ポケットモンスター シンギュラポイント   作:雁木まりお

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赤潮

 オレンジアカデミーの正門前で、褐色肌とポニーテールが印象的な少女が立っていた。彼女の名前はネモ、一年生でありながら生徒会長を務め、しかもバトルの腕前もチャンピオンクラスという超が付くほど優秀な生徒である。だが、バトルが好きすぎるという点が長所であり短所であり、バトルに誘われてはたまらないと多くの人が行きかう正門前で彼女の周りだけ壁があるかのように人がいない。そんな彼女に躊躇なく近づいていく少年がいた。

 

「お待たせちゃんだぜ!」

「ペパー!やっと来たねー!待ちくたびれちゃったよ!アオイとボタンは?」

「アオイはレホール先生に捕まってる。あれは長くなりそうだぜ…ボタンも最近は奉仕活動に引きずりだされっぱなしだな」

 

 大きなバックパックを背負った少年はペパー。メッシュの入った長髪で片目が隠れており、がっしりとした体格をしている。ネモ、ボタン、ペパーはアオイ、そして弟のハルトと出会い友人になり、姉弟をきっかけに彼らも友人となった。最初は接点のなかった彼らであるが、現在はこうして定期的に集まって交友を深めている。

 

「えー!アオイもボタンも最近忙しいんだねー…ハルトもキタカミに行っちゃってから寂しいよー!」

「生徒会長なのに駄々っ子ちゃんだぜ…そもそも今回はみんなを集めて何するつもりだったんだ?」

「あれ?言ってなかったっけ?最近海が赤く染まってるでしょ?そのせいで海のポケモンがいなくなっちゃったけど…赤い海の中に見たことないポケモンを見たって人がいるの!出来ればそのポケモンを見にいきたいなーって…」

「ダメダメダメ!校長先生からも海は危険だから近づくなって全校集会で言われたばかりだろ!仮にも生徒会長なんだから守らないと駄目だぜ!そもそもネモみたいな運動音痴ちゃんが海で溺れたら大変だぜ!」

「もう!ペパーったら心配しすぎ!…じゃあ私の家の下にあるバトルコートでポケモンバトルしようよ!」

「いやそのバトルコートって砂浜だろ?めちゃくちゃ海に近いじゃんか…」

 

 コサジタウンにはネモの家が所有するポケモン勝負を行えるバトルコートがある。そのバトルコートがある砂浜自体もネモの家族が所有するプライベートビーチであり、そのビーチに隣接する海は現在赤潮に染まっている。

 

「家が海に近いのはしょうがないけど、見にいったりするのは危険が危ないちゃんだぜ…」

「えー仕方ないなー…じゃあ私の家でゲームしようよ!マフティフにもオヤツを用意するよ!」

「それはマフティフも喜ぶだろうな…よし!じゃあお邪魔させてもらうぜ!」

「うん!それじゃあ今イキリンコタクシー呼ぶね!」

 

 その時二人はまだ知らなかった。今まさに向かおうとしているコサジタウンの崖の下、赤く染まったパルデア海から()()が飛び出し、こちらに向かっていることを…

 

────────────────────────────────────

 

 赤潮の中で発生したそれは、海に適応した体で考えた。

 

─あの骨に向かわなければならない─

 

 ヒレを動かし、海中から飛び出し、空を舞った。するとヒレは被膜に覆われた翼に、魚のような頭部は牙を備えたクチバシに、水の抵抗を受け流していた体は風に乗りやすいような鳥型に変化した。その瞬間をとらえたものが居れば「ポケモンの進化のようだ」と言ったかもしれない。だがその変化は進化というよりは「最初からそうだった」ことになった、といった方が正しい。ポケモンも進化することで姿を大きく変えるものがいるが、それは存在した過去が書き換えられ、先ほどまでの姿は存在していないことになったのだ。

 

 それは─ラドンは空に適応した姿で、新しく発生した目で何かを捉えた。

 

─あの人間達には見覚えがある─

 

 その記憶はラドンのものではなく、遠い未来から先取りされた記憶であったが問題なかった。ラドンの属する本流からすれば、過去と現在、そして未来は等しく同価値であったからだ。

 

─あの人間と戦うことが私の生まれた使命だったのだ─

 

 ラドンはそう確信し、空飛ぶタクシーに乗る人間──ネモとペパーに襲いかかった。

 

────────────────────────────────────

 

「あれ?何かこっちに向かってきてない?」

「本当だ…ボーマンダ?プテラ?…いや、どっちでもないポケモンちゃんだな」

 

 そのポケモンは赤、青、黄の毒々しい体色と大きなトサカ、固そうなクチバシの中には牙がぎっしりと生えそろっており、まるでおろし金のようだ。5メートルほどの大きな体で風を切り、まっすぐこっちに向かってきている。

 

「ってヤバいヤバいヤバい!絶対こっちを襲う気満々だぜ!」

「運転手さん!何とか避けてぇ!」

「今やってるよぉ!」

 

 運転手はイキリンコに生き残ったら高級フードを食べさせようと誓った。イキリンコも死んでたまるかと限界を超えた速度で飛び、なんとか初撃を回避した。しかし大きくバランスを崩し、空飛ぶタクシーはユラユラと飛んでいるというよりは落ちているといった速度で下にある町─プラトタウンに墜落した。

 

「いったたたた…何あれ!?」

「一体全体なんなんだ!?」

 

 プラトタウンの民家の上に降り立った何かはネモとペパーに大きく吠えた。

 

GEEEEEAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!

 

あ!やせいの ラドン が 現れた!

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