遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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二色の眼、毒の牙 3/3

 

「…………なんだ?」

 

 その変化に、ユーリは目を奪われた。

 相対する決闘者は榊遊矢。それは間違いない。

 だが、その様子は、一ターン前に比べて様変わりしていた。

 顕著なのは、瞳。

 赤く、黒く、そして深い。底の無い、血の海のようだった。

 

「俺のターン、ドロー。

 魔法カード、《オッドアイズ・フュージョン》を発動。

 これにより、ドラゴン族モンスターを融合召喚する」

 

 遊矢が出したのは、モンスターを融合するカード。

 

「融合……って、何言ってるのさ。

 君の手札はあと一枚だけ。融合素材なんてどこにもいないじゃん」

 

 融合召喚はその性質上、二体以上のモンスターを必要とする。

 しかし、榊遊矢のフィールドにはペンデュラムカードが一枚のみ。

 手札も一枚だけ。融合しようにも、素材となるモンスターがいないのだ。

「いるさ……ここにな」

 

 だが――ユーリの論は、否定された。

 遊矢はデュエルディスクを掲げる。

 彼のEX(エクストラ)デッキからは、淡い光が漏れていた。

 

「常識外の融合は、お前の専売特許じゃない。

 俺が融合するのは、EX(エクストラ)デッキに眠るオッドアイズたち!

 《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》!

 そして、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 二筋の光が、互いを追うように旋回する。緑と赤――二色の輝きが螺旋を描き、空間の一点へと収束していった。

 

「二色の眼を持つ龍達よ! 原初の渦で一つとなりて、新たな姿に生まれ変わらん!

 ――融合召喚!

 現れろ、レベル7! 万象呑み込む渦動の龍!

 《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》!」

 

 閃光の中から、巨大な影が飛び出した。

 渦を切り裂き、白緑の翼が大きく広がる。刃を思わせる装甲が眩く煌めき、胸部の青い宝玉が、内側から溢れ出す力を映して輝いた。

 

「EX(エクストラ)デッキのペンデュラムモンスターを……融合素材に……!?」

「オッドアイズ・ボルテックスの効果発動!

 特殊召喚に成功した時、相手の攻撃表示モンスター一体を手札に戻す! 俺は、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を選択!」

 

 黒竜の足元に、渦が巻いた。

 紫電が迸り、渦は瞬く間に竜の巨体を包み込む。ダーク・リベリオンは翼を広げて抗うが、その抵抗も虚しく、黒い影は逆巻く奔流の中へと呑み込まれていった。

 

「っ――くそ……!」

 

 ユーリが顔を歪める。

 

「バトルだ! 

 《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》で、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》を攻撃!」

 

 渦竜が翼を広げた。

 胸元の青い宝玉が輝き、周囲の空気が渦を巻きながら、その口元へと収束していく。

 

「だけど、攻撃力はこっちが上! 返り討ちだ!」

「リバースカード、オープン! 速攻魔法《ライフハック》!」

「なっ――」

 

 赤い電流が、毒龍の巨体を直撃した。

 全身に散らばる赤い球体が明滅し、禍々しい紫の装甲を稲妻が這う。スターヴ・ヴェノムが身を震わせると、その身体から力が抜け落ちていった。

 

「これでスターヴ・ヴェノムの攻撃力は2000! ボルテックスを下回った!

 バトル続行! やれ、《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》!」

 ――“烈風のストーム・バースト”!」

 

 竜が咆哮した。

 吐き出されたのは、青白い輝きを帯びた螺旋状の奔流。風を巻き込み、空間を捻じ曲げるかのように渦巻きながら、毒龍を一直線に貫いた。

 その余波が、ユーリの身体を打ち据える。

 

ユーリ

LP:2000 → 1750

 

「っ――だったら、君のドラゴンも道連れさァ!」

 

 だが――終わりではなかった。

 消えゆく毒龍の残骸から、どす黒い紫の光が噴き出した。散らばった光の粒子が逆巻く風に乗り、再び一つの巨体を形作っていく。

 

「《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》の効果発動!

 破壊された時、相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを、全て破壊する!

 飢えた毒龍の牙からは――逃げられない!」

 

 大きく開かれた顎。剥き出しの牙。狙う先は、眼前のオッドアイズ・ボルテックス。

 その首元へ、鋭い牙が迫る。

 

「逃げるつもりは――ない!」

 

 両翼が広がり、渦が逆巻く。

 

「全て! 正面から捩じ伏せる!」

 

 青い宝玉が、光を帯びた。

 

「《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》の効果発動!

 一ターンに一度、EX(エクストラ)デッキのペンデュラムモンスターをデッキに戻すことで、カード効果の発動を無効にし、破壊する!

 ――“サイクロン・フォース”!」

 

 遊矢のEX(エクストラ)デッキから、一枚のカードが飛び出した。

 それは緑色の光を放ちながら、ボルテックスの周囲を旋回する。やがて光は渦へと変わり、龍の全身を包み込んだ。

 竜の眼が輝く。

 渦が嵐となり、毒竜を切り刻んだ。

 

「何っ――!?」

 

 その衝撃が、再びユーリを襲う。為す術もなく吹き飛ばされ、背中から地面へと叩きつけられた。

 

「ぐっ――!!」

 

 砂塵が舞い上がる。

 しばしの間、フィールドを静寂が支配した。

 やがて――

 

「っ――はぁ……はぁ……は、はは……ハハハ」

 

 荒い息遣いとともに、笑い声が漏れた。

 ユーリは片手を地面につき、ゆっくりと身体を起こす。乱れた髪を垂らしたまま、肩で息をしながら、それでも顔を上げた。

 その唇には、笑みが浮かんでいた。

 

「凄い……凄いね、君。

 《超融合》でモンスターを奪われて、二体のドラゴンに追い詰められて――それでも、ここまでやれるなんてさあ!

 こうなったらとことんやろうよ。さあ、ターンを終了しろ。今度は、僕の――」

 

 ユーリの手が止まる。

 彼の視線の先には、悠々とこちらを見下ろす二色の眼。

 そして――倒れ伏した決闘者。

 榊遊矢は、既に限界を迎えていた。

 

 

 ◆

 

 

「――は?」

 

 彼の胸中にあったのは、戸惑い。

 榊遊矢。

 あれだけの障害を乗り越えたくせに――今は、敗者のように倒れ伏している。

 

「……ふざ、けるな」

 

 戸惑いはやがて、怒りに変わっていく。

 

「ふざけるなよ! 何をしているんだ、君は!

 まだ――まだ、勝負はついてないだろ!」

 

 拳を握り、行き場のなくなった感情を撒き散らす。

 心臓の疼きも、頭に響く誰かの声も、今は邪魔だ。

 せっかくのデュエルが、決着もつかず置き去りにされた。盤面は劣勢のはずなのに、勝ってしまっている。

 勝利故の屈辱。

 ユーリにとっては、初めて味わう感覚だった。

 

「やれやれ。まるで子供だな。赤馬零王の心労、察するに余りある」

 

 背後から、呆れたような声が響いた。

 振り返れば、そこには一人の男が立っていた。整然とした佇まいに、冷ややかな眼差し。まるで、この場の騒動など意に介していないかのようだった。

 

「……誰、君」

「赤馬零児。君達が心酔している、プロフェッサーとやらの息子だ。

 ユート、黒咲隼に続き、榊遊矢。ランサーズの面々が世話になったようだな」

「どうでもいいよ。で、要件は何? もしかして敵討ちとか?」

「まさか。君を倒すのは私の役目ではない。

 尤も……君が望むのなら、戦うのも吝かではないが」

「なにそれ。いいよ、めんどくさい。それに――萎えた。

 帰る。あとは好きにしなよ」

「ほう……意外だな。てっきり、遊矢に止めを刺すと思ったが」

「ここで君を倒して、まとめてカードにするのは簡単だ。

 ――でも、それは僕が許さない。

 僕にも納得できる勝ち方と、そうじゃない勝ち方があるんだよ」

 

 ユーリは懐から一枚のカードを取り出し、デュエルディスクにセットした。

 

「!」

 

 ――閃光。

 デュエルのためのカードではなく、目暗ましのカード。

 

「じゃあね、赤馬零児。君とのデュエルはお預けだ。

 それから――そこで寝ている人に言っといて。次は、完璧に僕が勝つ」

 

 光が止む。

 その時にはもう、ユーリの姿は消えていた。

 

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