ポケットモンスター シンギュラポイント   作:雁木まりお

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黒いバンギラス

「かつてパルデアには隆盛を極めた王国があったという話は授業でしたな?」

 

 レホールはしなやかな指で机をコツコツとならしながら話を続けた。ここはレホールの寝室、そこで彼女は将来有望な生徒を個人的に招き講釈を垂れていた。教師が年端もいかない子供を、それも自分の生徒を寝室に連れ込むなど、校長が知ったら卒倒するだろうが、そんなことを気にするほどレホールもその生徒も小心者ではなかった。

 

「パルデア地方で最高に未知なる場所、謎の大穴ができてからこの王国が滅ぶまでの間に、実はその滅んだ王国とも、その後に滅んだ帝国とも異なる文明があったのではないかという研究者もいる。あるおとぎ話を基にした説だ」

 

 彼女は口にコーヒーを運ぶ。立ち上る湯気で眼鏡が曇り、それを丁寧に拭くと彼女はまた語りだした。

 

「その文明を築いた者たちは未来を先取りし、過去を切り取り、物質世界を意のままに操ったという。パルデアの大穴に都市を築き、死者を蘇生し、次元を超え、世界の王として君臨した」

 

「そんな文明があったなら、どうして教科書にのっていないんですか?」

 

 今までレホールの言葉を一字一句聞き逃すまいとして黙っていた少女、アオイはようやく口を開いた。

 

「都市の痕跡や、文字や伝承は滅んでしまっても残りますよね?だから王国や帝国はかつて存在していたと現在の私たちも知っている」

 

「その研究者がいうには、ある強力な存在が一夜にしてその文明を消し去ってしまったからだという。」

 

 レホールがアオイをじっと見つめ口を裂くように笑う。教育者ではない、歴史の熱に浮かされた学者の顔だ。

 

「それは山のような巨体、岩のような鱗、長い尾、剣のような鋭い歯、口からは光輪と熱線を放つ生き物だった。体からは世界を蝕む赤い砂が溢れ、存在するだけで世界の理を歪めたという」

 

「そんなポケモンが…」

 

「ポケモンではない。ないんだよアオイ」

 

 レホールはゆるゆると首を振った。何かを恐れているような、知ってはいけないことを知ってしまったかのようなその仕草はアオイが初めて見るものだった。

 

「<それ>は他の世界からやって来た。人間ともポケモンとも違うものだ。ウルトラビーストのように他の世界のポケモンというわけでもない。何もかも違ったんだ」

 

「単なるおとぎ話じゃ…」

 

「おとぎ話なら現実でないと?お前は私におとぎ話が実際にあったことだという証拠を見せてくれたじゃないか」

 

 アオイは自信の腰に目を落とした。そこには力を取り戻した自分の相棒が収まるモンスターボールがあり、「どうかしたのか?」といいたげに体を震わせている。

 

「なんでもないよ…レホール先生、確かにおとぎ話が現実をベースにしている可能性はあります。でも説を唱えるなら証拠が必要です。証拠がなくていいならどんな説も唱え放題になってしまいます」

 

「そう!それなんだ!実はな、ブライア先生が証拠になるかもしれないものを発見したんだ…以前パルデアの大穴に潜った時にらしい…実に羨ましい!」

 

 ブライアはこれを持ち出す際許可を取るどころかパルデア側に報告すらしていない。「何かきれいだから」と勝手に自分の研究室に持ち帰りオモチャにしていた。オモダカが聞いたら「何やってるんですか?」とブチ切れそうな話である。

 

 ちなみにテラパゴスとの戦闘中に落ちてきたのを拾ったらしい。ゼイユが聞いたら「緊急事態になにやってんのよ!」とブチ切れそうな話である。

 

「これがそれだ。羨ましいと文句をいったら「特別ですよ?」と言って分けてくれたんだ」

 

 そもそもパルデアの大穴由来のものなのでブライアにもレホールにも所有する権利などない。だが研究者や考古学者という生き物、特に彼女たちは頭のネジが外れているのだ。

 

「きれい…」

 

 それはテラピースに似ていて、しかし全く違うものだった。テラスタルの結晶が光を放つのに対し、それは光を吸い込むような深い輝きが揺らめいていた。

 

「これが文明の証拠ですか?」

 

「ああ、このテラピースのような結晶を使って彼らは文明を築き、そして滅ぼされた。滅ぼした存在の名は…ゴジラ」

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