遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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振り子は止まらない

 ◆

 

「はぁ? なんだよこのデュエルフィールド……しょぼすぎだろ。リアルソリッドビジョンシステムの一つもねーのかよ」

 

 デュエル場に到着するや否や、金髪の少年――沢渡シンゴが悪態をついた。

 

「し、失礼な! ないわけじゃない! ただ、ちょっと故障してるだけで――」

「それをないって言うんだよ、オッサン。今時アクションデュエルができない塾なんて終わってるぜ。ここ、もう畳んだ方がいいんじゃない?」

「それはできん!」

 

 修造は握り拳を固めて、沢渡に熱い眼差しを向ける。

 

「ここは先輩が、榊遊勝が残してくれた立派な塾だ! たとえ槍が降ろうと、先輩の意見無しで潰すことは許さん!

 それに、この塾の本質はエンタメデュエル! アクションデュエルにこだわる必要はない!」

「ハァ……分かってねえな。

 だから、そのエンタメデュエルがインチキだって言ってんだよ」

「まあまあ、落ち着けって二人共」

 

 言い争う二人を尻目に、遊矢は自分のデュエルディスクを装着した。

 

「リアルソリッドビジョンが壊れてるのは完全に俺達が悪いだろ?

 ……だからさ。塾長、何とか直してくれないかなー、なんて」

「あのなあ遊矢……お前も知ってるだろ? それができたら苦労はしない。ウチの経営はいつだって火あぶりの刑で拷問車輪なんだ」

「あはは……」

 

 火の車、と言いたいらしい。

 経営に関しては専門外なので、笑って誤魔化すしかない。

 

「で……沢渡って言ったな。そんなに気になるなら確かめてみればいい。俺のデュエルが、本当にインチキかどうかをね」

「へっ……言うじゃねえか、詐欺師風情がよ」

 

 沢渡もまた遊矢に続き、デュエルディスクを構える。

 一瞬、場の空気が張りつめた。

 

「だったら見せてみな、お得意のエンタメってやつを。その鼻、へし折ってやるぜ!」

「望むところだ! 行くぞ!」

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 ◆

 

「先行は俺だ! 見せてやるよ、アンタのお望みのものをさ!

 俺のターン!」

 

 遊矢は手札から二枚のカードを選び取り、空にかざした。

 

「俺は、スケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 二枚のカードをデュエルディスクの両端にセットした直後、二つの影がゆっくりと浮上した。

 

「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!

 揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

 片や、星を刻む白衣の魔術師。

 片や、時を操る黒衣の魔術師。

 対となる魔術師が武器をかざした瞬間、その中央に光の孔が開けられた。

 ――その奥から、巨大な影が姿を現す。

 

「ペンデュラム召喚!

 現れろ、雄々しくも美しく輝く、二色の眼! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 光が収まると同時に、影の正体が露わになる。

 赤と緑、二色の目を持つ龍。

 

「す、すごい……!」

 

 柚子は、その光景に思わず息を呑んだ。

 

「おおー! こ、これが遊矢のペンデュラム召喚か……!」

 

 修造は、目を輝かせたまま、何度も頷いている。

 

「流石だな、遊矢」

 

 権現坂は、力強く拳を握る。

 三者三様の視線がオッドアイズと遊矢に向けられた。

 ただし、一人を除いて。

 

「俺は、カードを一枚伏せてターンエンド」

「俺のターン……ドロー!」

 

 沢渡がカードを引く。

 カードを確認した後、沢渡の視線が手札へ移る。

 ……その瞬間、沢渡の口元が、僅かに歪んだ。

 

「まず俺は、カードを一枚セット。

 さらに手札から魔法カード《手札抹殺》を発動!

 互いの手札を全て捨て、同じ枚数だけカードをドローする!

 ……まあ、困るのはそっちだけだろうがな」

「…………」

 

 遊矢の手札は、一枚。

 対して、沢渡の手札は、四枚。

 そして沢渡は――その四枚を確認しないまま、次の手を打つ。

 

「そして俺は、事前に伏せたリバースカードを発動するぜ。

 そのカードは――《死者蘇生》! これにより、墓地からモンスターを一体特殊召喚する!

 俺が選ぶのは、《手札抹殺》で捨てたこのカードだ!

 現れろ! 《アルティメット・ダーツ・シューター》!」

 

 沢渡のフィールドにモンスターが出現する。

 青を基調とした装甲に覆われた人型の機械兵。

 右腕は、通常の腕ではない。

 ダーツを思わせる砲身が一体化した武装となり、照準を定めるように、ゆっくりと持ち上がった。

 

「一ターンで上級モンスターを……」

 修造が思わず息を呑む。

 

「見たか。そんなもんに頼らなくたって、方法なんざいくらでもあんだよ。

 ……だが、まだ終わりじゃねえ。

 手札から魔法カード《デビルズ・サンクチュアリ》を発動! 俺の場に《メタル・デビル・トークン》を一体特殊召喚する!」

 

 沢渡のフィールドに不気味な人型のスライムが召喚された。

 攻撃力は0。

 単体では何もできないトークンだが――

 

「さらに俺は、《メタル・デビル・トークン》をリリース!

 《パワー・ダーツ・シューター》を、アドバンス召喚!」

 

 出現したのは、《アルティメット・ダーツ・シューター》によく似た人型の機械だった。

 だが、その装甲は青ではなく、警告色のようなオレンジ。

 全体的に丸みを帯びたフォルムは、どこか実戦向けに調整された印象を与える。

 右目には照準用のスコープが埋め込まれ、右腕には三本の鋭い針――矢のような武装が束ねられていた。

 

「けど、それが何だって言うんだ?」

 

 修造は、怪訝な顔つきで二体のダーツモンスターを見る。

 

「《アルティメット・ダーツ・シューター》の攻撃力は2400。《パワー・ダーツ・シューター》の攻撃力は1800。

 それに対して、遊矢のドラゴンは2500。これを超えられなきゃ、いくらモンスターを並べても意味ないだろ」

「ハッ! 分かってねえなオッサン! 数字だけ追ってりゃデュエルが分かった気になるのか?」

「なっ!? アイツ、また俺をオッサンと――」

「こいつはな、撃つための駒じゃねえ。力をくれてやるための駒だ。

 《パワー・ダーツ・シューター》の効果発動! このカードをリリースすることで、ダーツモンスターの攻撃力を600アップする!」

 

 次の瞬間、パワーの身体が分解されるように崩れ、光の奔流となって《アルティメット・ダーツ・シューター》へと吸い込まれた。

 アルティメットの装甲が軋み、青い装甲の隙間から光が噴き上がる。

 ――攻撃力3000。

 

「バトルだ!

 穿て、《アルティメット・ダーツ・シューター》!」

 

 アルティメット・ダーツ・シューターの右腕が唸りを上げ、光の矢が発射された。

 狙いはただ一つ――二色の眼を持つドラゴン。

 一直線に走る光の矢が、ドラゴンの胸元を貫いた。

 咆哮を上げながら、オッドアイズの巨体が崩れ落ちていき――

 光の粒子となって霧散した。

 

遊矢

LP:4000 → 3500

 

「どうした? エンタメデュエリスト。さっきまでの威勢はどこ行った?」

 

 沢渡は鼻で笑い、腕を組む。

 ――が。

 

「リバースカード、オープン!」

 

 それを断ち切るかのように、遊矢は伏せカードを発動させた。

 

「速攻魔法、《イリュージョン・バルーン》!」

 

 遊矢の宣言と同時に、上空に五つの巨大な風船が弾けるように現れた。

 次の瞬間――

 風船は一斉に破裂し、五枚のカードが宙に舞い上がる。

 

「なに……?」

 

 沢渡が目を細める中、カードの絵柄がほんの一瞬だけ視界に映った。

 シルクハットを被った桃色のカバ。

 つぶらな瞳をした毛むくじゃらの悪魔。

 そして――

 遊矢はその中から、迷いなく一枚を掴み取った。

 

「来てくれ! 《EM(エンタメイト)ロングフォーンブル》!」

 

 現れたのは、頭に大きな受話器を載せた、スーツ姿の牛だった。

 

「《イリュージョン・バルーン》は、デッキの上からカードを五枚めくる!

 そこに《EM(エンタメイト)》がいれば――その中から一体を、俺のフィールドに呼び出せる!」

「なるほどな。だが、それがなんだ? そんな雑魚一体じゃ、俺の間合いから逃げることも、防ぐこともできねえ!」

「俺のデッキに雑魚モンスターなんていない! どのカードも、俺を勝利に導いてくれる大事なカードだ!

 ロングフォーンブルの効果発動! デッキから、新たな仲間を手札に呼ぶ!」

 

 ロングフォーンブルの頭上の巨大な受話器から、ジリジリと音が鳴った。

 同時に、遊矢のデッキから一枚のカードが顔を出す。

 まるで、その受話器に呼ばれたかのように。

 

「……フン。まあいい、どうせハッタリだ。

 このターンの終了時、《アルティメット・ダーツ・シューター》の効果が発動する。

 戻ってこい、《パワー・ダーツ・シューター》!」

 

 沢渡が手を掲げると同時、オレンジ色の機体が再び姿を現した。

 右目のスコープが、獲物は逃がさんと言わんばかりに光っている。

 

「装填完了、ってな。カードを一枚伏せてターンエンド」

 

 沢渡の場に伏せカードが出現し、ターンが交代する。

 

「俺のターン、ドロー!

 ハッタリかどうか、しっかりとその目で見ておけ!」

 

 遊矢は再度、宙に手をかざす。

 それに応えるように、上空に浮かぶ二体の魔術師が武器を合わせた。

 天空のゲートが、再度開かれる。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!

 ペンデュラム召喚!

 現れろ! 《EM(エンタメイト)スライハンド・マジシャン》!」

 

 奇術師の衣装を纏ったモンスターが舞台に立つ。

 右手にはボール、左手にはステッキ。

 しかしその下半身は、巨大な鉱石へと変わっていた。

 人の姿をした鉱石――それが《スライハンド・マジシャン》だ。

 

「なんだと……その召喚法は、あのドラゴン専用じゃねえのか……!」

「スライハンド・マジシャンの効果発動!」

 

 遊矢はデュエルディスクを掲げ、手札から一枚のカードを差し出す。

 次の瞬間、奇術師の右手の中にボールが出現した。

 そう――青い、ボールだ。

 奇術師が左手のステッキを振るった瞬間、ボールはガラス玉のように砕け散る。

 同時に、まるで連動するかのように《アルティメット・ダーツ・シューター》の装甲が内側から弾け飛んだ。

 

「っ……何が、起きた。てめえ、今何をした!?」

「スライハンド・マジシャンは一ターンに一度、手札を一枚捨てることで、フィールドのカードを破壊できる!

 奇術師のショーは終わらない! バトルだ!

 やれ、スライハンド・マジシャン!」

 

 奇術師は、どこからともなく右手の上にボールを出現させる。

 今度はオレンジだ。

 再度、奇術師がステッキを振るい、ボールが弾け飛ぶ。

 沢渡の《パワー・ダーツ・シューター》もまた、同じように弾け飛んでいた。

 

沢渡

LP:4000 → 3300

 

「ッ……小癪な手品師め……!」

「まだバトルは終わっていない! 続け、ロングフォーンブル!」

「ブモォォ!!」

 

 攻撃の指示を受けたロングフォーンブルは、鼻息を荒くしながら沢渡に突進する。

 

「そいつは喰らわねえ!

 永続罠発動、《ダブル・フッキング》! 手札を一枚捨て、墓地からモンスターを二体特殊召喚!

 甦れ、《パワー・ダーツ・シューター》!

 《アルティメット・ダーツ・シューター》!」

「ブモッ!?」

 

 突進の軌道上に障害物が出現し、ロングフォーンブルは緊急停止した。

 

「どうだ。これでダイレクトアタックはできねーだろ?」

「……確かに。やるな、沢渡」

「当然だろ。俺を誰だと思ってる」

「LDSのスーパーエリート、だろ?」

「違う。舞網市の市長の息子だ」

 

 その声音には、根拠のない自信ではない、生まれながらにして刷り込まれた“特別意識”があった。

 

「なら、お手並み拝見だ。俺はこれで、ターンエンド!」

「……ハッ。言ってくれるぜ、ペテン野郎が」

 

 ペテン――そう吐き捨てながらも、沢渡の口元には、悔しさを誤魔化すような、わずかな笑みが浮かんでいた。

 さっきまでの“見世物”ではない。

 今の一手は、確かに決闘者のものだった。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 沢渡の視線がドローしたカードに集まる。

 ――流れを引き寄せる一枚。

 このフィールドを、根こそぎ塗り替える切札。

 

「行くぜ……俺は手札から、永続魔法をする!

 そのカードは――《機械仕掛けの街-クロック・ワーク・ナイト-》!」

 

 その瞬間、世界が一変した。

 殺風景だったデュエルフィールドは、歯車と鋼鉄に覆われた“機械の街”へと書き換えられる。

 

「これは……機械の街!?」

「そう。ここの住人は全て“機械族”へと“改造”される。当然、お前のモンスターもな!」

「!」

 

 遊矢が目を離している、その刹那。

 歯車の影が地面からせり上がり、ロングフォーンブルとスライハンド・マジシャンの身体を覆い尽くす。

 次の瞬間、肉体は鋼鉄へ。

 二体のモンスターは、機械の身体に“改造”されていた。

 

「ロングフォーンブル! スライハンドマジシャン!」

「それだけじゃないぜ。

 クロック・ワーク・ナイトは、俺の機械族を強化し、てめえの機械族を弱体化させる。

 攻撃力は、俺が500アップ。お前が500ダウンだ。

 ――バトルだ!

 やれ、《パワー・ダーツ・シューター》! ロングフォーンブルを攻撃!」

 

 右目のスコープが唸りを上げ、照準が、逃げ場を失ったロングフォーンブルを捉える。

 ――発射。

 光の矢が走り、ロングフォーンブルを貫いた。

 巨体が一瞬踏みとどまるが――次の瞬間、砕け散る。

 

遊矢

LP:3500 → 2300

 

「まだだ! 第二射!」

 

 続けて、青い機体が照準を合わせる。

 狙いは――木偶と化した奇術師。

 

「ここで、《パワー・ダーツ・シューター》の効果発動! パワーチャージ!」

 

 《パワー・ダーツ・シューター》が粒子となって砕け散り、青い機体の右腕に集約された。

 

「装填完了……! 穿て、《アルティメット・ダーツ・シューター》!」

 

 再度、光の矢が一直線に走った。

 直後、奇術師の胴体に風穴が空く。奇術師としてのガワが剥がれ、ただの鉱石として砕け散った。

 

遊矢

LP:2300 → 800

 

「っ……」

 

 遊矢は思わず片膝を突く。

 

「おっと、まだ終わりじゃねえぜ。忘れてねえよな?

 《アルティメット・ダーツ・シューター》の効果発動。このターンの終了時、《パワー・ダーツ・シューター》は、ちゃーんと俺の場に戻ってくる。

 ターンエンド。さあ……次の一手を見せてみろよ、エンタメ決闘者」

 

 遊矢は歯噛みしながら顔を上げる。

 二体の戦闘マシーン。そして、視界を覆う鋼鉄の街。

 逃げ場はない。次の攻撃で、終わる。

 ――どうする。

 エンタメなんて、考えてる余裕はなかった。

 勝つために、持てる全てを賭けるしかない。

 遊矢は無意識に、手札へと視線を落とし――

 そこで、違和感に気付いた。

 

「……え?」

 

 デュエルディスクの端。

 そこに表示されていたのは――《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。

 一ターン目に破壊された、相棒の龍。

 それが、EXデッキに、確かに存在している。

 遊矢のデッキに、融合も、シンクロも、エクシーズもない。

 EXデッキは、空のはずだった。

 ――はず、だった。

 

「……もしかして」

 

 遊矢は、ゆっくりと顔を上げた。

 ――勝ちたいなら、勇気を持って前に出ろ。その勇気の分だけ、喜びも戻ってくる。

 父が、いつかそう言っていた。

 当時は、よく分からなかった。

 勝つことと、楽しませること。

 勇気と、無謀の違い。

 だが――今なら、少しだけ分かる。

 

「前に出なきゃ、何も始まらない……よな!」

 

 遊矢は、ぎゅっと拳を握り締める。

 前に出ろ。

 前に出ろ。

 前に出ろ――

 

「……ん?」

 

 何かが変わった。

 立ち上がる遊矢の顔を見て、沢渡はそう直感した。

 

「……どうしたよ、エンターテイナー。俺の強さを認めて、ついに諦めたか?」

 

 そんなわけないだろう。そう思いながらも、沢渡は挑発する。

 

「まさか」

 

 遊矢は肩を竦めて笑う。

 

「なあ、沢渡。振り子って知ってるか?」

「あん? 振り子?」

「そう。不思議だよな。右に揺れたら、それと同じだけ左に戻ってくる。揺れが大きければ大きいほど、戻る分も大きくなる」

「それがどうした?」

「デュエルも同じさ。大きなピンチの後には――大きなチャンスがやってくる!」

 

 遊矢は自分のデッキに視線を落とす。

 希望は見えた。だが、まだ届かない。

 それを埋めるのは……

 

「……レディース、エーンド、ジェントルメーン……」

 

 お決まりの口上を口ずさむ。

 頭の中でシミュレートする。

 大勢の観客、波を打つような熱気。

 今はまだ遠い夢。そして――いずれ立つ大舞台。

 

「……は? なんだって? 聞こえねーよ」

「悪い。でも……いつか、聞こえるようになるさ。

 行くぞ、沢渡! これがラストドローだ! 俺の……ターン!」

 

 遊矢は、カードを引いた。

 ――一瞬。

 時間が止まったかのように、視界が静まる。

 次の瞬間……遊矢の口元が、わずかに緩んだ。

 遊矢が三度、天空へと手をかざす。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!

 ーーペンデュラム召喚!

 現れろ、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 二色の目を持つ龍が、主の元に帰還する。

 赤と緑。相反する瞳を輝かせ、野生の咆哮が機械の街に轟いた。

 

「な……そのドラゴンは、最初のターンで倒したはず……!」

「ペンデュラムモンスターはフィールドで破壊された時、墓地には行かず、EXデッキに行く」

「……チッ。だが、クロック・ワーク・ナイトの効果は生きてる。そのドラゴンも、今や機械族だ」

 

 鋼鉄の街の歯車が回転し、オッドアイズの鱗が金属光沢を帯びる。

 たとえ龍が帰還したところで、ここは既に沢渡の領域。逃れる術はない。

 ――否。元より、逃げる気はない。

 

「攻撃力は下がる。俺のモンスターの方が上だ」

「……その通りだ、沢渡」

 

 遊矢は、静かに一枚のカードを場に置いた。

 

「装備魔法……《魔界の足枷》、発動」

 

 黒い鎖が地を這い、《アルティメット・ダーツ・シューター》の脚部と砲身に絡みつく。

 鎖の先には、悪魔のような鉄球。絶対に逃がさんと言わんばかりに、ニタニタと笑っている。

 

「……っ!? 装備魔法だと……!」

「《魔界の足枷》は、装備モンスターの攻撃力を下げ、その動きを封じる。

 沢渡。お前の切り札は――もう、撃てない」

 

 沢渡の顔が、驚愕から絶望に染め上がる。

 

「バトルだ! 行け、オッドアイズ!

 ――“ストライク・メタル・バースト”!!」

 

 機械の街を切り裂くように、虹色のブレスが放たれる。

 足枷に囚われたアルティメットは、回避も迎撃もできない。

 ――直撃。

 鋼鉄の装甲が内側から砕け散り、歯車の街に、爆炎が走った。

 

沢渡

LP:3300 → 0

 

 ――警告音。

 無機質な音が、機械の街に響き渡った。

 歯車の回転が止まり、鋼鉄の街並みが、ひび割れるように霧散していく。

 遊矢は、息を整えながら、静かにデュエルディスクを下ろした。

 

「……ありがとう、沢渡」

 

 遊矢は沢渡の前に手を差し出した。

 

「……は?」

「本気で来てくれたから。だから……俺も、前に出られた」

「っ……! うるせえ、よ」

 

 声は強がっていたが、語尾が、わずかに震えていた。

 沢渡は差し出された手を払い、デュエルフィールドを降りていく。

 やがて出口の前で立ち止まり――

 一度、拳を握り締めてから、振り返った。

 

「――榊遊矢!

 次に会った時、勝つのは俺だ!」

 

 それは捨て台詞だったが、同時に宣戦布告でもあった。

 沢渡はそう言い残し、遊勝塾を後にした。

 

 ◆

 

 

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