ハルトは反射的にマスターボールを構えた。このマスターボールは以前エリアゼロから帰還した際クラベル校長からもらい受けたものである。もらい受けて以来使う機会に恵まれず、カバンの奥底でほこりをかぶり続けていた。
ハルトにとってポケモンの捕獲とはポケモンとの巡り合わせである。絆を深めた後ポケモン自らがボールに入る俗に言う友情ゲットを主な捕獲手段としていた。
襲い掛かってきたポケモンとバトルし、手腕を認めさせた上でスカウトする場合もあったが、どうしても拒むなら捕獲もせず見逃していた。
例外としてミライドンや最初の御三家のような貰い受ける形もあったが。
だが、ハルトがマスターボールを使わなかった最大の理由はオーリムAIとフトゥーAIが手持ちをマスターボールで統一していたからである。歪められた思想のトレーナーが使っていた、それを見て以来ハルトにとってマスターボールにいい印象を持てず禁じ手となっていた。
そんなハルトがマスターボールを投げた。そうしなければ死ぬと本能的に理解したからである。目の前のアンギラスは「お前を殺す」と目で言っている。説得などできるわけが無い。
トレーナーとなって以来外したことのないボールは真っすぐアンギラスへ飛び……あろうことが跳ね返された。
「は?」
跳ね返されたボールは頬をかすめ遠く背後まで飛んでいった。再び拾う暇などない。もうすでにアンギラスは距離を詰めている。人にとっては長い距離でも彼女にとっては一飛びの距離だ。もう間に合わない、巨体の攻撃範囲は既にハルトは入ってしまった。巨体で目の前が何も見えなくなったとき、腰のボールから自分の意思で出てきたポケモンがいた。
「サナナッ」
そのポケモンはサーナイトである。エスパータイプであるサーナイトは主の危機を察知し主を守るため飛び出したのだ。
「待てサーナイト!お前まで…!」
死ぬことはないと最後まで言い切ることは出来なかった。空間が歪み景色が変わる…サーナイトの「テレポート」が発動したのだ。位置はアンギラスの真後ろ、急な発動だったためだが命を拾うには充分だった。
「ありがとうサーナイト、おかげで助かったよ」
「サナッ」
サーナイトは首を振り、アンギラスの方を指差した。彼女は巨体ゆえに止まるのに時間がかかったようだが、もう既にこちらに向き直っている!
「アギャス!」
「ハルト!こっち乗りなさい!」
流石に二度目は無いと諦めかけたその時、空から頼もしい相棒と友人の声がかけられた。ゼイユとスグリ、ミライドンは飛行モードでアンギラスの突撃を回避したようだ。そのまま飛んできた勢いでハルトを攫い、アンギラスの手が届かない上空まで消えて行った。
「……………」
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それをアンギラスはじっと見つめていた。あの少年の未来はアンギラスには見えない。だがそれ以外が見えればハルトと呼ばれた少年を殺すには十分だ。未来が見えない場所へ行けばハルトがいるのだから。闇そのものを見る必要はない。
アンギラスは暗闇に向かって歩き出した。
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「驚いたべ……あれがアンギラス……。流石にデカすぎるべ」
「………………」
「どうしたのよハルト。私たちが華麗に助けてあげたってゆうのに。もしかしてどこか怪我したの?」
「いや………あれは本当にポケモンなのか?なあロトム、僕が投げたあれは確かにマスターボールだったよな?」
『はいロト!あれは確かにハルトがクラベル校長からもらったマスターボールだロト!』
マスターボールは確実にポケモンを捕獲できる最高級のボールである。その効果は伝説と呼ばれるポケモンですら抗えず、一般には流通されていないのは扱う人間しだいでは混乱を招く恐れがあるからだ。
「あんたマスターボール持ってたの!?」
「うん…いや、今はそれよりアンギラスだ。マスターボールが通じないポケモンはいないはず……。それにあいつの歩き方も変だった。ロトム、あの大きさで前足が踵をつけて、後ろ足が猫足立ちのポケモンはいるか?」
『いないロト』
「全国図鑑には?」
『全国図鑑にもいないロト』
やはりそうか、最初はマスターボールの故障かと思ったが、そもそもポケモンではないなら効くはずもない。マスターボールは無駄球になってしまった。
「多分あいつはポケモンじゃない。そして未来が見えているナニカだ」