「未来…?ポケモンじゃないってだけで信じられないのに未来?」
「奴にマスターボールを投げたとき、背中のトゲが振動していた。多分未来を見ながら僕に向かって跳弾させる方向を調整していたんだ」
ゼイユの顔は「何言ってんだこいつ?」と言いたげだ。無理もない、僕だってレホール先生やブライア先生がこんなこと言いだしたら信じない。
「奴は一度も完全な姿を人前にさらしたことはなかった。でも僕たちがキタカミに来てから足跡やら食事後やらが見つかりだした……。しかも僕たちに見せつけるように。多分最初から誘い込まれていたんだ」
「私たちの調査がうますぎるだけよ」
「いや、どうかな……最初の攻撃、あれも途中で避けられることが分かったんだと思う。そうじゃなきゃあの巨体であそこまではやい方向転換はできない。それにほら……もうあいつは僕たちを見つけたみたいだ」
ハルトが指さした先には、木々が揺さぶられては段々と消えていく不可思議な光景が広がっていた。いや、木は押し倒されているのだ、他でもないアンギラスによって。
「分かった、多分あのアンギラスはメスなんだべ。昔ハルトにコマされて復讐しにきたんだべ」
「それだったら僕が悪役になるだけでいいんだけどね」
スグリの軽口にハルトは肩をすくめて見せた。実際そうだったとしてもゼイユやスグリが巻き込まれた時点でハルトにとってアンギラスは敵である。これは調査ではなく駆除だ。奴が自分を殺したいように自分もアンギラスを倒さねばならない。
「さて……獣狩りの開始だ」
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「まず作戦はこうだ。僕が囮になってアンギラスを引きつける」
「その間にゼイユとスグリは拓けた場所…そうだな、最初にアンギラスに会った場所がいい。あそこにどくびし、まきびし、ステルスロック、ねばねばネット、ともかく奴の妨害になるようなものを撒きまくってくれ」
「自分から踏み抜いてくる分には未来が見えようが関係ないだろう」
「未来が見えていても完全じゃない……ハズ。向こうは僕らを優先的に狙ってくる…好都合だ。今のところ奴に遠距離の攻撃手段はない。カウンターを食らわせてやる」
「カウンター?」
「エビワラーでも連れて来るべか」
「いや……そういう意味じゃない。奴が消耗したところにマスカーニャや他の面々で袋叩きにする。それにトリックフラワーは放たれれば必中急所だ。未来が見えても関係ない…多分」
「はずとか多分って…」
「仕方ないだろう、今はこれしか思いつかないんだ。それとスグリ……君に頼みたいことがある」
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アンギラスは苛立ち始めていた。奴はこちらをおちょくるように空から降りたりまた飛んで行ったりする。周りの木々などアンギラスにとってはあってないようなものだとしても怒りを蓄積させるには十分だった。
そんなことを繰り返しているうちにいつしか最初の場所に戻って来たようだ。アンギラスにとって好機である。開けた場所の方がアンギラスの身体能力を存分に発揮できる。
それにハルトだけでなく、奴を守ろうとする邪魔者までそろっているではないか!
アンギラスは暗闇に向かって走り出した。それが奈落の底に通じているとも知らずに。
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「GIRRRRAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
アンギラスの咆哮が大地を震わせる。本当にこんなバケモノを倒せるんだろうか?いや、やるしかない。スグリはハルトから借り受けたボールを握りしめた。
アンギラスは地面の障害物を意に介さず突き進んでくる。最初は効果がなさそうだったが、距離を重ねるごとにアンギラスのスピードは落ちていく。なぜそこまでして、なぜそんな殺意を……。
「行こうスグリ、マスカーニャ」
「わかったべ……。いくべオーガポン!!」
「ニャアアアオオオオ!」
「ぽにおおおおおお!」
スグリがハルトから頼まれたこと、それは臨時のオーガポンのトレーナーである。マスカーニャの指示にハルトが集中する以上、オーガポンを誰かに託さねばならなかった。そしてハルトは親友であるスグリにオーガポンを託したのだ。
「「テラスタル!!!」」
マスカーニャとオーガポンが輝き、テラスタルポケモンとなる。
「GIRRRRAAAAAA!!」
アンギラスも負けじと吠える。
「トリックフラワー!」
「つたこんぼう!」
横から花が、逆方向からツタがアンギラスの頭を打ち抜いた!
──────なぜ、なんの未来も見えないのだ……。
アンギラスは目の前が真っ白になった。