遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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挑発者・沢渡シンゴ

 ◆

 

 舞網市はデュエルが盛んな大都市である。

 この都市の学生は一人の例外もなく、どこかしらの塾に所属している。

 例えば――

 フィールド魔法を背景に、黒い衣を纏った魔法騎士が構えている看板。

 

『デッキ破壊も立派な戦術。あなたも始めてみませんか?』

 

 そんなキャッチコピーと共に、おそらくはメインモンスターであろう昆虫族モンスターが描かれた看板。

 かの有名な骸骨のモンスターがお茶目に手を振っている看板。

 一つ一つ挙げるとキリがない。外を歩けば、多種多様なデュエル塾の看板がズラリと並んでいる。

 そして舞網市の中心には、天高くそびえるタワー。頂上には王冠のエンブレムと共に、『LDS』と書かれたロゴ。

 そんな大都市の一画。街を横切る大きな川沿いに、我らが遊勝塾の姿があった。

 

「何故だぁぁぁ!?」

 

 穏やかだった朝の遊勝塾に、修造の声が虚しく響いた。

 

「おかしい……これは絶対におかしい! ウチの遊矢は確かにあのストロング石島に勝ったはず! しかも、誰も見たことがない召喚法を使って! 話題性は抜群、上手くいけばあのLDSに並べるはずだったのに……! これじゃあ我が遊勝塾の経営がぁー!」

 

 修造は涙目になりながら頭を抱えている。

 現在、遊勝塾の塾生は娘の柊柚子、その幼馴染の榊遊矢の二人きり。完全に身内経営、塾としての機能はほぼないと言っていい。

 

「……はぁ。もう、お父さんったら」

 

 父の取り乱しようを見て、柚子は呆れたように溜息をつく。

 とはいえ、修造の言うことも尤もである。ストロング石島は、LDSのイメージキャラクターを務めるほどのプロだ。それを遊勝塾の榊遊矢が倒したとなれば、入塾者は殺到するはず。

 だというのに――まさかの希望者ゼロ。

 ゼロである。希望者はおろか見学者すらいない。閑古鳥が鳴きまくっている。

 

「……何か、理由があるのかもしれん」

 

 赤い鉢巻を巻いた巨躯の少年が、腕を組みながら静かに呟いた。

 

「権現坂……? 理由って、具体的には?」

「分からん。だが、親父殿の言葉には一理ある。

 先日のあれはLDSで行われたエキシビションマッチ。この舞網市に住む決闘者で、遊矢とストロング石島のデュエルを知らぬ者はいないはず。

 遊矢、何か心当たりはないか?」

「んー……さあ?」

 

 遊矢は考え込む様子もなく、手にしたパンケーキを頬張る。

 中身はミルフィーユカツ。朝食のパンケーキをアレンジしたもので、母のお手製だ。

 

「……おっ、意外といけるな」

「遊矢!」

「真面目に考えろ! お前達の塾の危機なんだぞ!」

「うっ――って、言われてもなあ」

 

 柚子と権現坂に詰め寄られ、遊矢はポリポリと頭をかいた。

 

「塾生がいようといまいと、俺のやることは変わらないさ。俺は父さんのエンタメデュエルを受け継いで、皆を笑顔にできる決闘者になるんだ。

 それに塾生が来ないのなら、もう一度俺がこの前みたいにエンタメデュエルを披露すればいいだけだろ?」

「それだぁぁ!!」

 

 遊矢の楽観的な提案に、うずくまっていた修造が跳ね起きた。

 

「そう、俺達は遊勝塾! 先輩の志したエンタメデュエルを受け継ぐ者達! エンタメデュエルの素晴らしさが伝わらなかったのなら、もう一度見せてやればいい!」

「――その“エンタメデュエル”ってやつが、偽物だって思われてるからだろ」

 

 第三者の思わぬ反論に、四人の視線が一斉に集まる。

 遊勝塾の入口。金髪の少年がドアに手をかけたまま、値踏みするように四人を見ている。

 

「えっ、誰?」

「ばか、決まってるだろ!

 ……ゴホン! えー、ようこそ我らが遊勝塾へ!

 入塾ですか!? それとも見学でしょうか!? どちらでも構いませんので、どうぞゆっくりしてってくださいね!」

「なワケねーだろオッサン」

「オッ……!?」

 

 崩れ落ちる修造。

 それに意も介さず、少年はズカズカと遊勝塾に足を踏み入れた。

 

「へえ、ここがあの遊勝塾か。噂通り、胡散臭え場所だな」

「貴様……一体何の用だ」

 

 権現坂が一歩前に出て、警戒の視線を向ける。

 

「確かここだろ? あのストロング石島を倒した決闘者の塾って。

 ええとなんだっけ……“ペテン召喚”、だったかな?」

 

 一瞬、場の空気が凍り付いた。

 その言葉は、はっきりとした侮辱だった。

 

「なに、それ……!

 見てもいないくせに、勝手なことを言わないで!」

「見たさ」

「っ……!」

 

 烈火のごとく食いかかった柚子に、少年は態度を崩さないまま答えた。

 

「リリース無しでのモンスター召喚。空から現れた地を駆けるドラゴン。

 そりゃあ確かに、生意気なくらい派手だったさ。でもそれだけだ。あんなもの、俺様に言わせりゃ、ただのペテンだね」

「言わせておけば――」

 

 権現坂はぐっ、と握り拳を作り、少年に反論した。

 

「あれは遊矢が窮地の末に見出した新たな戦術。それを見た上で否定するのは、遊矢への侮辱と同じこと!」

「まあまあ」

 

 これまで静観していた遊矢が割って入り、権現坂を静止した。

 

「えっと、よく分からないけど……要するに、君はデュエルをしに来たってことかな?」

「違うね。俺は、詐欺師の鼻を明かしに来たんだ。

 世間では噂になってるぜ? LDSの顔役が、得体の知れない召喚法に倒された。この塾は、その決闘者に挑戦できる場所だってな。ま、誇大広告にしてもいい度胸だな。

 本来なら俺が出るまでもない話だが、これじゃLDSの面目丸つぶれだ。だから市長の息子である俺様が、わざわざ来てやったってわけだ」

「んー……それはどうかな?」

「――あ?」

「ペテンかどうか、誇大広告かどうかは――実際にその目で確かめればいいだろ?」

 

 遊矢は少年の前に立ち、不敵に笑う。

 

「俺は榊遊矢。“ペンデュラム”召喚の使い手、遊勝塾のエンターテイナー。俺とデュエルだ、入塾生さん」

「沢渡シンゴ。舞網市市長の息子、LDSのスーパーエリート。いいだろう、案内してもらおうか」 

 

 ◆

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