ここ最近、パルデアの電子機器に異常が発生している。最初の内は電話がつながりにくくなる程度のものだったが、時間がたつにつれポケモンリーグのシステムや預かり機能、LPシステムの不具合など被害が大きくなっていく。そんな不具合に対処するため、一人の少女が今日もパソコンとにらみ合っていた。
「マジか…また不具合増えてる、全然終わらんし…」
丸眼鏡をかけた、たれ目の女の子。赤と青が入り混じった特徴的な髪色をショートカットにしており、ボーイッシュな印象を受ける。イーブイを模したもふもふのバッグを背負っており、実際に手持ちをイーブイの進化系で固めているあたりにこだわりの強さを感じられる。
少女の名はボタン。かつてスター団のマジボスとして君臨し、カシオペアとしてスター団を滅ぼそうとした黒幕の正体である。複雑な事情があったとはいえLPの偽造にも手を染めており、現在はその行いに対する奉仕活動としてポケモンリーグでLPシステムの脆弱性を改善する仕事を手伝われされている。
そんな彼女でさえここ数日の電子機器の異常には手を焼いていた。不具合を改善、修正するとまた別の個所に不具合が発生するのだ。その頻度は少しずつ、しかし確実に増加しており、LPシステムを偽造できるほどのハッカーであるボタンでさえこのままでは対処できなくなるだろう。
「うう…このままじゃオモダカさんに何て言われるか…マジお先真っ暗」
「自分を必要以上に責める必要はありませんよ。ボタンさんが悪いわけではありません」
「うおあ!びっくりしたぁ!」
気がつけば、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の男性が立っていた。その男性はオレンジアカデミー校長のクラベル、オレンジ色のジャケットに白いプレシャスボールをつけた特徴的な服装をしわており、ピンと伸びた姿勢からは品の良さがうかがえる。
「しかし、ボタンさんでも手に負えないとなると困りましたね…このままではパルデア中の人々やポケモンさんの生活にも支障がでてしまいます。私も何か手伝えればいいのですが…」
「あ、えと…」
「ボタンさん、少し休憩しませんか?子供扱いされるのはいやでしょうが、あなたは私の大切な生徒です。無茶をして体を壊してしまうことは許しませんよ?…実はもう紅茶とクッキーを用意してあるんです。ブイズさんたちも一緒にいかがですか?」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
クラベルが用意した紅茶とクッキーはとても美味しかった。華やかで香り高い紅茶と焼きたての噛むほどにバターの旨みがじわっと広がるクッキーは紅茶との相性が抜群だ。
「なんかすみません、せっかく奉仕活動で今まで悪さチャラにしてくれるって話だったのに…」
「いえいえ、元々はイジメを隠蔽しようとした学校側が悪いのですから。…それにしても、今回の異変はそんなにひどいんですか?」
「はい…えと、原因も不明だし、なんだかバグ自体に意思があるみたいにうちの修正に適応してくるみたいな…」
「………」
「うちより凄腕のハッカーを相手にしてるみたいな…クラベル先生?」
「……ひょっとすると、
「アレ?」
ボタンはその言い方に違和感を覚えた。クラベルはとても礼儀正しく、年下の生徒やポケモンにもさんをつけて呼ぶ。アレ呼ばわりされたものが人やポケモンとは限らないが、普段のクラベルとは違う冷徹な印象を受けた。教師ではなく科学者としてのクラベルとしての一面なのかもしれない。
「ボタンさん、あなたほどの才能ある若者が卒業後もリーグで働くなら、いつか目にすることになるでしょう。今回の異常事態ともかかわりがあるかもしれませんし、いい機会です。特別な場所に案内します。」
「特別な場所って…」
「オーリム博士とフトゥー博士がリーグで使用していた研究室です」
「!!…ペパーの両親の…」
クラベルはボタンをリーグの地下、隠された通路に案内した。そこからさらに業務用の巨大なエレベーターにのって、更に地下に向かう。ポケモンリーグはパルデアの大穴の壁面に建設されている、もしかすると地下でつながっているのかもしれない。そんなことを考えているうちに、階層を示す数字がいつのまにかゼロを示した。ここが目的地のようだが、明らかに図面に乗っていない、リーグのデータにもない隠されたエリアだった。
「ここがペパーの両親の研究室…」
地下に打ち捨てられた研究室は、今まで手入れがされていなかったためか埃っぽい匂いで充満していた。電気は通っているようで、パチパチと点滅しているものの散乱した書類や機器を照らすには十分だ。奥には大きな鏡が設置されており、ボタンとクラベルを不気味に映していた。
「ボタンさんに見てほしいのはあの窓ガラスの向こうです。今電気をつけますね」
どうやら鏡だと思っていたのはガラスだったようだ。こちら側しか電気がついていないため鏡のように景色が反射していたようだ。
「アレを見たらびっくりするかもしれません。私が最初に見たときは腰を抜かしてしまいました…。では電気をつけますよ」
ガラスを一枚隔てた向こうで照明がついていく。ボタンは最初、それを正しく認識できなかった。あまりにも巨大で、今までの常識とかけ離れたものだったからだ。
「この化石は、オーリム博士とフトゥー博士がエリアゼロを研究するきっかけになったものです。大穴の壁に埋まっていたことから彼らはこれがパルデアの大穴から来たものだと推測していました。そこからです。二人がおかしくなっていったのは…」
そこにあったのは巨大な骨格だった。ボタンが知るどんなポケモンより巨大で、凶悪な顔をしている。骨と骨の間からはまるで血のように赤い砂が滴っている。
「やはり砂の量が増えていますね…。この砂は電磁波を吸収してしまうのです。近頃の異常はこれが原因だったのかもしれません。」
「先生…これは…なんなんですか?」
「時代測定によると、パルデアの王国が滅ぶ前には既にこの地に埋まっていたようです。オーリム博士たちは、この骨をゴジラと呼んでいました。」