ジュエリーインザガベージヒル ~瓦礫の中の珠玉を求めて~   作:メグリくくる

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 ◇◇◇ ヒバリ ◇◇◇

 

 抱きついたジブが、困惑しているのが雰囲気からわかった。

 でも、その気持は分かる。

 何故なら――

「馬鹿っ! 仕事中はルフト兄貴と呼べって何回言ったらわかるんだ? ハンザ!」

「つい言っちゃうんだよ、ごめんよ、ルフト兄ちゃ、あいたっ!」

「馬鹿っ! 働いた分の対価はちゃんともらうんだから、しっかり仕事をしてるっていう意識をしっかり持て!」

「ごめんよ、ルフトに、いったい! 判定厳しいよっ!」

「馬鹿っ! そんなんだからオレ達は田舎者だって舐められんだ! 舐められたら負けだ。舐められたら駄目なんだよ!」

 ……な、仲いいのかな? あの二人。

 話を聞く限り、どうやら兄弟の様にも聞こえる。

 そう思っていると、タヅがあの凸凹二人組について解析結果を話し始めた。

『小さい男の方がパワードスーツで、大きい男の方が全身サイボーグ化しています』

「え? ケーナって人がサイボーグだったのはわからなかったのに、あの人達が何を使っているのかわかるの?」

『ケーナが使用していた武装が最新のものだと仮定すると、彼らが使用しているのは二、三世代前のものになります。エネルギー炉の放電効率が悪く、隠蔽しきれていません』

「それじゃあ、あの人達が敵だったとしても、ケーナって人よりも弱いの?」

『そうでもありません。世代は古いですが、あの放電からパワードスーツはスピード重視で、サイボーグ化している方はパワー重視の特化構成。ですのでそれぞれの長所を組み合わせれば――』

「オレ達は最強、ってわけさ、お嬢ちゃん」

 気づいた時にはルフトと呼ばれている兄の方が、バイクの傍まで接近していた。

 ジブがサムライブレイドを振るうが、簡単に躱される。

「お? カントー・エリア最強が仕留めそこねたって話だったからどんなものかと思ったが、大したことねぇな? やっぱり都会っつっても、人が多いだけで話が大きくなるんだな。これならこっちで一旗揚げるのなんて、余裕だな」

 そう言いながらも、兄の方はジブの斬撃を避け続けている。ケーナ戦で受けた傷のせいで、まだ全力が出せないのだ。

 ……本当ならこんな奴、ジブの敵じゃないのにっ。

 そう思うが、私がいるだけでも彼の重荷になってしまっている。

 悔しさに歯噛みしていると、メキメキ、メキメキ、という音が聞こえることに気がついた。

 何事かと視線を向けると、なんと私達の進行方向のビルが、道を塞ぐようにどんどんと崩れていく。

 モクモクと空に立ち上る煙の根本にいるのは、両腕を樹の幹のように完全展開させた、弟のハンザだった。

 彼は張り手を叩き込むようにして、廃ビルの柱を次々にへし折っていく。

 それを見てルフトは、一時的にこちらから距離を取った。巻き込まるのを、恐れての事だろう。

 スミダ・リヴァーを渡った時のように、瓦礫が上空からこちらに降ってくる。だが、外壁をアクロバットで切り抜けれたのもケーナに傷を負わされる前だ。

 ……あの時はタヅにバイクの運転を任せていたけど、今回はジブの体はもつの?

 そう思っていると、ジブはやはりと言うべきか、バイクにタヅを接続し始めた。

「またタヅにバイクを運転させるの?」

「そうだ。だが、ケーナが最初やったように、あの二人はヒバリごと攻撃してこない」

『ビルを倒壊しているのに、ですか?』

「忘れたのか? ケーナは銃で直接狙ってきたし、ロケットランチャーもぶっ放してきたんだぞ? それなのに今回は、道を塞ぐようにビルを壊している」

『……つまり、彼らはヒバリに傷を与えられないという制約が追加された?』

 タヅの言葉を聞いたジブは、我が意を得たりとばわりにニヤリと笑う。

 そして彼は、私達に作戦を話して聞かせた。それは、私達が地図を見て話していた内容に関係するものだった。

 それを聞いた私達の反応は――

「えぇ! 本当にそんな事出来るの? ジブ」

『私は反対です! 何故ジブの命を超超低処理デバイスに任せなければならないのですか? それであれば私と心中を――』

「アホ言ってる場合か。ほら、来るぞ!」

 ジブの言葉通り、ビルを壊していたハンザが前方から迫ってきた。それに合わせるように、ルフトも戻って来る。

 ビルの倒壊に巻き込まれないようバイクを止めた所を、二人で挟み打ちするつもりなのだろう。

 だが彼らの行動は、既にジブに読まれている。だから彼は作戦通り、行動を開始した。

「それじゃあ行くぞ、タヅ!」

『ああ、もう、わかりましたよっ!』

 そう言い合うとジブはタヅを私に任せると――

 

 バイクの上から、飛び降りた。

 

 事前に言われていたので、私は無我夢中でバイクのハンドルを手で掴む。

 操縦は全てタヅがやってくれているとはいえ、ジブがいなくなった今、もろに風が私に吹き付けてきた。

 ……ジブ、こんな凄いのを平気でこなしてきてたんだ。

 一方、私達を追ってきた二人はというと――

「なっ!」

「んで?」

 突然のジブの行動に、身長に差がある凸凹兄弟が慌てふためく。

 その弟、ハンザの頭へ、ジブの放った弾丸が一発、二発と当たった。甲高い音がするが、頭部は分厚い素材でコーティングしているらしい。禿頭なのは、その影響だろう。

 パワードスーツをフル稼働させて着地したジブはそれを確認すると、ハンザを露骨に挑発する。

「お? 威嚇のつもりだったが当たったな。やっぱり木偶の坊しかいなんだな、田舎モンは」

「お、お前! ボクのこと、田舎者って馬鹿にしたな? 舐められたら負けだって、駄目だってルフト兄ちゃんが言ってた! お前、許さないぞっ!」

「いいぜ、かかってこいよ。でも、一人で出来るのか? 頼ってもいいぜ? お兄ちゃんによ」

「むっかー! できる! 一人でできるもん! ボクが絶対、お前を倒して、侮辱された名誉を取り戻すんだいっ!」

 そう言って、ハンザの意識は明後日の方向へ走り去るジブへと完全に割かれた。

 その脇を、意気揚々とタヅの運転するバイクが通過していく。

 それを見向きもせず、ハンザはジブを追って走り始めた。

「馬鹿っ! そういう所が駄目だって、あぁあぁ、もうオレの話を聞かずに追っていっちまったよハンザのやつ。本当にしょうがねぇやつだな」

 ルフトはやれやれ、と言った感じで溜息を吐く。

 だが、その足は僅かばかりも緩んでおらず、猛スピードでこちらに迫ってきた。

「出来の悪い弟だが、馬鹿な子ほど可愛いっていう言葉もあるしな。弟のあいつの失敗は、兄であるオレの失敗でもある。だからあいつの不出来は、オレが補っちまえば問題ねぇ」

「タヅ、もっとスピード出せないの?」

『それだと確実にヒバリが落ちます』

 ……また、私が足を引っ張ってる。

 そう思うものの、ジブが降りた分バイクは身軽になった。

 それを利用して、タヅはバイクを操作。ハンザが廃ビルを壊しまくって出来た瓦礫の山を、まるで狼が駆ける様に軽快に登っていく。

 だがルフトも負けじとパワードスーツの出力を上げて、私達の後を追ってきた。出力を上げたため、彼の着ていたシャツは破け、毛糸の帽子は吹き飛んでいく。

「あぁ、オレの一張羅だったのに!」

 名残惜しそうにルフトは後ろへ振り返るが、走る足を止めることは決してしなかった。

「くそっ、絶対お嬢ちゃんをオレ達が連れ帰って、報奨金を手に入れるんだ。それでまた、新しい服を買ってやる!」

「諦めてもう帰ってください!」

 そう言うが、やる気になったルフトには完全に逆効果だったようだ。

「今更引けるか! オレ達は一旗揚げにここまで着てるんだ。それよりも、どうしてお嬢ちゃんはそんなに逃げる? 名を揚げたいオレからしたら、逃げ出す理由がわからねぇ。だってお嬢ちゃんは、世界を変える可能性を秘めてるんだあらよぉ」

「世界を、変える?」

 初耳の内容に、私は思わず反応してしまう。その反応に、ルフトも不思議そうな顔をした。

「おや、聞いてないのかい? お嬢ちゃん」

『ヒバリ。話を聞いては駄目です。こちらの動揺を誘っているのかもしれません』

「一旗揚げようって時に、そんな姑息なことをオレがするか! いいぜ、知らねぇってんなら教えてやるよ。どうせアサクサ・シティの研究所にオレ達が連れていけば知ることになるわけだしな。クラウンCEOが、必死になってお嬢ちゃんを探してるのか、その理由を、な」

 そう言ってルフトは、ニヤリと笑う。

「それは、お嬢ちゃんが今の所、唯一『ハーラーハラ』に適合した個体だからだよ」

「ハーラーハラ……。名前だけは、聞いたことがあります。その研究で、私の力が必要だ、って」

「そうさ、お嬢ちゃん。ハーラーハラっていうのはな、クラウンCEOが極秘裏に開発した、完全独自の、全く新しいプロトコルなんだ」

『プロトコル、ですって?』

 ルフトの言葉に、思わずと言った様子でタヅが反応する。廃ビルだったモノの山を登り終え、今度は目的地を目指すように下山をしながら、タヅが言葉を作った。

『プロトコルは、この世界では相互互換性があり、超汎用性のあるアムリタが使われています。わざわざ新しいプロトコルを用意する必要性を感じません』

「そこが、この話の味噌なんだよ。そして、クラウンCEOの凄さでもあるんだなぁ、これが」

 ルフトも瓦礫の山を下りながら、さも面白い話を披露するように、口を開く。

「人間のヒトゲノムや脳のメカニズムが解明されて、ネットワークが利用できなくなった。だからあの人は、こう考えたわけさ。ネットワークを使えなくなったのは、『今までの』人間だ、と。だったら全く新しい人類を、『新人類』を作成し、それを制御する形で完全に新規のネットワークを構築し直したらどうなんだ? ってな。そうすれば人類は、クラウンCEOは、またこの世界にネットワークを取り戻すことが出来る。あの人はそのネットワークをネオ・アドバンスド・ジェネレーション・エリア・ネットワーク、NAGA(ナーガ)ネットワークって呼んでいたぜ?」

「全く新しい人類を、新人類を、作る?」

『ヒバリ。駄目です、これ以上聞いてはいけません! やはりこれは、こちらを動揺させるための妄言です!』

 そう言われるが、ルフトの言葉を聞き、色んなものが腑に落ちてしまう。

 外に出ることを許されず、研究所生活を私が送ってきた理由は?

 その中で、私が特別な子扱いされていた理由は?

 私が研究所の大人達の言う事を聞くように言い含められていた理由は?

 そして大人達から明かされなかった私の幸せって、一体何?

 その大人達の期待に応えれるよう求められてきた理由は?

 特に、クラウンに期待されてきた理由は?

 そしてそれが、私だけしか出来ないこととは、一体何?

 そのために、私は体を大切にされたの?

 傷つけちゃ駄目だと、言われてきたの?

 それなのに、研究所の大人達が投与するモノ以外の接種を禁止されていた理由は何?

 物語を読むために、わざわざ紙の本を渡されていた理由は?

 そして、何より。

 フナバシ・シティの研究所から車で移動中、白衣の女性が口にしてた『あんなモノ』とは、一体誰のことを言っていた?

 その答えは、一つしかない。

 それは――

 

「そうさ、お嬢ちゃん! お嬢ちゃんなんだよ。まだドラフト段階らしいが、ハーラーハラを稼働し、NAGAネットワークに接続する事ができる今のところ唯一の成功個体。その個体名がヒバリ(お嬢ちゃん)なんだよ!」

 

 嬉しそうに語るルフトの言葉をかき消すようにう、私は喉が裂けんばかりの絶叫を上げた。

 だが、それが聞こえていないとでも言うかのように、ルフトは心の底から羨ましそうに言葉を重ね続ける。

「いやぁ、羨ましい。ハーラーハラは一方的にアムリタに対して互換性を持っていて、アムリタを利用しているデバイスを完全に制御下に置くことが可能らしいんだ。それはまるで、ハーラーハラ(猛毒)に体が侵されて、いずれ死に至るみたいにな」

 耳を塞ぎたい。もうあの男の言葉を聞きたくない。

 でも、出来ない。今手を耳に当てってしまえば、バイクのハンドルから手を離さなくてはならなくなるし、タヅも吹き飛んでしまう。

 そうなれば私はタヅの操作するバイクから放り出されて、難なくルフトに捕まえられ、そしてクラウンの元へと連れて行かれてしまうだろう。

 そうなったら、果たして何が起こるというのか?

 それを、小柄な男がしなくてもいいのに教えてくれる。

「死に至るって言ったが、、既に死んだネットワークもお嬢ちゃんがいれば蘇るかもしれなんだ。いや、蘇るんじゃない。そのハーラーハラを起動させるお嬢ちゃん、を使えるクラウンCEOが、その全てを手中に収めるんだ! それはもう、世界を手に入れれるに等しい行為だぜ? そんな大役の礎になれるなんて、変わってもらえるなら変わってもらいたいもんだ」

『馬鹿を言わないでください!』

 叫ぶことしか出来なくなった私の代わりに、タヅが声を上げてくれる。

『ドラフト版、と言いましたね? それはつまり、完成していないという意味に他なりません』

「そりゃそうだ。偉大な偉業を成し遂げるためには、まず一歩を踏み出さなくちゃいけない。正式リリースされれば個体(デバイス)単体でハーラーハラの使用が可能になる見込みのようだが、今は暫定の個体(ヒバリ)と稼働用のデバイスを使う必要があるみたいだね」

『単体稼働が出来ないということは、その稼働用のデバイスは補助装置というより、足りない出力を無理やり引き上げるものですね?』

「流石、同じモノだけに、よく分かるな」

『その稼働用のデバイスを使用した際、ヒバリはどうなるのですか?』

「さぁ? 生きて連れて帰ってこいってクラウンCEOは言っているから、少なくとも死なずにすむぐらいの傷には抑えてもらえるじゃないか?」

『なるほど。こういう下品な発言は本来ジブの領分ですが、代わりに私が言っておきましょう』

「何だい? サムライブレイド」

『ゴミクズの山に沈んでおけ、クソ野郎が』

 

 その直後、ルフトが何かにぶつかって吹き飛んだ。

 

 それはまるで、ピンポン玉が山の山頂から転がり落ちてきた岩にぶつかり、粉微塵になるのではないかと思うような、それ程の衝撃だった。

 何が起こっているのかは、見えているし、わかっている。

 だってそれは、ジブがバイクから降りる前に私とタヅに言っていた、作戦通りの内容だったのだから。

「な、何やってんだ? ハンザ! どうしてお前がオレにぶつかってきやがるんだよ、馬鹿っ!」

「ご、ごめんよ、ルフト兄ちゃん! でもあいつを追ってたら、ここまで着ちゃって、あ、兄ちゃんじゃない、兄貴だった!」

「馬鹿っ! いいからどきやがれ! 起き上がれねぇだろうがっ!」

「どうやら、作戦は上手くいったみたいだな」

 そう言ってジブは、ハンザが飛び出してきた通りから、クラマエ・ブリッジへと続く交差点からバイクに飛び乗ってきた。後からジブが乗ってきたので、今だけは私の後ろに彼が回り込むような形となって、バイクは進んでいく。

 そうしている間にも、凸凹兄弟の姿は後方で小さくなっていった。

 彼は作戦通り、ハンザを怒らせながらパワードスーツの助力を得て走り、全力でスピードが出せないまでもルフトを引き付ける私達が到着する交差点まで誘導。

 そして、全く別方向からやってきた二人を激突させることに成功したのだ。

 ……移動する直前まで地図を見てたから、場所はバッチリだったね。

 簡単に挑発に乗ったハンザは引っかかってくれそうではあったが、ルフトの方は見破られる可能性があった。

 そこで、なんとか会話で兄の方の注意を引き付ける予定だったのだ。

 それは、ものの見事に成功した。しはしたのだけれど――

「ヒバリには荷が重いと思っていたが、口が達者なタヅがいたからな。どうにかルフトの注意を引き付けて、って、どうしたんだ? ヒバリ。顔色が悪いぞ」

『……走りながら共有します、ジブ。ですが、クソの中のクソみたいな話なので、ご注意ください』

 そんな二人の会話も、すぐに後方へと流れていく。

 私が口を開けるようになる前に、私達はアサクサバシ・シティへと到達したのであった。

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