DollsNest 外伝 『定めと意志と世界の終わり』 作:Kazuha.Y
よろしくお願いします。
最近、日が落ちる時間が遅くなってきて少しずつ春の訪れを感じる……
「っと……」
レーヴを抱えた状態で、シロはスラスターを吹かせて緩やかに着地する。
「怪我はない?」
「大丈夫。シロこそ平気?」
心配そうにするレーヴに微笑みながら返事をする。
直後、蓋を閉めてロックを掛けたヴォーグが音も無く降り立った。
「鎧殻も無しでそんな動けるなんて…鈍ってないね」
「まぁな…伊達に鍛えていたわけでは無いさ」
足元に伸びる鋼鉄製のレールに沿い、三人は歩く。
「ここは…?」
「昔に使われていた地下路線だ。今はここを知る奴はそうそう居ないだろう」
かつて多くの人間が暮らしていたこの中層には、地下鉄などの交通機関が通っていた。
しかし中層戦争によって地上施設の殆どは破壊されてしまい、この地下路線だけが残されたのだ。
「すぐそこが目的地だ。そんなに心配するな」
ヴォーグは二人を連れて暗がりを進む。
辿り着いたそこはホームのような空間で、錆びたベンチなどが放置されていた。
壁にはモニターが置いてあり、地上の映像が映し出されている。
「こんなところに拠点を……」
シロは感慨深げに呟く。
「あぁ……もう随分この生活だ」
揺らめく焚き火を囲むように、シロとレーヴは鎧殻を外して座り込む。
「まずは……すまなかった。いきなりあんな真似をしてしまって」
頭を下げるヴォーグに、シロは首を振る。
「仕方ないよ。敵か味方か分からない状況ならああなって当然だし」
「そう言ってもらえると助かるよ。あの時、お前が手榴弾を投げていなければ我は……」
溜め込んでいた緊張を吐き出すように、彼女は大きく息を吐く。
「唯一の友を、この手で殺していたかもしれん」
その様子を見たレーヴは不思議そうな表情を見せた。
「友達……?」
「……話していないのか?」
シロは申し訳なさそうに笑い、告げる。
「わたしは……かつてのヴォーグの相棒だよ」
「えぇっ!?」
レーヴが驚きの声を上げる。
「ついでに、霧の名付け親もシロだ」
「うぅ…情報量で頭が……」
頭を押さえ、混乱する彼女を見て二人は面白そうに顔を見合わせる。
思い出したようにヴォーグが差し出した煙草を、苦笑しながらシロは受け取った。
「まったく……昔からやめろって言ってたのに」
「こればかりはどうしてもな……」
お互いに肩を竦め、小さく笑う。
火を分け合い、二人は紫煙を燻らせる。
「あの……曹長はどうしてガーディナを抜けたんですか?」
レーヴの問いかけに対し、ヴォーグはひび割れが走る天井を見上げて呟く。
「我はもう疲れたのだよ。終わりのない戦いに。」
「……そういうことでしたか」
納得したようにレーヴは頷き、床に寝転がった。
シロもそれに倣うようにして仰向けになり、星空を見る。
本来なら見えるはずもない空を。星屑に似た蛍光灯の明かりを。
「このまま朽ち果てようと、そう思っていたのだが案外居心地がよくてな」
苦笑しながら、彼女は辺りを見回す。
「一人で余生を送るのも悪くないものだ」
「ふふ、らしくないね」
シロの中のヴォーグは、どこまでも冷徹な軍人だった。
「我だって、そういう日くらいはあるさ」
煙草を挟んだまま、彼女は穏やかに答える。
「ところで、お前たちは何故ここに来た?」
「あー…話せば長くなるんだけど……」
「いいさ。久々の再会なんだからな」
ヴォーグの言葉を聞いてシロは口を開く。
ネマが種子を使って復活しようとしていること。
それを狙って中層で待ち伏せしていたときに、種子が爆発を引き起こしたせいで見失ったこと。
巻き込まれたガーディナの兵の中から、唯一の生き残りだったレーヴを助けたこと。
女神の一部がありそうな場所を探して、旅をしていること。
全てを話し終えるまでには結構な時間がかかったが、それでもヴォーグはじっと耳を傾けてくれた。
「なるほど……そういうわけか」
話を聞き終わった後、彼女はどこか遠くを見るような目をする。
「不思議なものだ、生きるというのは」
「そう……だね」
静かになった地下鉄のホームには、水滴の落下音が小さく響いていた。
暫くそうしていただろうか。
「お前たちは、これからどうするつも__んぐ」
思い出したように話そうとしたヴォーグの口をシロの指が閉じる。
二人が視線を横に向けると、安心したのかレーヴは眠ってしまっていた。
「まったく……」
ベンチに寝袋を敷き、レーヴの身体を二人で持ち上げて寝かせる。
愛おしそうに寝顔を見つめた後、徐にヴォーグは銃を手に立ち上がった。
「少し、外に行かないか?」
青い瞳が揺れている。
「……うん」
断る理由は、どこにもなかった。
ライフルを肩に掛け、梯子を登る。
数分後、二人は肩を並べて廃ビルの屋上に佇んでいた。
「……ねぇ、ヴォーグ」
互いに口を開こうとしては、躊躇して噤む。
何度かそれを繰り返して、シロは言葉を絞り出した。
「わたしね、全部終わらせようと思うの」
「……本気なのか?」
二人の視線が交わる。
恥ずかしそうに俯きながら、シロは服をはだけさせた。
ヴォーグの目が驚いたように開き、すぐに伏せられる。
「……もう、時間が無いんだな」
シロの下腹部から伸びる白い根が、全身を包んで淡く光っていた。
「道草ばっかり食べてたから……」
自嘲気味に笑い、星の無い空を見上げる。
「種子が生まれるたびに、殺してきた。何度も、何人も」
それは、彼女がずっと抱えてきた罪の告白だった。
「ずっと、そうしていれば女神は止められると思ってた」
「……あぁ」
シロが生まれたその時から、その根は少しずつ彼女の身体を蝕んでいた。
ヴォーグと出会った頃は腹を覆う程度だったが、今は首元にまで及んでいる。
「母さんからもらったこの能力の代償が、寿命だとは思わなかったからさ」
風に靡く長い髪を、ヴォーグはじっと見つめていた。
やるせなさを嚙み潰したような顔で。
「この身体が根を張って、子どもたちが幸せに生きるためにも……」
シロは静かに息を吐き、話を続ける。
「弑逆者の娘として、わたしが総てを終わらせる。絶対に」
薄い水色と桃色の瞳で、決意の炎が燃えていた。
吹かしていた煙草がはらはらと崩れ、ヴォーグは深いため息をつく。
「もう、わたしは……」
零れ落ちた雫の痕を慌てて擦り、シロは微笑む。
「後悔する前に、ちゃんとやりたいんだ」
しばらく無言の時間が続く。
静寂を破ったのはヴォーグだった。
「中層戦争でお前に命を救われてから……どうやって恩を返せばいいかずっと考えていた」
「……うん」
涙を袖で拭い、彼女はシロを真っ直ぐに見据える。
「この命、お前に預けよう。ちょうど死に場所を探していたのでな」
「……ふふっ」
シロは思わず吹き出す。
「これでも真面目なんだが……」
戸惑う彼女を見て、ますます笑いが込み上げてきた。
「あはは……ごめんごめん。なんかヴォーグらしいなって」
「……そうか」
安堵したように息を吐き、二人は笑いあう。
シロの心は、ずっと軽くなっていた。
「フィーカでも飲むか?」
「ヴォーグが淹れるやつ、味濃いんだってば…」
ヴォーグの手でカップに注がれた黒い液体から湯気が立ち上る。
シロは少し眉を寄せながらも受け取り、一口啜った。
「……まぁ、落ち着くけど」
「それならよかった」
ヴォーグはそう言って微笑むと、自分の分に口を付けた。
「……さて、これからどうするつもりだ?」
しばらく二人で談笑した後、眠そうにしているシロにヴォーグは尋ねる。
「ヴォーグはさ、ガーディナの鹵獲品貯蔵庫のこと知ってる?」
「当然だ。確か第一特殊の管轄だったか」
「わたしが知ってる限り、中層戦争以前はギプロベルデが女神の一部を管理してたんだけどさ」
__う…やっぱり苦い……
シロは渡されたフィーカを飲み、その味に顔をしかめる。
「あのあと場所が分からなくなっちゃって。あるならそこかなぁって」
「なるほどな。あそこの荷物整理は雑多だった覚えがある。紛れ込んでいても不思議ではない」
ヴォーグが顎に手を当てて考える素振りを見せる。
「その貯蔵庫を襲うつもりなのか?」
「そうだね」
「ふむ……手伝いに行きたいのは山々だが、如何せん鎧殻は捨ててしまっていてな……」
やれやれとため息をつき、空を見上げる。
割れた上層プレートから、薄く人工太陽の光が差し込んでいた。
「大丈夫だよ。途中でガーディナの兵から拝借すればいいんじゃない?」
「変わらないな……」
苦笑するヴォーグ。
シロは昔から手段は選ばないタイプだった。
「……そういえば、鎧殻は捨ててもそれは残してたんだ」
「生まれてからずっと使っていたからな。流石にこいつは捨てられなかった」
ヴォーグは傷が目立つ愛銃を撫でる。
何の変哲もないただの自動小銃は、彼女と共に様々なカスタムを受けてきた。
「物持ちがいいね」
「お前こそだろう。我が贈ってからずっと使ってたのか?」
「当たり前でしょ?わたしをなんだと思ってるの……」
二人はまじまじと自らの愛銃を眺める。
お互い、これまで過ごしてきた時間に思いを馳せていた__その時。
「……避けろッ!!!」
ヴォーグの叫びがシロの背筋を凍らせる。
振り向いた瞬間、暗闇の中にいくつもの赤い光点が瞬いていた。
__都市防衛隊の…巡回か……!
センサーが彼女たちを捕捉し、警告音が空気を震わせる。
シロは背中の狙撃銃を抜こうとしたが、ドローンの一機が放った閃光弾に視界を奪われた。
「チッ……面倒だな」
一瞬怯んだ隙に、複数の小型ドローンがミサイルを発射する。
爆風が屋上のコンクリートを剥がし、粉塵が舞った。
「ヴォーグ!!」
咳き込みながら振り返ると、彼女は既に動いていた。
「こいつら相手は慣れてるんでな……!」
ヴォーグが身を翻しながら撃ち返す。
連続して放たれた二発の弾丸は、二機のプロペラを寸分の狂いも無く貫通していた。
「……流石だね」
墜落していく機体を横目に、シロは目を擦りながら息を整える。
ライフルを構え直し、瓦礫の影から次々と現れる敵を睨みつけた。
「今日はヤケに多いな、何かあったのか?」
ヴォーグの指摘通り、敵の増援が続々と上昇してくる。
ガーディナの都市防衛隊は通常よりも高度なAI制御で統率されており、連携が強い。
「鎧殻が無い以上、被弾は厳禁だ。遮蔽を使うぞ」
「了解……」
シロは屋上の端へと走りながら引き金を引く。
大型機の胴体が真っ二つに裂け、爆発に巻き込まれた周囲のドローンも墜落していった。
「まったく、流石の破壊力だな」
感心したように呟きつつ、ヴォーグは瓦礫に身を潜める。
「褒めてる場合じゃないってば……」
苦笑しながらも、シロは敵を的確に撃ち落としていく。
狙撃銃の性能と彼女の射撃精度を以てすれば、多少の不利は覆せる――が。
「……流石に、ジリ貧だね」
いつまでも減らない頭数に加え、こちらの弾薬は有限。
消耗戦に持ち込まれたら勝ち目は無い。
「だが……何故だろうな、負ける気は一切しない」
そう言うヴォーグの顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「なぁ、一つ賭けをしてみないか?」
「……どんな?」
首をかしげるシロに、彼女は心底面白そうに告げる。
「どっちが多く敵を倒せるか…撃墜競争と行こうか」
シロは目を丸くする。
まるで子どもの遊びのような提案に。
「いいね……それじゃあお先にっ!」
「おい!フライングは無しだろう!?」
二人は同時に遮蔽から飛び出し、正面から群れに突っ込んでいく。
無数の銃口が二人を捉える――刹那。
「これでも……喰らっていろ!」
ヴォーグが取り出した放電手榴弾が炸裂し、数機が制御を失って地に墜ちる。
「やるね!」
シロは跳躍しながらライフルを撃つ。
弾丸は複数の機体を串刺しにして破砕し、衝撃波で更に三機を吹き飛ばした。
「そっちも容赦ないな」
「まだまだ!」
息を切らしながら笑みを交わし、二人は再び背中合わせで迎撃態勢に入る。
__懐かしいな……
シロの脳裏に、かつての記憶が蘇る。
キルレシオ1:10という絶望的な戦況の中、二人は幾度となく修羅場を切り抜けてきた。
お互いの癖や思考パターンを熟知した連携は、まるで呼吸のように自然に繋がる。
「残り五機……だな」
ヴォーグの低い声が耳元で響く。
最後の編隊が散開し、四方から同時攻撃を仕掛けてきた。
「左は頼んだぞ」
「任せて」
短い確認の後、二人は左右に分かれて疾走する。
シロは一機ずつ丁寧に仕留め、ヴォーグは最小限の動きで二機を撃墜した。
残された機体がミサイルポッドを展開し、ヴォーグに狙いを定める__
「させないよ!」
乾いた銃声が夜気を切り裂く。
放たれた弾丸は正確にミサイルの信管を打ち抜き、至近距離で爆発を誘発させた。
「お見事」
煙幕が晴れると、屋上には静寂が訪れていた。
ライフルを支えに、二人は息を整えながら向き合う。
「で……何機墜とした?」
「四十と六だ。我の勝ちだろう」
得意げに胸を張るヴォーグに、シロは呆れたように溜息をつく。
「なんで同点なのかなぁ……」
「……ならフライングしたお前の負けじゃないか?」
「えー!そっちが遅いのが悪いんでしょ」
言い合っているうちに、どちらともなく噴き出してしまう。
「ふふ……本当に変わってないね」
「お前の方こそな」
汗と硝煙に塗れた顔を見合わせ、二人は肩を並べて紛い物の空を見上げる。
「……ありがとう」
ぽつりと漏れた呟きは、風に掻き消されるほど微かだった。
けれどヴォーグは聞こえていたのか、僅かに目を細める。
「礼を言われる程でもない。ただ……」
「ただ?」
「お前の隣でまた戦えて、少し嬉しかったよ」
珍しく照れくさそうに告げられた言葉に、シロの胸が温かくなる。
「わたしも嬉しい……また一緒に戦えて」
彼女の指先が銃身をそっとなぞり、遠い過去に想いを馳せる。
廃墟の部屋に入り、しばらくの間二人は他愛のない話をしていた。
「さて、そろそろレーヴが起きる頃合だろうし戻るか?」
「もうこんな時間?そうしよっか」
二人はビルを降り、マンホールの蓋を開けて地下の拠点へ戻る。
シロがホームに戻りしばらく経った頃、レーヴの目がぱちりと開いた。
「おはよう。よく眠れた?」
「うん……おかげさまで」
レーヴは身体を起こし、寝ぼけ眼で辺りを見回す。
「曹長は……?」
「そろそろ来るんじゃないかな」
数分後、コーヒーカップを手にしたヴォーグが歩いてきた。
「ありがとうございま…うっ、苦い……!」
「慣れだ。眠気覚ましにはピッタリだろう?」
その様子を眺めて、シロは思わず苦笑する。
「……それで、鹵獲品貯蔵庫に行くのでいいのか?」
ヴォーグの顔が軍人のそれに変わる。
「現状の最終目標は、種子より早くそこに向かうことなんだけど」
話しながら、シロは頭を悩ませていた。
「この辺りに生えてる機械根ってどこだっけ……細かいところまで覚えてなくて」
「……あぁ、あの白い樹か。あれがどうかしたか?」
色々あったせいでシロがすっかり忘れていたもう一つの目的。
あの樹のようなものが種子と関係しているのではないか、という疑問が引っかかっていた。
隣に座っているレーヴは話半分といった様子だったが、気にせずに話を続ける。
「種子が移動するのに使う中継地点なんじゃないかと思っててさ」
「ふむ。昔から何かと気になってはいたが可能性はあるな」
ヴォーグが頷く。
「レーヴはなにか知らない?」
「え!?」
突然振られた話題に驚いたように声を上げるレーヴ。
彼女は少し考えてから答えた。
「わたしも知らないなぁ……」
「そっか……」
三人は黙り込んでしまう。
暫く沈黙が続いたあと、ヴォーグが口を開いた。
「情報が少ない以上憶測しても仕方がない。ここからは大して離れていないはずだし早く見に行くのがいいだろう」
「そうだね…ただ……」
言葉を詰まらせるシロ。
「ヴォーグの装備を整えるのが先じゃないかと思って」
「確かに。いくら曹長とはいえ生身じゃ危険過ぎるもんね」
シロとは違い、彼女には回復能力なんてものは無い。
多少なりとも装甲はあった方がいいだろう。
「一回さ、わたしの駐屯地に戻らない?」
レーヴが声を上げる。
「……お前の?」
「そう!あそこならたくさん武器があるし、曹長のサイズに合う鎧殻だって探せばあるかもしれないよ」
「なるほどな……しかし流石に遠回りじゃないだろうか」
ヴォーグが不安そうに二人を見つめる。
シロは小さく首を振った。
「別にいいよ。それより今戦力を増強したほうが確実だと思う」
「それに、わたしの拠点なら安全だしね」
自信ありげに胸を張るレーヴ。
「わかった。では早速行こう」
「待って……あれ見て」
急かすヴォーグにシロは待ったをかける。
「なんでだ?早いうちに済ませておきたいんだが……」
「そうしたいのは山々なんだけど、今出るのはマズいかも」
シロが指さした先の壁のモニターに、三人の視線が集まる。
画面の中では多数の人影が動き始めていた。
「……本当だね。こんな時間に巡回なんて珍しい」
「どうする?」
「安心しろ。地下から近くまで行けるルートがある」
ヴォーグの言葉を聞きながらシロはため息をつく。
「本当に用意周到だね……」
「戦いでは準備不足が最も致命的だからな」
当たり前だと言わんばかりに言う彼女を見て、呆れ混じりに笑う。
「じゃあさっそく行こうよ!」
「そうだな……シロもいいか?」
「うん、大丈夫だよ」
レーヴに促される形で立ち上がる。
先導するヴォーグの後について、三人は通路を進んでいった。
◇
一方その頃、ガーディナ総合幕僚監部
薄暗い司令室では、無数のモニターが煌々と輝いていた。
「第三特殊が壊滅したのは聞いていたが……」
「上層との戦争も始まるのだ。たかが一大隊など構っている暇は無いだろう」
「しかし、早急に原因の解明を急いだほうがいいのでは?」
緊張感に満ちた中、将校らが口々に意見を交換する。
「おや、これはこれは……」
重苦しい空気を切り裂くように、一人の将官が姿を表した。
「閣下……!?」
「いやはや……皆さまお揃いで。こんなところでグダグダと何をしているのだ?」
穏やかな口調とは裏腹に、鋭い眼光で場を制圧する。
彼女の名はロゼッタ。
ガーディナで女王に次ぐ副総裁にして、全ての軍を統べる大将である。
「まさか、あなたが来るとは……」
「いえいえ……些細な問題で貴方がたの会議を中断させたくなかったものでな」
ロゼッタはニヤリと笑みを浮かべた。
「それで?私も混ぜてもらおうか」
彼女は長机の端にある椅子に腰掛け、悠然とした態度で足を組む。
その一挙手一投足が、室内に緊迫感をもたらしていた。
「第三特殊が全滅した件ですが……異形の迎撃に失敗したのではないかと」
「ギプロベルデの残存勢力による襲撃では?」
「いや……恐らく両方違う」
冷酷さすら感じさせる声が響く。
「何故私が層間連絡線の防衛を任せたか、分かるか?」
「下層から侵攻してくる可能性がある異形の防衛では……」
震えながら、一人の士官が呟く。
「半分正解、半分不正解だ。お前たちはホドの歴史を学び直せ」
困惑した表情のニンフたちをよそに、ロゼッタは話し続ける。
「異形が現れたのは女神を弑逆してからだ。私が言いたいことは分かるな」
「……下層で異形が活発化したのは女神の影響ということか」
第一特殊作戦大隊"アイギス"の隊長であるマリーナが答える。
納得したように、他の隊長たちも頷いた。
「流石だ。そして、現在封印されているはずの女神が直接動けるはずがない」
カーテンを開け、ロゼッタは窓の前に立つ。
「導かれる答えは、一つではないか?」
部屋全体がどよめく。
「活発になった異形、層間連絡線の爆発、そして女神……まさか!?」
「……種子ですか?アレはもう生まれるはずがないのでは?」
つい先日上層偵察から帰還した第二特殊隊長のフローレスが怪訝そうに告げる。
「ああ…封印戦争以降全く見かけていなかったが……」
ロゼッタはくるりと振り返り、氷のような視線で全員を貫く。
「もし種子がいるのなら、手足を切り落としてでも捕まえろ」
女王が老い、生まれるニンフが少しずつ減っているガーディナ。
彼女らにとって新たな女王、延いて種子は喉から手が出るほど欲している存在だった。
「第一特殊は種子の捜索を。第二特殊は引き続き上層の監視を続けろ」
「承知しました」
二人の隊長が敬礼をする。
そしてそのまま踵を返して出ていった。
「第三特殊は永久欠番とする。通常部隊の再編成を行え」
「はっ!」
各部署の上官たちが慌ただしく動き出す。
「それで……第四特殊の出撃命令はまだでしょうか」
第四特殊大隊"ネメシス"隊長のカティアが退屈そうに呟く。
彼女の隊はギプロベルデの残党狩りを主目的にしているが、最近はほとんど役目がなく燻っていた。
「慌てるな。時期が来れば必ず命じる」
「……分かりました」
釈然としない様子でカティアは頷いた。
「では私はこれにて。他に私に聞くべきことは?」
ロゼッタは淡々と述べる。
誰もが何も言えず俯いたままだった。
「よろしい。それでは解散だ」
その一言とともに皆が立ち上がる。
大きな流れが、シロたちの足元まで迫っていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回投稿は3/1 0:00予定です。
遂に明かされたシロの真実。
個人的にかなりいい感じな設定に落とし込めたのでは?と思っています。
~ここからは俺の雑談~
卒論の発表があるのにスライドがまだ4枚しか進んでないぜ!
死にそうな顔をして画面とにらめっこしております。
ギリギリまで追い詰められないと本気出さない性格に関しては
どうにかしないといけないのは分かっているんですがね……
こんな調子で大学受験は大丈夫なのかしら?
それではまた。