魔王の消えた魔王城で   作:メグリくくる

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○終章

 私は時間を潰すために入った喫茶店で、偶然手にした新聞に目を走らせる。

 そこには最近、巷を賑わせている、ある話題がデカデカと乗せられていた。

 ……今日でアルブール王国から旅立った勇者シルナが、パーティーと共に魔王城へ足を踏み入れてから丁度一ヶ月が経過した、か。

 世間では魔王城が消え去ったという話があちらこちらから聞こえてきて、魔王ザへキースはこの世から消え去ったのだと、魔族と人間達の争いは、人類の勝利なんだと、お祭りムードが包んでいる。

 新聞にも戦勝を祝う美辞麗句が並ぶ中、次のページは少しだけ毛並みの違う内容だった。

 それは――

 ……人類に平和をもたらした勇者パーティーは全滅。平和のために死力を尽くした彼らの尊い犠牲は、未来永劫語り継がれることとなるだろう、ねぇ。

 その記事には勇者シルナと同行した、パーティーメンバーの事も表記されている。

 アルブール王国から同行した熟練の冒険家に鉄壁の重戦士。万能の魔法使いに、百発百中の弓の名手。

 彼らを称える記事まで目を通す気力がなく、私は新聞を畳んで、机の上に置いた。

 どれもこれも似たようなものばかりで、読む気が失せたのだ。それに、内容も盛られすぎている。

 畳んだ新聞の隅に書かれた記事の方が、余程私の興味をそそった。

 ……かつて魔王城のあった土地まで、魔族領への侵攻を検討。連合軍の設立を急いでいるが、各国の足並み揃わず、今後も継続して審議が行われる予定、って、まだまだ時間かかりそうだな。

 勇者が魔王を倒そうが、その勇者が死んでしまおうが、世界には相変わらず次の争いのための火種が燻り続けている。

 百年前の勇者エルニが予見し、ザへキースが口にしていた内容そのものだが、実際にそれを目の当たりにすると、中々辟易するものがあった。

 

 ヴォッセの体から生み出された、あの黒い赤子を倒した後。

 どれだけ探しても、ザへキースの姿は全く見つけることが出来なかった。

 見つけることが出来たのは、ザへキースがリトとして身につけていた、ボロボロのローブだけ。

 それでもナウルフルは魔王の生存を確信しており、まだ残っている魔族を引き連れて、魔族領の奥へと向かうらしい。

 

 ……『尽忠の紋章』が以前の輝きを失ったとしても、いつでもあのお方が戻ってきてもいいようにしておく、か。

 それ程信じられるものがあのグリフォンにあることに、私は少しだけ羨ましく感じる。

 勇者としての自分は、シルナは世間では、もう死んだことになっている。

 もう二度と、自分はシルナという名を名乗ることは出来ないだろう。

 勇者が生きていると知られてしまえば、自分そのものが争いの火種となってしまう。

 ……逆に今なら名乗ると、冗談だって思われて、逆に姿を隠しやすいのかな?

 そう思った所で、どうやら待っていた馬車が到着したみたいだ。

「ごちそうさまでした。これ、コーヒーの代金です」

「毎度あり。って、あんた、暑くないのかい? 顔まで隠しちゃって。しかもそのローブ、ボロボロじゃないか」

「ボロボロだから、以外に涼しいんですよ」

「それなのに、あの馬車に乗るのかい? あれ、雪山の方に向かう便だよ?」

「いいんです。あそこから見える景色がどんなものか、見てみたいので」

 それじゃあ、と言って、私は喫茶店を後にする。

 ナウルフルの様に、自分が絶対的に信じられるものは、私にはない。

 だから今も、一歩歩く度に、私の心の中が揺れている。

 これでいいのか? このまま進んで、本当にいいのか? って。

 でもきっと、それは本当の意味で、自分の人生を歩いていくのに、必要な問いかけなんだと思う。

 だから、どれだけ不安でも、どれだけ恐ろしくても、自分で決めた少しでもマシな道(物語)を、一歩一歩、進んでいくしかないのだ。

 ……私はまだ、死に方(生き方)まで決めたわけじゃないからね。

 それでも私には、私だけには、一つだけ信じられるものがあった。

 それを思うと勇気が出て、根拠もなく歩いて行ける気がする。

 ……だってあの時、嘘だって反応しなかったから

 それは、崩れる魔王城から、ナウルフル達と一緒に、脱出する時に聞いた言葉だ。

 

『物語の結末を、見届けるんだ。彼女と一緒に!』

 

 彼が知りたかったのは、二人の勇者の物語の結末だ。

 でも、まだ私は生きている。私の物語は、まだ続いている。

 だから彼は、いつかきっと見届けに来てくれる。

 そう解釈するのは、やり過ぎなことだろうか?

 ……でも、いいんだ。私は、それが正解だって、それがいいって、決めたんだから。

 だから私は、歩いて行こうと思う。

 いつかきっと主人公(私)の元に、一緒に戦ってくれる脇役が戻ってきてくれると信じて。

 その手始めの第一歩として。

 私は雪山へと向かう馬車に向かって、走り始めた。

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