遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子 作:名もなきWater
◆
「ふざけてんじゃねーぞ。ただのスパイ風情が、あんな風に笑うかよ」
「笑うさ。必要ならね。
……ま、いいや。君程度なら片手間で済むでしょ。
来なよ、沢渡。今度は、最初から本気でやろう」
「上等だぜ。その腐った笑顔を引っぺがしてやる」
「「
◆
レジスタンス拠点では、巨大な時計塔が聳え立ち――
離れた場所では、二対の龍が相対している。
今や戦場は、混沌の坩堝と化していた。
その片隅で、二人の決闘者が対峙している。
沢渡シンゴ。ランサーズ所属。
スタンダード次元。
デニス・マックフィールド。“元”ランサーズ所属。
融合次元。
かつて仲間だった者たちが、異なる陣営として相まみえる。
――それもまた、戦争の常。
「先行は貰うぜ!
俺はスケール1の《魔界劇団-デビル・ヒール》と、
スケール8の《魔界劇団-ファンキー・コメディアン》で、
ペンデュラムスケールをセッティング!」
沢渡が勢いよく、二枚のカードをセットする。
途端、彼の両隣に二つの柱が立ち上った。
柱の中心には、それぞれのモンスター……巨漢の黒い悪魔、ふくよかな黄色い悪魔が浮上する。
「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!
――ペンデュラム召喚!
現れろ、俺のモンスターたち!」
沢渡が手を掲げると同時、空中に光のゲートが開く。
「レベル4、《魔界劇団-ワイルド・ホープ》!
レベル7、《魔界劇団-ビッグ・スター》!」
テンガロンハットを被ったガンマン。
黒いスーツを纏った俳優。
二体の魔界劇団が、我先にと沢渡の元へ舞い降りた。
「ビッグ・スターのモンスター効果発動!
一ターンに一度、デッキから《魔界台本》を一枚選び、フィールドにセットできる!」
ビッグ・スターが指を鳴らした瞬間、何もなかった空中に辞書のように分厚い本が出現した。
「そして! 台本を読んだ《魔界劇団》は、その役を演じる!」
開かれたのは一ページ目。
淡い光が空へと打ち上り、弾けた。
降りしきる光は雨のように、沢渡のフィールドに降り注ぐ。
「《魔界台本「オープニング・セレモニー」》!
俺のフィールドの《魔界劇団》一種類につき500、ライフを回復する!」
沢渡
LP:4000→5000
「カードを一枚伏せて、ターンエンド!」
沢渡のターンが終了する。
モンスターが二体。
伏せカードが一枚。
ライフポイントの回復。
「――ははっ。相変わらずだねえ、君は。
ロマンチスト気取りのリアリストってところかな」
奇抜な外見とは裏腹に手堅い一手。それが沢渡シンゴという決闘者である。
こういう手合いはターンが長引くほど不利。
デニスは沢渡同様、手札から二枚を選び取った。
「僕はスケール2の《
スケール5の《
水の踊り子、火の人形。
二体のモンスターが天空へと浮上する。
「これでレベル3から4のモンスターが同時に召喚可能!
――ペンデュラム召喚!
レベル4、《
レベル4、《
デニスの場に舞い降りたのは、新たな二体。
炎の踊り子と、ステッキを持つ道化師。
「この瞬間、《
デッキから新たな《
召喚された一体――炎を操る踊り子がステッキを振るう。
「させねえよ!
罠発動、《メタバース》!」
しかし。
沢渡の罠が、それを遮った。
「こいつでデッキからフィールド魔法を発動するぜ!
舞台の名は――《魔界劇場「ファンタスティックシアター」》!」
沢渡がカードを叩きつけた瞬間、彼の背後に巨大な建物がせり上がる。
幻想的な光を放つ劇場、あるいはシアター。
殺風景な夜の戦場とそれは、皮肉なことに絶妙なコントラストが表れていた。
「ロマンチスト気取りのリアリスト。誉め言葉として受け取っておくぜ。
だろ? エンタメ決闘者、デニス・マックフィールド!」
「……笑わせるね。
劇場だかなんだか知らないけど、そんなハリボテじゃどうにもならないよ!
ファイヤー・ダンサー、効果発動!」
「無駄だっつってんだろ!
《魔界劇場「ファンタスティックシアター」》の効果発動!
ペンデュラム召喚された《魔界劇団》がいる限り、てめえが発動するモンスター効果は全て書き換えられる!」
「!?」
踊り子の炎が空を舞う。
しかし炎は、操り手の意志とは裏腹に、別の現象に書き換えられた。
炎ではなく、嵐。
嵐は、沢渡のフィールドへ一直線に突き進む。
――が、貫く対象はいない。
「――相手フィールドの裏側表示の魔法・罠を一枚破壊する。
だが、俺のフィールドに伏せカードはねえ。ファイヤー・ダンサーの効果は空振りに終わったわけだ」
「……面倒なカードを使ってくれるね。
相手の動きをガチガチに縛るなんて、エンタメらしくないんじゃない?」
「時と場合によるんだよ。
ここはシアター、劇場だぜ? 自分勝手な行動はNG。マナーを守って楽しく見てもらわないとなあ?」
「ふうん……それじゃあ仕方ない。シアターの“外”で好き勝手させてもらおうかな!
《
自分の場に《
「っ――!」
デニスの指示と同時に、水の踊り子がフィールドへ舞い降りた。
「ペンデュラム効果は魔法カードとして扱う。ファンタスティックシアターの効果は受けねえってことか……!」
「そういうこと。
さあて――お楽しみは、これからだ!
僕は、レベル4の《
デニスの足元に漆黒の空間が出現する。
踊り子たちはその中心へ。
炎と水。
相反する二つが混ざり合い、新たな姿を形作る。
「Show must go on!
天空の奇術師よ! 華やかに舞台を駆け巡れ!
――エクシーズ召喚!
現れろ! ランク4! 《
渦の中から飛び出したのは、一体の奇術師。
奇術師はマントを靡かせながら、空中ブランコと共に空を滑る。
「出やがったな、トラピーズ・マジシャン……!」
「バトル!
まずは《
両者のモンスターが攻撃を仕掛ける。
道化師の杖がガンマンを殴打し、ガンマンの射撃が道化師を貫く。
攻撃力は互角。二体は共に、粒子となって消滅した。
「チッ……だがこの瞬間、ワイルド・ホープの効果発動!
デッキから新たな《魔界劇団》を手札に加えるぜ!」
「バトルはまだ続いているよ!
行け、トラピーズ・マジシャン! ビッグ・スターに攻撃!」
奇術師が空を滑り、
一番星が跳躍した。
二つの影が空中で交差し――
次の瞬間、二体は同時に消滅した。
「っ……ビッグスターは次の俺のターン、ペンデュラム召喚によって甦る。自分のエースを犠牲にしてまでやることかよ……!」
「でもそのおかげで、君のフィールドに《魔界劇団》はいなくなった。これでモンスター効果が使えるってわけさ。
トラピーズ・マジシャンの効果発動!
戦闘で破壊された時、デッキから新たな《
僕が呼ぶのは――《
現れたのは、竹馬のような杖を持つ魔法使い。
「さらに、《
《
続けて、ペンデュラムゾーンに浮上していた残り一体が、地上へ舞い降りた。
デニス
LP:4000→3500
「モンスターが途切れねえ……だが、こっちも負けてねえぜ!
手札から《魔界劇団-メロー・マドンナ》の効果発動!
ペンデュラムモンスターが戦闘で破壊された時、手札から特殊召喚できる!」
「!」
沢渡も負けじとモンスターを召喚する。
黒いドレスを纏った、桃色の髪の女優。
守備力は2500。
攻撃力2200のスティルツ・シューターでは、メロー・マドンナを突破できない。
「けっこう粘るねえ……ま、いいよ。それならバトルは中止だ。
カードを一枚伏せて、ターンエンド!」
「俺のターン!」
沢渡が空を指差す。
その先には、光の門。
「――ペンデュラム召喚!
EXデッキから現れろ! 《魔界劇団-ビッグ・スター》!」
虹彩の門が開き、その奥から再びスターが現れた。
「スターとマドンナ! 魔界劇団のツートップが揃い踏み!
さらにビッグ・スターは、一ターンに一度、デッキから《魔界台本》を呼び出す!
選ばれたのは――《魔界台本「魔王の降臨」》!」
「そのカードは……」
「そういや、前のデュエルでも見せたよな? 今回こそきっちり演じさせてもらうぜ?」
ニヤリと笑う沢渡。
《魔界台本「魔王の降臨」》が発動すれば、デニスのフィールドのモンスターを一掃できる。
だが――
「いーや、そうはいかないなあ」
それを許すデニスではない。
「罠発動! 《つり天井》!
フィールドの表側表示モンスターを、全て破壊する!」
「んだとぉ!?」
遥か頭上に、巨大な天井が出現した。
表面に張り付いた無数の棘は、飢えた獣の牙のように、鋭く輝いていた。
「待っ――」
静止の声も空しく、天井が落下する。
ビッグ・スター、メロー・マドンナ。
スティルツ・シューター、ヒグルミ。
敵味方を問わず、《つり天井》は全てのモンスターを粉砕した。
「《つり天井》の発動条件は、『フィールドにモンスターが四体以上存在すること』
君がビッグ・スターを召喚してくれたお陰で条件を満たせたよ。
でも、それだけじゃない! ビッグ・スターが消えたことで、ファンタスティックシアターの効果は無効となり、僕のモンスター効果が復活する!
《
このカードが破壊された時、デッキから《
来い! 《
黒い塊が出現する。
魔法使いの帽子を被った、爆弾型のモンスターだった。
「フレイム・イーターの効果により、お互いに500ポイントのダメージを与える!
そして、墓地のスティルツ・シューターの効果も発動!
効果ダメージに連鎖して、相手に2000ポイントの追加ダメージを与える!」
「に、2000ポイントだと……!?」
フレイム・イーターの口から火球が放たれる。
続けざま、スティルツ・シューターの影が出現し、沢渡に突撃した。
沢渡
LP:5000 → 2500
デニス
LP:3500 → 3000
「っ……くそ、ライフを逆転されちまった。
カードを一枚伏せて、ターンエンド!」
「僕のターン!」
現在、沢渡のフィールドにモンスターはいない。
《
攻撃力1300以上のモンスターを召喚できれば、ダイレクトアタックで勝負は決まる。
「だけど、それじゃあちょっと物足りないよね。ということで――
魔法カード発動! 《
フィールドおよび墓地から融合素材となるモンスターを除外して、魔法使い族モンスターを融合召喚する!
僕が融合するのは、墓地の《
二体の《
紅と蒼の光は一つに溶け合い、眩い魔法陣へと吸い込まれた。
「炎を操る踊り子よ! 水の踊り子と溶け合い、天空を駆る新たな魔女となれ!
――融合召喚!
現れろ! レベル7、《
空を舞うは、青い衣装を纏う魔女。
サーカスの演者さながらに宙を舞い、ステッキを沢渡へ向けた。
「……そいつがてめえの、融合次元としてのエースかよ」
「そんなところかな。
かつての仲間との決別として、融合モンスターで止めを刺す。このデュエルの幕引きに相応しいと思わない?」
「一つの結末としてはアリかもな。
だがな……演劇の台本ってのは、その時々で変化するもんだ。結末を見通すことなんざ誰にもできねえ」
「じゃ、確かめてみようか。
――バトル!
行け、フレイム・イーター! トラピーズ・フォース・ウィッチ! プレイヤーにダイレクトアタック!」
フレイム・イーターが火球を吐き出す。
それと同時に、トラピーズ・フォース・ウィッチがステッキを振るう。
虹色の魔力が渦を巻き、フレイム・イーターの爆炎と共に沢渡へ襲い掛かった。
「永続罠発動! 《ペンデュラム・スイッチ》!
一ターンに一度、ペンデュラムゾーンのモンスターを特殊召喚できる!
現れろ! 《魔界劇団-デビル・ヒール》!」
頭上のペンデュラムゾーンが輝く。
空中に待機していたデビル・ヒールが、舞台へ飛び降りるように沢渡の前に着地した。
「この瞬間、デビル・ヒールのモンスター効果発動!
召喚したターンの終了時まで、相手モンスター一体の攻撃力を1000ポイントダウンさせる!
選ぶのは当然、トラピーズ・フォース・ウィッチ!」
デビル・ヒールが不敵に笑う。
黒いオーラが魔女を包み込み、その魔力が急速に萎んでいく。
「……へえ」
トラピーズ・フォース・ウィッチの攻撃力は1400。
たとえモンスター効果を使っても、デビル・ヒールは倒せない。
「意外とやるねえ。
僕はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」
「俺のターン!
俺は、セッティング済みのスケール8の《魔界劇団-ファンキー・コメディアン》と、
スケール3の《魔界劇団-エキストラ》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」
エキストラが宙へ舞い上がる。
二つ目のペンデュラムゾーンに収まり、眩く輝いた。
「これでレベル4から7のモンスターが同時に召喚可能!
――ペンデュラム召喚!
もう一度舞台へ上がれ! 《魔界劇団-ビッグ・スター》!」
再び舞台の幕が上がる。
幾度倒されようと主役は帰ってくる。ビッグ・スターが堂々と姿を現した。
「またそのモンスターかい? 本当に好きなんだねえ、それ」
「てめえからすれば、売れない三流役者に見えるかもしれねえがな。
天に輝く一番星。即ちビッグ・スター!
見せてやるぜ。こいつにしかできねえ、唯一無二の輝きを!
ビッグ・スターの効果発動!
一ターンに一度、デッキから《魔界台本》を一冊呼び出す!」
ビッグ・スターの手元に、新しい本が現れた。
ページが開く。
描かれていたのは、火山の地図と宝の在り処。
「次なる演目は、《魔界台本「火竜の住処」》!
こいつをデビル・ヒールを対象に発動!
スターの依頼を受けたヒールは一時休戦! まだ見ぬ強敵を討つため、共同戦線を張るぜ!
バトルだ!
行け、デビル・ヒール! フレイム・イーターに攻撃!」
火竜の住処の景色が舞台を覆う。
――《
デビル・ヒールはトラピーズ・フォース・ウィッチを一瞥すると、その脇を駆け抜け、フレイム・イーターへ飛び掛かった。
悪の拳が炸裂する。
爆弾型の魔物は小さく悲鳴を上げ、そのまま爆散した。
デニス
LP:3000→1200
「くっ――!」
「デビル・ヒールがバトルで勝利した時、墓地から《魔界台本》をセットできる!
俺は《魔界台本「オープニング・セレモニー」》をセット!
さらに、《魔界台本「火竜の住処」》の効果発動! 相手はEXデッキからモンスターを三体除外する!
火竜討伐の報酬ってとこだな。
さあデニス! EXデッキからモンスターを除外しな!」
「やってくれるね。僕のデッキの要は融合とエクシーズ。EXデッキそのものを破壊されるのはちょっと困るなあ。
――でも、仕方ない。
それじゃあ僕は、この三枚を除外するよ」
「――な」
一枚目――《
二枚目――《
三枚目――《
デニスが公開したのは全て、見慣れない猟犬の融合モンスターだった。
「てめえ……なんだよそのカードは!」
「何って、見て分からない?
僕のデッキの《
ま、ぜーんぶ除外されちゃうんだけど」
「んなこと言ってんじゃねえ! なんでてめえのデッキにそんなカードが入ってやがる!」
何故――デニスのデッキに、侵略の象徴とも言える《
デニスの得意とする《
邪魔になるだけだ。
「――酷い言い様だな。まるで《
「は……?」
一瞬。
デニスの顔から、一切の笑みが消えた。
朗らかな笑顔は当然として――嘲笑の笑顔すら、ない。
「カードに罪はないよ。重要なのは使い手だ。遊矢とクロノス先生のデュエルを見て、君は何も学ばなかったのかい?」
「――――」
再度、沢渡は言葉を失った。
――見えた。
デニス・マックフィールドの根本。
侵略者などとは程遠い。
誇り高き決闘者としての矜持。
「――いや。確かにその通りだ。今の発言は取り消すぜ」
沢渡に反論はない。
今の主張を……徹頭徹尾、デニスが正しいと感じたのだ。
「……だがよ。だからこそ、ますます分からねえ。
てめえみたいな決闘者が、なんで融合次元にいやがる」
「素直に言うと思う? ま、このデュエルに勝てたら教えてあげなくもないかな」
「チッ……ま、そう言うと思ったけどな!
バトルを続行するぜ!
やれ、ビッグスター! トラピーズ・フォース・ウィッチを攻撃!」
ビッグ・スターが跳躍する。
「罠発動! 《トリック・ボックス》!」
その直後、デニスの罠が発動した。
「な、なんだ!?」
「脱出マジックさ。世紀の大俳優にはお手の物だろ?」
沢渡とデニス、それぞれの背後に置かれた箱がゆっくりと開く。
デニスの箱から現れたのはビッグ・スター。
沢渡の箱から飛び出したのはフレイム・イーターだった。
「《トリック・ボックス》によりこのターンの終了時まで、ビッグ・スターは僕のモンスターとなる! その代わりに君のフィールドには、僕の墓地から《
そして、フレイム・イーターの効果が発動! お互いに500ポイントのダメージを与える!」
フレイム・イーターが甲高い笑い声を上げる。
次の瞬間、小さな身体が爆ぜ、爆炎が二人を包んだ。
沢渡
LP:2500→2000
デニス
LP:1200→700
「くそっ……フレイム・イーターの攻撃力じゃ、ヤツのモンスターには敵わねえ。バトルは中止だ。
だが俺は、デビル・ヒールが回収した《魔界台本》を発動するぜ!
《魔界台本「オープニング・セレモニー」》!
こいつで俺のライフを回復する!」
舞台に紙吹雪が舞い、沢渡のライフが回復していく。
沢渡
LP:2000→2500
「……よし。俺はこれで、ターンエンド!」
《トリック・ボックス》が音もなく消滅する。
ビッグ・スターとフレイム・イーターは、それぞれ元の陣営へと戻っていった。
「融合モンスターは仕留めそこなったが、状況は俺が優勢! このまま一気に決めさせてもらうぜ!」
「んー、それはどうかなあ?
僕だって一応、アカデミアで育った決闘者だ。劣勢を引っ繰り返す奇跡のドローこそ、僕らの本懐ってものさ!
――僕のターン、ドロー!」
デニスは静かにカードを引き抜く。
その口元には、なお余裕の笑みが浮かんでいた。
「――引いたよ。
僕は装備魔法《ワンダー・ワンド》を発動!
フレイム・イーターに装備し、攻撃力を500ポイントアップする!」
「フレイム・イーターに……? 攻撃力が低いモンスターに装備させて、どうするつもりだよ」
「ビッグ・スターはペンデュラムモンスターだからね。さっき君が言った通り、倒しても次のターンには戻ってくる。
だったら、更なるドローに掛けるべきだろ?
《ワンダー・ワンド》の効果発動!
装備したモンスターとこのカードを墓地に送り、カードを二枚ドローする!」
《ワンダー・ワンド》が眩く輝く。
フレイム・イーターは笑みを浮かべたまま光へと還り、その輝きがデニスのデッキへ吸い込まれる。
デニスは迷いなく、二枚のカードを引き抜いた。
「なんだ……何を引いた……?」
引いた二枚を確認したデニスが、小さく肩をすくめる。
「……やれやれだよ。
なんだかんだ言って、君とのデュエルの幕を引くのは、これみたいだ」
「何ッ……!?」
沢渡の脳裏に思い浮かんだのは、あの一体。
空中ブランコの奇術師――その先の姿。
「行くよ、沢渡。
僕は《
甦れ、トラピーズ・マジシャン!」
墓地から奇術師が舞い戻る。
しかし、その姿はすぐさま光へと変わり、漆黒の渦へ吸い込まれていく。
「Show must go on!
天空の奇術師よ! もっと華麗に、もっと鮮烈に、更なる大舞台を駆け巡れ!
――ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!
現れろ、ランク5! 《
闇を切り裂くように、一人の奇術師がマントを翻して現れた。
純白のシルクハットへ静かに手を添え、悠然と宙へ浮かび、静止した。
「っ――だが、まだだ!
ビッグ・スターがいる限り、ファンタスティックシアターの効果で、てめえのモンスター効果は封じられている!
そして、デビル・ヒールの攻撃力は3000! いくらそのモンスターでも、この布陣は突破できねえ!」
《
単純な力では、デビル・ヒールには敵わない。
「と、思うじゃん?」
だが――
「でもね、それを可能にするのが奇術師ってものさ!」
デニスの手札には、その先が用意されている。
「速攻魔法発動! 《エクシーズ・インポート》!
トラピーズ・ハイ・マジシャンの攻撃力以下の相手モンスターを、オーバーレイ・ユニットとして吸収する!
僕が選ぶのは当然、《魔界劇団-ビッグ・スター》!」
「何っ!?」
奇術師が指先を鳴らす。
ビッグ・スターの身体は光へと分解され、奇術師の周囲を巡る光球へと姿を変えた。
「これでモンスター効果は使用可能となった!
トラピーズ・フォース・ウィッチは《
そして、トラピーズ・ハイ・マジシャンの効果発動!
オーバーレイ・ユニットを一つ使うことで、このターン、三回攻撃が可能になる!」
「三回攻撃、だと……!?」
光球が弾ける。
降り注ぐ光は、まるでスポットライトのように奇術師を照らす。
――沢渡の場には、永続罠《ペンデュラム・スイッチ》がある。
これを使えば、ペンデュラムゾーンのモンスターを壁として召喚することが可能。
だが、それでも防げるのは二回まで。
三回目は、防げない。
「バトル!
行け、トラピーズ・ハイ・マジシャン!
《魔界劇団-デビル・ヒール》に攻撃!」
攻撃宣言を合図に、二体が一斉に飛び掛かった。
「この瞬間、トラピーズ・フォース・ウィッチの効果発動!
デビル・ヒールの攻撃力が600ダウンする!」
魔女がステッキを振るう。
紫の魔力がデビル・ヒールへ絡み付き、その身体が重く沈んだ。
次の瞬間、奇術師の一撃が炸裂する。
デビル・ヒールは豪快に吹き飛ばされると、芝居の幕引きのように光となって消え去った。
沢渡
LP:2500→2200
「っ――」
沢渡の視線が、奇術師を捉える。
「さあ、これでフィニッシュだ!
トラピーズ・ハイ・マジシャン、沢渡にダイレクトアタック!」
奇術師がマントを翻し、軽やかに宙を舞う。
沢渡の頭上を飛び越えると同時に振り返り、指先から放たれた魔力が一直線に貫いた。
沢渡
LP:2200→0
◆
「ちっ……っくしょう」
ペンデュラム召喚による展開。
フィールド魔法による制圧。
魔界台本によるEXデッキ破壊。
現状、沢渡が持ちうる全ての戦術。
それでなお、届かない。
デニスは沢渡を策を巧みに掻い潜り、勝ち筋を通した。
「さーて、と」
――実際のところは、デニスとしても間一髪だった。
だがデニスは、それをおくびにも出さない。
「それじゃあ沢渡……覚悟してよね。
ここは戦場。ぬるま湯のスタンダード次元とは違う。
戦場での敗北が何を意味するか、その身をもって知ってもらうよ」
「っ――」
沢渡が、デニスを睨む。
抵抗する力は残っていない。
それでも、その意志はまだ生きていた。
「……負けるつもりはなかったんだけどな。
ま、最悪の結果は避けられたからヨシとするか」
「? 最悪の結果?」
デニスの手が止まる。
「デュエルに負けてカードにされる。これ以上の最悪があるとは思えないけどなあ」
「まあ、そうだな。
俺はデニスに負けた。
――エンタメ決闘者、デニス・マックフィールドにな」
「――――」
デニスの表情が消える。
対照的に、沢渡は笑う。
それは――デュエルに負けたとは思えないほどに、不敵な笑みだった。
「今のデュエルで確信したぜ。やっぱてめえは、根っからのエンターテイナーだ。スパイ、なんてつまらねえもんじゃねえ。だからまあ、俺に取っちゃ及第点だ」
沢渡シンゴは、エンタメ決闘者としては新米だ。
デニスとは年季が違う。
自分より遥か格上のエンタメ決闘者。
それに負けるのならば――死ぬほど悔しいが――それはそれとして、仕方ないと割り切れる。
「御託はいいよ」
デュエルディスクが起動する。
「じゃあね、沢渡。
思ってた通り、君とのデュエルは退屈だったよ」
戦場では結果が全て。
――退屈だった。
塗りつぶすように、言い聞かせるように、デニスはそう言った。
◆
「っ!」
――投擲。
鋼を引き裂く一投が、デニスへと襲い来る。
デニスは反射的にデュエルディスクを盾にして、それを防いだ。
同時に、沢渡から距離を取る。
――しまった。
勝利の油断から、周囲への警戒をおろそかにした。
敵の接近を許してしまった。
現在、この戦場では三つの勢力が動いている。
一つ、エド・フェニックス率いるアカデミア。
二つ、カイト率いるレジスタンス。同行者数名。
そして三つ――赤馬零児率いるランサーズの別動隊。
「……随分と速い到着だね」
デニスはゆっくりと、乱入者へと視線を移す。
黒いコート、黒いデュエルディスク。
鋼の意志を宿す、鋭い眼光。
「こんばんは、黒咲。とはいっても、さっきぶりかな」
黒咲は沢渡を一瞥すると、その前へ静かに歩み出た。
まるで背後を気にも留めないように、デニスとの間へ立ちはだかる。
「……よう。誰かと思えば、ランサーズの新入りじゃねえか。しばらく姿を見せなかったのはどういう了見だ?」
「――チッ」
不愉快さを隠そうともしない舌打ちに、沢渡は頬を引きつらせた。
「てめえ……」
「分かっている。説明なら後でしてやる」
向けられた抗議の視線を、黒咲はうんざりした様子で受け流す。
そして――
「――ヤツを、倒した後でな」
射抜くような視線が、デニスへと向けられた。
「な……なんだ、あいつ」
沢渡は眉を顰めた。
黒咲隼は同じ組織に属しているだけで、自分達とは一切関わろうとしてこなかった。
仲間意識など皆無。連携、チームワークなど以ての外。
だが、今は違う。
黒咲は一歩も退かず、沢渡を背に庇っている。
黒咲隼は――沢渡シンゴを、守ろうとしている。
「これは意外な展開。あんなにランサーズを毛嫌いしていた君がねえ……。
……僕達に負けたのがよっぽど堪えたのかな?」
プライドを刺激する一言。
「そうだな」
しかし。
返ってきた答えは、至って簡素なものだった。
「俺は必ず瑠璃を奪い返す。
だが……それは今ではない。
ランサーズとレジスタンス。短い期間とはいえ、どちらも俺が所属していた組織。これ以上、俺のものが奪われるのは看過できん」
黒咲は、投擲したカードをデッキに収めた後、デュエルディスクを展開した。
「選べ、デニス・マックフィールド。
大人しく撤退するか。
それとも――この場で俺に倒されるか」
「……これまた意外。撤退するって言ったら見逃してくれるんだ?」
「ああ。貴様は瑠璃を攫った敵だが、所詮はスパイ。真の敵は他にいる。
貴様のような雑兵に固執している暇はないということだ」
黒咲は、あくまでも冷静だった。
感情ではなく、戦況を優先していた。
「……やれやれ。随分と丸くなったものだね」
軽口を叩きながら、デニスは距離を取る。
……空は既に白みがかっている。
タイムリミット。
これ以上戦えば、レジスタンスは更なる増援を呼ぶだろう。
「じゃ、今回はお言葉に甘えて撤退しようかな。二連戦で流石に疲れたしね。
――それでは諸君、アディオス! 次は融合次元でお会いしましょう!」
デニスは懐から一枚のカードを取り出し、デュエルディスクにセットした。
瞬間、二人の視界が真っ白に染まる。
残されたのは二人のみ。
戦いは終わり、戦場は静けさを取り戻しつつあった。