遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子 作:名もなきWater
二色の眼の竜。
牙を持つ黒竜。
二体の竜が向かい合い、共鳴している。
「はぁ……はぁ……」
「アアア……来た来た来た! これだよ、これ……!」
心臓が唸る。
共鳴しているのは、ドラゴンだけじゃない。
俺もだ。そして、ユーリ自身もか。
「っ……なんで、そのカードを、お前が――!」
「人聞きの悪いこと言わないでよ。これは僕が貰ったんだ。正々堂々、魂とプライドを賭けたアンティルールでね!
行くよ。反逆の牙の切れ味、しっかり確かめるといい!
ダーク・リベリオンの効果発動!
――“トリーズン・ディスチャージ”!」
刃のような翼は、勢いよく開かれる。
瞬間、爆ぜるような雷電が周囲を蹂躙する。向かう先は、二色の眼の竜。
「っ……罠、発動! 《トラップホリック》!
これにより、《魂のペンデュラム》を破壊する!」
傍らにあった永続魔法が砕け散る。
カウンターによる効力も失われ、オッドアイズの攻撃力が3100から2500へダウンした。
雷電がオッドアイズを貫く。
攻撃力が変動する。
ダーク・リベリオンは攻撃力を吸収し、3750に。
オッドアイズはダメージを受け、1250に。
だが、これでいい。
今は、次の一手に賭ける。
「ふーん……ダーク・リベリオンの攻撃力を下げるために、自分のカードを破壊したのか」
「《トラップホリック》の効果により、俺はデッキから罠カードを一枚、フィールドにセットする!」
俺の足元に、一枚の伏せカードが出現する。
「あっそう。ま、無駄な足掻きだけど。ダークリベリオンの攻撃力は3750。既に十分過ぎる高さだよ。
バトル!
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》で、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!
――“反逆のライトニング・ディスオベイ”!」
黒龍は翼を広げ、滑空する。
荒れ狂う稲妻。その中から、黒竜は紫電を帯びた牙を赤竜に突き立てた。
宝玉が砕ける。オッドアイズはその身を粒子に変え、散っていった。
遊矢
LP:4000 → 1500
「ぐっ……!」
一撃でライフが2500も持って行かれた。
立ちはだかるのは、攻撃力3750のダーク・リベリオン。
そして、俺の手札は0。
「――――くそ」
ドクドクと疼く心臓。
まるで、俺の劣勢を嘲笑うかのようだ。
「――今こそ一つに」
――今こそ一つに。
誰かが、叫んでいる。
頭が痛い。万力で頭を絞めつけられている。
「もうすぐだ。もうすぐだよ、遊矢。彼と同じように、君も一つになれるのさ」
「彼……?」
「とぼけなくていいよ。君にも見えてるだろ?
僕“達”の、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》がさ!」
「――!」
……あいつの言う通りだ。
ダーク・リベリオンは、ユートのカード。何の理由もなく渡す筈がない。ましてや、相手は融合次元の決闘者。
答えは明白だ。
ユートは、こいつにやられたんだ。
「――ユート」
いなくなった
短い間でも、俺達は確かに心を通わせた。
だけど――もう、会うことさえ敵わない。
「まだ抗う気なんだ? 強情だなあ。
でもいいよ。それくらいでなくちゃ面白くない。何より、まだ僕のドラゴンも見せてないしね。
ターンエンド。さあ、君のターンだ」
「――俺の、ターン!」
カードを引き抜く。そして、伏せたカードを発動させる。
「リバースカード、オープン! 《スマイル・ポーション》!
俺の場にモンスターが存在せず、相手の場に元々の攻撃力より高い攻撃力のモンスターが存在する場合、発動できる!
俺はデッキから、カードを二枚ドローする!」
更にドローして、手札は三枚。
――反逆の黒竜を見据える。
ユート。今から、お前のドラゴンを倒す――!
「揺れろ、魂のペンデュラム!
天空に描け、光のアーク!
――ペンデュラム召喚!
現れろ、俺のモンスター達!」
片手を掲げ、門を開く。
降り注ぐのは二つの光。
「手札から、《調弦の魔術師》!
一体は、音叉の杖を手にした少女魔術師。
そして、二色の眼の竜。
「《調弦の魔術師》の効果発動!
手札からこのカードをペンデュラム召喚した時、デッキから新たな《魔術師》を呼び出す!
来い! 《竜脈の魔術師》!」
翻る白い外套。青く輝く刃。
魔術師は長大な武器を携えたまま、空中で身体を捻り、勢いを殺すことなく地面へと着地した。
「さらに、手札から速攻魔法発動! 《ライフハック》!
このターン、お前に与える全てのダメージを半分にする代わりに、モンスター一体の攻撃力をお前のライフと同じにする!
選ぶのは当然、ダーク・リベリオン!」
「っ――!」
ユーリのライフは現在2000。
よってこのターンのみ、ダーク・リベリオンの攻撃力は2000に下がる。
「まだだ!
俺は、レベル4の《竜脈の魔術師》に、レベル4の《調弦の魔術師》をチューニング!」
《調弦の魔術師》が音叉を鳴らすと同時、自らを光の輪に変換した。
その中心を駆けるのは、《竜脈の魔術師》。
「剛毅の光を放つ勇者の剣! 今ここに、閃光と共に目覚めよ!
――シンクロ召喚!
現れろ! レベル8、《
光が弾け、白銀の鎧を纏った騎士が降り立つ。
翻る白い外套。黄金の装飾が施された鎧。両手に携えられた二振りの剣。
騎士はゆっくりと剣を掲げ、打破すべき敵を見据えた。
「ああ、これ……知ってるよ。シンクロ召喚って言うんだっけ。
やっぱり凄いね、君は」
「笑ってられるのも今のうちだ……!
《
《
《ライフハック》のデメリットでダメージは半減するが、その後は《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のダイレクトアタックが通る。
与えるダメージは合計2500。ユーリを倒せる……!
「――バトルだ!
《
「いい気迫だ。
――だけど! その攻撃は、通らない!
罠発動! 《和睦の使者》!」
「何っ――!?」
勇者の剣は見えない壁に遮られ、静止していた。
《和睦の使者》。
このターン受ける戦闘ダメージ0にし、モンスターもまた戦闘から破壊されなくなる、汎用的な罠カード。
だけど、それだけじゃない。お前ほどの決闘者が、何の理由もなくデッキに入れるはずがない。
「危ない危ない。全く、乱暴は良くないなあ。友達のカードは大事にしてあげないとさあ」
「お前……!」
よく分かった。こいつはわざとやっている。
虐げられているエクシーズ次元を、俺を煽るためだけに、そのカードを入れている。
「そう睨まないでよ、怖いなあ。ほら、デュエルを続けなよ。ドラゴンたちもそう望んでいる」
「っ――俺は、カードを一枚伏せてターンエンド!」
伏せたカードは《ライフハック》。
これで次のターン、ダーク・リベリオンの攻撃を抑制できる。
このターンで倒しきれなかったが、まだ勝機はある。
「君のターンが終了したことで、ダーク・リベリオンの攻撃力は3750に戻る。
そして、僕のターン!」
ドローした瞬間、ヤツの足元から黒い渦が広がった。
エクシーズ召喚とは違う、もっと純粋な黒。敢えて形容するなら――“闇”だった。
「――来た」
ユーリが呟く。その口角は、ここからでも分かるくらい吊り上がっていた。
「フフ……やっぱり、デッキはちゃんと応えてくれるんだ。
そして――待たせたね。今から見せるよ、僕のドラゴンをさ」
「何……!?」
ユーリの手札は二枚。一枚はおそらく《融合》。
攻撃力3750のダーク・リベリオンを、わざわざ融合素材にするつもりか――?
「不思議なんだね? せっかく召喚したダーク・リベリオンを素材にしちゃうのかって。
でも安心しなよ。答えはノーだ。
素材にするのは――君のモンスターだ」
ぞくり、と背筋が粟立つ。
本能が理解する。あいつの言葉は本当だと。
「見せてあげるよ! 心の闇が作り出した、絶対的な力の象徴!
完全無敵! 究極の力を解き放て!
――発動せよ! 《超融合》!」
ユーリはドローしたカードを、そのままデュエルディスクに叩きつけた。
フィールドの中央が歪む。現れたのは黒い点。まるで世界から、その部分だけが切り取られたかのようだった。
「《超融合》は手札を一枚墓地に送ることで、フィールドのモンスターを融合する。
頂くよ! 君のドラゴンと、シンクロモンスターをね!」
「何ッ……!?」
黒い点が、脈打った。
オッドアイズと覚醒の魔導剣士。その足元から、黒紫色の奔流が噴き上がる。
二体の輪郭が崩れ、無数の光片となって渦の中へと吸い込まれていった。
「二色の眼の龍よ! 勇者の剣と一つになりて、新たな脅威へと生まれ変わらん!
――融合召喚!
現れろ、飢えた牙持つ毒龍!
レベル8! 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!」
耳をつんざく咆哮が、フィールドを震わせた。
竜は大きく顎を開き、鋭い牙を剥き出しにする。その奥で、赤紫の光が不気味に明滅した。
長い尾がうねり、巨大な翼が空気を打つ。
まるで、長い飢餓から解き放たれた獣が、ようやく獲物を見つけたかのように。
「相手のモンスターを融合……!? そんなカードが、あっていいのか……!?」
「それが《超融合》ってことさ。でもよかったよ、ちゃんと驚いてくれて。ペンデュラム召喚にシンクロ召喚まで見せられて、僕だけ何もないのは悪いからね。
君のライフは残り1500。伏せたカードは……どうせ、さっきの《ライフハック》でしょ?
片方の攻撃力を2000にしたところで無駄。君のライフは0になる」
「っ――!」
毒龍の顎が開く。
赤紫の牙の奥で、紫檀の光が渦巻いていた。
「これで終わりだ……!
《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》で、ダイレクトアタック!」
毒のブレスが放たれる。
だけど――まだ、終わらない。こんなところで、終わってたまるか――!
「《
自身を破壊することで、デッキから攻撃力300・守備力200のモンスターを手札に加える!」
聳え立つ柱のうち、片方が砕け散る。
破片は粒子となって集い、俺の手の中で一枚のカードに姿を変えた。
「《
ボーダーの帽子を被った悪魔。
悪魔は恐れを知らぬかのように立ち向かい――その姿は、秒と待たずに散って行った。
だが、その意志は受け継がれる。
遊矢
LP:1500 → 4000
「……戦闘ダメージを、自分のライフに変換したのか。しぶといなあ」
「俺は負けられない。お前とは、背負っているものが違う――!」
「口が減らないな。なら、今度は自分で味わってみなよ。他でもない、君が背負っているものの力をね!
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》で、ダイレクトアタック!」
「っ――!」
ダーク・リベリオンが翼を広げた。次の瞬間、紫電を纏った竜が一直線に飛来し、鋭い牙が眼前へと迫る。
咄嗟に身構えたが、衝撃はその防御ごと俺の身体を吹き飛ばした。視界が回転し、背中から地面に叩きつけられる。
「ぐあああ――!!」
遊矢
LP:4000 → 250
「……終わりかな。切札は《超融合》で奪われ、《魂のペンデュラム》も、ペンデュラムスケールも砕け散った。
諦めてサレンダーしたら? 無理に苦しむ必要ないでしょ」
「――まだだ」
――立ち上がる。
残りライフは250。手札は一枚。ペンデュラムスケールは片方のみ。シンクロモンスターも奪われた。
だけど、まだだ。まだ、心は折れていない。
「あっそう。じゃあ、僕はこれでターンエンド。
そこまで言うなら頑張るといい。この状況で、何かできるというならね」
「……俺の、ターン」
――心臓が高鳴る。
立ち塞がるのは二体の竜。片や毒の牙。片や紫電の牙。
――今こそ一つに。
そんな声が、頭の中で木霊している。
残された手札は一枚。今の俺に、対抗策はない。
でも、負けられない。屈するわけにはいかない。
――よく考えろ、榊遊矢。
ここで俺が倒れたら、次はレジスタンスだ。
その次はランサーズ。
権現坂が。沢渡が。
――柚子が。
みんな、こいつにやられてしまう。
「――――、は」
息を吐く。
体内に溜まった熱を逃がす。
それで覚悟は決まった。もう、手段は選ばない。
今こそ一つに、だって?
上等。それでみんなを護れるなら、それでいい。
力が要る。善も悪も、光も闇も関係ない。
「皆を守るためなら……お前を倒すためなら――
――悪魔にだって、なってやる」