「GEAEEEEEEEEEEEEE!!!」
ラドンは自分の傷口と、傷口を抉りとった闖入者をまじまじと見比べた。やる気も覇気もなさそうな黒い男と、返り血でクチバシを赤く染めた鳥のコンビである。鳥の方は体力を回復するためか、足で器用に木の実を掴んでバリバリとかじっている。こんなに違う2体がどうやって共生を果たしているのか、ラドンは不思議で仕方なかった。
「ムクホーク、傷口にアクロバット」
「ピィーーッ!!」
ムクホークと呼ばれた鳥がこちらに向かって錐もみしながら突っ込んでくる。これ以上の出血はラドンといえど戦闘に支障をきたす。固く大きなクチバシで急所を庇うが、回転で勢いをつけた攻撃は完全に防げず、思わずのけぞってしまった。それでも
「目に向かってすなかけ」
次の攻撃は何かと思っていれば飛んできたのは砂だった。ムクホークは両足を使い足元の砂を風に乗せ飛ばしてくる。敵に向けていた両目の内、片方がこれで使い物にならなくなってしまった。海から空へ適応する際獲得した目を閉じる機能も、目に砂が入ってからではただ目を傷つけるだけだった。
「攪乱しろ。かげぶんしん」
なんだこれは?目の前の敵が数体に増え同時に動いている。この生き物たちはこうやって生殖をおこなうのか?いずれにせよこのままでは攻撃を食らってしまう。今まで以上に聴覚を研ぎ澄まさねばならない。
「残った片目にインファイト」
今の言葉は先ほど聞いた発音に似ている。男が『めに』と発声した後、ムクホークはこちらの目を潰した。先ほどと同じならまた目を狙った攻撃が来る。頭をそらさなくては…
残った片目でムクホークと影分身を注視しつつ、翼で目を隠そうとしたとき、上空からまた衝撃を受けた。急所は外れたものの突如として現れた何かにラドンはたじろいだ。それは首が絡まった別の鳥だった。
「大人は卑怯なんです。私はムクホークにインファイトを指示したわけではありません。…やはりポケモンと同等の知能があるようですね。狂暴ではあるもののこちらを観察するようなそぶりがあったのでもしやと思いましたが、こちらの言語も理解しているのでしょうか?」
首の絡まった鳥─カラミンゴは誇らしげにアオキに胸を張った。アオキは念のため、自分が降りる前に上空からポケモンを配置していた。ムクホークとカラミンゴ以外にも目線やハンドサイン次第でいつでも攻撃できるようポケモンたちがラドンを取り囲んでいる。
「ムクホーク、テラスタル」
アオキが取り出したテラスタルオーブが光を放つ。綺麗なフォームで投げられたそれはムクホークを虹色の結晶体で包み込むと、ムクホークを全身を宝石のように結晶化させたテラスタルポケモンへと変化させた。
「カラミンゴ、インファイト」
「クエェェー!!」
「ムクホーク、ギガインパクト」
「ピイィーー!!」
上空からのインファイトと前方からのギガインパクトはラドンの頭を挟み込むように繰り出され、ラドンは目の前が真っ暗になった。
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「ということがあったんです」
「それは真っ先に私に報告すべきだったんじゃないですかアオキ」
ラドンを倒した後、アオキは子供たちのケアをしてすぐ現場から居なくなった。事情聴取やらなにやらで時間を取られるのは苦痛だったし、自分の仕事は今のところ赤潮とそこに潜む何かの調査であって怪物を倒せとは言われていなかった。事情聴取されるくらいなら海を眺めていたほうがマシだ。怪物の調査や実況見分なんてやりたい奴がやればいい。アオキはリーグに連絡だけして─それもあくまで一市民として、自分の立場も名前も伝えず─現場に戻った。そして今、宝食堂にいるところをオモダカに見つかって詰められている。
「まあ未来ある子供たちを守ったことに免じて今回は…今回だけは大目にみてあげます」
「ありがとうございます」
「ところで…あなたが倒したアレは何だと思いますか?」
「……あれはポケモンではないですね。知能はあると思いますが意思の疎通ができるとは思いません。あんなのが海の中にうようよいるとしたらこの世の終わりです。いえ、本当に世界が終わるかもしれません」
「その理由は?」
「あの程度ならレンジャーが遅れを取るとは思えません。レンジャーの部隊を全滅させたのは群れか、あの怪物以上の怪物でしょう」
「それは……想像したくもありませんね」
オモダカは想像してみた。アオキが倒したという怪物が大群で攻めてくる様を、あの怪物よりなお大きく狂暴な何かを…
「……まあ、今日は大変だったでしょう。経費で落とすので好きなだけ注文していいですよ」
「それなら魚のフライやてんぷら、焼き魚が食いたいですね。最近赤潮で魚を食ってないし…アレが海から上がるとき、魚がフライしたなっておもったんですよ」
「しばきますよアオキ」