DollsNest 外伝 『定めと意志と世界の終わり』   作:Kazuha.Y

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九話目です。よろしくお願いします。


『託された希望』

「そん、な……!?」

 

レーヴの声に混じる驚愕。

 

シロは縋るような眼差しで、目の前の存在を真っ直ぐ見つめる。

 

「やめて……話がしたいの……!」

 

震える声で呼びかけるが、その返事は無情な結果だった。

 

少女が跳躍すると同時に副腕に光が宿る。

 

「シロ、避け__」

 

「……ッチ」

 

ヴォーグの狙撃砲が火を噴き、轟音と共に爆風が吹き荒れた。

本人は狙うことなく、砕かれた天井の破片で動きを封じるための一手。

 

しかし少女はそれすら予測していたかのように最小限の動きで避け、次の瞬間には圧縮されたレーザーがシロを襲っていた。

 

「う……っぐ」

 

大剣を構えながら射線上に身を投げ出したレーヴが苦悶の声を漏らす。

直撃は免れたとはいえ、その衝撃を殺すことは出来ずに彼女の身体は吹き飛ばされていた。 

 

「レーヴっ!大丈夫!?」

 

「平気……って言いたいけど、ちょっとマズいかも」

 

ふらつきながら立ち上がったレーヴの左腕は、あらぬ方向に折れ曲がっていた。 

辛うじて利き腕ではないが、このままでは戦闘継続は不可能だった。

    

「……ヴォーグは手当てをしてあげて。援護は出来ればでいいから」

 

そう言ってシロが一歩前へ出る。

少女は微動だにせずこちらを見つめていた。

 

「悩んでる暇は無い……か」

 

諦めたように呟きながら、シロは愛銃を握り締めた。

その動作と同時に少女もライフルを持ち直し、互いの視線が交錯する。

 

『任せたぞ、シロ』

 

祈るような声がインカムから響く。

シロはちらりとレーヴを横目で見た。

 

ヴォーグは手早く自らの脛当てを外し、レーヴの腕に巻き付けていく。

その姿にシロの胸が痛んだ。

 

__わたしの判断が遅かったせいで……

 

悔恨の念を振り払うように、シロはゆっくりと呼吸を整える。

伏せられた瞳が開かれたその瞬間、火蓋は切られた。

 

引き金を引くと同時に、シロは斜め右前方へ跳躍。

弾丸が放たれる刹那、少女も同じ動きで跳躍し回避行動を取っていた。

 

__なんて速さ……!

 

あまりの反応速度にシロは戦慄する。

次の瞬間には、少女の銃口が彼女を捉えていた。

 

「マズっ……」

 

『避けろ!』

 

ヴォーグの声に、シロは反射的に後ろへ飛びのく。

絶妙なタイミングで放たれた榴弾が、少女の足元を吹き飛ばしていた。

 

「助かったよ!」

 

短く感謝の言葉を伝え、シロはミサイルを撃ちながら距離を開ける。 

 

爆炎がその姿を覆い隠すが、息をつく暇もなく煙幕の向こうから一閃の光が飛び出してきた。 

慌てて頭を下げた直後、逃げ遅れた長髪が熱塵に焼かれて舞い散る。

 

『大丈夫だよ、シロ。一対一だから落ち着いて見極めて……』

 

通信機越しに聞こえて来るレーヴの声に、シロは苦笑で返した。

 

__このままだと手数不足……なら

 

愛銃を副腕のハンガーに懸架し、代わりに短機関銃(MP284 A4 Rapier)を手に取る。

そして、腰に吊っている剣を正面に構えた。

 

「わたしの本気……見せてあげる」

 

高々と跳躍した直後、加速翅を最大まで吹かしてシロは一気に斬りかかる。

さながら雷のような速度に、初めて少女の顔に驚きが浮かんだ。 

 

しかし、寸でのところでその刃は阻まれた。

 

「まったく……そのライフル何で出来てるわけ?」

 

銃身で受け止められたという事実に驚きつつも、シロは回し蹴りで少女を吹き飛ばす。

だが、彼女はそのまま空中で姿勢を整えて両副腕の熱塵砲を放った。

 

『……シロみたい』

 

通信越しに、レーヴが呟く。  

その声が聞こえたからかどうかは定かではないが、シロの口元が僅かに歪んだ。

 

__姉として……負けるわけにはいかないね

 

スラスターを全開にして、更に距離を詰める。

迎撃のために放たれたレーザーの雨が暗闇を彩り、火花を散らした。

 

「相変わらず……なんて反応速度なの」

 

息を整えながらも、シロは舌打ちを漏らす。

短機関銃を掃射するが、少女はまるで踊るようにすべての弾丸を避けていた。

 

『無茶苦茶すぎる……こんな精密な動きができるのに……まるで何も考えていないみたいだ……』

 

ヴォーグは忌々しげに呟きながら少女の挙動を観察する。

 

圧倒的な運動能力を持ちながらも、攻撃に予兆やフェイントが全くない。

ただ単調なまでに、最適解を選び続けるだけの動作。

 

__まるで、プログラムされた機械みたいだ……

 

シロは思案しながらも、ミサイルと副腕の熱塵砲で少女との距離を保ち続けた。

 

「何か……違和感がある」

 

『奇遇だな……我もだ』

 

二人の思考が共鳴する。

 

その瞬間、閃光が交錯した。

 

「っ……!?」

 

ヴォーグの榴弾が炸裂し、土煙が上がる。

その隙にシロは壁際へ滑り込んだ。

 

「おそらくだけど……あの子は同時に複数の相手を認識できないのかもしれない」

 

『どういう意味だ?』

 

疑問符を浮かべるヴォーグに対して、シロは淡々と説明を始めた。

 

「二人以上を相手にしようとすると、脳が処理できなくて動作が遅くなるみたい」

 

シロの言葉に二人は驚きを隠せなかった。

 

『つまり、あの子の思考能力はかなり制限されてるということか……?』

 

ヴォーグが呟く。

 

『でも、なぜシロと違ってこんな風に……?』

 

レーヴの問いに、シロは悲しそうに目を伏せた。

 

「あの子の脳に生じた……バグのせいだと思う」

 

『バグ……!?』

 

レーヴが声を上げる。

 

「そう。わたしの身体に根が生えてるのと同じ……」

 

シロは少女の注意を引くように飛びながら、静かに語り始めた。

 

「お母さんが、実験で女王にされた存在だから。あの子は、わたしと違って……」

 

そこまで言って、シロは目を閉じる。

 

「……感情も思考も、持てない存在として生み出されてしまった」

 

その言葉に、二人は言葉を失った。

 

『でも、なんで?シロは普通に生きていけるのに』

 

レーヴが困惑した表情で尋ねる。 

 

シロは苦しそうに俯きながら答えた。

 

「……それは、わたしたちが次の女王として創られたから」

 

『あぁ……そういうことか』

 

ヴォーグが半ば絶望した表情で頷く。

 

「あの子の肉体は完璧かもしれない。だけど……精神がバグだらけなんだ」

 

シロは悲しみに満ちた声で続ける。

 

「だから、あの子には感情も思考も……何もない。ただ命令を遂行するだけ」

 

その瞬間、少女が再び動き出した。 

 

『今度の狙いは我か……!』

 

飛んできた両副腕の熱塵砲を、ヴォーグは榴弾砲の砲身で防ぐ。

 

「わたしが直接あの子に触れれば、何かしら干渉出来るかも……」

 

『無茶言わないで。下手をすればシロごと……!』

 

レーヴの抗議を無視し、シロは肩に手を掛けながら言った。

 

「ごめん。でも、これ以外に方法が思いつかないから」 

 

「っ……!」

 

レーヴは苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、それ以上反論しなかった。

 

「行って来い。しくじるなよ」

 

ヴォーグの言葉にシロは強く頷き返す。

 

「行くよ……レーヴ!」

 

シロの掛け声と同時に、レーヴが少女の注意を引くために全力で走り出した。  

 

「二人に挟み撃ちされてると気づいたら動きが遅くなるはず!」

 

シロが狙撃銃を構えて少女の背後へと回り込む。

 

『あとは任せたぞ……!』

 

ヴォーグが少女の正面から狙いを定めて榴弾砲を撃ち放った。 

 

その爆風と土煙で少女の視界は遮られ、動きが明らかに鈍った。  

 

__今しかない!

 

隙を見逃さず、シロは少女の身体を抱き締める。

 

上手くいったと、二人が確信したときだった。

 

「え……」

 

シロの足元に、血溜まりが広がっていく。

 

少女が隠し持っていた熱量短剣が、シロの心臓を貫いていた。  

 

「シロ……?シロ!!」

 

レーヴとヴォーグの叫びが辺りに木霊する。

 

二人の声が虚しく響く中、シロは震える手で頭を撫でていた。

 

「おねぇ…ちゃん……?」

 

少女の瞳に光が宿り、一瞬で瞳孔が開く。

 

「あ……わたし……わたし……」

 

言葉を紡ごうとしても、うまく喋れない。

 

そんな彼女の様子を見て、シロは安堵したように微笑んだ。 

 

「良かった……ちゃんとはな、せ……」

 

しかし、その言葉は最後まで発せられること無く消えた。

 

「ダメ……シロ!目を開けて!」

 

レーヴが必死に呼びかけるが、シロの身体は徐々に力を失っていく。 

 

「なんで……どうしてわたしは……」

 

少女の声に、レーヴは顔を上げる。

 

その目に涙が溢れているのが見えた瞬間、怒りが湧き上がってきた。

 

「あなたのせいで……!!!」

 

その言葉を止めたのはヴォーグだった。

 

「落ち着け!今はそんな事をしてる余裕は無い」

 

そう言うとヴォーグは冷静に少女を見据えた。

 

「シロはまだ生きている。しかし長くは保たないだろう」

 

少女の顔から血の気が引いていく。

 

「お前を責めたい気持ちは山々だが、今はシロを助けることが最優先だ」

 

「でも…どうやって……?」

 

ヴォーグは周囲を見渡し、扉の方向を指差した。

 

「その先にお前たちの母が居るのだろう?頼む。開けてくれ」

 

レーヴの胸の中でシロが咳き込み、制服を血で染め上げる。

その様子を見て、少女は怯えたように後退りした。

 

「シロ!しっかりして……!」

 

レーヴが懸命に呼び掛けるが、返事は無い。

 

「わたしじゃ…なにもできな……ッ」

 

「迷っている場合なのか!?」

 

ヴォーグの叫びに少女が身体を震わせる。 

その言葉に少女は唇を噛みしめ、小さく頷いた。

 

「わかった……!」

 

扉が重い音を立てて開かれると、冷たい空気が流れ込んでくる。

 

「急げ!時間が無い!」

 

少女を先頭に、シロを抱き抱えたレーヴとヴォーグが続く。

 

通路を進むにつれて照明が明るくなっていき、遂に四人は大きな部屋へ辿り着いた。

 

「おかあさま!!!」

 

床の段差に躓きながら少女が叫ぶ。

その視線の先に居たのは、機械根と似た大きさの細い樹だった。

 

「姉さんが……死んじゃう……!」

 

少女が縋るように樹の幹に手をかける。

枝が微かに揺れると共に、淡い光が辺りに満ちた。

 

「あぁ……ようやく帰って来たのね……」

 

慈愛に満ちた声が、三人の頭の中に直接響く。  

 

「貴方が、シロの母親か?」

 

ヴォーグが警戒しつつ問いかける。

 

「そう。私はアーヴドの女王……そして、シロとセラの母……」

 

優し気な声と同時に、枝の一本が優しく伸びてきてレーヴの頬に触れた。

 

「わたしの娘を、ここまで連れてきてくれてありがとう……」

 

顔を見上げたレーヴの目の前で、白い蕾がゆっくりと開く。

花から溢れた蜜が傷口に滴り、輝きながら弾けた。

 

「うぁっ……!」

 

シロの身体がビクリと跳ねる。

同時に、突き刺さっていた短剣が溶けて胸を覆い始めた。

 

「これは……シロと同じ……」

 

ヴォーグが唖然と声を上げる。

 

分解されたセルが血肉として再構築されていく様は、まさにシロの能力と同じものだった。

 

「お願い……目を覚まして……!」

 

レーヴの涙が頬に落ちた刹那、シロの長い睫毛が揺れた。 

 

「ん……あ……」

 

「シロっ!!!よかった……本当によかった……」

 

掠れた声が聞こえた瞬間、レーヴは堪らずシロを抱き締めた。

 

その隣で、安心したかのように力が抜けたヴォーグが膝から崩れ落ちる。 

 

「ちょっとくるしいかも……」

 

「あ、ごめん……」

 

慌てて離れるレーヴを優しく見つめながらシロは立ち上がった。

 

「無理言った挙句死にかけてごめんね、二人とも」

 

「まったくだ。今回に関して言えばお前の回復ですら……」

 

半分泣きそうな顔をしているヴォーグを、彼女は無言で抱き締める。 

 

「大丈夫。もう死ぬつもりなんて無いよ」

 

そう言うと、シロは少女の方へ向き直った。 

 

「あなたの名前は、何て言うのかな」

 

優しい声色に安心したのか、緊張した様子だった少女の表情が緩んだ。

 

「わたしは……セラ。シロ姉さんの……妹……」

 

「ふふっ…やっぱり似てると思った」

 

シロは驚いたように目を瞬かせると、ふわりと微笑んだ。

 

「よろしくね……セラ」

 

その言葉と共に頭を撫でられた瞬間、セラの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

 

「わわっ……どうしたの?そんなに泣いて……」

 

慌てたように、シロはコートの袖で彼女の顔を拭う。

 

「だって……姉さんのこと……!」

 

「良いんだよ。こうして生きてるんだし」

 

泣きじゃくるセラを宥めながら、シロは静かに後ろへ振り返った。

 

「まずは……シャラ母さん、ただいま」

 

「おかえりなさい……シロ」

 

樹が大きく枝を揺らし、葉擦れのような音を立てる。 

それはまるで、娘を迎える母親の笑い声のように聞こえた。

 

「生まれてからずっと、帰って来られなくてごめん」

 

「謝るのは私の方……色々と背負わせてしまっているから……」

 

シャラの言葉に、シロは目を伏せる。 

 

「まだ幼かったあなたにホドの命運を任せるなんて、酷なことを……」

 

「……もう、覚悟は出来てるから」

 

黙ってやり取りを聞いていたレーヴが息を呑む。

 

「聞きたいことがいっぱいあるの。そのためにここに来た」

 

樹を見上げながら、シロは静かに問いかけた。 

 

「生み出された種子に、わたしじゃ止められない奴が現れた。あれを止めなきゃいけな

い」

 

「……窟帝陛下と、同じ性質を持ってるという事ね」

 

シャラの声が小さく震える。

 

「何度身体を破壊しても、機械根に情報を転送して再構築される……」

 

セラは不安そうにシロのコートの裾を摘まんでいる。

 

「メーヴェ……それが奴の、種子の名前」

 

その名を聞いた瞬間、レーヴの拳が固く握りしめられた。

 

「教えて欲しい。どうすれば全部終わらせられるの?」

 

その言葉に応えるように、シャラの枝が二人の娘の元へと伸びていく。

 

「……なに、するつもり?」

 

「賢いあなたなら、もう気付いているのでしょう……」

 

枝が額に触れた次の瞬間、薄桃色の瞳から鮮やかな虹色の光が溢れ出した。  

 

シロの右目と__セラの左目から。

 

「その瞳は……窟帝陛下の力を封じるために奪ったもの……」

 

告げられた真実に、レーヴが息を呑む。 

 

「……やっぱり、そうだったんだ」

 

シロの声には驚きが混じっていたが、どこか納得したような響きもあった。  

 

「一体どういう事だ?どうして二人の身体に女神の一部が……」

 

ヴォーグが厳しく問い質す。

 

「恐らく、貴方が生まれた頃……ホドに一つの宣告が下された」

 

セラの身体が強張り、不安げにシロに寄り添う。

 

「"絶"という言葉で言い表されたそれは……ホドをリセットする事を意味していた……」

 

「それで、どうなったの?」

 

レーヴの問いに、シャラはゆっくりと語り続けた。  

 

「私の母はその宣告を受け入れたけれど……私たちアーヴドの中枢は皆反対した」

 

全員が、黙って聴き入る。

 

「そして……"未来のホド"に賭けたのよ。いつか必ず訪れるだろう、三層が意志を合わせて女神を復活させる日が来ることを信じて」

 

「女神の復活……?」

 

レーヴが怪訝な表情を浮かべる。

 

「でもどうやって……まさか」

 

察したヴォーグが眉間に深い皺を寄せた。

 

「えぇ……母を殺してでも。結局私たちの計画は実行に移された」

 

その言葉に二人の娘は息を詰まらせる。  

 

「私の手で……母を殺害した後イーデンによって女王化の儀式が行われた。そして……」

 

「三層の烈士たちが、女神を封印した。そういうこと?」

 

シロが言葉を継ぐと、シャラは静かに頷いた。

 

「バラバラになった陛下の身体は、三つの断片に分かれた。そして各層の深奥へと封印された」

 

「待ってくれ。それじゃあ二人が持っている目はなんなんだ?」

 

ヴォーグが混乱した様子で問いかける。

 

「右目には陛下の権限を管理出来る力……左目には高出力のエネルギー炉としての役割がある」

 

シャラの言葉にシロは目を細めた。

 

「その力が失われる前に……シロ、あなたに託したのは正しい判断だった」

 

「……うん」

 

シロは小さく頷く。

 

「けれど、セラの場合は事情が違った」

 

「わたしの場合……?」

 

セラは不安そうな表情で母の姿を見上げる。  

 

「あれの出力は強過ぎたの……それが原因で、貴方の思考は大きく制限されてしまった」

 

「だからあんな……」

 

シロが苦しそうに呟くと、セラは申し訳無さそうな顔をする。

 

「でも今は平気だよ。姉さんのお陰で……」

 

その言葉に安堵したのかシロは優しく微笑んだ。

 

「……それで、種子を止めるにはどうすればいいんだ?」

 

ヴォーグの問いに、シャラは暫し沈黙する。

 

「右目の力を活用すれば、相手を封印することは出来ると思うけれど……」

 

「けれど?」

 

レーヴが不安げに続きを促した。

 

「神の力を行使する代償に、貴方の身体が保つかどうか……」

 

「そ、それならだめだよ……!」

 

セラが即座に反対する。  

 

だが、シロはどこか悲しそうに微笑んでいた。

 

「……それが私が生まれた意味だから。命なんか今更惜しくもないよ」

 

シロの言葉にレーヴは唇を噛む。  

 

「他の方法はないのか?」

 

ヴォーグが尋ねるとシャラはゆっくりと枝を振った。

 

「私が知っているのはこれだけ。あとは自分たちで…みつ……」

 

「母さん……?母さんっ!?」

 

その直後、シャラの根から急速に光が失われていく。

倒れ込む母を、シロは咄嗟に支えた。

 

「ごめんなさい…もう……」

 

その声は途切れ途切れになっていく。

 

「……あとはわたしが終わらせるから」

 

シロはシャラの幹を優しく撫でながら静かに告げる。

 

その瞬間、最も太い枝の付け根から小さな光の粒が集まり始めた。

粒は次第に膨らみ、ゆっくりと楕円形の実へと変わっていく。

 

「え……」

 

呆気に取られる四人の目の前で、その実は次第に細長い形へと姿を変えた。

 

枝が重さに耐え切れずに折れる寸前、シロは"それ"を手に取った。

 

「いい子に……する、の………よ…………」

 

それを最後に、シャラの身体が灰のように崩れ去った。

 

シロの手に残されたのは__白く輝く銃だった。

 

「おかあさま……なんで……」

 

泣きじゃくるセラの背中をそっと抱き締めると、優しく頭を撫でる。  

 

「とっくに限界だったんだ。きっと……」

 

「……シロ」

 

妹の前だからか気丈に振舞っている彼女の頬に、一筋の涙が零れたのをヴォーグは見逃さなかった。  

 

「でも……もう少しだけ、一緒に居たかったよ……」

 

その言葉は虚空に消えていく。

遺された娘の慟哭が、静かに地下空洞に響き渡っていた。 

 

しばらくして、漸く泣き止んだセラは赤く腫れた瞳でシロの銃を覗き込む。

 

「それは……?」

 

「母さんがくれた、最後の贈り物だよ」

 

彼女は銃口を壁に向ける。

 

トリガーを引いた瞬間、金属が溶ける音と共に高密度の熱塵が放たれた。  

 

__今の……やっぱり、か

 

少し身体がふらつく感覚に、シロは内心で苦笑していた。

 

「……でも。わたしがやる事は変わらないから」

 

彼女は託された銃(xxx RAM)を握り締めて深く息を吸い込む。

 

その瞳から溢れる虹色に、レーヴとセラは言葉を失っていた。

 

「行くよ。上に」

 

「……あぁ」

 

踵を返す背中に向けて、ヴォーグは静かに返事を送る。

 

シロの手が微かに震えていたのに気付いたのは、彼女だけだった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

一週間遅れての投稿となってしまい、申し訳ない……

さて、この話を以て第一章完結とさせていただきます。

第二章以降の投稿は、不定期更新という形になります。

受験生ゆえ、何卒ご了承ください。
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