遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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※本作は原作ARC-Vをベースにした再構成作品です。
一部設定・展開・キャラクター解釈に独自要素があります。
ご了承の上お読みください。


二色の衝撃

 ◆

 

『戦いの殿堂に集いし決闘者達が!

 モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!

 フィールド内を駆け巡る!』

 

 司会者がお決まりの口上を観客席と唱える。

 両者は手札を五枚揃え、デュエルディスクを構えた。

 

『見よ! これぞデュエルの最強進化系!

 アクショーン――!』

「「決闘(デュエル)!」」

 

 宣言と同時に、頭上ではアクションカードが弾け、飛び散った。

 零児の視線が一瞬だけ、それを追う。

 瞼を閉じ、開き、何事もなかったかのように遊矢を見据えた。

 

「先行は譲ろう。

 せっかくの晴れ舞台だ。君とてお得意のエンタメを披露したいだろう?」

「……意外だな。アンタはああいうの、嫌いだと思ってたけど」

「それは評価による。確かに以前までは見るに堪えなかったが……今は別だ。

 君は伸びる決闘者だ。将来性も考慮するのは当然のこと」

「……そっか」

 

 遊矢はその言葉の意味を測りかねるように、短く息を吐いた。

 胸の奥で鼓動が早まるのを感じ、手のひらにわずかな汗を覚える。

 だが、その緊張感を力に変え、目の前の零児へと集中を合わせた。

 

「社長直々のご要望とあれば、いくらでも。

 それでは――レディース、エーンド、ジェントルメーン!」

 

 遊矢は勢いよく観客席に振り返り、お決まりの口上を唱えた。

 

「ご来場の皆様方! 本日は舞網デュエルフェスにようこそお越しくださいました!

 即興ではありますが、今回は私、榊遊矢。そしてLDSの社長こと、赤馬零児様によるエンタメデュエルをお楽しみください!

 ――それでは参ります。私のターン!」

 

 手札から二枚のカードを選び、かざす。

 

「私はスケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 ――“PENDULAM”

 遊矢のディスクに文字が表示され、起動音が発せられた。

 次の瞬間、二体の魔術師が天空へ。

 星の運行を司る白衣の魔術師。

 時の流れを刻む黒衣の魔術師。

 

「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!

 揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

 二対の魔術師が武器をかざした瞬間、空にゲートが開いた。

 その中から巨大な影が、光と共に舞い降りる。

 零児の視線が一瞬だけ鋭く光り、口元に僅かな笑みが浮かんだ。

 

「――ペンデュラム召喚!

 雄々しくも美しく輝く、二色の眼! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 光が収まり、影の輪郭が露わになる。

 赤と緑。二色の目を持つ赤龍が、大地を支配するかのように降臨した。

 

「私はこれで、ターンエンド!

 さあ、次は貴方の番! どんなデュエルを見せてくれるか、お手並み拝見!」

「……やれやれ」

 

 零児は溜息混じりに眼鏡の位置を整える。

 開始早々のペンデュラム召喚に、観客席は大いに湧き上がっていた。

 ――なるほど。観客受けは申し分ない。

 カードに指を添える。その動きに、観客の視線が集まった。

 

「では行くぞ。私のターン、ドロー!

 私は永続魔法《地獄門の契約書》を発動! その効果により、デッキから新たなカードを手札に加える!

 さらに永続魔法《魔神王の契約書》! 手札またはフィールドのモンスターを素材に、融合召喚を行う!」

「融合……!」

 

 次の瞬間に来るであろう衝撃に、遊矢は身構えた。

 

「私は手札の《DDリリス》と、《DDディフェンス・ソルジャー》を融合!

 闇夜にいざなう妖婦よ。次元を守護する兵士よ。今一つとなりて、新たな王を生み出さん!

 ――融合召喚! 生誕せよ! 《DDD烈火王テムジン》!」

 

 周囲の空気が、熱を帯びる。

 燃え盛る炎の中、剣と盾を携えた王が立つ。

 そこに飾りはない。あるのは戦意のみ。

 それが、《DDD烈火王テムジン》。

 

「……いきなりの融合召喚。流石、LDSを統べるだけはありますね」

「お褒めに預かり光栄だ。だが、まだ終わりではない。

 私は手札から《DDナイト・ハウリング》を召喚!」

 

 現れたのは、巨大な口。そして牙。

 実用一点張りの、無駄のない構造をしたモンスター。

 

「《DDナイト・ハウリング》の効果により、墓地から《DD》モンスターを特殊召喚する。

 現れよ、《DDリリス》!」

 

 次に現れたのは、花を模した女性型の悪魔。

 零児は、現れた二体へ号令を下す。

 ――準備は整った。

 

「私はレベル4の《DDリリス》に、レベル3の《DDナイト・ハウリング》をチューニング!」

「チューニング!?」

 

 《DDナイト・ハウリング》が、その巨大な口で咆哮を上げた。

 直後、その姿が三つの星へと変換される。

 星はリリスを囲い、輪を描き、その中心に光の柱が立ち上る。

 

「闇を切り裂く咆哮よ。疾風の速さを得て新たな王の産声となれ!

 ――シンクロ召喚! 生誕せよ、レベル7! 《DDD疾風王アレクサンダー》!」

 

 二体目の王。

 轟音と共に、盤面の主導権が一瞬で奪い去られた。

 駆け抜ける疾風のように、鋭く、しかし無駄のない圧。

 それが、《DDD疾風王アレクサンダー》。

 

「融合に続いてシンクロまで……」

「まだだ。

 烈火王テムジンのモンスター効果! DDモンスターが召喚された時、墓地から他のDDモンスターを復活させる!

 甦れ、《DDディフェンス・ソルジャー》!」

 

 現れたのは一体の兵士。

 鎧に身を包み、巨大な盾を構えた姿は、まさに壁。

 

「さらに、疾風王アレクサンダーのモンスター効果! DDモンスターが召喚された時、墓地からレベル4以下のDDモンスターを呼び出す!

 再びいでよ、《DDリリス》!」

 

 再度、《DDリリス》が現れる。

 ――まさか。

 遊矢に緊張が走る。

 融合に続き、シンクロ。フィールドにはレベル4モンスターが二体。

 同レベルが揃ったなら、導かれる結論は一つ。

 

「私はレベル4の《DDリリス》、《DDディフェンス・ソルジャー》で、オーバーレイ!」

 

 二体のモンスターが紫の光となり、宙を彷徨う。

 零児の足元に宇宙が出現し、光が重なる。

 

「この世の全てを統べるため、今、世界の頂に降臨せよ!

 ――エクシーズ召喚! 生誕せよ、ランク4! 《DDD怒濤王シーザー》!」

 

 三体目の王。

 踏み出した一歩で、地面が軋む。

 巨大な剣を肩に担いだその姿は、戦場を呑み込む濁流のような圧を放っていた。

 それが、零児の支配を完成させる存在――《DDD怒濤王シーザー》。

 

「エクシーズ……召喚」

 

 遊矢は呆然と三体の王を見つめる。

 融合で始まり、シンクロで加速し、エクシーズで締める。

 それが、赤馬零児。

 

「《DDD》……すなわち、Different Dimension Demon。

 異次元をも制する王の力、たっぷり味わうがいい。

 バトル! 疾風王アレクサンダーで、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!」

 

 空気が裂ける。

 風の如く駆ける疾風王と、二色の目の龍が正面から衝突した。

 剣と鱗のぶつかる音が、場の空気を振動させる。

 

「オッドアイズ……!」

 

 相打ち。

 だが、赤馬零児にはまだ、二体の王が残っている。

 

「行け、烈火王テムジン! ダイレクトアタック!」

 

遊矢

LP:4000 → 2000

 

 残りは半分。

 そして――止めの一撃が放たれる。

 

「怒涛王シーザー! ダイレクトアタック!

 さあ――どうする、榊遊矢」

 

 怒涛王が跳躍し、巨大な剣を振りかざす。

 攻撃力2400。息の根を止める数値。

 ――振り下ろされる、直前。

 

「手札から《EM(エンタメイト)クリボーダー》の効果発動!」

 

 遊矢は咄嗟に、手札からモンスターを召喚した。

 帽子を被った毛むくじゃらの悪魔。

 クリボーダーが、王へ突撃する。剣先は遊矢でなく悪魔へ。

 振り下ろされた瞬間、クリボーダーは光となって弾け飛んだ。

 

遊矢

LP:2000 → 4100

 

「……ふう。ありがとう、クリボーダー」

「今のは、ストロング石島戦で見せたカードか。見事な粘りだ」

「……それはどうも。アンタの方こそ、流石だな。こんな決闘者は初めてだ」

 

 遊矢は、残った二体の王を睨み返す。

 手段を確認し、次の手段を身体で感じ取る。

 

「恐悦至極……と言いたいところだが、まだ終わりではない。

 私は怒涛王シーザーの効果を発動。オーバーレイユニットを一つ使い、このターン、バトルで破壊されたモンスターを復活させる。

 甦れ、疾風王アレクサンダー!」

 

 突風が吹き荒れ、砂埃が舞い上がる。

 次の瞬間――風そのものたる、疾風王アレクサンダーが、マントを靡かせながら降り立った。

 

「っ……!」

 

 遊矢の手が止まる。

 アレクサンダーの攻撃力はオッドアイズと互角。

 ――まだ使えない。

 

「シーザーの効果により、次のターンのスタンバイフェイズ、私のライフが1000削られる。王の力も万能ではない、ということだ。

 私はカードを二枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン!」

 

 カードを引こうとして、手が止まった。

 胸の奥が熱い。

 怖い。だが、それ以上に――

 この場を、譲りたくない。

 理由なんてどうでもいい。

 理屈も、評価も、全部置いていけ。

 今はただ――勝ちたい。

 

「……ドロー!」

 

 引いたカードに視線が吸い寄せられる。

 決定打にはなり得ない。しかし、現時点での最適解。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!

 ――ペンデュラム召喚! 現れろ、俺のモンスター達!」

 

 再び、ペンデュラムが大きく揺れ動く。

 光の軌跡が天空にゲートを描き、その中心から、まず一体の影が降り立った。

 

「《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 二色の眼が開かれた瞬間、場の空気が一変する。

 龍は光をまとい、静かに――だが確かに、このフィールドの主であることを示していた。

 その威圧の中へ、もう一体が続く。

 

「《EM(エンタメイト)ドラミング・コング》!」

 

 重低音が鳴り響き、オッドアイズの気配が、さらに研ぎ澄まされていく。

 

「永続罠発動! 《戦乙女(ヴァルキリー)の契約書》! このカードがある限り、私のモンスターは君のターンの間、攻撃力が1000アップする。

 オッドアイズでシーザーを、新たなモンスターでテムジンを倒す気だったのだろうが、そうはいかない」

 

 それに抗うように、零児は罠を発動させた。

 だが、遊矢は止まらない。

 

「バトルだ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、烈火王テムジンを攻撃!」

 

 ドラミング・コングのビートに呼応するように、オッドアイズの瞳が燃え上がる。

 数値変動。攻撃力――3100。

 

「――“螺旋のストライク・バースト”!」

 

 オッドアイズが、口から螺旋のブレスを放つ。

 炎はドラミングのビートを受けて波打ち、威力を増していく。

 テムジンは剣と盾で迎え撃とうとするが、炎の勢いは止められない。

 一閃の火柱が炸裂し、テムジンの姿は煙と共に消えた。

 

零児

LP:3000 → 2800

 

「だがここで、怒涛王シーザーの効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、モンスターを復活させる!

 甦れ、《DDD烈火王テムジン》!」

 

 砂塵と煙の中、テムジンの姿がゆっくりと浮かび上がる。

 

「――俺の勝ちだ、赤馬零児」

 

 それは、勝利を確信した笑みだった。

 

「ほう? 面白いことを言う。私のフィールドには依然として三体の王が健在だ。

 無論、君のドラゴンも同じではあるが。この状況で、勝利を確信する根拠は何かな?」

「根拠ならそこにあるだろ? アンタは、もう破産してる」

「契約の代償は高くつく……君はそう主張したいわけか。

 では、そのようにするがいい。さあ、続けたまえ」

「……」

 

 視線が、零児のフィールドに集まる。

 地獄門。

 魔神王。

 戦乙女。

 三枚の契約書が、静かに並んでいる。

 次のスタンバイフェイズ。

 それぞれが、確実にライフを奪う。

 さらに、シーザーの効果で支払ったコスト。

 合計――四千。

 初期ライフポイントと、同じ数字だった。

 だというのに――この余裕は、何だ。

 

「……ターン、エンドだ」

「よろしい。では――私のターン!」

 

 零児がカードを引く。

 しかしそれを確認しないまま、伏せてあるもう一枚を発動させた。

 

「罠発動、《契約洗浄(リース・ロンダリング)》。これにより、私の場の契約書を全て破壊する!」

「何っ!?」

 

 三枚の契約書が、瞬く間に砕け散った。

 遊矢は言葉を失う。

 ――そんな方法があるのか。

 契約を力に変えてきたはずの男が、その契約を、自分で捨てた。

 計算は、確かに合っていた。

 だが、その前提そのものが消えた。

 赤馬零児は、何も誇示しない。

 ただ、次のカードを手にしている。

 それだけだった。

 

「これにより、契約は破棄された。存在しないものに払うコストなどない。もっとも、シーザーの対価は払わざるを得ないがね。

 《契約洗浄(リース・ロンダリング)》の効果により、私は破壊した枚数ごとにカードを引き、ライフを1000回復する」

 

零児

LP:2800 → 5800 → 4800

 

「さらに私はチューナーモンスター、《DDゴースト》を召喚」

 

 黄色く透き通るクリスタルが宙に浮かぶ。

 その内部で、小さな猫の影が曖昧に揺れていた。

 

「チューナー……?」

 

 その言葉が、遅れて意味を持つ。

 ――次が、来る。

 シンクロ。

 しかも、今の盤面で。

 遊矢は、はっと息を呑んだ。

 伏せカードはない。

 あるのは、アクションカードだけ。

 

「……まずい」

 

 気づいた瞬間には、身体が前に出ていた。

 視線はフィールドを離れ、必死に周囲を探す。

 アクションカード。

 今、必要なのは――それしかない。

 

「私はレベル6の《DDD烈火王テムジン》に、レベル2の《DDゴースト》をチューニング!」

 

 《DDゴースト》は二つの星となり、輪を描く。

 剣を握る烈火王を包み込み――新たな光が差し込んだ。

 

「その紅に染められし剣を掲げ、英雄たちの屍を越えていけ!

 ――シンクロ召喚! 生誕せよ! レベル8、《DDD呪血王サイフリート》!」

 

 四体目の王。

 白髪が、静かに風に揺れる。

 仮面の奥で、赤い瞳がこちらを見返した。

 鎧に身を包み、身の丈ほどもある剣を、片手で地に下ろす。

 振り上げるでもなく、構えるでもない。

 それでも、逃げ場がないと理解させる存在だった。

 恐怖と圧倒の象徴。

 それが、《DDD呪血王サイフリート》。

 

「この瞬間、疾風王アレクサンダーの効果発動! 墓地からレベル4以下の《DD》モンスターを復活させる!

 再び現れよ! 《DDディフェンス・ソルジャー》!」

 

 疾風王が、静かに腕を掲げる。

 一陣の風が吹き荒れ、その中心から盾の騎士が姿を現した。

 

「――あった!」

 

 遊矢もまた、同じタイミングでカードを掴む。

 《回避》。モンスター一体の攻撃を無効にするアクションカード。

 

「バトル! 呪血王サイフリートで《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!」

 

 サイフリートの仮面の奥、赤く光る瞳がオッドアイズを捉えた。

 

「アクション魔法《回避》!」

 

 遊矢は、掴んだカードを発動する

 だが――カードに赤い稲妻が走り、音もなく砕け散った。

 

「無駄だ。サイフリートは、抵抗そのものを許さない」

「それなら……ドラミング・コング!」

 

 遊矢が指示を出す。

 ドラミング・コングが動こうとした、その瞬間だった。

 

「ディフェンス・ソルジャー!」

 

 盾の兵士が、その動きを封じる。

 

「《DDD》モンスターが攻撃する時、相手はいかなるカード効果も発動できない。

 バトル続行。やれ、サイフリート!」

 

 巨大な剣が振り下ろされる。

 避けられない。

 守れない。

 オッドアイズは、光の粒子となって消えた。

 

遊矢

LP:4100 → 3800

 

「疾風王アレクサンダーで、ドラミング・コングを攻撃!」

 

 兵士が身を引き、王へ道を譲った。

 瞬間。

 瞬きの間に鋭い斬撃が、ドラミング・コングを切り裂いた。

 

遊矢

LP:3800 → 2900

 

 観客席がどよめく。

 遊矢が顔を上げると、そこには――巨大な剣を携えた怒涛王シーザー。

 

「怒涛王シーザーで、ダイレクトアタック!」

 

 一撃が炸裂する。

 剣先の衝撃が全身に走り、遊矢の体は宙を舞った。

 

遊矢

LP:2900 → 500

 

「ぐっ……!」

「私はこれでターンエンド。さあ……君のターンだ」

 

 赤馬零児は、それ以上何も言わなかった。

 ……勝てない。

 それでも――

 それでも、俺はこの男に勝ちたかった。

 

「行くぞ……赤馬零児!

 俺のターン――ドロー!」

 

 カードを引き、視線を走らせる。

 繋がった。

 ――いや、繋がってくれと、願った。

 遊矢は息を吸う間もなく、三度、空へ手を伸ばす。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!

 ――ペンデュラム召喚! 現れろ、俺のモンスター達よ!」

 

 ゲートが開き、三体のモンスターが舞い降りる。

 

「《EM(エンタメイト)小判竜(ドラゴ・リモーラ)》!

 《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》!

 そして! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 二色の眼の龍が、二体の御供を従えて降臨した。

 小判を額に宿す小さな辰と、鏡のように光を返す蠍。

 

小判竜(ドラゴ・リモーラ)

 カレイドスコーピオン!

 力を貸してくれ!」

 

 応えるように、二体の光がひとつに重なり、そのままオッドアイズへと流れ込む。

 力を受け取った瞬間――二色の瞳が、鋭く輝いた。

 

小判竜(ドラゴ・リモーラ)の効果により、オッドアイズの攻撃力は500アップする!

 さらにカレイドスコーピオンの効果で、このターン、オッドアイズは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃できる!」

 

 次の瞬間、視界が歪んだ。

 オッドアイズの姿が、ひとつ、またひとつと重なる。

 数を数える意味はなかった。

 そこにあるのは、増えた力ではない――

 届く範囲だ。

 

「これぞ、“カレイドミラージュ”!

 行け、オッドアイズ! 全てのモンスターに攻撃!

 ――“ストライク・カレイド・バースト”!」

 

 解き放たれた光が、フィールドを貫いた。

 次の瞬間、零児のモンスターたちは、存在していた痕跡ごと押し流される。

 王も、炎も、支配も――

 そこには、何も残らなかった。

 

零児

LP:4800 → 2200

 

「よし……これで全ての王は消えた!

 行け、小判竜(ドラゴ・リモーラ)! ダイレクトアタック!」

 

 小判竜が光の残滓を集め、一直線に吐き出す。

 ブレスは迷いなく、零児を射抜いた。

 

零児

LP:2200 → 500

 

「俺はこれで、ターンエンド!」

 

 光と炎の螺旋が消え去り、静寂が戻る。

 一瞬、観客席も息を呑み、余韻に飲み込まれたかのように静まり返った。

 次の瞬間――

 

「うおおおおっ――!」

 

 湧き上がる歓声が一気に観客席を包み込む。

 逆転に次ぐ逆転。静かだった空間は、熱狂の渦へ。

 波打つような大歓声が、遊矢と零児を囲んだ。

 

「見事だ」

 

 最初に言葉を発したのは、零児だった。

 

「ペンデュラム召喚により何度でも蘇るエース。特殊召喚を逆手に取った反撃。劣勢からの逆転。 ここまでされては認めざるを得ない。

 故に――私も、奥の手をお見せしよう」

「奥の手……?」

「私のターン……ドロー!」

 

 零児がターンを開始する。

 見てれば分かる、とでも言うように。

 零児の手札は四枚。

 その中から――二枚を選び取り、高く掲げた。

 ――遊矢と、同じように。

 

「私はスケール1の《DD魔導賢者ガリレイ》と、スケール10の《DD魔導賢者ケプラー》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 青と黄色。二体の賢者が、零児の頭上へ浮上する。

 時読みと星読み。

 ケプラーとガリレイ。

 有り得ないはずの邂逅。ペンデュラムスケールをセットする者同士が向かい合う。

 

「我が魂を揺らす大いなる力よ。その身に宿りて、闇を引き裂く新たな光となれ!

 ――ペンデュラム召喚!

 出現せよ、私のモンスター達よ! 」

 

 光の軌跡がゲートを描き、中心から二体のモンスターが舞い降りる。

 ――その瞬間、異様な静寂に包まれる。 

 

「地獄の重鎮!  《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》!」

 

 肩から上だけの巨躯が、静かに立ち上がる。

 胴体は透き通る水晶のようで、そこに腕は、ない。

 それでも――

 戦場の空気だけが、確かに重くなった。

 ――それが、二体。

 

「――うそだろ?」

 

 声が、やけに軽く聞こえた。

 視線がモンスターから離れない。

 でも――息が詰まる理由は、その巨躯でも、禍々しい気配でもない。

 

 ――なぜ、それを。

 

 自分だけが、初めて踏み越えたはずの領域だった。

 それを、何の躊躇もなく使われている。

 思考が空白になる。

 立ち向かわなければならない。

 でも――どうやって。

 

「バトル。ヘル・アーマゲドンで、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を――」

 

 ――攻撃。

 そう続くはずだった瞬間。

 零児のデュエルディスクを、短い着信音を鳴らした

 零児は一度だけ眉を動かし、画面を確認すると、迷いなく腕を下ろす。

 

「…………」

 

 次の瞬間、零児の手がデッキの上に置かれた。

 ――降参(サレンダー)

 ヘル・アーマゲドンは塵となって消え、警告音と共に、デュエル終了が告げられる。

 勝者――榊遊矢。

 

「――ふざけるな!」

 

 思わず、声が荒れた。

 さっきまで張りつめていた感覚が切れ、代わりに、熱だけが残る。

 

「自信満々に勝負を仕掛けてきて、急用が入ったから終わりだって?

 勝手にも程があるだろ!」

 

 言葉が途中で途切れる。

 悔しさが、喉の奥で噛みついた。

 ここまで来た。

 あと一歩で、決着だったはずの戦いだ。

 それを――

 何事もなかったかのように、置き去りにされる。

 

「――まだ、勝負はついてないだろ!?」

「その通りだ」

 

 低く、静かな声。

 だが、その一言で、場の空気が変わった。

 

「私は君に勝っていない。君は私に負けていない。これは、私と君のデュエルの序章に過ぎない」

 

 零児は遊矢を見据え、淡々と告げる。

 

「――次に戦う時を、楽しみにしている」

 

 ◆

 

 ……勝ったはずなのに。

 胸の奥が、ずっとざわついている。

 何かを掴んだ気がして、同時に、何かを失った気もして。

 強かった。

 あいつは、間違いなく。

 それでも――最後まで、向き合えなかった。

 俺は、何をしたかったんだ。

 答えは出ない。

 出るはずもない。

 ただ、息苦しさだけが残っていた。

 




遊矢の「勝ちたい!」と挫折を意識して書きました。
零児がデュエルを中止したのには理由があります。
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