ジュエリーインザガベージヒル ~瓦礫の中の珠玉を求めて~ 作:メグリくくる
◇◇◇ ジブ ◇◇◇
目を覚まし、天井がどこかの廃ビルだと気づいた瞬間、俺は飛び起きた。
起きた俺にびっくりして、近くにいたヒバリが転けそうになる。
「お、起きた! ジブ、起きたよ、タヅ!」
『ですから、バイタルデータ上は生きていると言っていたではありませんか』
「……そうか。お前らが俺をここまで運んできてくれたのか」
『ええ、そうです。気を失ったジブのパワードスーツへ、私をヒバリに有線接続をしてもらいました。その後私の方でパワードスーツを操作し、ジブの体を動かしてこの廃ビルまで』
「バイクは川を渡った時にタヅと繋がってたから、そのまま運転してもらったの。あ、バイクはここの一階に置いてあるよ」
「すまない。かなり迷惑をかけたようだな」
『そう思うのであれば、すぐにナノマシンによる自己再生機能促進剤を投与してください。ケーナに殴られて内臓にもかなり損傷があります』
「アンプルは、これだって」
「ありがとう」
そう言って俺は上着を脱ぎ、アンプルを殴られた場所に突き立てた。
一瞬痛みに呻くが、すぐに鎮痛剤が回っていく。薬を投与したせいか、額からも汗がにじみ出てきた。細胞分裂が活性化し、体温が上がっているのだ。
ナノマシンの補助により、細胞分裂を行った際に発生するテロメアの伸縮率を極限までに減少させている。ヒトゲノムを解析する過程で、テロメアを長くするテロメアーゼの酵素を解明しており、それを応用しているのだ。
そのため薬による細胞分裂を活性化させて傷を直しても、その細胞は老化しない。
……だが、そのために必要なエネルギーは、体から消費されるがな。
日常生活で出来る切り傷ぐらいであれば食事でどうにかなるが、内蔵にまで影響が出ているのであれば、それだけで賄えるわけがない。
『昨晩の炒飯とスープ、それに鳥のもも肉だけでは足りませんね』
「お前に肉汁がかかってもいいから、もっと食いだめしておくべきだったよ」
『貴方の生命を救った最大の功労者相手にそれだけ軽口が叩けるのであれば、もうケーナを呼んでも良さそうですね』
「良いわけあるか。乗ってるマシンも化け物なのに、本人もヒイロカネで出来てるって、もう人間辞めてるだろ。次サシでやり合う機会があっても、全く勝てる気がしない。そもそも今回だって勝ったんじゃなくて、向こうが出力ミスして見失うきっかけを作ってくれただけだからな」
『とりあえず、傷の修復に足りない分はパワードスーツのエネルギー炉からまかないましょう。人体に作用できるようエネルギーを変換するのは効率が悪すぎますが、ヤラないよりはマシでしょうし』
「昨晩、タヅの提案でエネルギー炉を継ぎ足しておいて良かったな。あれがなかったら、そもそもスミダ・リヴァーを渡れず積んでたぞ」
『ですが、流石にもうバイクの方も限界が近いです。パワードスーツもこれでかなりエネルギーを消費するので、二つとも夜までもつかどうか。しかもそれでジブも完全回復とまではいきません。無理をすれば、すぐにまた傷が開くでしょう』
「あの『完全無機のケーナ』相手に生き残ってるんだから、御の字だと考えるしかないな。お前の方は?」
『抜刀出来るのが後五回、いえ、見栄を張りました。四回が本当に限界です』
タヅがそう言うのであれば、本当に余裕がないのだろう。
「そういえば、どうしてタヅは俺が寝ている間に自己再生機能促進剤を投与しなかったんだ?」
『先ほど言ったエネルギーの問題ですね。人体は睡眠時にエネルギーを節約します。その状態でアンプルを使うのは、ハッキリ言って自殺行為です』
「だが、それで使うのを控えて死んだら元も子もない。次にもしそういった場面がきたら、遠慮なく使ってくれ」
『そうならないように、まずは立ち回ることを考えてください』
「そんな大前提な話、いちいちする必要あるか?」
「ねぇ、どうして私を助けたの?」
その言葉に、俺はヒバリの方へと振り向いた。彼女は深刻な表情を浮かべて、こちらを見つめる。
「BPP社のクラウンさんに、借りがあるって言ってたよね? それってひょっとして、コウノって人と関係があるの?」
『私は何も言ってませんよ』
「俺も何も言ってないだろうが」
「茶化さないで!」
真剣な表情のヒバリに、俺は両手を上げて降参の意思表示をする。
「悪いな。ちゃんと話す。そうだな、最初にヒバリを助けた時、確かに俺はお前を自分の知り合いと、コウノと勘違いした。顔がそっくりだったからな」
「その人は、今は?」
「死んだよ。俺がガキの頃にな」
『殺されたんです。BPP社が主導した再開発の関係で。それを指揮していたのが、クラウンという男です』
「それで、借りがあるって……」
表情を暗くしたヒバリに向かって、俺はなるべく声が明るくなるように口を開く。
「確かに、ヒバリは生きてた頃のコウノに似ている。だが、それだけだ。コウノの代わりにヒバリを、だなんて思ってはいない。それはタヅも同じだよ。まぁ、ただ心配で目で追ってしまっているのは事実ではあるんだが」
『やはり少女を手球に――』
「そういうの今いらないって、さっき言われたばっかりだろ? それから付け加えておくと、ヒバリを最初に助けに向かったのは、君の顔を見る前だ。タヅが襲われている人がいると気づいて、それで駆けつけた所にヒバリがいたんだ。だから君という存在を助けたい俺がいるから、君を助けたんだよ。お節介かもしれないが、怖がっているのを見ていられなくなってね」
「そう、なんだ。うん、わかった。それから改めて、ありがとう。全然、お節介なんかじゃないよ」
そう言ってヒバリは、小さく頷いた。まだ完全には消化できていないようだが、ひとまず納得してくれたらしい。
『では、そろそろ移動するための方針を立てましょう。一応ケーナから逃げれたといっても、追手はまた来るでしょうから』
「そうだな。で、結局ここはどこなんだ? できれば近くのギルドに助けを求めたいんだが」
『ここに来るまでのカメラの映像から、クラマエ・シティの廃ビルだと判明しています。今地図を表示しますね』
そう言って、タヅが鍔の部分から地面に光を発する。
クラマエ・シティはアサクサ・シティの南側にあり、その一角に目印がついていた。ここが今、俺達のいる場所だ。
だとすると――
「一番近い掃除屋ギルドはウエノ・シティだが、アサクサ・シティにBPP社の研究所があることを考えると、ここから北へ向かうのは自殺行為だな」
『となると、元々向かおうとしていたキンシチョー・シティのギルドが最も近いという結論になりますね』
「あんなに頑張って渡ったのに、今度は東側にスミダ・リヴァーを渡らないといけないの?」
「残念ながら、そうなるな」
そう言った俺に、タヅはもう少し逃走経路の詳細を詰めていく。
『スミダ・リヴァーを廃ビルで渡るのは危険すぎるので、次は橋を渡りましょう』
「なんだかこの辺り、三角形とか十字とか、交差している道が多いね。あ、一番近い橋は、ここのウマヤ・ブリッジ? になるよね?」
「そして、アサクサ・シティからも近い橋という事になるな」
『では、もう少し南下した所のクラマエ・ブリッジを使う、というのも、相手は読んでいそうですね』
「……ここは急がば回れで、更に南下するのが正解か?」
「そうなるとキンシチョー・シティに行ける橋は、ここのアサクサバシ・シティって所も通過して、カンダ・リヴァーを渡ってヒガシニホンバシ・シティに入ってすぐの所にある――」
「リョーゴク・ブリッジ。これを渡って東方面に進み、リョーゴク・シティを経由してキンシチョー・シティへ抜けるしかないな」
方針が定まり、俺は立ち上がってタヅを脇に差す。
ヒバリを連れて一階に降り、『テイレシアス79』を起動させて、俺は走り出した。
当初の予定通り、俺はリョーゴク・ブリッジを目指して南下していく。
そして左折すれば、通るのをやめたウマヤ・ブリッジへと続く通りまで来やってきた。そして予定通り、そのまま直進する。
しかし――
『ジブ。前方に人影を確認』
「俺も見えている。でも、何だ? あの二人組」
俺の目が捉えたのは、小柄な男と大柄な男の姿だった。
しかし、どういうわけだか、大きい男のケツを小さい男が蹴り上げている。
……いや、マジであいつら、一体何者なんだ?