ポケットモンスター シンギュラポイント   作:雁木まりお

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キタカミのケモノ

「突然だがハルト君、私と一緒にキタカミに来てほしい」

「本当に突然ですね」

 

 目の前の残念美人がまた何か言い始めた。彼女の名はブライア、ブルーベリー学園の教師でありテラスタルの研究者、最近は『ゼロの秘宝』という本も書き上げ一躍有名になった人物だ。優秀だが危機管理能力が欠けていて、自分の興味がないことは視界に入らないどこかの歴史教師の同類である。

 

 オレンジアカデミーの生徒であるハルトは、以前行われたキタカミ林間合宿で引率としてやって来たブライアと出会い、数奇な縁を結ぶこととなった。女性に振り回されるのはハルトにとっては慣れたことであり、むしろ研究者としては尊敬している…だが大人としては頼りにならないなというのが率直な印象である。

 

 現在ハルトはテラパゴスの調査の一環としてブルーベリー学園に滞在しており、しばらくは彼女に振り回される生活を送っていた。しかしまだテラパゴスの研究もわからないことだらけだというのになぜまたキタカミに?

 

「君は最近イッシュ地方で多発している赤潮のことを知っているかな?」

「それはもちろん知ってますよ…ニュースで見ない日はありませんし、そもそもここがイッシュ地方ですからね」

 

 知らないのはテラパゴスの研究に熱中していたあなたくらいでは?喉元まで出かかった言葉は実際に出ることは無かった。こういうことを言わないことが女性と長く生活するコツである。ブライアは言ったところで「そうだね!」ぐらいにしか思わないだろうが。

 

「まだ世間一般には知らされていないが、赤潮の発生する地域は段々とパルデア方面に移動しつつあってね…私もさっき知らされたんだが…それと同時期にキタカミにも不可思議な異変が起こり始めた。イッシュ地方、パルデア地方、そしてキタカミ。これらの遠く離れた地方には共通点がある。それは…」

「テラスタルですか」

「その通り!」

 

 パルデアはテラスタルの本場、イッシュには人為的に作られたテラリウムコア、キタカミにはテラス池…ブライアの研究対象であるテラスタル現象が確認される土地で異変は起きているという。

 

「キタカミでは赤潮の代わりに赤い砂…紅塵という物質が風に乗ってどこからか飛んでくるという。その紅塵と一緒に見たこともない鳥ポケモンを見たとか、ボスゴドラのようなポケモンを見たとかで地元の新聞も大騒ぎだそうだ」

「キタカミには新種のポケモンが居すぎなんじゃないですか?」

 

 キタカミでは学者も地元の人間も知らないようなポケモンが定期的に出てこなくてはいけない決まりでもあるのだろうか?自分が見ただけで片手の指では足りないほど新種を見たのだが。

 

「イッシュ地方の調査は私が研究に熱中している間に始まっているらしくてね!なんでもエヌとかいうボランティアの青年が大活躍しているとか…残っていた私もキタカミへの調査を命じられてね、私はポケモンバトルができないから君とゼイユ君、スグリ君についてきてほしいんだ」

「うーん…」

「ゼイユ君とスグリ君はOKしてくれたよ?」

 

 それはそうだろう。故郷で異変が起きているといえばあの二人なら自分から行かせてくれと言ってもおかしくない。そしてハルトにとっても別に悪い話ではない。友達の故郷で起きた異変なら力になりたい。それにテラパゴスの研究といっても自分がトレーナーであるというだけでやることはあまりないし、元より自分一人で捕まえたのではなく、姉やゼイユ、スグリと共に捕まえたポケモンなのだ。 

 

「まあいいですよ。オーガポンもキタカミに里帰りできるし…ブルーベリー学園で捕まえたばかりのポケモンたちも外の世界はいい刺激になるでしょうし」

「さすがハルト君!判断がはやい!では明日すぐ出発しよう!」

「本当に突然ですね」

 

──────────────────────────────

 

 その獣は、かつて未来で見た景色をたどってこの地に辿り着いた。既にみた景色、知っている空気、だがしかし獣にとって初めての経験である。冷たい水をはしゃいで泳ぎ、険しい山道を跳ねまわって喜んだ。食べ物には困らなかった。紅塵に乗って飛んできたラドンは紅塵不足で息絶えたが、その死体を食う事で獣は生き長らえていた。

 

 未来で見た通りに行動すればラドンの死体にありつく。この地に住む他の生き物も知っている姿、見た通りの行動をしており、誰も獣の姿を見つけることはできなかった。

 

 突如としてある日、その獣は未来で見えないものを見つけた。まるで塗りつぶされたかのように暗く、その未来だけは見通すことができなかった。その未来の前には必ずある人間の少年が立っていた。

 

─この人間は排除しなくてはならない─

 

 少年を殺すため、アンギラスは人間の住む町に向かって歩き始めた。

 

──────────────────────────────

 

「何よ!そのアンギラス…?とかいう奴はどこに隠れてるのよ!全然見つからないじゃない!」

「そんな大声出したらどんな怪物も逃げてくべ」

 

  キタカミにやって来たゼイユとスグリ、ハルト達であったが、数日調査をしても出てきたのは食べかけのラドンの死体のみ、気の短いゼイユが切れるのに時間はかからなかった。

 

「大体アンギラスってなによ!バンギラスの間違いなんじゃないの!?」

「公民館の管理人さんのお孫さんがつけた名前らしいべ、多分トゲが生えてるって情報だけでバンギラスと間違えたんじゃ…」

 

 へえ、そうだったのか…。ハルトは自分とアオイとは全く異なるタイプの姉弟のやり取りをBGMに、ミライドンの背中を撫でていた。このミライドンは砂浜で行き倒れているところをハルトが介抱したことをきっかけに出会ったライドポケモンである。当時はまだ頼りなかったが、冒険を経た今では頼れる相棒だ。

 

 それにしてもアンギラスか…こんなことならアオイのバンギラスを借りてくればよかったな…。ハルトはまだ見ぬアンギラスと姉のバンギラスが取っ組み合う光景を脳裏に浮かび、勝手に戦え!というZ級映画のキャッチコピーを思い出した。

 

「アギャッス」

『ミライドンは腹が減ったと言っているロト!』

「そうね…。アンギラスも見つからないし、お昼にしましょ!ミライドンってサンドイッチが好きなんでしょ?おばあちゃんが焼きそばパンを作ってくれたのよ!」

 

 ふんすと胸をはり、ゼイユが取り出したのは美味しそうな焼きそばパンである。ミライドンは目をキラキラと輝かせ物欲しそうにもじもじし始めた。こうして少し早めの昼休憩として、ハルト達とポケモンたちはピクニックセットを用意した。

 

「後私もお弁当作って来たのよ!ありがたく受け取りなさい!」

「姉ちゃんの卵焼きちょっと焦げてるべ。おにぎりもしょっぱいし」

「スグ!文句あるなら食べなくていいわよ!」

 

 確かに少し焦げているが、アオイのサンドイッチの方が壊滅的なのでハルトとポケモン達は気にしなかった。

 

「ハルト!私のおにぎりおいしいわよね!?」

「うまい。調査で動き回ったからこれくらいの塩分がちょうどいいよ」

「ほら!スグがおかしいのよ!」

「アギャス!」

『ミライドンもうまいと言っているロト!』

 

 ハルトはお世辞抜きに本当にうまいと思っていた。アオイなんて乗せた具材がなぜか消えたり飛んでいったりするのだ。それに比べればゼイユのおにぎりは至福の一品である。

 

「…ミライドン、おばあちゃんの焼きそばパンの味はどうだべか?」

「アギャスアギャギャスアギャギャスアギャス。アギギアギャスギャッス」

『香ばしいソースの香りが食欲を刺激する。シャキシャキの野菜と程良い焼き加減の麺がパンによく合う、さすがゼイユのおばあ様だと言っているロト』

「語彙力が上昇している!本当にうまいんだべ!」

「なんで私のおにぎりとそんな差があるのよ!」

 

 その時、遠く離れた林の奥がガサリと大きな音を立てた。昼食の匂いにつられたのだろうか?

 

「今何か動かなかった?」

「姉ちゃんが大きな声だすから野生のポケモンが驚いたんだべ」

「いや、何かおかしい。僕が様子を見てくる」

 

 ハルトは音の違和感を感じ取っていた。今揺れたのは草ではなく大きな木だ、中型ポケモンが驚いたくらいで木が揺れるだろうか?それにこの刺すような視線をハルトは知っている。エリアゼロでパラドックスポケモンに向けられた殺気、それを何倍にもしたような…。

 

 そして、それとハルトは目が合った。

 

「GIRRRRAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 あ!やせいの アンギラス が 現れた!

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