遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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鏡写しの決闘者

 ◆

 

 明かりを失った街に、月の光が差し込む。

 崩壊した建物。

 積み重なった瓦礫の山。

 人の気配が途絶えた夜陰の中で、戦士達は相対する。

 

 決闘者は四人。

 ユートは、そのうちの一人に目を奪われていた。

 

 紫を基調とした軍服。

 左腕には、剣を模したデュエルディスク。

 そして――自分と同じ顔。

 

「初めまして、かな。僕の名前はユーリ」

 

 穏やかな口調と柔和な笑み。

 

「早速だけど――僕とデュエルしようよ」

 

 ユーリの口元が、三日月のように歪む。

 彼もまた同様に、ユートに目を奪われていた。

 

「見たところ、君がユートだよね? だったらほら、構えてよ。僕達、君と戦りたくてウズウズしてたんだ」

「僕……達……?

 ――ぐっ!」

 

 ドクン。

 ユートの鼓動が、一際大きく脈を打った。

 同時に、背筋が凍るほどの悪寒が駆け巡る。

 

「っ――今の、は……」

 

 はっと何かに気付いたユートは、デッキから一枚のカードを引き抜いた。

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》。

 逆鱗を持つ黒龍。

 自身の相棒とも言えるカードが、一定の間隔で光っている。

 まるで、脈を打っているかのように。

 

「ああ、やっぱりそうだ。実はそれ、僕もなんだよね」

 

 ユーリもまた、自分のデッキから一枚のカードを引き抜き、ユートに見せる。

 紫のカード……融合モンスター。

 ユートのドラゴンと同じように、鼓動のような光を放っていた。

 

「僕のスターヴヴェノムも言ってるんだ。君と戦えば、きっと楽しいデュエルができるってさ。

 最初は半信半疑だったけど、こうして向かい合って確信したよ。

 僕も同感だ。君は強い。だから、ほら――」

「断る」

「……え?」

 

 予想外だったのか、ユーリは唖然としていた。

 

「断る、と言ったんだ。俺には、君と戦う理由がない」

 

 ただの直感。しかし、不自然なほどに確信がある。

 ――ここで俺達が戦うのは、不味い。どちらが勝ってもだ。

 

「理由? 変なこと言うね、君。ただデュエルをするのに、理由なんて要るの?」

「俺達がやってるのは次元戦争だ。ただのデュエルじゃない」

「なおさら分からないな。戦争って言うなら、僕達は敵同士だ。

 敵は見つけ次第、狩る。そういうゲームのはずだけど?」

「ゲーム……だと……?」

 

 ユートの表情が凍り付く。

 彼らにとってデュエルとは、勝者のみ生き残る生存競争。命を賭けた死闘と言ってもいい。

 ユーリはそれを分かった上で、“ゲーム”と言ったのだ。

 

「迷うな、ユート」

 

 黒いコートの男――黒咲隼が一歩前に出る

 

「隼……」

「ヤツの言葉に反論したい気持ちは分かる。

 だがある一点において、俺はヤツに賛成だ。即ち――」

 

 黒咲はデュエルディスクを展開し、臨戦態勢を取る。

 

「――敵は見つけ次第、倒す。

 それが俺達レジスタンスの戦いだ。ましてやその相手が、瑠璃を攫った決闘者ならばな!」

「ヒュウ! 流石は黒咲、やる気だね!」

 

 デニスは涼し気に微笑みながら、黒咲の視線を受け止める。

 

「じゃあせっかくだし、ここはタッグデュエルにしない?」

「何……?」

 

 デニスの提案に、ユーリとユートは驚きを見せる。

 しかし二人とは対照的に、黒咲は不遜な笑みを浮かべた。

 

「余裕……いや、慢心だな。それが貴様等の命取りになる」

「ワクワクすること言ってくれるね。

 “俺とユートのタッグに勝てるわけがない”……そんなところかな?

 いやあ、楽しみだ。

 ――その鼻をへし折ってやった時、君はどんな顔をするのかな?」

 

 デニスもまた、デュエルディスクを展開する。

 

「……ねえ。タッグデュエルなんて聞いてないんだけど?」

「まあまあ、そう言わずに。久しぶりに組んでみるのも一興じゃない?

 それに……今回に限っては、一緒にやった方が楽しめると思うよ?」

「そう?」

 

 訝しむユーリに、デニスは含みのある笑みを浮かべる。

 そして――

 両手を目一杯に広げて、声を張り上げた。

 

 

「レディース、エーンド、ジェントルメーン!」

 

 

「!」

 

 聞き覚えのある台詞に、ユートは思わず顔を上げた。

 

「ご来場の紳士淑女の皆様、本日は真にありがとうございます!

 これより始まるは、世界の命運を分ける世紀の一戦! 二対二のタッグデュエルにございます!」

 

 無人の街に、陽気な声が木霊する。

 ……湧き上がるはずの観客は、既にいない。

 皆、次元戦争に巻き込まれてカードにされてしまった。

 融合次元の手によって。

 

「貴様……」

 

 その事実が、黒咲の闘志を燃え上がらせる。

 ――不味い。

 直感がブレーキをかける。

 このまま戦えば、取り返しがつかない何かが起きる――

 

「ぐっ――」

 

 ドクン、と脈を打つ。

 胎動している。

 まるで、何かを急かすように。

 

「気になる対戦カードはこちら!

 まずはユート・黒咲タッグ!

 エクシーズ次元が誇る最強タッグにして、打倒アカデミアを掲げるランサーズの二人!

 続いては我々、ユーリ・デニスタッグ!

 融合次元から派遣されてきた先兵にして――

 次元戦争のトリガーを引いた二人となります」

「なんだと……!」

 

 黒咲の目が鋭さを増す。

 

「貴様、今の話は本当か!」

「うん、本当だよ」

 

 デニスの声音は、軽かった。

 まるで、それが周知の事実であるかのように。

 

「プロフェッサー……僕達のボスは、とある計画を進行中なんだ。

 そのために必要なのが、黒咲瑠璃。

 そして、計画を動かすための燃料……つまり、カードにされた人達。

 この二つを確保するために、僕らはエクシーズ次元に戦争を仕掛けたのさ。

 分かるかい? 君達は所詮、偉大なるプロフェッサーの道具に過ぎないってわけ」

「道具……だと?」

 

 ユートは静かに、拳を握り締めた。

 それを見たデニスは、一人ほくそ笑む。

 遊矢に比べると、ユートは疑り深い。

 だが、性根は同じだ。

 よく言えば純粋、悪く言えば単純。

 身内を少し扱き下ろしてやれば、すぐに熱くなる。

 

「――いいだろう。貴様の挑発に乗ってやる。

 瑠璃を助け出すためには、いつかは倒さなければならない相手だ」

 

 ユートはデュエルディスクを構え、一歩踏み出した。

 

 ――ブレーキは、既に壊れていた。

 

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