ジュエリーインザガベージヒル ~瓦礫の中の珠玉を求めて~   作:メグリくくる

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 ◇◇◇ ジブ ◇◇◇

 

 俺達は今、ヒライ・シティで見つけた小さな集落を訪れている。

 アラカワ・リヴァーの河川敷のためか、夜風が寒い。

 だが、人が集まる場所だと不思議と暖かく感じるもので、タープが貼っただけの簡易露店でも温もりを感じる。荒くれ者が近くにいるかもしれないと思っていても、飯が食えなかったら人は死ぬ。

 露店のパイプ椅子に腰掛け、眼の前に座る少女を見ながら、俺は小さく溜息を吐いた。

 ……さて、どうしたものかな。

 タヅの導きもあり助けた少女は、猛禽類の前で震える子兎の様だ。

 もちろんこの場合、猛禽類は俺の事なのだが、襲われている所を助けてこれだけ怯えられるのは、流石の俺も若干傷つく。

 ……しかも、似ているからな、あいつに。

 そう思いながら、ヒバリ、と名乗った少女の方へ、再度目を向ける。

 髪はやや褐色がかっており、それが腰まで伸びていた。

 顔立ちは整っており、唇も薄っすらとしたピンク色で、健康状態も良好のように見えた。

 その一方で、着ている服は不自然さを感じる。どういうわけだか着ている病衣は両肩から千切られており、それを足に巻いていた。むしろ不自然さを感じるなという方が難しい格好だ。

 だがしかし、見れば見るほど、こう思わずにはいられない。

 ……やっぱり、似ているな。

 コウノ。

 彼女を抱き上げた時に、思わず口をついて出てきてしまった、俺の幼馴染の名前だ。

 そしてその名は、もう二度とこの世で顔を合わせることが出来なくなった人の名前でもある。

 ヒバリに対して俺と同じ感想を抱いているであろうタヅは、彼女の名前を聞いてから黙ったままだ。

 ヒバリは、彼女はコウノが死んだ時の顔立ちに似すぎていた。

 ……さて、どうしたものかな。

 先ほどと全く同じことを思い、俺は嘆息した。

 そのタイミングで、タヅが音声を発する。

『ヒバリ、という個体名をお持ちでしたね?』

「は、はいっ!」

 緊張した面持ちで少女は反応するが、タヅはいつもの調子で言葉を重ねる。

『確認した所、ヒバリの左足に負傷した形跡が見受けられます』

「何だと?」

 ヒバリよりも先に、俺の方が反応してしまう。

「本当なのか?」

「あ、あの、はい、そうです」

「何故すぐに言わなかった」

「あの、その、ご、ごめんなさい……」

『ジブ。怪我人を威圧するのは感心しませんよ?』

 その通り過ぎたので、何も言い返すことが出来ない。

『では、女の子の情緒がわからない朴念仁は暫く黙っておいていただけますか?』

 そこまで言うのであればお手並み拝見と、俺は机の上にサムライブレイドを置く。

 ヒバリはそれもビクビクしながら見ているが、少なくとも俺を見るよりは落ち着いている気がした。

 それを認識したのか、タヅがヒバリに向かって音声を発する。

『ヒバリ。何故負傷を黙っていたのでしょう? 傷を放置していればそこから細菌が血液に侵入し、化膿、最悪壊死する可能性だってあるのですよ? この時代は物理至上主義で、貴方の肉体は唯一無二の物理的リソースなのです。それを蔑ろにするとは、一体どういう了見なのでしょうか?』

「あの、その、ご、ごめんなさい……」

「五秒前の過去ログ漁って自分の発言を思い出せ、タヅ」

『何を言っているのですか? ジブ。私は適切な提言をですね――』

「ともかく、だ」

 仕切り直しをするように、俺はなるべくゆっくりと喋るのを心がける。

 優しく語りかけたとしても、この子の前であれだけ惨殺劇を見せたのであれば、焼け石どころか溶岩にスポイトで水を垂らした効果すらないだろう。

 だから彼女がこちらの言葉を受け止めやすくなる事だけ考えて、俺は口を開いた。

「信じろ、と言っても難しいかもしれないが、俺達は君に危害を加えたいとは思っていない。思っていたら、君を追っていた奴らを掃除もせずにそのまま放置するか、君をさらうのに加担していただろう」

「掃除、ですか?」

「そうさ。ゴミ掃除だ。頑固な汚れを掃除するには、それなりの労力が必要になる」

「それが暴力で、悪いことであっても、ですか?」

「否定はしないよ。でも、何もしなければそのまま汚れは残り続けるし、それどころかもっとたくさん汚れてしまう。そして一度汚れた所には、どういうわけだかもっと色んな汚れもつきやすくなってしまうんだ」

『そしてゴミが溜まっていき、いずれゴミクズの山が出来上がります。そしてそれはいずれ崩れて、人を押しつぶし、殺してしまう事だってあるでしょう。誰も、ゴミの下敷きになって死にたいと望むものはいません』

「だから、掃除する(殺す)の? でも、掃除するゴミも、人なんでしょ? 人を殺すことは、いけないことなんじゃないの?」

 その疑問を口にした時、ヒバリの目は初めて俺を真っ直ぐ捉えていた。

 彼女が今までどう生きて、どういう考えをしているのかはわからない。

 しかし、その問いは彼女にとって、非情に重要なものに思えた。

 だから俺は誤魔化さず、真っ直ぐに彼女の目を見つめ返す。

「そうだ。人殺しは、悪いことだ」

「悪い事なのに、あなたは進んでそれをするんですか?」

「進んでしないと、その悪い事が自分の身に降り掛かってくるかも知れないからな。それだけじゃなく、自分の大切な人にも。君にはいるかい? 大切な人は」

「え、っと、その、わかりません……」

 ……わからない?

 荒くれ者どもも平然と存在するこの時代で、ヒバリの様な少女が一人だけで生きていくのは難しい。

 だから一緒に暮らしていた人でもいるのかと思ったが、何やら彼女にも事情があるみたいだ。

 だが俺は、そこに踏み込もうとは思わない。

 清掃員をやっている連中にも、後ろ暗い過去や話したくない過去の一つや二つ抱えている奴らは大勢いる。

 かくいう俺も、コウノの事はみだりに話はしないし、これからもする事はないだろう。

 そう思っていると、今度は逆にヒバリの方から問いかけられた。

「あなたには、いるんですか? 大切な、その人は」

「ああ、いたよ。俺よりも先に、悪い事が降り掛かってしまったんだけどね」

『ちょっと待ってください、ジブ。何故過去形なのですか? 私という存在がいるでしょう』

「……お前は人じゃなくてAIだろうが」

『そんな! AIだけ差別するなんて横暴です。人間であることを事更に掲げて他の存在を蔑ろにするだなんて、そんなものヒューマンハラスメント、略してヒュマハラです。訴えますよ?』

「どこにだよ。後ヒュマハラって、語彙悪すぎるだろ」

「ぷっ」

 顔を上げると、思わずと言った様子でヒバリが笑っていた。

 笑った自分を見られていると気づいた彼女は、顔を赤らめてアワアワと慌て始める。

「あ、その、すみません……」

「謝る必要はない。こんな馬鹿話でも楽しんでもらえるのなら、好きなだけ笑ってくれて構わない」

『そうですね。ジブの不安定な精神を安定させるためにあえて私が道化を演じている、というのを理解して頂けるのであれば、存分にご堪能ください』

「何故人がいい感じで締めようとしたのに、そこに関係性を複雑にして素直に楽しませないようにするんだ?」

『物事を多角的に捉えられるようになった方が、人生豊かになると思いませんか?』

「それこそ何視点で話してるんだ、お前は」

 そこで、もう堪えきれないとばかりに、ヒバリがケラケラと笑い出す。

「あ、あはははっ。喋る剣と楽しくお話するだなんて、なんだか本で読んだ物語みたい」

『あれが楽しいと感じられる感性を持っているのであれば、ヒバリは将来大物になるでしょう。物理的に』

「この時代で高身長になるのは有利かもしれないが、勝手に人の成長シミュレーションをするな」

 ガツン、と音がした方を見ると、ヒバリが机に頭をぶつけるぐらいに腹を抱えて笑っている。

 助けたはいいものの、あのまま怯え続けられたらどうしようと思っていたので、ここでようやく俺は安堵の溜息を吐いた。

 最悪掃除屋ギルドに保護を頼もうかと思うものの、この時間は閉まっているし、ネットワークも死んでいるので当たり前のように電話も無線を使った通信も大昔に滅んでいる。

 どうしたものかと思っていたが、案外どうにでもなるものらしい。

 ……この時代での顔を合わせて信頼を得る大切さは認識していたが、こんな所でも感じるとはな。

「さて、打ち解けた所で話を戻そうか」

『ヒュマハラについてですか?』

「一人でやってろ」

『おやおや、ついに耄碌しましたね? ジブ。ハラスメントはハラスメントを行った相手と、それをハラスメントだと感じた相手がいないと成り立たないんですよ? 私一人でどうしろと?』

「自分の人格を仮想化して増やせば、お前一人で議論出来るだろ」

『……ジブのクセにっ!』

 話が一向に進まないので、タヅを無視して、俺は会話がツボに入りすぎているヒバリに問いかける。

「左足の傷、どうなっている? 仕事柄、傷を塞ぐパッドや自己再生機能促進剤は持っているが」

 そう言うとヒバリは、申し訳無さそうに顔を伏せる。

「あの、その、駄目だって、言われてるんです。勝手に他の人が使っているような薬とか、使っちゃ駄目だ、って」

『それと同様に、知らない人について行っては駄目だと言われたのではないですか? もう手遅れですが』

「そのセリフ、ヒバリを最初に見つけたお前だけは言っちゃ駄目なやつだぞ」

『ですが、傷の治療すらも拒否するとは、余程過保護なご家族なのですね』

「あの、違うんです。私、生まれてからずっと研究所で暮らしてて、そうじゃないといけないって言われてて」

「それなら、今研究所の外にいるのは大丈夫なのか?」

 研究所から出たことがないという事で、ヒバリが何かしらの疾患を抱えていのでは? と思ったのだが、どうやらそういうわけではないらしい。

「あ、大丈夫です。アサクサ・シティの研究所に移動する途中だったんで。なんでも、『ハーラーハラ』? っていうやつの研究で、私の力が必要だとか」

『ハーラーハラ? 聞いたことがありませんね』

 ネットワークに繋げないとはいえ、掃除屋ギルドでタヅは定期的にこの辺りの地図情報や要注意人物といったトピックスについてローカルデータベースのアップデートをしている。

 彼女のデータベースに引っかからないのであれば、余程小規模なプロジェクトか、あるいは極秘のプロジェクトなはずだ。

 ……だが、それとヒバリをその研究所以外で治療出来ない理由が紐づかないな。

 そう思うものの、それ以上は部外者の俺が突っ込み過ぎかと思い、別のことを口にする。

「だが、流石に足をお湯で拭くぐらいは許してもらえるんだろ? 研究所では、お風呂も禁止されていたのか?」

「お風呂は、ちゃんと毎日入ってました」

『それは贅沢な。ジブなんて――』

「わかった。少し待っていてくれ」

 余計なことを言いそうなタヅの言葉を遮るようにして、俺は席を立つ。

 そしてタヅを腰に差し直しながら、露店を開いている男の方へと向かっていった。

「すまない。お湯ときれいな布をもらえるか?」

「……字が読めねぇのか? ここは飯を出してるんだぜ?」

「わかってるよ。それじゃあ、こいつとこいつを二人前。お代は、これで十分すぎるだろ?」

 そう言って俺は、拳銃を手渡した。

 もちろん俺が使っている『アンティゴネv10.2』ではない。ソポクレス社のこいつは取り回しがいいので気に入っており、ジブが何を言おうとも手放すつもりは今のところなかった。

 露店の店主に渡したのは、ヒバリを追っている男が持っていた銃だ。

 ギルドで受けた依頼の報酬はまだ受け取っておらず、その依頼を受ける前にもらった報酬もエネルギー炉を買うので残り僅かとなっている。

 そのため、何かしら金になるものとして、拝借しておいたのだ。

 物理至上主義のこの時代、物々交換での商売も当たり前のように成り立っている。

 店主は俺から銃を受け取ると、他の人に見つからないようにすぐに懐へとしまった。この時代、物理的な力が何よりも価値がある。

「へへへっ、ありがとよ。湯はそっちに湧いてるやつを、丼にでも入れて持っていきな。布は棚にあるやつを好きに持っていくといい」

「ありがとう。飯は出来たら、悪いが持ってきてくれ。連れがいるんでね」

「それぐらいお安い御用だ」

 ……まぁ、露店の店主が拳銃を手に入れたんだ。それぐらいのサービスはしてくれるだろ。

 そう思いつつ、俺はお湯と布を四、五枚見繕い、ヒバリの待っている席へと向かう。

 歩いている途中、音量を最小限にしたタヅが話しかけてきた。

『考えましたね、ジブ』

「何がだ?」

『私はカメラで貴方の視界を共有しているのをお忘れですか? ちゃんと見ていましたよ。ジブが拳銃から、弾を抜いているのを』

 その言葉への回答は、俺は口を開かず口角を吊り上げただけで留める。

 あそこであの店主に弾が入った拳銃を渡してしまえば、それが次の暴徒(ゴミ)に変わる可能性があった。

 だからそうならないよう、武力としての力を消しておいたのだ。

 気づいた所で、あの店主は俺を大っぴらに責めれない。

 少人数ではあるものの、ここには人目がある。そんな中、俺から銃を買ったと知られたら、何か仕出かすつもりなのでは? 二心があるのではないか? と邪推されることだろう。

 顔を合わせて信頼関係を築く今時代に、そんな噂が広まったらここで生活をするのは不可能だ。少なくとも、ヒライ・シティからは出ていかざるを得なくなる。

 では別の場所に簡単に向かえるかというと、残念ながら簡単ではない。向かおうにも、店主が持っている銃は弾がないからだ。

 知らない土地では、どの道が安全なのか、信頼できる情報がない。だからいつ荒くれ者に襲われるのかわからない状況で居場所を転々とするのは、自殺行為となる。

 ……ま、とはいえ、撃てなくても威嚇には使えるし、完全にゴミを渡したわけじゃないからな。

 お湯に布、そして二人分の飯の代金としては、払いすぎでもある。

 ヒバリの元へ戻ると、俺はそのお湯と布で、彼女の左足を拭いてやった。

「痛っ」

「悪いが、少しだけ我慢してくれ」

 泥を拭い、傷跡も丁寧にきれいにしてやる。

 それが終わったら右足の方も拭いてやった。

 そして病衣で作っていた靴の代わりに、持ってきた布を巻いて新しく靴の代わりにする。

 本当は靴を用意してやりたかったが、残念ながらここでは売っていない様だった。

「さて、これぐらいかな」

「ありがとう、ジブ」

 そう言ってヒバリは、嬉しそうに笑う。

「あのね? 私、研究所の外に出たことがない、って言ったでしょ? でも、本だけは自由に読むことが出来たんだ。だから、ずっと外の世界に興味があったの。研究所で本を読んで色んな物語を知っては、外の世界ってこんな感じなのかな? きっときれいで楽しくて、美しいものなんだな、って」

 そう語ったヒバリの顔が、過去の幼馴染と重なってしまう。

 それを振り払うように、俺は僅かに頭を振った。

「なら、がっかりしたか? こんな汚くて、荒廃して、暴力的な世界で」

「……うん、びっくりした。感じたのはページを手で捲った時に感じるドキドキとは全く違う緊張だったし、本を閉じて想像したきれいなものはどこにもなかった。でも、優しい人はいるし、物語の登場人物みたいに面白い人がいるって知れて、良かったよ」

『面白い人ですって。良かったですね?』

「そうだな。タヅが褒められることなんて中々ないから、素直に称賛されておけ」

『聴覚系がバグりましたか? 人、とヒバリは言っていますよ?』

「普段自分を人扱いしているクセに、都合の良いときだけAIで逃げようとするな」

 そう言いながらも、俺は内心首を捻っていた。

 ……ページを手で捲る? 本を閉じる? まさか、紙の本を読んでいたのか?

 掃除屋ギルドでも、掲示板は電子のものを使っているし、ヴァンが見せてくれた依頼もタブレットで表示されたものだった。

 その研究所とやらがどんなものかはわからないが、研究をするためには機材も置かなければならないし、場所もある程度の大きさが必要だろう。

 それならば物理的にスペースが必要な紙の本ではなく、それ一つで大量の物語を入れれるタブレットをヒバリに手渡した方が色んな意味で効率的だ。

 ……それなのに、どうして研究所の奴らはデバイスをヒバリに渡していないんだ?

 そう疑問に思った所で、店主が料理を運んでくる。彼はまだ弾が入っていないことに気づいていないのか、かなり上機嫌だった。

 お待ちどうさん、と言われ、机の上に置かれたものを見て、ヒバリが表情筋を全力で使い、驚きを表現する。

「うわっ、いい匂い。これ、なんですか?」

「コップに入った水は説明不要だとして、飯の方は炒飯にコンソメスープだな」

『野菜は自然に生えたもので、遺伝子を組み替えておらず人体への影響は未知数です。油も油分がイマイチですし、使いまわしですね。スープの方は化学調味料を使用してはおりますが、精製度合いがイマイチの粗悪品。見てください、粉末が器のそこに沈殿しています。これは――』

「食欲が失せるから、ちょっと黙っててくれ」

 店主が自分の露店に帰った後だったのが、唯一の救いだと思えた。

 物理至上主義のこの時代、実際に口にするものは品質が保証されているものが正義とされており、化学的に安全と保証されたものが一般的に『食べ物』と言われている。

 金持ちの中には、自然に成ったもの、育ったものなんて成長過程で何が混ざっているのかわからず、触れもしたくないと考えている人が殆どだし、それが当たり前の考え方だ。

 そのためタヅが色々言っていた事は全て正論で、かといって眼の前に食える飯が置いてある身からすれば、そんなものはクソ喰らえだった。

 深夜まで肉体労働した時には、無性にこうしたジャンクなモノが食いたい時もある。

 それは、生身の体を持っている奴にしかわからない欲求なのかもしれない。

 ……AIはもとより、味覚器官までサイボーグ化した奴はわからんだろうがな。

 そう思いながら、何故だかある種の優越感を感じつつ、俺はいただきます、と手を合わせる。

 そしてレンゲを使い、豪快に口の中にかき込んだ。湯気が木々を燃やしたように出ているが、それでもむせながらもかき込む。

 すると口いっぱいに、卵、野菜に米、そしてとりあえず作りましたといったようななんちゃってチャーシューの風味が広がった。

 肉は細切れを寄せ集めて固めたものだろうが、肉は肉。噛むと動物性の油が舌に広がり、絶対に俺は自分の体をサイボーグ化しないと再度心に固く誓う。

 ……サイボーグ化しても、味覚プラグで舌神経と舌咽神経に直接合成した自分の好きな味をいつでもどこでも再現して楽しめるらしいが、やっぱ飯は自分で食ってこそだろ。

 炊いて時間が経っているであろう米が歯に当たる硬さすら、愛おしい。

 卵は鮮度の問題で使える量が少ないのだろうが、入っているだけで及第点。野菜は元々の形が悪かったのか細切れになっているが、それで十分だ。

 何より、深夜まで働いた後感じる塩味(えんみ)がいい。

 塩と醤油は自家製なのか味は怪しげではあるものの、肉体労働をした後はこういうのが格別美味く感じる。

 わざわざ河川敷まで俺が移動してきたのは、まだ火が起こせる場所に、つまり温かい飯が食える場所を求めての事だった。

 ……うんうん、こういうのでいいんだよ、こういうので。

 自分でもむしゃむしゃ、という擬音語を立てているであろうぐらいに飯を貪り食う俺に向かって、ヒバリが恐る恐るといった様子で口を開いた。

「あの、それ、食べれる、の?」

「そりゃ、そのために頼んだんだからな」

 ヒバリは興味津々、という感じで炒飯とスープを見ているが、どうすればいいのかわからない、といった様子でとりあえずレンゲだけを握っている。

「ん? もしかして、食ったことないのか? 炒飯」

『ヒバリ。ダズの食事の仕方は下品なので真似しない方がいいです。そもそも、貴方が生活していたという研究所は治療ですら制限している――』

「止められてるのは、治療だけなんだろ?」

 タヅの言葉に強引に割り込み、俺はスープをずずず、と啜ってから口を開く。

「腹が減ったら、体に悪いぞ。食っとけ食っとけ」

「体に……。うん、そうだよね!」

 そう言うとヒバリは、意を決したように炒飯のてっぺんにレンゲをぶっ刺した。

 そして、それをこちらが顎が外れてしまうのではないかと心配になるほど口を大きく空けて、炒飯を放り込む。

『あぁ、ヒバリがジブの悪い所に感染してしまいました……』

「人をウィルスみたいに言うな」

「あふっ、あふいふぇふっ!」

 熱々の炒飯に火傷しないように、ヒバリがコップのグラスに口をつける。

 やがて落ち着いたのか、彼女は瞳を輝かせて俺の方を見る。

「これ、熱くて火傷しそうだけど、すっごく美味しい!」

『ヒバリ。傷を負うのはまずかったのでは?』

「だって、そっちの方が美味しそうだったから……」

『やっぱりジブの悪影響ですか!』

「別にエネルギー炉を口で噛んでるわけじゃあるまいし、飯で出来た火傷ぐらい唾付けときゃ治るだろ」

『ジブ! そうやって体に出来た損傷を蔑ろにするのは良くない癖ですよ!』

「あはははっ」

 笑い合いながら、俺達はやかましく飯をかっ食らった。

 お腹が一杯になり安心したのか、ヒバリはウトウトとし始める。

 ヒバリを研究所とやらに戻すのは日が昇った後にすることにして、今夜はこの辺りで泊まる事にした。

 幸い周りは崩れそうという事を除けば空き家ばかりだし、サムライブレイドのタヅは眠る必要がない。

 AIに警備を任せて、俺とヒバリは眠ることにした。

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