遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子 作:名もなきWater
しばらくの間、目が離せなかった。
自分と同じ顔。
それでいて、まるで違う表情。
――ここまで、印象が違うものなのか。
「待って、遊矢!」
「え――」
聞き覚えのある声に振り返る。
そこにいたのは、柊柚子。
「柚子!? どうしてここに……!」
「だって遊矢、何か思い詰めたみたいだったから。
それより――」
柚子の視線が動く。
向こうには、俺と同じ顔の少年。
「あの人……誰?」
「分からない。でも、普通じゃないってのは分かる」
そして……あいつの狙いが俺だってことも。
「柚子は離れててくれ。あいつとは、俺が戦う」
「……いいえ。それは、いや。
さっきのタッグデュエルでも言ったでしょう。私だって、遊矢の隣で戦える」
柚子の目は、本気だった。
戦うと決めた決闘者の目。
……頼もしいと言えば、頼もしい。他の決闘者が相手だったなら、悩む間もなく頼っていただろう。
だけど、今回ばかりは違う。
この相手だけは、俺が倒さなきゃいけない。きちんと説明はできないが、そんな想いが俺の中に芽生えていた。
「……遊矢」
柚子が何かを言いかけた、その時。
赤い光が、視界を遮った。
「え……?」
柚子が自分の手首を見下ろす。
光源は、柚子がつけているブレスレット。
ただ光っているだけではない。脈打つように明滅しながら、次第にその輝きを強めていく。
「柚子、それ……!」
「眩しいな……邪魔だよ」
次の瞬間。
「きゃっ!?」
柚子の手首が弾かれた。
ブレスレットから放たれていた光が、一瞬にして消え失せる。
「柚子!」
駆け寄ろうとした俺を、彼女は手を振って制した。
「だ、大丈夫。今の、何……?」
分からない。
何が起きたのか。どうしてブレスレットが光ったのか。そして、何故光が消えたのか。
ただ一つ、確かなことがあった。
――これは、あいつがやった。
「……柚子。下がっていてくれ」
「遊矢?」
「頼む。あいつとは、俺が戦う」
少年は笑っていた。
心の底から、本当に嬉しそうに。
「初めましてだね。僕の名前はユーリ。
どういう人間かは……その様子だと、もう分かってるみたいだね」
ユーリ。その名乗った少年は、ニタリ、と笑みを強める。
「君だって感じてるはずだよ。
胸の奥底で、胎動する何か。その何かが、目覚めそうな感覚をさ」
「っ……!」
「でも、欠けている。ピースが足りないパズルみたいに、気持ち悪い空白がある。僕は、それを埋めに来たんだ」
ユーリが、デュエルディスクを展開する。
「さあ、僕とデュエルしよう。
そして――今こそ、一つになろう。さあ――さあ!」
ユーリは両手を広げ、狂気に染まった瞳を向ける。
まるで羽虫を誘う食虫花。だが、応じるわけにはいかない。
確信があった。こいつと戦えば、取り返しのつかない何かが起きると。
「断る。俺は、お前とデュエルなんてしない」
「またまた、強がっちゃって。君といい彼といい、みんな素直じゃないよね」
「……彼?」
「そう。ほら、もう一人いたでしょ?
僕達と同じ顔の決闘者がさ」
「なっ――」
脳裏に浮かんだのは、もう一人の人物。
「まさか……ユートのことか!?」
「他に誰かいる?
いやー、それにしても凄かったよ、彼。
本当に――本当に、“強かった”」
「強……“かった”?
どういう意味だ、それ……!」
「知りたかったら、僕とデュエルしてよ。
大丈夫。どんな相手でも、デュエルをすれば分かり合える。
双子の姉妹。
エリート教師。
レジスタンス。
君はこのエクシーズ次元で、そうやって頑張ってきたはずだよ。今回も同じ。
エクシーズ次元の僕に続いて、スタンダード次元の僕。本当に楽しみだ。
楽しみだけど――その分、ハードルも上げていくからね」
背筋に寒気が走る。
ユーリという決闘者のプレッシャーに押しつぶされそうになる。
だけど、引くわけにはいかない。
もう一人の自分――ユート。
あいつの姿をしばらく見ていない。もしもその原因が、こいつなのだとしたら。
「分かった。お前とのデュエル、受けてやる」
答えは決まっていた。
デュエルディスクを展開し、もう一人の自分を見据える。
「へえ……いいね。凄くいい顔になったよ、君」
「っ……行くぞ!」
「「
◆
「先行は俺だ!
俺はスケール6の《
フィールドの両サイドに光の柱が立ち上る。
それぞれの柱の中心には、モンスター。ギターを模した亀と、音楽家の悪魔。
「ギタートルのペンデュラム効果により、俺はカードを一枚ドロー!
そして、レベル2から5のモンスターが同時に召喚可能となった!」
「ふうん。まずはお手並み拝見ってこと?」
「まだだ!
手札から永続魔法《魂のペンデュラム》を発動!
一ターンに一度、両サイドのペンデュラムスケールを1変更できる!
ギタートルのスケールを、6から7へ!
バロックリボーのスケールを、1から2へ変更!」
柱に刻まれた数値が変わる。
これでレベル3から6のモンスターが召喚可能となった。
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のレベルは7。ペンデュラム召喚するには、もう一段階スケールを上げなければならない。
ならば――!
「――ペンデュラム召喚!
手札から現れろ! 《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》!」
白い装甲に身を包む、深紅の竜。
長い尾をしならせながら、鋭い爪を持つ四肢と、刃のような白い突起を並べた翼を広げていた。
「ペンデュラム召喚に成功したことで、《魂のペンデュラム》にカウンターが一つ乗る。
そして俺はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」
守備力2400の《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》と、伏せカードが一枚。
フィールドは万全だ。このターンは守りに徹し、次のターンで反撃に出る。
「
でもいいよ、彼もそうだったし。力尽くで本性を引っ張り出してあげる!
僕のターン!
僕は《
ユーリの傍らに、黄緑色の体を持つ、爬虫類めいた植物が現れた。
「サンデウキンジーの効果発動。このカードと手札のモンスターを素材として、融合召喚を行う!」
さらにもう一体――《
その直後、二体の植物が渦を巻いて混じり合い、新たな影を象った。
「魅惑の香りで虫を誘う、二輪の美しき花よ!
今ひとつとなりて、その花弁の奥の地獄から、新たな脅威を生み出せ!
――融合召喚!
現れろ! レベル7、《
幾本もの太い蔓を絡み合わせた、緑色の植物。
鮮やかな桃色の花弁。中心には無数の牙を備えた円形の口が覗いている。蔓の先端にはハエトリグサを思わせる捕食器官が備わっており、口腔からは鋭い牙を覗かせていた。
「覚悟はいいね?
キメラフレシアの効果発動! 一ターンに一度、キメラフレシアのレベル以下のモンスターを除外する!」
無数の触手のうち、一本が蠢く。
「そうはさせない! 《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》の効果発動!
一ターンに一度、
次の瞬間、竜の咆哮が轟いた。
触手の動きが止まる――だが。
「ふーん、じゃバトルだ。
キメラフレシア、《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》を攻撃!」
「っ……!」
――次の攻撃は、防げない。
ハエトリグサを模した二本目の触手が迫り、竜を一飲みで葬った。
「守備表示だからダメージは無し。そして次のターンには、ペンデュラム召喚による復活。実際に相手すると厄介極まりないね、それ。
ま、いいや。僕は、カードを二枚伏せてターンエンド」
伏せカードと共に、ユーリのターンが終わる。
「……行くぞ! 俺のターン!
《魂のペンデュラム》の効果で、ギタートルとバロックリボーをスケールを変更!」
ギタートルのスケールは7から8へ上昇。
バロックリボーのスケールは、2から1へ減少する。
「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!
準備は整った。見せてやる、お望みのドラゴンを!」
ユーリが笑みを強める。
……誘われているのは分かっている。
だが、勝つためには使うしかない……!
「揺れろ、魂のペンデュラム!
天空に描け、光のアーク!
――ペンデュラム召喚!
現れろ、俺のモンスターたち!」
掲げた腕に呼応し、光の軌跡が大きく揺れる。光は幾重にも重なり、やがて円を描きだす。
その奥から、二つの光がフィールドに降り立った。
「EXデッキから、《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》!
そして、手札から現れろ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」
一体はオッドアイズ・ペルソナ。
そしてもう一体。
赤い装甲が光を弾き、黄金の角が鮮烈に輝く。胸部に宿る青い宝玉が脈打ち、左右で異なる眼が、眼下の戦場を見据えた。
二体は大地を踏みしめ、高らかに咆哮を上げた。
「――うっ!?」
呼応したかのように、胸が脈を打つ。
……ユーゴの時と、同じだ。
「あー……ははは。やっぱりそうだ。君のドラゴンも、僕のと同じってこと……!
さあ、来なよ! 君のドラゴンで、僕のモンスターを倒してみてよ!」
「っ……ペンデュラム召喚に成功したことで、《魂のペンデュラム》にカウンターが追加される。
そしてその数により、俺のペンデュラムモンスターは、攻撃力がアップする!」
カウンターは二個。一つにつき、上昇値は300。
よって《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は3100に。《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》は1800に上昇する。
「さらに、オッドアイズ・ペルソナの効果発動! キメラフレシアの効果を封じる!」
再度、仮面の咆哮が轟いた。キメラフレシアの動きが止まる。
「バトルだ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《
――“螺旋のストライク・バースト”!」
二色の眼が輝くと同時、螺旋を描く炎がキメラフレシアを呑み込んだ。
そして――《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は、モンスターとの戦闘で発生したダメージを二倍にする。
ユーリ
LP:4000 → 2800
「まだ終わらない!
《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》で、ダイレクトアタック!」
「そうはいかないよ!
僕は手札から《
ダイレクトアタックを受ける時、手札から特殊召喚できる!」
召喚されたのは、アリを模した植物。
キメラフレシアに比べると明らかに貧弱。攻撃を防ぐだけの壁モンスターのようにも見えるが――
「攻撃力100のモンスターを攻撃表示……?」
不可解だったのは、その表示形式。攻撃を防ぐなら、守備表示が定石のはずだ。
「どうしたの? ほら、攻撃してきなよ。大ダメージを与えるチャンスでしょ?」
……ユーリは笑っている。どこまでも愉快そうに。
明らかに罠。攻撃を誘われている。
……だとしても、ここで引くわけにはいかない。
こいつは、ユートをカードにした決闘者かもしれないんだ……!
「バトルを続行する!
やれ、《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》!
――“
「罠発動! 《パワー・ウォール》!」
ユーリは罠を発動させると同時に、デッキの上からカードを引き抜いた。
枚数は四。それを――あろうことが、空にばら撒いた。
「なっ――」
四枚のカードが砕け散り、バリアへと姿を変える。間髪入れず竜のブレスが放たれ、それらを粉々に破壊した。
しかし、ライフに変化はない。
「《パワー・ウォール》はデッキの上からカードを一枚捨てる度、僕が受ける戦闘ダメージを500減らす罠カード。
僕が捨てたのは四枚。よって、2000ポイント分のダメージを軽減したってことさ。
でも、それだけじゃない。
セラセニアント、二つ目の効果を発動! 戦闘を行った相手モンスターを破壊する!」
「何っ!?」
ペルソナの全身に亀裂が走る。
次の瞬間、仮面はガラス片のように砕け散った。
「そして、三つ目の効果。デッキから《プレデター》と名の付くカードを一枚、手札に加える。
はい、これで準備は万全。早くターンを終えなよ。次のターン、面白いものを見せてあげるからさあ」
「っ――」
面白いもの。そう言われて思い浮かぶのは一つだけ。
傍らに立つオッドアイズを見る。
俺にはオッドアイズ。
ユーゴにはクリアウィング。
ユートにはダークリベリオン。
だったら……こいつにだって、いるはずだ。とっておきの融合モンスターが。
「……俺はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」
だけど、対抗策はある。
「僕のターン!
このスタンバイフェイズ、墓地のキメラフレシアの効果発動! デッキから《融合》または《フュージョン》カードを手札に加える!
僕が選ぶのは装備魔法《再融合》!
そして、《再融合》を発動! ライフを800払い、墓地から融合モンスターを特殊召喚し、このカードを装備する!」
ユーリ
LP:2800 → 2000
――ここだ!
「罠発動! 《次元障壁》!
融合、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラムの内、いずれかを選択する! このターン、選択されたモンスターが召喚できず、効果も無効化される!
俺が選ぶのは当然、融合モンスター!」
《再融合》が不発に終わる。
これでキメラフレシアは勿論、他の融合モンスターも召喚できなくなった。
つまり、あいつのドラゴンも召喚できない。
「……なるほど。融合次元対策のカードも備えてたってワケ。流石はスタンダード次元の僕、勤勉だね。
だけど、一手甘い」
……なんだ、この余裕。
《次元障壁》によってこのターン、あいつは融合モンスターそのものを封じられている。そして、こっちにはオッドアイズがいる。どう考えても俺が有利のはず。
……そのはずなのに、何かが違う。
「どうしてか分からないでしょ? 答えはすぐにわかるよ。
魔法カード、《
召喚されたのは、ウツボカズラのような、怪物然としたモンスター。
「続いて僕は、《
次は、ハエトリグサの口を持つ恐竜。
「――これで準備は整った。
そろそろ分かるよね? 僕が何をしようとしているか」
フィールドに出た二体を見る。
どちらもレベル4の下級モンスター。オッドアイズを倒せる効果もない。《次元障壁》によって融合モンスターも封じられている。
この状況であいつにできることなんて――
「――待て」
――ある。
下級モンスターが、二体。
レベル4のモンスターが、二体。
「――まさか」
「くく……あははは!
ご名答! 流石、沢山の召喚法を操るだけあるね! それじゃあ、答え合わせと行こうか!」
ユーリが腕を掲げる。
同時に――ヤツの足元に、漆黒の空間が出現した。
「僕は、レベル4のモーレイ・ネペンテスと、スピノ・ディオネアでオーバーレイ!」
その中心へ、二体のモンスターが吸い込まれる。
――そう、これだ。
今まで何度も見た光景。
同じレベルのモンスターが揃ったなら、エクシーズ召喚しかない――!
「漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今、降臨せよ!
――エクシーズ召喚!
現れろ、ランク4! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」
紫電が迸る。
黒紫の装甲。鋭く伸びた牙。幾重にも折り重なる刃のごとき翼。
その中央で、紅い双眸がぎらりと輝いた。