ジュエリーインザガベージヒル ~瓦礫の中の珠玉を求めて~   作:メグリくくる

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 ◇◇◇ ケーナ ◇◇◇

 

 BPP社のアサクサ・シティの研究所に、私は戻ってきていた。

 その一室で、私は今しがた体験した内容の共有を終えたのだ。

 そんな私の前に立つのは、純白のスーツに身を包んだ男。彼はオールバックにした銀髪を神経質そうに撫でながら、口を開く。

「いやはや、流石カントー・エリア最強の清掃員と謳われるだけのことはある。すぐさま依頼された目標を見つけ出し、それを奪取した不届き者に強烈な一撃を与え、そしてその結果、取り逃がしたのだからな」

 ジブとの戦闘で、相手がアダマンタイト合金製のサムライブレイドを使っていると知った。

 だから手加減しては勝てない、と思ったのがまずかった。

 強く吹き飛ばしすぎてしまい、姿を見失ってしまったのだ。

 自分の体に内蔵しているAIで追跡しようにも、AIを騙す敵対的サンプルを置かれて巻かれてしまった。

 ……先に素性をバラしたのが不味かったわね。

 一応私も、二つ名を付けられた清掃員の情報は集めている。

 そういう意味でいうと『死にたがりのジブ』は、割に合わない仕事は引き受けるものの、契約や道理が通る物事に対しては一定の線を引いているように見受けられた。

 だからロケットランチャーで殺せなかった時にBPP社との契約を公開したのだが――

 ……それが、逆にジブの態度を硬化させてしまったみたいね。

「何か反論はあるかね? 『完全無機のケーナ』」

「特には」

 嫌味たっぷりなクラウンの言葉に、私は自分の体を全てサイボーグ化していて良かったと感じていた。

 取るに足らないノイズだと思うものの、表情のセンサーを切っておけばどんな僅かな反応も私の外に出ることはない。

 だが、自分が獲物を取り逃がしたのは事実だ。

 ……本当に、こういう時はネットワークが使えないのは不便よね。

 だからいちいち失敗もこうして顔を合わせて報告しなければならないし、聞き流せるとはいえ嫌味もぶつけられる。

 これも、ネットワークの信頼が死んだ不都合だ。

 物理至上主義となったこの世界で、信じられるのは自分だけだとなった。

 他者と顔を合わせて信頼を築くという話もあるが、その信頼も所詮人の感情に左右される。

 それならば、自分の情報(感情)を相手に伝えない(表に出さない)方が、優位に立ってコミュニケーションを行えるというものだろう。

 その結果得た二つ名は完全無機というものだが、それすらも無機質の様な私の心には響かない。

 そんなものより、ずっと大切なものが自分には存在する。

 自分に関係のない、自分の大切な存在の外側の連中なんて、どうでもいい。

 それらは全て、ゴミクズの山だ。

「全く! あの個体が行方不明と聞いていの一番に呼び出したのに、それがこの体たらくとは。カントー・エリア最強の清掃員が聞いて呆れる。あの個体が生命活動を維持して帰ってこなければ、どれだけの損害が我が社に出るのか、君は理解していないようだな?」

 ……最初の依頼では、他者と接触していたのであれば最悪殺しても構わないと言っていたくせに、よく言うわ。

 最初にジブごとあの子を殺そうとしていたのは、そういう背景もあった。

 その方針が変わったのは、五秒前。私からの報告を受けた、つい今しがたの事であった。

 方針が変わったっ理由は、大きくこの二点だろう。

 一つ目は、既にあの子が不特定多数の人物と接触しており、彼ら全てを抹消するとまず間違いなくBPP社が掃除屋ギルドに目をつけられること。

 二つ目は、あの子と接触した不特定多数と同様、その対象と同行している清掃員が、あの子の存在意義に全く気づいていないということ。

 特にクラウンにとっては、二つ目の方が非情に重要なのだろう。他者にあの秘密が漏れなければ、あの子は是が非でも生存した状態で連れ戻したいはずだ。

 ……まぁ、私はきっちり依頼料が支払われるのであれば仕事はするし、理不尽な嫌味ぐらい聞き流してあげるけど。

 だがBPP社のクラウンCEOは、まだ腹の虫がおさまらないようだ。

「せっかくこの私が声をかけてやったというのに。とんだ見込み違いだったようだな!」

「まぁまぁ、クラウンCEO。落ち着いてくださいませ。そのご不安を取り除くために、オレ達に声をかけてくださったのでしょう?」

 そう言った小柄な男はステッキを床に付き、ブラウンの毛糸の帽子の位置を直す。

 サイズがあっていないワイシャツを着た彼は、クラウンに手揉みしながら口を開いた。

「カントー・エリアに出てきたばっかりのオレ達が、まさかサイボーグ化やパワードスーツの研究開発で有名な、あのBPP社のクラウンCEOにお声掛け頂けるとは、恐悦至極の限りでございます。トーホク・エリアから出てきたばっかりの田舎者ですが、腕には自信があります。カントー・エリア最強だかなんだか知りませんが、既に失敗した身。きっとオレ達の方が役に立ってみせますよ。なぁ? ハンザ」

「うん、そうだね、ルフト兄ちゃ、いてっ!」

 ルフトに尻を蹴り上げられたのは、兄とは対象的な禿頭の大男だった。

 更に着ている服も対照的で、擦り切れたデニムベストを着ており、肩口から腕がそのまま出ている。

 兄のルフトが無理にオメカシしたおのぼりさんというのであれば、弟のハンザは無理して荒くれ者を演じようとしているような、そんなチグハグさを感じてしまう。

 そのハンザは兄に蹴られた尻を押さえながら、涙目になって抗議した。

「痛いよ、兄ちゃん。何で急にボクを蹴るのさっ」

「馬鹿っ! 仕事中はルフト兄貴と呼べって言っておいただろうが!」

「あ、そうだった。ごめん、ルフト兄ちゃ、あいたっ!」

「馬鹿っ! いつも言ってるだろ? オレ達田舎者は、舐められたら負けなんだよ」

「うん、そうだね。初めて会った人にも、ちゃんと挨拶しろってルフトに、兄貴にも言われてたよ」

「後は身だしなみにも気を使うんだぞ? わかったな? あっ、ど、どうもすみません、クラウンCEO。お見苦しい所をお見せいたしました」

「……ふんっ、私は与えられてあ機能(役割)を全うするというのであれば、多少の礼節には目をつぶろう」

「さっすがクラウンCEO! 懐が広くていらっしゃる。ほら、ハンザも何か言え!」

「え、え~っと、あ、ルフト兄貴が失礼なことを言ってごめんな、だから痛いよ兄ちゃんっ!」

「……全身サイボーグに、凸凹兄弟。どうやら私以外、ここには色物ばかりが集められているようだな」

 そう言ったのは、壁際にもたれかかっていた、トレンチコートを着た男だった。

 着ているコートと同じ漆黒のシルクハットの位置を直している男に向かい、ルフトが鋭い視線を向ける。

「おい、色物っていうのは、オレ達のことか?」

「それ以外に誰がいる?」

「でもルフト兄ちゃん、凸凹兄弟って、あの青白い髪の人、中々うまいことを、いたいっ!」

「だから、兄貴と呼べと言っているだろうが、兄貴と! それに、オレ達は侮辱されたんだぞ? 侮辱されたのであれば、ちゃんと名誉は取り戻すもんなんだ。わかったな?」

「いたたたたっ。わ、わかったよ、にい、兄貴、いてっ! い、言い直したのにヒドいよっ!」

「確か、お前の名は――」

「オオヅル。それが私の名だ、クラウンCEO」

 そう言ってオオヅルは、腰まで伸ばした髪を揺らしながら笑う。

「私に声をかけた意味。当然、貴方なら理解しているんだろうな?」

「もちろんだとも、オオヅル。いくつものマフィアに雇われている殺し屋。それが君だ」

 そう言った後クラウンは、口元を歪める。

「だが聞いての通り、今回は殺しはなしで頼むぞ。あの個体は、どうしても生存した状態で取り戻したい」

「何でもいい。血湧き肉躍る戦いの場を提供してくれるのであれば、な」

 そう言ってオオヅルは口元に手をやり、体を震わせる。

「『死にたがりのジブ』、か。その二つ名、感じ入るものがあるな。常に死地に身を置き、戦いの中でしか感じることの出来ない高揚を求め続ける、私の生き方と」

 ……貴方は、ただのバトルジャンキーでしょうに。

 私の体に内蔵したデータベースで、既にオオヅルの名前はヒットしている。

 先ほどクラウンはマフィアに雇われていたと言っていたが、実際はマフィアを転々としている殺し屋だ。

 点々としている理由は、自分の楽しめる戦場を求めての事で、より窮地な場であればいいという考え方らしい。

 そのためなら突如雇い主を殺し、追手に追われるのを楽しむという変態で、付いた二つ名が『首領殺し(ドン・キラー)のオオヅル』というサイコ野郎だ。

 ……こんな奴やこの地域にやってきたばかりの新人(ルーキー)にまで声を掛けるだなんて、クラウンは何を考えているの?

 先ほどルフトが言った通り、BPP社はサイボーグ化やパワードスーツの研究開発の大手の一つだ。

 元々優良企業と言われていたが、数年前からクラウンが頭角を現し始めた辺りで後ろ暗い話がちらほら聞かれるようになっている。逆にその御蔭で私に仕事が回ってきたのだけれど、そうしたものの中には、強引な都市の再開発や最低限の倫理観ですらギリギリの研究があるとも噂されていた。

 その中でも今回の依頼は、明確にそのラインを超えていた。

 ……あまり深入り過ぎると、厄介な事に巻き込まれかねないわね。

 そう思っている私をよそに、クラウンが両手を広げて私達に話しかける。

「既にお話している通り、個体名ヒバリは我が社の肝いりのプロジェクト、完全独自のプロトコル『ハーラーハラ』の開発に必要不可欠なピースです。今だドラフト版ではありますが、ハーラーハラが正式リリースされれば、文字通りの意味で世界を改変する事が可能でしょう。何故なら正式リリースされた暁には人類が失ったネットワークを取り戻す、いえ、私が新たなネットワークを手に入れることが出来るのです。そう、ネオ・アドバンスド・ジェネレーション・エリア・ネットワーク、通称NAGA(ナーガ)ネットワークをっ!」

 クラウンの言葉を聞いた人は、十中八九彼の頭がおかしくなってしまったと思うだろう。

 ネットワークは死んだ。ネットワークを介して行われた操作、やり取りされる情報はゴミクズの山(ガベージヒル)となったのだ。

 それがこの世界の常識で、だからこそ物理至上主義の時代になっている。

 だが私達は、事前に彼の言うNAGAネットワークの全容を教えられている。だからこそあの子が、ヒバリが重要なピースであり、キーなのだと理解するために。

 ……だからこそクラウンは、最初落としてしまった鍵が使えないようにして欲しいって考えたんでしょうけど。

 しかし、その方針はもう撤回された。

 そして失敗した私に発破をかけるように、別の人間にも声をかけていたのだ。

 その上更に、クラウンは私達に餌をぶら下げる。

「今回君達にお願いした依頼だが、一秒でも早い早期解決を私は望んでいる。故に、この中から最初にヒバリをこのアサクサ・シティの研究所へ連れ戻した者へ、特別報奨金を出すと約束しよう」

 その言葉に私は表情のセンサーを切り、ルフトとハンザの兄弟は顔を見合わせ、オオヅルは興味なさげに帽子の位置を直した。

「さぁ、行くがいい! 早くしなければ、獲物は他の奴に取られるぞっ!」

 クラウンの言葉に煽られて、集められた参加者は我先にと研究所を飛び出していく。

 彼らが出ていくのを見ながら、私はゆっくりと外へと向かって行く。

 そして愛銃、ヘプタ・エピ社製の『イスメネ』と『ポリュネイケス』の動作を確認した後に、『ハイモン777』へとまたがった。

 エンジンをかけながら、私は相対した『死にたがりのジブ』の事を思い出す。

 私の攻撃をもろに食らったので、流石に無傷ではないだろう。しかし、だからといってあの二組にそう遅れを取るかというと、そういうイメージもあまり浮かばない。

 逆にルフトとハンザの兄弟、そしてオオヅルがいい具合にジブを疲弊させてくれれば、私が労せず美味しい部分を頂けるということになる。

 ……いずれにせよ、特別報奨金も私がいただくわ。

 どれだけ何を他人に言われても。

 自分には、金がどうしても必要なのだから。

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