コサジタウンの崖の下、南パルデア海の上で一人の男と相棒であるイルカマンが水平線を見つめている。イルカマンは既にマイティフォルムになっており、片時も隙をさらすまいと海をにらんでいた。その後ろにも多くの人間とポケモンがツーマンセルで海を警戒している。
その男はポケモンレンジャーであり、極秘任務としてパルデア地方に訪れていた。パルデアにポケモンレンジャーが派遣されるのは珍しい。他の地方と違い悪の組織が存在しないからだ。最近はスター団という不良グループがあちこちで迷惑をかけまくっていたらしいが、既にスター団の解散という形で解決している。
ちなみにエリアゼロやテラパゴスの騒動は基本的にパルデアのポケモンリーグ内から市民に共有されていない。オモダカは大穴に関する情報を広めることより完全に封鎖することの方が安全であると結論づけた。リーグ外で大穴の情報を知っているのは実際に入った子供たちと一部の人間だけである。
「最近海のポケモンが食い荒らされている」
「漁をしていると網に今まで見たこともないようななにかが取れることがある」
これらの情報がポケモンレンジャーに寄せられた通報の一部である。この異変は最初はイッシュ地方から始まった。だが調査をしていく内に異変の起きる場所が移動していることに調査をした男は気が付いた。
─この異変の中心となる何かはどこかを目指している─
調査を続けていると異変の内容も徐々に深刻なものへと変化していった。まず海が赤く染まった。赤く染まった海は人間やポケモンにとっては苦みを感じる成分を含んでおり、それを嫌ったポケモンが海から姿を消した。
次に異変の中心だと思っていたものが増えた。赤潮は同時多発的に起こるようになり、その大きさも広がる速度も成長していった。
その次は電子機器の異常が発生した。船のソナー、スマホロトムなど電波を用いる機器は赤潮が濃くなると使えなくなった。ポケモンボックスからポケモンを引き出すこともできなくなるのだ。
そして男は赤潮の中に潜む何かがとてつもなく巨大ななにかであることを知った。キャプチャの故障や自分の幻覚ではない、ホエルオーより巨大でギャラドスより狂暴な何かがそこにいたのだ。
キャプチャやポケモン図鑑が反応しないことから、ポケモンレンジャーたちはその何かがポケモンではないと結論付けた。少数精鋭であるポケモンレンジャーが悪の組織のいないパルデアに集められたのは未曾有の脅威を調査するためである。
「上空から赤潮を確認、アンノウンが出現しました」
「来たか…奴がパルデア海に侵入する前に接触する、攻撃はするなよ。あくまで今回は調査だ」
「了解!」
ポケモンレンジャー達が船で、ライドポケモンで、潜水艇で、それぞれ<それ>に接近する。近づくにつれて海の匂い、色が変わっていく。ポケモンがいない海など今までレンジャーを続けてきた中で一度も見たことがない、不気味な赤は血を連想させ、苦い潮はライドポケモンたちを苦しめた。
「ライドポケモンで近づける距離はここまでか…ポケモンたちはここで待機させる!ライドしていた者は船に乗り換えろ!」
指示を飛ばし終えると次は信機器の確認を行う。前回の調査ではこの距離ならば問題なく潜水艇や陸と連絡を取り合えたが…
『──こ…ら潜……部…、現在ア……ウ…に接─中…』
「駄目か…だんだんと電波障害の規模も大きくなっているな」
『──!現…水深8…0m…5…ノ…トで…上…!─』
「なんだ?何か起こったのか?」
『─逃げ…てく……い…!─』
次の瞬間、海が一瞬で赤く染まり、真っ二つに割れた。ポケモンレンジャーが見たのは水深300mにいたはずの潜水艇が空へ飛んでいく姿だった。違う、下にいた何かによって放り出されたのだ。
<それ>は赤いドラゴンだった。赤銅色の胴体から力強く張り出した手足は鰓のようだが、鋭利な爪が生えそろっている。なんと巨大な生き物だろうか、動くだけ、いや、存在するだけでこの世界を歪められるような格の違いを思い知らされた。
そして男と<それ>は目があった。偶然や気のせいではない、<それ>は悪意をもって男の目を見据えていた。
「笑っている…?」
海中から飛び出した<それ>は巨大な顎から牙をちらつかせながら男の乗っている船を飛び越え、再び海中に消えていった。遅れて潜水艇は船の上に落下し、<それ>を追うもの達は消えた。