遥か昔。
そう、それは、いつ始まったのかすら定かではなかった。
だが確かなのは、この世界には人間が存在し。
そして、魔族も存在している、という事だった。
数で勝る人間と、力で勝る魔族。
相反するその二種族がぶつかり、争いに発展するのはある意味当然の事だったのかもしれない。
そう、それはまるで、山に降り積もった雪が溶けて川となる様に、自然な事だった。
だから、誰もその川が流れに流れて、いつぞや海と呼べるような大きさになっている(年月が経っている)ということを、意識する人なんていなかった。
そんな、争い合うという当たり前の日常が続いた結果、その最初、始まりを誰もが忘れてしまったのだ。
だが、人間も魔族も、これだけはハッキリと覚えている。
人間が、最も魔族を追い詰めた、あの時の事を。
それは、今から百年前。
人間に『勇者』と呼ばれる存在が生まれ、魔族を束ねる『魔王』へと戦いを挑んだ時の事だ。
神々に祝福されたと言われる勇者は、仲間達と共に魔王が住まう城、魔王城へと乗り込んだ。
そしてその結果、勇者は魔王に重傷を与える事に成功する。
残っている人間の歴史の中で、魔王に傷を負わせたという記録は、それまで存在していなかった。
その事から、百年前の勇者がどれだけの偉業を成し遂げ、どれ程大健闘をしたのか、伺い知れるというものだろう。
そう、大健闘だ。善戦した、と言い換えてもいい。
結論から言うと、百年前の勇者はその戦いで死んでしまった。
勇者と魔王の戦いは熾烈を極め、人間側も魔族側も、その勝負を最後まで見届けた存在はいないという。
苛烈で、猛烈で、激烈な二人の争いに割って入るだなんて到底できず、ついていく事も、近づく事も、この世の誰も出来なかった。
だが結果として、百年前の勇者は死んだと伝えられている。
そして、魔族は依然人間達にとっての脅威となり続けていた。
この事実から、百年前の勇者は惜しくも魔王に敗れたと考えるのが自然。
そして今もまだ、人間と魔族の戦いは続いている。
つまり、魔族を率いる魔王は未だ健在、という事だ。
だがその魔王も、勇者に負わされた傷が相当深かったのだろう。
魔王は魔王城に籠もり、今ではもっぱら、魔王の配下である四天王が魔族を指揮して人間達へ戦いを挑んでいた。
そして、その百年前の勇者エルニとの戦いから今の今まで、魔王は人間達の前に姿を現したことはなかった。
そう、『なかった』。過去形だ。
だが、それも今日で終わりを迎える事になるだろう。
何故なら今まさに、そう、実に百年ぶりに、人間達が魔王城へと足を踏み入れたのだから。
魔王城に踏み入った人間側のパーティーの影は、五つ。
王座の間へ続く扉の前、その先頭に立つのは。
百年ぶりに生まれた、当代の『勇者』であった。