマゾネス
「! これは――!」
「《時空のペンデュラムグラフ》の効果! カードを二枚破壊できなかった場合、フィールドのカードを一枚選び、墓地へ送ることができる!
ペンデュラムは揺れるもの! 片方だけ、なんて不公平はないのさ!」
“破壊”ではなく、“墓地へ送る”。
孔から光が発せられ、《アマゾネス
「……フン。抜け目のないヤツだ。
バトルフェイズは終わったが、まだ私のターンは終わっていない。
手札から装備魔法《再融合》を発動!
ライフを800払い、墓地から融合モンスターを特殊召喚する!
今一度現れろ、《アマゾネス
グロリア・グレース
LP:8700 → 7900
《再融合》の光の中から、《アマゾネス
グロリアは勝利を確信しているのだろう。
だが――。
「私はこれでターンエンド。
――さて。面白い戦術を見せてもらったが、次のターンまで持つかな?」
「どういう意味だ?」
「分からないか? 次のターンは貴様ではなく、そのパートナーだ」
二人の視線が柚子の方へ向く。
「手札は0。
貴様等はもう詰んでいる。逆転の芽は、既に潰えた」
「――どうかな?」
「っ……往生際が悪いぞ、榊遊矢!」
「おっと、これは失礼致しました。
――でも、俺にはもう聞こえているよ」
「聞こえている? 何がだ」
「決まってるだろ。
――次の、フレーズさ」
思わず、笑みが零れた。
「さ、柚子。あとは任せた。最高のフィナーレを頼む!」
柚子に振り返り、ターンを明け渡す。
「……無理よ」
――しかし。
返ってきた反応は、真逆のものだった。
「ライフの差は歴然、《アマゾネス
「柚子」
絞り出すような弱々しい呟きを、明るく遮る。
「大丈夫だ。
言っただろ? ペンデュラムは揺れるんだ。今は勝利が見えなくても……次の瞬間には、目の前に返ってくる。足りないのは、一歩踏み出す勇気だけだ」
俺は、一歩だけ前へ踏み出して、柚子に振り返った。
「来てくれ、柚子。俺の隣で戦いたいんだろ?」
「遊矢……」
柚子は、まだ踏み出せないようだった。
……やれやれ、と内心溜息をつく。
普段の強気な態度はどこへ行ったのやら。
……仕方ない。とっておきのヒントだ。
「――なあ、柚子。
パートナーなら伏せカードくらい、ちゃんと確認してくれよな」
「え……?」
柚子がカードを確認する。
前のターンに伏せた一枚のカード。そこに、答えが秘められている。
「――あ」
息を呑む、柚子の声。
さあ――ペンデュラムが、戻ってきた。
「……はあ。舞台裏を覗くのって、こういう気持ちなのね。
前々から思っていたことだけど。エンタメ決闘者って、みーんなあくどいわよね。
勝利への道筋が、最初から見えていたってことでしょう?」
「――――」
問いには答えない。ただ、不敵に笑って誤魔化した。
それを見た柚子が、呆れたように溜息をつく。
その目には、確かな光が戻っていた。
「――さあ、行くわよ!
柊柚子のアンコール、とくとご清聴なさい!」
先程までの迷いは、もうどこにもなかった。
柚子が再び、姉妹へと向き合う。
「なんだ……? 貴様、一体何をされた?
何故、この状況で、そんな目ができる」
「だって、まだ曲が終わってないもの」
「曲だと?」
「ええ。
一人じゃ完成しない。
誰かが繋いで、誰かが受け取って、初めて一つの音楽になる。
それがタッグデュエル。
そして――私達のコンサートよ!」
柚子の指が、デッキに添えられた。
「私のターン!
……私は魔法カード《死者蘇生》を発動!
墓地からモンスターを一体選んで、フィールドに特殊召喚する!
再び舞台に荘厳の歌を!
現れて! 《幻奏の音姫スペクタキュラー・バッハ》!」
黒いドレスを靡かせ、荘厳なる歌姫が再び舞い降りた。
「この瞬間、《アマゾネス拝謁の間》の効果発動!
特殊召喚されたモンスターの攻撃力分、ライフを回復する!」
すかさず、グロリアが手をかざす。
バッハから力が流れ、姉妹のライフを回復させた。
グロリア・グレース
LP:7900 → 10400
「これで私達のライフは一万を超えた! せっかくの融合モンスターも無駄に終わったな!」
「バッハの効果発動!
特殊召喚に成功した時、デッキから《幻奏》モンスターを特殊召喚する!
来て! 《幻奏の音女オペラ》!」
だが、柚子は止まらない。
歌唱を司る小さな音女が、ステージに上がった。
「これでどう?
《アマゾネス拝謁の間》は、一ターンに一度しか発動できない。つまり、これ以上貴方達のライフは回復しないってこと!」
「それがどうした。既にライフは十分な数値だ。もはやお前では、我々のライフを削り切ることは不可能!」
「ええ、そう。その通り。
私一人だけだったら、ね」
その言葉に、思わず笑みが零れた。
どうやら、最高のフィナーレが聞けそうだ。
「バトルよ!
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《アマゾネス
「何……!?」
攻撃力2500のオッドアイズが、攻撃力3200の
一見すると特攻、あるいは自爆に映るかもしれない。
だが――
「リバースカード、オープン!
罠カード、《スノーマン・エフェクト》!」
積み重ねた音律が、ここに結実する……!
「なんだ、そのカードは――」
「《スノーマン・エフェクト》は、自分のモンスターを一体選択して発動する。
対象となったモンスターの攻撃力は、他の自分のモンスターの元々の攻撃力の合計分アップする!」
《幻奏の音女オペラ》。
《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》。
そして、《幻奏の音姫スペクタキュラー・バッハ》。
三種の音色が、龍の鼓動を震わせる。
歌声は旋律となり。
旋律は楽曲となり。
楽曲は、龍へと力を与える。
虹色の光が、オッドアイズの身体を駆け巡った。
「攻撃力、9900だと……!?」
「《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は、相手モンスターとバトルする時、与えるダメージは二倍になる!
これでフィナーレよ!
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃!」
二色の眼が、閃光のように輝いた。
龍のアギトが開かれる。
「――“幻奏の
龍の咆哮と歌姫達の旋律が重なる。
異なる音色は一つとなり、巨大な奔流となって戦場を駆け抜けた。
それはもはや一人の力ではない。
二人が紡いだ、たった一つの協奏曲。
グロリア・グレース
LP:10400 → 0
――最高のフィナーレだった。
◆
今回は柚子回であり、同時にグロリア&グレースとの決着回でもありました。
幻奏デッキはARC-V準拠の為リンク召喚不採用、一部カードを温存した上でペンデュラム×融合軸の展開となっています。
遊矢の幼馴染なのだから、柚子もまた相応の実力者であってほしい。
そんな考えから組んだ展開でもあります。
グロリア、グレースは今回で二戦目。
彼女達はアニメ本編のエクシーズ次元編における印象的な対戦相手の一組です。
遊矢、ユートによる遭遇戦から始まり、
遊矢、柚子によるエンタメデュエルで締める。
柚子もきちんと戦えます、という描写をしたかったのも相まって、エクシーズ次元編一話からここまでを一本の流れとして書いてきました。
ライフ10000から一気に決着する流れは、アニメの遊矢・黒咲対グロリア・グレース戦へのオマージュでもあります。
2026.6.7.追記
プレイングミスがあったので一部修正。
カードを一枚差し替えただけなので内容的にはほぼ変更ありません。