遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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反逆の果て

 ◆

 

決闘(デュエル)――!」

 

 四人の決闘者が、三者三様に構える。

 最初に動いたのは、ユートだった。

 

「まずは俺から行く!

 俺は《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ダスティローブ》を召喚!」

 

 くすんだローブを纏った、青い霊魂。

 

「さらに、俺の場に《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)》が存在する時、手札から《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》は特殊召喚できる!」

 

 続いて現れたのは、消音靴を履いた霊魂。

 二体の幻影騎士団(ファントム・ナイツ)が並び立つ。

 だが、彼らの役目はここで終わりではない。

 

「俺はレベル3のダスティローブと、サイレントブーツでオーバーレイ!」

 

 さらなる力を呼び起こすため、二体の騎士は虚空へと消えた。

 

「戦場に倒れし騎士たちの魂よ!

 今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ!

 ――エクシーズ召喚!

 現れろ! ランク3、《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ブレイクソード》!」

 

 担い手を失った武具に、炎が灯る。

 戦場に残された無数の怨念を纏い、人馬一体の黒騎士が姿を現した。

 その手に握られているのは、折れた巨剣(ブレイクソード)

 数多の戦場を戦い抜いた、証左の刃である。

 

「俺はこれで、ターンエンド!」

「一ターン目からエクシーズ召喚……飛ばしてくるねえ。

 デニス、ここは僕から行かせてもらうよ。ま、答えは聞いてないけど。

 僕のターン!」

 

 ユーリがカードを引き、ターンを開始する。

 

「僕は《捕食植物(プレデター・プランツ)オフリス・スコーピオ》を召喚!」

 

 緑の体色の蠍が出現する。

 

「オフリス・スコーピオの効果発動。

 手札からモンスターを一枚捨てて、デッキから新たな《捕食植物(プレデター・プランツ)》を特殊召喚できる。

 《捕食植物(プレデター・プランツ)サンデウ・キンジー》を特殊召喚!」

 

 同じく緑色のモンスター。毒の粘液を持つエリマキトカゲ。

 ユーリの場に、生物を模した植物たちが並び立つ。

 それを見たユートは、反射的に身構える。

 奇しくも同じ展開。

 ――否、これは必然。

 

「さあて、行くよ。

 僕は、サンデウ・キンジーの効果発動!

 サンデウ・キンジーを含む手札、フィールドのモンスターを素材にして、闇属性モンスターの融合召喚を行う!」

「っ、来るか……!」

 

 二体の植物が渦を巻く。

 輪郭が崩れ、新たな存在として生まれ変わる。

 

「魅惑の香りで虫を誘う、二輪の美しき花よ!

 今ひとつとなりて、その花弁の奥の地獄から、新たな脅威を生み出せ!

 ――融合召喚!

 現れろ! レベル7、《捕食植物(プレデター・プランツ)キメラフレシア》!」

 

 巨大な花弁が、花開く。

 鮮血を思わせる紅色。毒蛇のように蠢く、濃緑の茎。

 その先にあるのは、花とはかけ離れた牙を持つ口。

 ラフレシアとハエトリグサ、二種類の植物が混ざった合成獣(キメラ)

 

「ドラゴンじゃない、だと……?」

「まずはお互い小手調べってことで。

 バトル! キメラフレシアで、ブレイクソードを攻撃!」

 

 ラフレシアの下――無数のハエトリグサが牙を剥く。

 

「キメラフレシアが攻撃する時、ターン終了時まで攻撃力が1000アップし、相手モンスターの攻撃力は1000ダウンする!」

「何!?」

 

 攻撃力が変動する。

 キメラフレシアは3500に。

 ブレイクソードは1000に。

 黒い騎士は、植物の牙によって粉々に噛み砕かれた。

 

ユート・黒咲

LP:4000 → 1500

 

「ぐっ……!

 だがここで、ブレイクソードの効果発動!

 このモンスターが破壊された時、墓地から《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)》を二体、レベルを上げて特殊召喚できる!

 甦れ! ダスティローブ、サイレントブーツ!」

 

 ローブとブーツ、二つの霊魂が再びユートの場に舞い戻った。

 

「《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)》は倒れない! 何度打ち倒されようと甦る! それが俺達、レジスタンスの戦いだ!」

「必死だねえ。じゃあ、その度に潰してあげるよ!

 キメラフレシア、二つ目の効果発動!

 一ターンに一度、キメラフレシア以下のレベルを持つモンスターを除外する!

 ダスティローブを除外!」

 

 再度、植物が霊魂を襲う。

 華に誘われた虫のように、ダスティローブは丸のみにされた。

 

「っ……」

 

 ユートは口元を歪める。

 ブレイクソードの蘇生効果は、次のターンへの布石でもあった。

 さらにダスティローブには、墓地で発動できる効果も備えている。

 カードそのものの除外は、ユートのデッキにとって最も効果的だった。

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンド。

 それじゃあ見せてもらおっかな。レジスタンスの戦いってやつをさ」

 

 ユーリがターンを終える。

 浮かべていたのは愉悦の笑み。

 二人がもがき苦しむ様子を、愉しんでいる。

 

「一度下がれ、ユート」

「隼……」

「心配するな。お前の意志は受け取った」

 

 黒咲はフィールドに残された一体を見て、静かに笑った。

 ――勝利を確信した笑みだ。

 

「行くぞ! 望み通り見せてやる。俺達レジスタンスの戦いを!

 俺のターン!」

 

 黒咲はドローしたカードを手札に加えた後、すぐさま別のカードを選択する。

 

「俺は《RR(レイド・ラプターズ)-バニシング・レイニアス 》を召喚!」

 

 現れたのは、猛禽を模した機械鳥。

 単体では大した能力を持たないカード。

 しかし――今は、ユートのモンスターも残っている。

 

「レベル4となったサイレントブーツと、バニシング・レイニアスでオーバーレイ!」

 

 二体のモンスターが暗闇へと消えていく。

 次の瞬間、それらを吹き飛ばすかのような爆発が起きた。

 

「反逆の騎士の魂よ! 散りゆく者の想いを背負い、戦場を駆けるハヤブサとなれ!

 ――エクシーズ召喚!

 現れろ! ランク4、《レイダーズ・ナイト》!」

 

 漆黒の馬を駆る黒騎士。

 その手に握られているのは、細長い黒槍。

 馬には増幅器(ブースター)が装備され、その先からは蒼炎を吹かしている。

 

「ふーん、やっぱり君もエクシーズを使うんだね。

 ま、さっきのモンスターと大して変わらないようだけど」

「それはどうかな。

 《レイダーズ・ナイト》の効果発動!

 オーバーレイ・ユニットを一つ使い、ランクが一つ下、または上の《RR(レイド・ラプターズ)》へと進化する!

 俺は《レイダーズ・ナイト》一体で、オーバーレイ・ネットワークを再構築!」

 

 黒騎士が紫光を帯び、虚空へと消えていく。

 《レイダーズ・ナイト》は可能性の騎士。己自身を糧として、次の姿へと進化する。

 

「まだ見ぬ勇猛なハヤブサよ。猛き翼に秘めし未知なる力、今ここに知らしめよ!

 ――エクシーズ召喚!

 現れろ! ランク5、《RR(レイド・ラプターズ)-エトランゼ・ファルコン》!」

 

 ハヤブサを模した黄金色の戦闘機が、空気を裂いて飛翔する。

 丸みを帯びた翼の下には、標的を焼き尽くすための砲台が搭載されている。

 

「エトランゼ・ファルコンの効果発動!

 一ターンに一度、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、相手モンスターを破壊する!

 そしてその後、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

 砲台が植物を捉えた。

 次の瞬間、熱線が一直前に奔る。

 燃え盛る火炎に呑まれ、キメラフレシアが焼却された。

 

ユーリ・デニス

LP:4000 → 1500

 

「っ――! やるね……」

「これで終わらせてやる……!

 バトルだ!

 やれ、エトランゼ・ファルコン! プレイヤーへダイレクトアタック!」

 

 黒咲の指示に一切の躊躇はない。

 二つ目の銃口がユーリを捉え――再び、熱線が迸る。

 

「罠発動! 《和睦の使者》!

 このターン、僕が受ける戦闘ダメージを0にする!」

「何っ……!」

 

 それを遮る、薄い膜。

 炎は罠カードによって阻まれ、ユーリに届くことはなかった。

 

「ふう、危ない危ない。でも、案外やるね君。ちょっとびっくりしたよ」

「貴様……!」

 

 射抜くような視線が、ユーリを貫く。

 

「次元戦争を仕掛けた貴様等が、よりにもよって《和睦の使者》だと……!

 ふざけた真似も大概にしたらどうだ……!」

 

 その声には、ただの怒りではなく、奪われたものへの憎しみが混じっていた。

 

「あれれ、何怒ってんの?

 《和睦の使者》。このターン受ける戦闘ダメージを0にする。

 なんてことない、ありふれた罠カードだと思うけど?」

 

 ユーリの顔には、笑みが張り付いていた。

 我慢しきれなくて零れてしまったと言わんばかりの、特上の愉悦。

 それが、黒咲の怒りを助長させる。

 ――気づけば、手は伸びていた。

 先程ドローした魔法カードに、指をかける。

 

「落ち着け、隼」

「!?」

 

 冷水のような一声。

 

「ヤツらの言葉に耳を貸すな。乗せられてしまったら、それこそ思う壺だ」

「ユート……いや、確かにその通りだ。礼を言う」

 

 体内の熱を逃がすように、黒咲は一息吐いた。

 今、指を掛けたカード。

 ……それに加えて、もう一枚。

 

「俺はカードを二枚セットして、ターンエンド!」

「なんだ、来ないの?

 でもいいよ。今度はこっちが攻める番だ。

 行くよ、僕の――」

「あー、ストップストップ!」

 

 ユーリの手がデッキに伸びるが、デニスがそれを静止した。

 

「……邪魔しないでよ。今、すっごくいい所なんだからさ」

「だったらなおさらだよ。お楽しみ中なのは分かるけど、独り占めは流石にないんじゃない?

 それに、今回はタッグデュエルって言ったでしょ?」

「…………」

 

 ユーリは露骨に不満そうな顔をした。

 口を尖らせるような仕草。

 まるで、お気に入りの玩具を取り上げられた子供のようだった。

 

「……ちぇ」

 

 ユーリは、溜息をつきながらも後ろへ下がった。

 入れ替わりで、今度はデニスが前に出る。

 

「ありがとう、ユーリ。

 さぁて……レジスタンスの諸君はお待ちかねかな?

 ある時はランサーズの一員。しかしてその正体は、融合次元からの先兵。裏切り者のデニス・マックフィールドの出番だ!」

「相変わらずの軽薄さだな。

 ――来るがいい。貴様等では俺達に勝てないことを教えてやる」

「なら、遠慮なく行かせてもらおうかな。

 僕のターン!」

 

 デニスのターンが開始する。

 

「このスタンバイフェイズ、破壊されたキメラフレシアの効果発動! 僕はデッキから、あるカードを一枚手札に加えることができる。

 はてさて、それは一体何でしょうか」

 

 黒咲は答えない。

 しかし、答えは明白だった。

 

「あれー、もう降参? まあいいけどね。

 じゃあ答え合わせ。手札に加えるのはこれ。

 ――《融合》のカード」

「っ――!」

 

 視線が、一層鋭くなった。

 デニスはそれに意も介さず、手札から一枚を選ぶ。

 

「とはいっても、まずは準備しないとね。

 僕は《Em(エンタメイジ)ファイヤー・ダンサー》を召喚!」

 

 赤いフラフープを手にした踊り子が、炎を連れて舞い降りた。

 

「ファイヤー・ダンサーの召喚に成功した時、デッキから新たな《Em(エンタメイジ)》を手札に加えることができる。

 僕が選ぶのは《Em(エンタメイジ)カップ・トリッカー》。

 そしてこのモンスターは、エクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃力も600下げて、手札から特殊召喚できる!」

 

 エトランゼ・ファルコンの周囲を飛び交う光が、一つ消滅する。

 現れたのは、星が描かれた巨大なカップ。中からは、つぶらな瞳をした妖精が顔を覗かせていた。

 ファイヤー・ダンサー。

 カップ・トリッカー。

 どちらもペンデュラムモンスター。

 デニス・マックフィールドが、ランサーズに所属していた名残でもあった。

 

「OK、これにて役者は揃いました。

 それではここで、私は魔法カード《融合》を発動!

 融合するのは《Em(エンタメイジ)ファイヤー・ダンサー》と、《Em(エンタメイジ)カップ・トリッカー》!」

 

 火の輪くぐり、カップ・アンド・ボール。

 二種類のパフォーマーが融け合い、新たな姿を形作る。

 

「炎を操る踊り子よ! 杯の奇術師と溶け合い、天空を駆る新たな魔女となれ!

 ――融合召喚!

 現れろ! レベル7、《Em(エンタメイジ)トラピーズ・フォース・ウィッチ》!」

 

 現れたのは、青い衣装を纏う魔女。

 空中ブランコを手に、軽やかに宙を滑る様は、魔法使いというよりは演者だ。

 

「バトル!

 トラピーズ・フォース・ウィッチで、エトランゼ・ファルコンを攻撃!

 そして、モンスター効果発動! 《Em(エンタメイジ)》が相手モンスターとバトルする時、相手の攻撃力を600ポイントダウンさせる!」

「!」

 

 エトランゼ・ファルコンの攻撃力がさらに下降する。

 数値は――800。

 対して、トラピーズ・フォース・ウィッチの攻撃力は2400。

 これを通してしまえば、残りライフ1500が消し飛ぶ。

 

「そうはさせん!

 速攻魔法! 《RUM(ランクアップマジック)-ファントム・フォース》!

 墓地のモンスターを糧として、闇属性エクシーズモンスターをランクアップさせる!

 バニシング・レイニアスを除外し!

 エトランゼ・ファルコンで、オーバーレイ・ネットワークを再構築!」

 

 黒咲の足元に漆黒の渦が出現し、異邦の隼はその中心へと身を投げた。

 

「誇り高きハヤブサよ。英雄の血潮に染まる翼翻し、革命の道を突き進め!

 ――ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!

 現れろ! ランク6! 《RR(レイド・ラプターズ)-レヴォリューション・ファルコン》!」

 

 立ち上る光の柱。

 その中から現れたのは、漆黒の翼を持つ戦闘機。

 火炎放射、光弾、爆撃。あらゆる殲滅手段を備えた空襲のハヤブサである。

 

「レヴォリューション・ファルコンは、特殊召喚されたモンスターとバトルする時、相手モンスターの攻撃力を0にする!

 これで貴様の小細工は無力と化した! 迎え撃て、レヴォリューション・ファルコン!」

「なるほどね。じゃあ攻め方を変えようか!

 罠発動! 《激流葬》!」

「何ッ――!?」

 

 息を呑む黒咲。

 デニスは、得意気に笑う。

 

「流石、どんなカードか分かってるみたいだね。

 《激流葬》の効果により、僕達のモンスターは全て破壊される!」

 

 解き放たれるは自然災害。

 全てを圧し潰す水流が、フィールドのモンスターを呑み込んでいく。

 ――その中で。

 軽やかに宙を舞う、魔女が一人。

 

「トラピーズ・フォース・ウィッチが存在する限り、《Em(エンタメイジ)》は自分のカード効果では破壊されない。

 《激流葬》はユーリの伏せたカードだけど、これはタッグフォースルール。ユーリのカードは僕のカードでもあるってことさ。

 バトル続行!

 行け、トラピーズ・フォース・ウィッチ! 黒咲へダイレクトアタック!」

「罠発動、《RR(レイド・ラプターズ)-レディネス》!

 このターン、《RR(レイド・ラプターズ)》モンスターは、バトルでは破壊されない!」

 

 攻撃の瞬間、黒咲は咄嗟に伏せカードを発動させた。

 

「一体何考えてるのかな?

 君の場にモンスターはいない。そんなカード、今更発動しても無駄なのに。

 あ、ひょっとしてウケ狙い?」

「《RR(レイド・ラプターズ)-レディネス》、第二の効果発動!

 墓地に《RR(レイド・ラプターズ)》が存在する時、このカードを除外することで、このターン受ける全てのダメージを0にする!」

 

 魔女の一撃を、障壁が阻む。

 《RR(レイド・ラプターズ)-レディネス》を発動したのは、自分のモンスターを守るためではなく、《RR(レイド・ラプターズ)-レディネス》そのものを墓地へ送るためだったのだ。

 

「やるねえ。なんともアクロバティックな防御。僕達とは大違いだ。

 カードを一枚伏せてターンエンド。

 さあ、君の番だ、ユート。今度は僕に、君の本当の力を見せてくれ」

「言われるまでもない」

 

 ユートは躊躇いなく前へ踏み出す。

 

「すまない、ユート。不覚を取った」

 

 黒咲は目を伏せる。

 レヴォリューション・ファルコンを召喚したものの、罠によって破壊され、フィールドはがら空き。

 ライフはお互い1500とはいえ、デニスの場には攻撃力2400の《Em(エンタメイジ)トラピーズ・フォース・ウィッチ》。

 状況は明らかに不利だが――

 

「いや、あれでいい」

 

 一言。

 それ以上は語らない。

 

「フッ……その顔、何か策があるようだな。

 ならば俺は何も言わん。その代わりに見せてみろ、お前のデュエルを!」

「ああ!

 ……俺のターン!」

 

 ――来たか。

 ユートの顔に笑みが浮かぶ。

 

「俺は墓地から《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)サイレントブーツ》の効果発動!

 このモンスターを除外することで、デッキから《ファントム》と名の付く魔法か罠を手札に加える!

 俺が選ぶのは罠カード、《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シェード・ブリガンダイン》!

 このカードは俺の墓地に罠カードがない時、セットしたターンに発動できる!」

 

 ユートは、手札に加えた罠をセットした後、デュエルディスクを操作し、即座に発動させた。

 

「《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シェード・ブリガンダイン》、発動!

 このカードは発動後、モンスターカードとなり、俺の場に特殊召喚される!」

 

 青い炎を灯した鎧が、ユートの場に召喚された。

 

「さらに、《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)クラックヘルム》を召喚!」

 

 次に召喚されたのは、ひび割れた西洋の兜。

 亀裂の隙間からは、青い炎が漏れ出している。

 どちらも単体では大きな力を持たないカード。

 しかし、どちらもレベルは4。

 

「俺は、レベル4のシェード・ブリガンダインと、クラックヘルムでオーバーレイ!」

 

 二つの防具が光となり、暗闇の渦へ消えていく。

 

「漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今、降臨せよ!

 ――エクシーズ召喚!

 現れろ! ランク4、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

 紫電が迸り、中央から黒龍が現れる。

 紫紺の肌と漆黒の翼。発達した鋭利な逆鱗。

 ユートのデッキの象徴とも言えるモンスター。

 

 ――ドクン。

 

 心臓が脈を打つ。

 ユートはそれを抑え込み、なお前に出た。

 

「……小手調べの時間は終わった。このまま一気に決めさせてもらう」

「随分と強気だねえ。でも無駄だよ。

 《Em(エンタメイジ)トラピーズ・フォース・ウィッチ》が存在する時、《Em(エンタメイジ)》は効果の対象にならない。

 ダーク・リベリオンの効果は強力だけど、所詮は対象を取る効果。僕の魔女を捕まえることはできないよ」

「それはどうかな。貴様は既に、俺達の射程内にいる!

 手札から速攻魔法発動! 《RUM(ランクアップ・マジック)-ファントム・フォース》!」

「なっ……!」

 

 それは、黒咲も使用した《RUM(ランクアップ・マジック)》だった。

 

「墓地の闇属性モンスターを除外して、エクシーズモンスターをランクアップさせる!

 俺は《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ブレイクソード》を除外し、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を素材にして、エクシーズ召喚する!」

 

 人馬一体の黒騎士が消滅し、黒龍の全身が結晶のように輝いた。

 

「煉獄の底より、いまだ鎮まらぬ魂に捧げる反逆の歌! 永遠に響かせ現れよ!

 ――ランクアップ、エクシーズ・チェンジ!

 出でよ、ランク5! 《ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

 その身に纏うは骨の鎧。

 あるいは――倒れた仲間の屍か。

 静まらぬ魂に安息を与えるため、反逆を掲げる龍の姿である。

 

「バトルだ!

 《ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン》で、《Em(エンタメイジ)トラピーズ・フォース・ウィッチ》を攻撃!」

 

 黒龍が飛翔し、翼を展開する。

 広げられた翼は、ただの黒ではなかった。

 まるで砕けたステンドグラスのように、幾重もの色彩が薄闇の中で輝きを放つ。

 ――黒龍の逆鱗が、鋭く光る。

 

「っ――トラピーズ・フォース・ウィッチの効果発動!

 《Em(エンタメイジ)》がバトルする時、相手モンスターの攻撃力を600ダウンさせる!」

 

 半ば反射的に、デニスは指示を下す。

 

「《ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン》の効果発動!

 オーバーレイ・ユニットを一つ使い、モンスター効果の発動を無効にし、破壊する!

 ――“レクイエム・サルベーション”!」

 

 しかし、それを許すユートではない。

 翼に備わった紫の宝珠が、光を帯びた。

 ――放たれる雷鳴。

 空を駆けるはずの魔女は、僅かな抵抗も許されず焼却された。

 

「くっ……」

 

 ――しくじった。

 デニスは小さく舌打ちする。

 新たなドラゴンの召喚に焦り、判断を誤った。

 モンスター効果を使わなければ、少なくとも攻撃を受ける事はできた。

 そのせいで――

 今、デニス達のフィールドにモンスターはいない。

 

「まだだ! ダーク・レクイエムの効果は終わっていない!

 モンスター効果を無効にし破壊した後、墓地からエクシーズモンスターを一体選び、特殊召喚することができる!」

 

 黒龍の隣に光が集う。

 それらはやがて、鳥類を象っていく。

 

「甦れ、革命のハヤブサよ!

 《RR(レイド・ラプターズ)-レヴォリューション・ファルコン》!」

 

 天高く飛翔する、もう一つの影。

 ハヤブサを模した戦闘機。

 黒咲隼の象徴。

 

 ――両雄、並び立つ。

 黒龍と黒鳥が、天空から地上を俯瞰する。

 

「はは……参ったなあ。とんでもないエンターテイナーだよ、君」

「終わりだ、融合次元。

 バトルを続行する! 行け、《ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン》!

 ――“鎮魂のディザスター・ディスオベイ”!」

 

 黒龍はその巨体は翻し、逆鱗を構えた。

 そして――さながら砲弾のように、デニスへと向かっていく。

 

「――なーんてね」

 

 デニスは、笑っていた。

 

「罠発動! 《ディーラーズ・チョイス》!

 互いのプレイヤーはデッキをシャッフルした後、一枚ドローし、手札から一枚捨てる!」

「何……?」

 

 一瞬、ユートの動きが止まる。

 罠の発動、それはいい。デニスほどの実力者ならむしろ必然だろう。

 だが――

 

「手札交換のトラップ……だが、もう遅い!」

 

 その内容は、あまりにもお粗末。

 レクイエムは止まらない。

 逆鱗は、デニスを串刺しにするべく速度を上げていく。

 

「……何?」

 

 ――しかし。

 攻撃は、止まっていた。

 想定外の出来事に、再度動きが止まる。

 

「驚いているみたいだね。世紀のマジック大成功ってところかな。

 それじゃあ種明かし。

 僕は墓地から罠カード《トランザクション・ロールバック》を発動したのさ。

 墓地からこのカードを除外し、ライフを半分払うことで、自分の墓地から罠カードを使用できる。

 君達が大好きな《和睦の使者》を使って、戦闘ダメージを0にしたってわけ」

 

ユーリ・デニス

LP:1500 → 750

 

「っ……そうか。

 無意味に見えた《ディーラーズ・チョイス》は、このための布石……」

「ご名答。理解が早くて助かるよ。

 ……なーんて、冗談。とっておきの持ちネタだったんだけど、こんなところで使わされるとはね。見くびってたのは僕の方だったよ」

「……ターン、エンドだ」

 

 ユートがターンを終了する。

 戦闘ダメージが0になるのでは、レヴォリューション・ファルコンで攻撃しても意味はない。

 ……しかし、戦況は揺るがない。

 君臨するは黒龍と黒鳥。

 《ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン》。

 《RR(レイド・ラプターズ)-レヴォリューション・ファルコン》。

 勝ち切ることはできなかったが、優勢であることに変わりはない。

 これを覆すのはいくらユーリ・デニスでも困難を極めるだろう。

 

 だが、黒咲に油断はない。

 むしろ逆だった。

 

「気をつけろ、ユート」

「隼……?」

「ヤツが使用した罠カード、《トランザクション・ロールバック》。

 墓地の罠カードを再度使用するカード。

 あの時、奴らの墓地にあった罠は二枚。

 戦闘ダメージを0にする《和睦の使者》。

 そして――全てのモンスターを破壊する《激流葬》。

 ヤツはその気になれば、俺達のモンスターを破壊することもできた。だが、ヤツはそれをしなかった」

「――ああ。

 奴らは、何かを狙っている」

 

 二人は、より一層警戒を強めた。

 

「ふう……本当に、危なかった。流石に肝を冷やしたよ。

 ごめんユーリ、デュエル前の言葉は撤回させて。君一人の方がスムーズだったかもしれない」

 

 ――“今回に限っては、一緒にやった方が楽しめると思うよ?”

 

 とんだ嘘つきだ、とデニスは自戒する。

 ユートと黒咲。どちらも凄腕の決闘者で、コンビネーションも本物だ。

 黒咲は言った。それは慢心だと。

 ……ぐうの音も出ない。

 

「ううん。そんなことはないよ」

 

 ユーリは、笑っていた。

 獲物を見つけた狩人。

 玩具を見つけた子供。

 猟奇的でありながら、無邪気さも垣間見える笑みだった。

 

「エンタメデュエル、か。全然興味なかったけど、案外悪くないかもね。こんなおあつらえ向きの舞台を用意してくれるなんて」

「え、そう? そう言ってくれるなら嬉しいけど……」

 

 デニスは、二体のモンスターに視線を移す。

 

「あ」

 

 ――ふと、思い至る。

 

「もしかして、そういうこと?」

 

 デニスの問いに、ユーリは笑みを強めた。

 それが答え。

 なるほど、とデニスは一人納得する。

 

「……そっか。流石はユーリ。最初から、この状況を待ってたんだね」

 

 《トランザクション・ロールバック》。

 《激流葬》ではなく、《和睦の使者》を選んだ理由。

 確信があったわけではない。

 ただ、デニスは信用していた。

 ユーリの実力を。

 彼ほどの決闘者ならば、必ずここで――

 ――牙を剥く、と。

 

「じゃあ行くよ。僕のターン、ドロー!」

 

 ――ドクン。

 心臓の鼓動が、一際大きく脈を打つ。

 冷たい汗が背筋を伝う。

 

「――また、か?」

 

 ユートの視線が、黒龍へと向いた。

 

「――――」

 

 沈黙。

 黒龍に変化はない。

 ただ、油断なく敵を見据えている。

 

 ドラゴンによる共鳴ではない。

 では、なんだ。

 この感覚は、何なんだ。

 

 まるで、

 世界の常識が、

 ないまぜになるような、錯覚。

 

「あ、やっぱりわかる?」

 

 無邪気な声が響く。

 隠し事がばれた子供のような、そんな声だった。

 ユーリは、一枚のカードを指でつまむ。

 

「原因はこれだよ。

 プロフェッサーから預かった秘密兵器でさ。計画が進むまでは好きに使っていいって、僕にくれたんだよね」

「…………」

 

 言葉はない。

 ユートも、黒咲も、ただ黙したままだ。

 何も言えず、ユーリの一挙手一投足を見つめるのみ。

 

 繰り返すが、ドラゴンの共鳴ではない。

 では何か。

 ……答えは単純。生物ならば誰もが抱く思い。

 純粋な、“恐怖”だ。

 

「さあ、出血大サービスだ! しっかり見ておいてよね!

 僕は手札を一枚墓地に送り、このカードを発動する!」

 

 ユーリは、手にしたカードを――デュエルディスクに叩きつけた。

 

「見せてあげるよ! 世界の深淵より生まれた、最強の力の象徴!

 絶対無敵! 究極の力を解き放て!

 ――発動せよ! 《超融合》!」

 

 ――その瞬間、引力が発生した。

 フィールドの中央では時空が歪み、黒点が発生している。

 そこには、何もない。光も、闇も。

 それ故に、全てを吸引する。

 それが理であり、自然の摂理。

 

「《超融合》は、手札を一枚捨てることで発動する究極の融合カード。

 フィールドのモンスターを素材として、融合召喚を行う!」

「フィールド……?

 だが、貴様のフィールドには――」

「誰も僕のなんて言ってないよ。

 融合するのは、君達のモンスターさ!

 さあ、おいでよ!

 《ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン》!

 《RR(レイド・ラプターズ)-レヴォリューション・ファルコン》!」

 

 ――引き寄せられる。

 闇そのものが、渦を巻いていた。

 黒龍が吼える。

 ハヤブサが羽ばたく。

 だが、その声も、その翼も、黒い穴の前ではあまりに無力だった。

 世界の理をねじ曲げるような引力が、二体の巨体を無造作に引き裂き、溶かし、ひとつへと押し潰していく。

 

「反逆の牙持つ龍よ! 革命のハヤブサとひとつとなりて、新たな脅威を生み出せ!

 ――融合召喚!

 現れろ、飢えた牙持つ毒龍!

 レベル8! 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!」

 

 そこに現れたのは、獣でも竜でもない。

 飢えた獰猛さと、侵食する毒を併せ持つ、異形の龍だった。

 紫黒の鱗は濡れたように鈍く輝き、裂けた口元からは鋭い牙が覗く。

 まるで――

 相手の力を喰らい、自分のものへと変えてしまう。

 そんな、理不尽そのものを形にしたかのような龍であった。

 

「スターヴ、ヴェノム……」

 

 うわごとのように、ユートが呟く。

 その声は、か細いのに、やけに鮮明だった。

 心臓が、早鐘のように脈を打つ。

 同じように、ユーリもまた息を呑んでいた。

 獲物を狩る者の目。

 だがその奥には、どこか熱に浮かされたような光がある。

 

 鏡写しの決闘者達。

 二人の瞳に、禍々しい光が宿る。

 

「今こそ……一つに!!

 バトル!

 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》で、ダイレクトアタック!」

 

 スターヴ・ヴェノムが翼を広げる。

 紫黒の光が、その口元へと収束していく。

 それは、二人の切り札を素材に生まれた龍の、あまりにも歪な咆哮だった。

 

「遊……矢……」

 

 闇に呑まれる、最期の瞬間。

 ユートの口をついて出たのは、最も新しい好敵手(とも)の名前だった。

 

「君のデュエルで、世界のみんなに……笑顔を……」

 

ユート・黒咲

LP:1500 → 0

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

ユーリを描く上で絶対にやりたかったこと。
それは、《超融合》の演出強化です。

そこで考えたのが、ダークレクイエムを融合素材にするという展開。
ダークリベリオンの進化系、ユート単体での最強の切り札を、無慈悲にも素材にする。
ユーリ対ユート、ユートが敗北する展開は、執筆初期の頃……それこそスタンダード次元編の頃から考えていました。

ここで一つ問題にぶつかります。
「自分とそっくりなだけの、どこの誰とも知らんヤツが突然消えても、遊矢は何も感じないのではないか?」
この解決策が、ユートのランサーズ加入。
柚子のブレスレットによる転移回避のため、斥候ポジションに設置。(アニメでの月影枠)
シンクロ次元編は実質的に遊矢とジャックがメインなので、そこに焦点を当てるため+ブレスレット回避策として、遊矢を単独行動に。
エクシーズ次元編開始後、謎パワーによる転移で遊矢とユートで行動させ、絆を深める。
いい感じに仲良くなってきたところでユーリ襲来、ユート退場。(いまここ)

アニメでは遊矢とユートの関係性が深まる前に同一化してしまったため、
「遊矢がユートの退場をどう受け止めるのか」
という部分を補完したいと思いました。
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