「ふむ、これがアンギラスか!」
「なんて凶悪なツラだ……こんなのポケモンじゃねえ!」
「今までこんなバケモノ見たことないわ……」
アンギラスを罠にはめることでなんとか倒したハルト達の元へ、今までどこかをぶらついていたブライアと、騒ぎを聞きつけたキタカミの人々がやってきた。怯えの見えるキタカミの人々とは対照的に、ブライアは新しい研究対象が現れたことで目を輝かせている。
「ブライア先生!今までどこ行ってたのよ!」
「いや、他の翼竜の死体を調べていてね……それにこんな怪物と戦うというときに私がいたらかえってじゃまだろう?」
「いや…それは……まあ事実だからしょうがないけど……本人がいうことじゃないわよ!?」
あっけらかんと言い放つブライアにゼイユは一瞬言いよどんだが、それでも納得はし難いようだ。
「ブライア先生、この死体どうするんだべ?このまま放置したら森のポケモンに迷惑になるべよ。公民館に運ぶのも無理そうだし」
「そうだね。私もまさかアンギラスがここまで大きいとは予想していなかった……仕方ない、少し時間がかかるが輸送ヘリを呼ぶ。ゼイユ君、スグリ君、キタカミの人たちを送ってあげてくれないかい?アンギラスがいなくなっても安全とは限らないからね……」
「わやじゃ……わかったべ」
「ハルト君はアンギラスの見張りと私の護衛をしてくれるかな?他のポケモンに食い荒らされたりしないように…案外アンギラスも死んだふりをしてるかもしれないけどね!」
「変なフラグを立てないでください」
スルーされたゼイユがまだ少し怒ってはいたが、ブライアの指示に従いスグリと人々を送り届けに行った。ゼイユの剣幕に人々が押される形になっているため、アンギラスを見てパニックになりかけた人達も素直に帰っていく。
「……さてハルト君、君たちはアンギラスと戦ったようだがどう思った?アンギラスはどんな技を使い、どのように戦った?」
「罠で嵌め殺したのであまり特徴は観察できませんでした。……いや、そういえばアンギラスは技らしい技を使っていなかったような……」
「ふうむ、肉弾戦オンリーというわけか。ラドンと同じだな」
「ラドン?」
急に聞き馴染みのない言葉が聞こえたため、ハルトは思わず聞き返した。
「ああ、あの翼竜の名前だよ。彼らの細胞組織から放射性元素、原子番号86番”ラドン”が検出されたことから名付けられたそうだ。さっき連絡が来たんだ」
「そんな物騒なものが?」
「人体に影響を及ぼすほどではないそうだがね。そしてもう一つ面白い特徴があった。ラドンの死体は電波塔の近くに集まっていてね、試しに電波を発する罠を取り付けたら電波塔と同じようにラドンの死体が見付かったんだ」
「つまり電波に引き寄せられていると」
「どうやらそうらしい。アンギラスはどうだったんだろうね?恐らくラドンを捕食していたわけだし、アンギラスも電波を…」
「いや…奴は”未来視”です。」
「未来?」
未来視、それを聞いてブライアは一瞬怪訝そうな顔をした。だが、未来が見えるというのはこの少年にとっては不思議なことではなかったと思い返した。
「アギャッス!」
「ミライドンも未来から来ました。未来が見える奴くらいいたっておかしくないでしょう」
「そうだね……君が言うならそうなんだろう、君のことは信じているからね」
ブライア自身も未来から来たパラドックスポケモンにエリアゼロで遭遇している。タイムマシンがあるなら未来視も無法というほどではないだろう。
「さて、私としてはまだ聞きたいことはあるけど、じっくり話していると日が暮れそうだからね。そうしたらヘリを呼ぶのも忘れちゃいそうだし、そろそろ電話してみようか!前にも電話するの忘れて怒られたことがあるんだよね……スマホロトム、電話をかけてくれないかい?」
色々と情けないことを言いながらブライアは電話を掛けようとしたブライアだったが、その直後、逆にブライアへと電話がかかってきた。
「どれどれ相手は誰かな……シアノ校長?」
『もしもしブライアちゃん?落ち着いて聞いてほしいんだけどー、今ブルーベリー学園が大変なこになってるんだよねー』
「シアノ校長がそういうなら相当大変なんでしょうね、学園はどうなってるんですか?」
『謎の巨大ポケモンに襲撃されてねー、テラパゴスが狙いだったみたいで、テラリウムドームも半壊だよー』
「…………はい?」
♦
ブルーベリー学園が世界に誇る『テラリウムドーム』、多彩な自然環境を人工的に再現したのみならず、パルデア地方固有の現象であるテラスタルまで再現した海中庭園は、今や紅い砂と海水が混ざり合った液体で半ば水浸しになになっていた。
その地下にある研究施設はほぼ水没し、今動いている生命体は二体のみとなっていた。
『随分惨めな姿になったものだな』
ソレは実際にそう発音したわけではない、だがしかし相手にはそう伝わった。ドラゴンタイプと猿型のポケモンを混ぜ合わせたような姿をした、額にシャランガのような模様をもつ獣はテラパゴスにそう言った。
『やあ、本流由来の生き物を見たのはいつぶりかな?前の私が死ぬより以前だろうか』
発言に眉をひそめるでもなく、ソレにテラパゴスはそう答えた。
『どうして君はこんなところに来たんだい?ここは人間とポケモンしかいない、君が求めるものなんて何もないと思うんだが』
『何を言う、貴様は純粋なこの世界の生き物ではないだろう。今こそ本流に、私に還る時が来たのだ』
『………………』
テラパゴスはソレの発言に困ったように首をかしげた。
『…元の私は本流から分岐した支流に過ぎない。そして今の僕は支流ですらない、ポケモンと前の私、2つの起源をもつというだけの生命体だ。そもそも君も本流そのものではないだろう』
『今本流でないからなんだというのだ。今いるアレですら元は本流ではなかった。オリジナルを滅ぼせば私が本流になるのだ』
『……無駄だと思うけどね』
『何?』
テラパゴスはソレに初めて笑みを向けた。ソレは笑みを悪意だと受け取った。
『支流から外れた今でも、この世界に来た本流のヤバさくらいわかる。本体でない陰でさえあれでは君なんかじゃあ逆立ちしたってかないっこない。後は……ポケモンとしての意地かな』
『下らんな。理屈や意地などこの世界が破壊された後には何も残らん』
『僕らが勝つさ』
ソレはテラパゴスを掴み、大きな口を開け呑み込んだ。生命体の数は一になった。
♦
「まずい……まずいなあ。確かにイッシュ地方にも異変は起こってはいたが、ここまで一気に事態が悪化するなんて!」
『今イッシュのポケモンリーグからも応援が来ているけどー、謎のポケモンは地下に開けた穴から逃げ出したみたいだねー。入ってきた時に開けた穴みたいだけど……』
「わ…私のテラスタルドームがっ……!」
『今学園は非常…態で生徒達…らも……者が…………そ…君…………』
『圏外になったロト』
「シアノ校長?もしもし?シアノ校長…………駄目だ電波が届いていない!」
普段焦りの表情など見せないブライアだったが、さすがに今回は同様を隠せなかった。自分の研究成果のみならず、生徒や学園、ハルトから預かっていたテラパゴスまで失ったかもしれないのだ。
「すまないハルト君、緊急事態だ。君たちから預かっていたテラパゴスが……」
「先生、その話は後にしたほうがいいかもしれません。上を見てください」
「上?」
先ほどまで青く晴れ渡っていたはずの空、ブライアが見上げた先には…………
「っ!ラドンの群れ……!?」
空を赤く染め上げながら、ラドンたちが上空で旋回していた。アンギラスを狙っているのか、それともハルトとブライアを狙っているのか、ギャアギャアと鳴きながらこちらを観察している。
「電波障害の原因はこれか!ラドンの撒く紅塵!」
「先生、僕の後ろに下がってください!」
──ズシン!!!
ハルトの、いやブライアの後ろから地響きのような音がした。音の発生源は……
「GIRRRRAAAAAAAAAAAAA!!!」
「アンギラス……!まだ息の根があったのか!」
「本当に死んだふりをしていたなんて…!」
(上空からはラドン、背後にはアンギラス、ゼイユやスグリがいない状況で僕と手持ちたちでどこまでできるか……いや、逃げることを考えるべきか?しかし逃げ場が……)
絶体絶命の状況、ハルト達でさえここから生きて帰るのは難しいだろう。ラドンやアンギラス、そしてハルトもそう考えた。しかし、救いの手は意外な場所から差し伸べられた。
「あれは何だ……?」
上空のラドンより遥かに上から何かが、いや、人が降ってくる。その人物は女性のようだが、随分と古い……昔の民族衣装のような服を着て、博物館で展示されているような旧式のモンスターボールを携えていた。そのボールから飛び出したポケモンは、飛んでいるラドンを踏み台にし、一体、また一体と屠りながらアンギラス目掛けて落下してきている!
「GIRRRRAAAAAAAAAAAAA!!!」
アンギラスも迎撃しようと上空を睨みつけたが、ここまでの速度では未来が見えていようと関係なかった。
「レジギガス!握りつぶす!」
「レレジギギガガガガガガガ!!!」
そのポケモン……スロースタートの縛りから解き放たれたレジギガスは、尋常ならざる握力でアンギラスの頭部を握りつぶした!
「痛っ」
その女性は着地に失敗したものの、あれほどの高さから飛び降りてスマホロトムなしでも無事のようだ。
「もしかして、あなたは……」
「私ショウ!……じゃなかった、私はヒカリ!私がきたからもうダイジョーブ!」
「シンオウ地方のトレーナーが、なんで空から…!?」