ポケットモンスター シンギュラポイント   作:雁木まりお

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超常物質アーキタイプ

 チャンプルタウンには宝食堂という居酒屋風の飲食店が存在する。お座敷の席はバトルフィールドに変化するよう改造されており、ノーマルタイプのポケモンジムのポケモンバトルにも用いられている。女将に認められればポケモンのテラスタイプを変更してくれる料理を注文することができるが、そのためのハードルはとても高い。認められてもテラピースを大量に集める必要があり、条件の厳しさから一般のトレーナーからはチャンピオンクラスになるのと同等の試練だと思われている。

 

 そんな宝食堂に足早に向かう一人のくたびれたサラリーマンがいた。痩せ気味で猫背、ハイライトのない目をしており、すれ違う人々も彼がノーマルタイプのジムリーダーだとは気づかないなだろう。一見こき使われる社畜のように見えるが、彼はただやる気がなくクビにされないギリギリのラインで仕事をさぼる問題児である。ポケモンバトルの腕は確かなので許されているが、子供には見習ってほしくないタイプの大人だ。

 

 そんな彼がなぜいつもよりやる気に満ちた足取りでせかせか歩いているかというと、今が昼休みで面倒な仕事から解放されたからだ。

 

─今日の昼食は何にしようか…─

 

 午前中のアオキはそれしか考えていなかった。つまりいつも道理である。

 

─最近は魚料理が赤潮のせいで割高だし、今日は肉にしよう。いつもの席に座って、昼休みを丸々使って昼飯だ─

 

 アオキのようなタイプはこういう計算は早い。無駄のない動きでドアを開け、女将に挨拶を済ませ、いつもの席に座ろうとしたとき…

 

「待っていましたよアオキ」

 

 なぜか上司がいた。彼女はオモダカ、パルデア地方のポケモンリーグ委員長、オレンジアカデミー理事長、チャンピオンを兼ねている才能あふれる女性だ。威風堂々とした佇まいで人手不足のパルデア地方を纏めており、彼女がいなければ学園もリーグも空中分解するだろう。

 

「あなたはいつも外回りといいながらサボっていますからね。あなたに合うならここが確実です」

「…はあ、そうですか」

 

 今は昼休みで、仕事の話はしたくない。そう言いたいところだが、いつも仕事をさぼっているのも事実であり、彼女は上司だ。口答えをして宝食堂でわざわざ飯がまずくなるような説教されるのもごめんだ、ここは話を聞くふりだけでもしよう。

 

「営業職の方の上司と宝食堂の女将には話を通してあります。話が長引いて昼休みが終わっても安心ですよアオキ」

「…はい」

 

 アオキの望みは潰えた。自業自得とはいえ何より大切な昼休みをオモダカと二人で過ごすことが確定してしまった。せめて食事代は経費で落ちないだろうか。

 

「話というのはですね…ここ最近の異常現象についてです。あなたも赤潮のことは聞いていますね?その調査をしていたポケモンレンジャーが失踪しました。おそらくもう生きてはいないでしょうね」

 

 おしぼりを取ろうとした手がピタリと止まった。ポケモンレンジャーが失踪?

 

「この話をするのが食事前でよかったですね。精鋭のレンジャーが複数人いたにも関わらず赤潮の調査中に失踪…これはパルデアリーグとしても動かないわけにはいきません。というわけでアオキ、あなたが調査しなさい。」

「トップ、レンジャーが失敗するほどの調査が私に務まるとは思いませんが…」

「私はあなたの実力だけは買っているのですよ」

 

 これは事実である。消極的な現状維持を旨とするアオキが向上心の塊のようなオモダカにクビにされない理由はアオキが替えの効かないほどの実力者だからだ。そうでなければジムリーダーと四天王を兼任されはしないだろう。

 

「安心しなさい、調査をしている間は営業とリーグの仕事は休んでいいですよ」

「まあそれなら…」

 

 そしてオモダカはアオキを使うのが上手かった。アオキが職を辞さないギリギリのラインを見極めて無茶ぶりをしてくる。アオキとハサミは使いようというのがオモダカの考えであった。

 

「トップ、そろそろ注文してもいいですか?」

「ええ、私もまだ昼食を取っていないので」

「では…すみません、注文お願いします」

 

 これでようやく飯にありつける。ゆっくりはできなそうだが…。そんなことを考えていたアオキだったが、注文を取りに来た女将が困っている顔を見て何か嫌な予感ががした。

 

「アオキさん!オモダカさんもいるならちょうどよかったわ!実はテラピースのことで困りごとがあるのよ!」

「ふむ、かまいませんよ」

 

 どうやらまだ飯にはありつけないらしい。オモダカはテラピースと聞いて仕事モードだ。

 

「実はね…最近テラピースを持ってくるお客さんの中にね、テラピースじゃないものを持ってくる人がいるのよ。見た目はそっくりなんだけど、何かが違うっていうか…」

 

 そういって女将が机の上に置いたのは、確かにテラピースににた何かだった。血の色のような赤い輝きを放つそれが、現在海を赤く染めているものの正体だとは、その時はまだ誰も知る由もなかった。

 

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