遊戯王ARC-V 最初から揺れていた振り子   作:名もなきWater

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※本作では原作のカードに加え、一部オリジナルカード(アクション魔法)を登場させます。
 物語上の演出目的での使用が中心で、細かな効果は必ずしも明示しません。


響かせた歌声

 ◆

 

『ご来場の皆様方、本日はようこそお越しくださいました!

 これより舞網デュエルフェスティバル、二日目を開始いたしまぁす!』

 

 司会者のアナウンスに、観客席が一斉に沸いた。

 舞網デュエルフェスティバルも二日目。一日目の内容も相まって、観客のボルテージは最高潮に達している。

 

『なお本日は、特別ゲストとして外部顧問の方にもお越しいただいております!』

 

 司会者が手の平を上に向け、関係者席の方を指し示した。

 それに合わせてスポットライトが動く。

 照らされたのは上等なスーツを着こなした長身の男。こういった場には慣れているのか、その顔には動揺一つ見えない。

 

「アウグスト・ヴァルターと申します。

 決闘者の皆さんには馴染みがないかもしれませんが、以後、お見知りおきを」

 

 ヴァルター。

 そう名乗った男は最後に一礼し、着席した。

 

『はい、ありがとうございました!

 ヴァルター氏はリアルソリッドビジョンシステムのシンクロ部門の技術者です!

 決闘者の皆さん、特にシンクロ召喚の使い手は頑張ってくださいね!

 ひょっとするといいことがあるかもしれませんよ?

 ね、ヴァルター氏!』

 

 観客席で、ヴァルターは苦笑いを浮かべた。

 

『それでは早速参りましょう! デュエルフェス二日目、注目の第一試合!

 LDSビンゴ、スタート!

 ――出ましたぁ! 本日の最初の対戦カードが決まりました!

 一人目は――遊勝塾所属、柊柚子!』

 

 ◆

 

 熱気が渦巻くデュエルフィールドの中心で、柚子は観客席を見渡した。

 しばらくして、赤い鉢巻をした大柄の少年――権現坂昇を見つけた。

 権現坂は、静かに首を振った。

 

「……そっか」

 

 遊矢は、いない。

 彼のことだ。

 きっと、昔みたいにゴーグルで目を覆って、一人で抱え込んでいるのだろう。

 きっと、今はそれしかないのだろう。

 

「遊矢……ちゃんと聞いててね」

 

 私は奏でる。

 どうかこの音が、彼の心を揺らしますように。

 

 ◆

 

『これは一試合目から波乱の予感!

 片や、遊勝塾が誇る看板娘、柊柚子ー!

 皆さん既にご存じでしょうが、彼女はあのペンデュラム召喚の使い手、榊遊矢と同じ塾の決闘者! 彼に次ぐエンターテイナーとして、大いに会場を沸かせてくれるでしょう!

 そして! 彼女に挑むのはLDS所属、デニス・マックフィールド!』

 

 スポットライトの光が、その人物に当てられた。

 

『彼はLDSブロードウェイ校からの留学生! なんと、かのエンタメ決闘者、榊遊勝を追ってはるばる海を渡ってきたとのこと!

 LDSの誇るエンターテイナーが、本家本元のエンターテイナーに挑む! このデュエル、一瞬たりとも見逃せないぞー!』

「あはは、どうもどうもー」

 

 デニスは舞台慣れした様子で、観客に向かって手を振っている。

 

「でも司会者さん、一つだけ訂正いいかな?」

『はい? と、いいますと?』

「見逃せないんじゃなくて、見逃さない、さ。

 皆の意思に関係なく、視線を釘付けにする。これからボクたちが行うのは、そんなデュエルだからね!

 でしょう、柊柚子さん?」

「……ええ、そうね」

 

 柚子は一瞬だけ視線を逸らし、すぐにデニスを見据え直した。

 両者がデュエルディスクを展開する。

 それが合図となった。

 

『うーん、お二人共気合十分! それでは、張り切ってまいりましょう!

 アクションフィールドオン!

 フィールド魔法《オープンステージ・カーニバル 》を発動!』

 

 フィールドが展開される。

 屋外に組まれた巨大なステージが現れ、観客席と一体化した空間が形を取った。

 照明と幕、せり上がる足場が入り乱れる。

 そこは戦場というより、観客の視線すら飲み込むショーの舞台だった。

 

『戦いの殿堂に集いし決闘者達が!

 モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!

 フィールド内を駆け巡る!』

『見よ! これぞデュエルの最強進化系!

 アクショーン――!』

「「決闘(デュエル)!」」

 

 ◆

 

 フィールド上空に巨大な光が集まり、カードの形を成して散らばった。

 

「そう、これこれ。いいよね、アクションデュエルって。

 自分のデッキとその場にあるカード。台本とアドリブ。双方の力が合わさってこそ真価を発揮する。エンタメデュエルにはピッタリだ。

 というわけで、まずはボクから行かせてもらうよ。

 ボクは《Em(エンタメイジ)スティルツ・シューター》を特殊召喚!」

 

 デニスの場にモンスターが出現する。

 それは、自分の杖を竹馬のように乗りこなす、一風変わった魔法使いだった。

 

「スティルツ・シューターは互いの場にモンスターがいない場合、手札から特殊召喚できる!

 ボクはこれでターンエンド! さあ柚子、君の番だ! ボクを捕まえられるかな!?」

 

 デニスは踵を返し、稼働し続ける足場を利用して距離を取った。

 間違いなく、狙いはアクションカード。他にカードを伏せなかったのは、彼の自信の表れか。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 柚子がカードを選択する。

 それは、開演を告げる一枚。

 

「私は魔法カード《独奏の第一楽章》を発動! デッキからレベル4以下の《幻奏》モンスターを特殊召喚する!

 来て、《幻奏の音女セレナ》!」

 

 奏でるはセレナーデ。

 黄色のドレスを纏った、桃色の肌の女性。ハートを模した仮面が、自分が何を司るか示している。

 

「第一楽章からいきなりセレナーデか!

 うん、いいね! ボクは結構スキだよ、そういう熱い心!」

「ほっといて!

 ……《幻奏の音女セレナ》はアドバンス召喚を行う時、一体で二体分になることができる!

 《幻奏の音女セレナ》をリリース!

 天上に響く妙なる調べよ、眠れる天才を呼び覚ませ!

 いでよ、《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》!」

 

 赤いドレスが特徴の、銀髪の女性。

 右手にあるタクトが、彼女が指揮者であることを物語っていた。

 

「プロディジー・モーツァルトの効果により、私は手札から光属性モンスターを特殊召喚できる!

 来て、《幻奏の音女オペラ》!」

 

 奏でるはオペラ。

 紫の衣装に身を包んだ少女が召喚された。

 長身の指揮者と小柄な歌手。二体の乙女が柚子の場に並び立つ。

 コンサートでも始まるのか、と錯覚しそうな盤面。

 しかし侮るなかれ。その攻撃力は、間違いなく上級モンスターのものだ。

 

「攻撃力2600と2300! いきなり飛ばしてくるね!

 ――おっと」

 

 移動し続けるデニスの視界に、きらりと光るモノが。

 

「バトルよ! 《幻奏の音女オペラ》で、《Em(エンタメイジ)スティルツ・シューター》を攻撃!」

「構わないよ! 迎え撃て、スティルツ・シューター!」

 

 スティルツ・シューターが前に出る。

 攻撃力は2300と2200。オペラには僅かに100足りない。

 逆に言えば――たった100で返り討ちにできる。

 この差を埋めるのがアクションカードだ。

 

「残念だったね、ここはボクが一歩リードだ!

 アクション魔法、発動! さーて、効果は見てのお楽しみ……って、あれ?」

 

 デュエルディスクの画面に映ったのは、罠カードだった。

 ――アクション(トラップ)《アクシデント》。

 

「アクション罠?」

「そんなのってアリぃ!?」

 

 オペラの歌唱が響く。

 哀れ、スティルツ・シューターは抵抗空しく破壊された。

 

デニス

LP:4000 → 3900

 

『おーっと、デニス選手! 起死回生のアクション魔法かと思いきや、拾ったのはまさかのアクション罠!

 スティルツ・シューターは破壊され、その直後に《アクシデント》が襲い掛かる!!』

「え? アクシデントって――」

 

 デニスがカードテキストを確認する。

 アクション罠《アクシデント》。

 このカードを拾ったプレイヤーは、1000ポイントのダメ―ジを受ける。

 ……正しく《アクシデント》。それも特大のやつだ。

 

「な、なんだ!?」

「おい、危ないぞ!」

 

 観客席がどよめく。

 何事かと、デニスは後ろを振り返った。

 

「……ワーオ」

 

 ――ビシリ。

 背後の柱に、不自然すぎる亀裂が入る。

 いや、それだけじゃない。

 デニスが立っている足場と、それを支えている柱が倒壊し始めていた。

 

「ふふ、ふふふふふ……!

 成程面白いね、これがアクションデュエルか。でも、ボクの考えは変わらないよ。今こそアドリブ力が試される時!

 ボクは手札から《Em(エンタメイジ)フレイム・イーター》の効果発動!

 カモン、フレイム・イー――ぐはぁー!?」

 

 デニスの背後に、黒い塊が激突した。

 またアクシデントか、と観客が一瞬だけ戸惑う。

 しかし、その黒い塊こそが《Em(エンタメイジ)フレイムイーター》。魔法使いの帽子を被った、爆弾のようなモンスターだった。

 フレイムイーターは主を咥え、そのまま上空へ。先程までいた足場は、無残にも瓦礫の山と化した。

 

「フウ、危ない危ない! フレイム・イーターは効果ダメージが発生した時、自分が受けるダメージを0にして、特殊召喚できるのさ!

 そして、お互いに500ポイントのダメージを受ける!

 さあ張り切っていこうか、フレイムイー、タああぁぁ――!!」

 

 最後まで言い終わる前に、フレイムイーターは主を離し、口の中に炎を溜め始めた。

 

「ええ!? ちょ、ちょっと――!?」

 

 火球が放たれる……のだが、柚子としてはそれどころではない。

 自由落下するデニス。このままでは怪我は免れない。

 ――誰もがそう思った、その瞬間。

 

「なんの! ボクは二体目のフレイム・イーターを特殊召喚!」

 

 デニスは落下しながら体勢を整え、二体目の爆弾を召喚。それをクッションにして、華麗に着地した。

 

「二体のフレイム・イーターの効果! 柚子、君に合計1000ポイントのダメージだ!」

 

 二つの火球が同時に放たれ、柚子を襲った。

 

デニス

LP:3900 → 3400

 

柚子

LP:4000 → 3000

 

「っ……でも、まだバトルは終わってない!

 プロディジー・モーツァルトでフレイム・イーターに攻撃!」

 

 お返しと言わんばかりに、指揮者がタクトを振るった。

 直後、音波による攻撃がフレイム・イーターを襲う。

 爆弾は、跡形も残らず爆散した。

 

「私は、カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 ターンを終えて、柚子は一つ息を吐く。

 今の攻防を振り返る。

 ――デニスから、目が離せなかった。

 実力は未知数。

 しかし少なくとも……エンターテイナーとしてはかなりの実力者であることを、柚子は理解していた。

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードに視線が行く。

 デニスの口角が、僅かに上がった。

 

「ボクは《Em(エンタメイジ)トリック・クラウン》を召喚!」

 

 召喚されたのは、ハテナマークのステッキを持つ道化師。

 

「これで準備は整った。

 ボクのフィールドにはフレイム・イーターとトリック・クラウン。

 同じレベルのモンスターが二体。これが何を意味するか、皆には分かるかなー?」

「!」

 

 観客席がざわつき始める。

 同時に、柚子はその場から駆け出した。可変式の足場へ飛び移り、デニスから距離を取りながらカードを探す。

 

「さーて、答え合わせといこうか!

 ボクは、レベル4のフレイム・イーターとトリック・クラウンで、オーバーレイ!」

 

 フレイムイーターは赤、トリッククラウンは黄色の光体に姿を変える。

 デニスの足元に黒い渦が現れ、その中心へと吸い寄せられた。

 二つの魂が重なり合い、新たな魂として転生する。

 

「Show must go on!

 天空の奇術師よ、華やかに舞台を駆け巡れ!

 ――エクシーズ召喚!

 現れろ、ランク4! 《Em(エンタメイジ)トラピーズ・マジシャン》!」

 

 渦の中から奇術師が現れ、跳躍した。

 空には空中ブランコ。奇術師はそれを掴み、マントを靡かせて空を駆ける。

 

「バトル! トラピーズ・マジシャンで、《幻奏の音女オペラ》を攻撃!」

 

 トラピーズ・マジシャンは空中を駆け抜け、オペラの下へ着地する。

 こつん、と杖で一突き。するとオペラは、涙目になりながら光になって消滅した。

 

柚子

LP:3000 → 2800

 

「っ……」

 

 一瞬遅れて、柚子がアクションカードを拾った。

 ……速い。

 デニスの判断もそうだが、モンスターが辿り着くまでの時間が極端に短い。

 空中を走り、障害物を無視するトラピーズ・マジシャンが相手では、ベストなタイミングでアクションカードを使えない。

 

「よし、オーケー!

 ボクはカードを二枚伏せて、ターンエンド」

 

 デニスの場に新たに二枚、カードが出現した。

 

「私のターン!

 プロディジー・モーツァルトの効果発動! 手札から光属性モンスターを特殊召喚する!

 さあ来て、《幻奏の音女エレジー》!」

 

 奏でるはエレジー。

 紫の衣装を来た、緑色の肌の女性。その表情はどこか物憂げだ。

 

「特殊召喚されたエレジーの効果で、私のモンスターの攻撃力は300アップする!

 さらに私はアクション魔法《二重奏(デュエット)》を発動!

 このターン、エレジーとモーツァルトの攻撃力を300ずつアップさせ、バトル毎に300ポイントのダメージを与える!」

 

 エレジーの効果とアクション魔法により、それぞれの攻撃力が変動する。

 エレジー――攻撃力2600。

 プロディジー・モーツァルト――3200。

 効果ダメージと合わせれば、デニスの残りライフを削り切れるラインに達した。

 

「流石は遊勝塾の決闘者! けど残念!」

 

 同時に、デニスもまたアクション魔法を獲得し、発動させた。

 

「アクション魔法《キープ・ザ・ステージ》!

 このターン、対象のモンスターは如何なる戦闘・効果でも破壊されない!

 最後まで舞台は下りない! それがボクのトラピーズ・マジシャンなのさ!」

 

 次の瞬間、トラピーズの周囲に薄い膜のようなバリアが張られた。

 

「加えてトラピーズ・マジシャンがいる時、ボクはトラピーズの攻撃力以下のダメージを受けない。

 つまり、君達の歌声はボクまで届かない。

 否定するわけじゃないけど、やっぱり悲しい歌(エレジー)は趣味じゃないんだよねー。しんみりするより、面白おかしい方が性に合ってる。

 ――というわけで、罠発動! 《不運の爆弾》!」

 

 デニスが指を鳴らす。

 直後、伏せてあったカードがオープン。

 そこに描かれていたのは――爆弾だった。

 

「あっ、二番煎じって言うのは無しで頼むよ。

 《不運の爆弾》は相手モンスターを一体選択し、その攻撃力の半分のダメージをお互いに与えるカード。

 ボクが選ぶのは当然、プロディジー・モーツァルト!」

「!」

 

 デニスと柚子の頭上に、音符マークの入った爆弾が出現した。

 

「このままじゃ――!」

 

 発生するダメージは1600。ただし受けるのは自分だけ。

 苦し紛れにデニスを見る。

 彼の表情は涼し気だ。目の前に迫る爆弾をものともしていない。

 

「――待って」

 

 それは、何故?

 改めてデニスの盤面を見る。

 ――《Em(エンタメイジ)トラピーズ・マジシャン》。

 もしも彼の余裕が、このカードの能力由来だとしたら?

 ――迷っている暇は、ない。

 

「届け……! 罠発動、《無限泡影》!」

「え?」

 

 柚子が罠を放つ。

 優雅に空中散歩するトラピーズ・マジシャンに、青い雷撃が襲う。

 

「トラピーズ・マジシャン!?」

 

 身体を縛られ、落下していく。

 同時に、音符の爆弾もまた落下し、起爆した。

 

デニス

LP:3400 → 1800

 

柚子

LP:2800 → 1200

 

 断末魔がステージの上に響き渡る。

 ある者は目を覆い、ある者は頭を抱え――そしてまた別の者は、指を差して大笑い。

 観客席は、先ほどとは違う意味で湧き上がっていた。

 

「こ……こ、攻撃! エレジー、プロディジー・モーツァルト!」

「ちょ!?」

 

 煙の中から、半分怒鳴りながら指令が下される。

 歌姫たちは慌てながらもタクトを振るう。その直後、音波の攻撃がデニス達に浴びせられた。

 

デニス

LP:1800 → 400

 

「――フウ。

 流石は柊柚子とその歌姫たち。とっても素晴らしい歌声だ。

 でも……追い打ちは、美しくないと、思うなあ。お転婆も程ほどに……ネ?」

「よ、よけいなおせわ、よ……」

 

 二人は、肩で息を切らしながら向かい合っていた。

 

「っていうか、何なのよ貴方のデュエル!

 LDSのエンターテイナーって言うから期待してたのに、やってることはただの爆弾魔じゃない!」

「ぐはあぁぁ――!!」

 

 爆弾と一緒に怒りも爆発したらしい。

 デニスは今日一番の絶叫を上げながら、相棒の奇術師と一緒に崩れ落ちた。

 

「最初はちょっといいかもって思ったけど、どうやら勘違いだったみたいね!」

「ぐ……わ、わかってる。わかってはいるんだ。

 でも、デッキが……デッキがそうしろって言ってるから……」

「……デッキがって、貴方ね……」

「いや、まだだ!」

 

 デニスは背筋を伸ばして勢いよく立ち上がった。

 

「ボクはいつだってShow must go on! 一度始めた舞台は最後までやり切る!

 柚子、仕切り直しといこうか。ボクも君も残りライフは僅か。結果はどうあれ、あと数ターンで決着がつく。

 どうせなら、華々しい最後にしようじゃないか」

「……そうね。それには同感。

 私はこれで、ターンエンド!」

「ボクのターン、ドロー!

 行こう、トラピーズ・マジシャン!」

 

 トラピーズはデニスを抱え、再び空中ブランコに掴まった。

 再度、奇術師が空を駆ける。

 同時に、観客席がもう一度沸き立つ。これがラストターンになると感じたのだろう。

 しかし、デニスの真の狙いは――

 

「アクションカードね……!」

 

 柚子もまた走り出す。

 空中は相手の土俵、競い合うだけ不利。

 ならば、残されたのは地上のみ。

 

「ボクは永続魔法《バリア・バブル》を発動! これにより、トラピーズ・マジシャンは一ターンに一度だけ、破壊されない!

 バトル!」

 

 デニスはトラピーズから離れ、落下する。

 

「トラピーズでエレジーを攻撃! そして――!」

 

 空中に浮かぶカードを掴み取り、即座に発動。

 

「アクション魔法《スポットライト》! さあ行け、トラピーズ! この舞台の主役は君だ!」

 

 照明が奇術師を照らし出す。

 トラピーズ・マジシャンの攻撃力は3000へ。

 奇術師はブランコを掴み、滑るようにエレジーに接近する。

 

「アクション魔法《クレッシェンド》! エレジーの攻撃力を500アップする!」

 

 エレジーもまた、2800まで引き上げられる。

 ――足りない。

 クレッシェンドは、音を徐々に大きくする記号。

 だが――速さという点で、エレジーはトラピーズに一歩劣る……!

 

「ギリギリでアクションカードを拾っていたみたいだね。

 でも、想定内だよ。

 罠発動、《妖精の風》! 表側表示の魔法・罠を全て破壊し、お互いは一枚につき300ポイントのダメージを受ける!」

 

 デニスの場の永続魔法《バリア・バブル》、そして二枚のアクションカードが破壊された。

 その瞬間、デュエルフィールドに一陣の風が吹き荒れる。

 

柚子

LP:1200 → 300

 

 トラピーズ・マジシャンの効果により、デニスにダメージはない。

 勝負を決めるには、わずかに届かない。

 ――コツン。

 オペラの時同様、トラピーズが杖でエレジーの頭を小突いた。

 その直後、エレジーが粒子となって消滅する。

 

柚子

LP:300 → 100

 

「っ――まだよ!」

「残念、あと100足りなかったか。でもね――!

 この瞬間、ボクは墓地から《Em(エンタメイジ)スティルツ・シューター》の効果を発動!

 相手に効果ダメージを与えた時、墓地のこのカードを除外して、さらに2000ポイントの追加ダメージを与える!」

「!」

 

 スティルツ・シューターが空中に浮かび上がる。

 杖を槍のように構え、柚子へと突撃した。

 

「カウンター罠発動! 《フュージョン・ガード》!」

「なっ――!」

 

 柚子のEXデッキから、ランダムに一枚が選ばれる。

 ――《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》。

 花を模した歌姫が、スティルツ・シューターの前に立ちはだかった。

 衝突。

 勢いは殺され、スティルツ・シューターが消滅する。

 役目を終えた歌姫もまた、余韻を残すように 、数秒遅れて消滅した。

 息を呑む攻防が終わり、静寂が訪れる。

 残りライフポイント、400対100。

 その事実を認識した瞬間――再度、会場は熱狂的な渦に呑まれた。

 

「……アンビリーバボー。トラピーズの攻撃、《妖精の風》、スティルツ・シューターの追撃。それを全部耐えきってみせたなんて。

 悔しいけど、ボクの攻撃はここまで。ターンエンドだ。

 さあ柚子。ボク達のデュエルの、フィナーレを飾ってくれ」

「……そうね」

 

 ――違和感。

 デニスの言葉は本当だ。

 このターン、彼にできることは何もない。

 だというのに。

 柚子の直感は、警鐘を鳴らしていた。

 

 ――これじゃあ、三番煎じになっちゃうなあ。

 デニスの視線が柚子の墓地に向けられる。

 先程の《フュージョン・ガード》。

 あの時墓地に送られたのは、《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》。

 柚子のデッキのエースとも言えるカード。あれが墓地に送られた時点で、デニスの敗北はなくなった。

 次のターン、彼女がどんな手を使って来ようと、ボクの勝利は揺るがない――

 

「――とでも、考えているんでしょう?」

「え?」

 

 デニスははっと顔を上げた。

 柚子は一度だけデニスを見た後、背中を向け。

 観客席の方へ、振り返った。

 

「レディース、エーンド、ジェントルメーン!」

 

 耳に残っている台詞を再生する。

 目に焼き付いた姿を再現する。

 私は彼とは違う。

 彼のように、自分だけのエンタメデュエルなんてできない。

 だから私は、その姿をなぞる。

 自分がどう見えていたのか、知ってもらうために。

 

「紆余曲折あった本デュエルも、ついにフィナーレを迎えます! どうか皆様がた、最後の瞬間までお楽しみください!

 さあ……行くわよ、デニス!

 私のターン、ドロー!」

「…………」

 

 ラストターンが開始された直後、デニスは――ほんのわずかに笑みを浮かべた。

 このデュエル中、《Emトラピーズ・マジシャン》には、一度も見せていない“切り札”がある。

 それが発動した時――舞台は、もう一度だけ動き出す。

 素材となった《Em(エンタメイジ)トリック・クラウン》。

 そして、墓地に潜む“爆弾”。

 もし全てが噛み合えば――ダメージは、柚子だけに届く。

 

「バトルよ!

 プロディジー・モーツァルトで、トラピーズ・マジシャンに攻撃!」

「っと、マズーイ! 速くアクションカードを探さないと!」

 

 打つ手がない。

 そう思わせるために、デニスは走る。

 舞台を駆け、視線を集め、“まだ何かある”と観客に思わせる――それもまた、エンターテイナーの技術だ。

 しかし柚子は知っている。

 こういった手合いに限って、

 勝ちが見えた瞬間ほど、

 用心深く、逃げ道を重ねていることを。

 

「速攻魔法発動! 《禁じられた一滴》!

 手札のモンスターカードを墓地に送り、モンスター一体の効果を無効にして、その攻撃力を半分にする!」

「何っ――!?」

 

 デニスの表情が、初めて崩れた。

 トラピーズ・マジシャンの強みは、“ダメージを受けない”という一点に集約されていた。

 だが――効果を封じられた今、その前提は崩れる。

 

「お生憎様、こっちは毎日エンタメデュエルを特等席で見てるの!  貴方の考えてることくらい、お見通しよ!」

 

 それは挑発ではない。

 見抜いたという、事実の宣言だ。

 

「これでフィナーレよ!

 ――“グレイスフル・ウェーブ”!」

 

 波打つ旋律が、舞台を満たす。

 一撃。

 それだけで、十分だった。

 勝敗が決したあとも、しばらくの間、歓声は止まらなかった。

 

デニス

LP:400 → 0

 

 ◆

 

「レディース、エーンド、ジェントルメーン!」

 

 遊矢は、跳ねるように顔を上げた。

 柚子の真似――

 その軽い声が、遊矢の頭の奥に沈んでいた音を叩き起こす。

 

 赤馬零児に負けた。

 ペンデュラム召喚を使われた。

 自分だけのものだと思っていたはずの切り札は、

 目の前で、あっさりと奪われた。

 

 それでも。

 ――その言葉だけは、まだ自分の中に残っていた。

 

「柚子……」

 

 デュエルフィールドの中心で、柚子は観客席に向かって手を振っている。

 全てを出し切った者の顔だ。

 ……答えは、まだ見えない。

 それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。

 

「次は――俺の番か」

 

 遊矢はゴーグルを外し、静かに立ち上がる。

 

 ◆




・遊矢を強化してるから幼馴染の柚子も連鎖的に強化されてて然るべきでしょ。
・ランサーズ要因が全然足りない。
という理由から柚子対デニスを執筆しました。

※今回登場したオリジナルアクションカードは、物語上の演出補助として作成した一話限りのものです。
「アクシデント」「二重奏(デュエット)」「キープ・ザ・ステージ」「スポットライト」「クレッシェンド」は、デュエルの展開を補助するための演出用カードであり、細かいルールは敢えて明記していません。
役割としてはそれぞれ、

アクシデント:デニスの演出+罠展開の補助
デュエット:柚子のモンスター強化+少量ダメージ
キープ・ザ・ステージ:デニスのモンスターに破壊耐性付与
スポットライト:デニスのモンスター攻撃力強化
クレッシェンド:柚子のモンスター攻撃力強化
という形で使っています。
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