まのこい天秤   作:雪無い

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今回はハンナ回です。ハンナ回!?




3話『蝶の占断』

 

 

 文化祭の熱狂が嘘のように引き、学園がいつもの落ち着きを取り戻した、次の休日。

 

 俺は遠野ハンナからの呼び出しを受けて、駅前の待ち合わせ場所へと足を運んでいた。

 まだ十一月だというのに今日は寒い。街を吹き抜ける風には本格的な冬の刺すような冷たさが混じっていた。コートの襟を立て、吐く息の白さに季節の移ろいを実感しながら歩を進めた。

 

 約束の十分前。まだ早いかと思いながら指定された時計台の下へ向かうと、そこにはすでに、寒そうにマフラーに顔を埋める遠野の姿があった。

 俺は足音を潜めて近づき、彼女の背中に声をかける。

 

「悪い、待たせた」

 

 ビクッと肩を揺らして、遠野がこちらを振り返った。

 休日の彼女の私服姿を見るのは新鮮だった。トレードマークの金髪のツインテールはそのままに、上品なベージュのショートコートと落ち着いたチェック柄のスカートを合わせている。首元にはボリュームのある白いマフラーが巻かれており、いつも学園で見せる少し大きめの制服を着た姿とは違う、年相応の柔らかくて可愛らしい雰囲気を纏っていた。

 

「いえ、わたくしも今来たばかりですわ」

 

 少しだけ上擦った声でそう言い放った直後、遠野はハッとしてパッと口元を両手で覆った。

 待ち合わせにおけるあまりにも古典的なセリフを、よりにもよって自分が無意識に口走ってしまったことに気がついたらしい。彼女は白いマフラーにさらに深く顔をうずめるようにして、耳の先まで一気に朱に染め上げていた。

 変なことを気にするやつである。俺はその古典的なセリフをからかったりせず、手早く用件を尋ねた。

 

「それで、今日はどうしたんだ。わざわざ休日に呼び出すなんて」

 

 俺が尋ねると、遠野はコホンと小さく咳払いをして、どうにかいつもの凛とした表情を取り繕いながらこちらを見上げた。

 

「……お礼、ですわ」

「お礼?」

「ええ。文化祭の時、わたくしの冤罪を晴らしていただいた件のお礼ですわ」

 

 真っ直ぐに俺を見て言う彼女の姿に、律儀なやつだなと内心で感心した。

 あの場では少しツンとして「気にしてませんわ」などと強がっていたが、わざわざ休日に呼び出してまで恩を返そうとするあたり、根が真面目で義理堅いのだろう。

 

「それで、本日はお昼ご飯をご馳走して差し上げますわ。何でも好きなものを言ってくださって構いませんのよ。わたくしのお小遣いの範囲内であれば、ですけれど」

「別に、そこまでしてもらうようなことじゃない。ただ現場の状況を整理しただけだし」

「わたくしの気が済みませんわ」

 

 俺の遠慮を遮るように、遠野はビシッと人差し指を突きつけてきた。

 恩を着せられたままにしておくのは、彼女のプライドが許さないらしい。

 

「そうか。お礼なら、その辺で飛んでくれたらいいのに」

「カツアゲですの!?」

「違う!話題にあがってただろ。もう一回浮遊を見せてほしいんだ」

 

 俺が真顔でそう要求すると、遠野は露骨に嫌そうな顔をして、ジト目でこちらを睨みつけてきた。

 

「……言っておきますけれど、今日は絶対に飛びませんわよ」

「悪い悪い、冗談だ」

 

 先日、浮遊が原因で容疑をかけられたのだ。反省である。

 俺が肩をすくめて苦笑すると、遠野は「むっ」と眉をひそめた。

 

「ありがたくご馳走になるよ。今日はよろしく頼む」

「ふんっ。最初から素直にそう言いなさいな」

 

 遠野はツンとそっぽを向いたが、その横顔はどこか嬉しそうに綻び、マフラーに埋もれた口元が微かに緩んでいるのがわかった。

 彼女はくるりと踵を返し、弾むような足取りで歩き出す。

 

「さあ、行きますわよ大鐘さん。わたくしについてきなさい」

 

 俺は小さく息を吐き、休日の賑やかな街の喧騒へと足を踏み出した彼女の小さな背中を追った。

 

 

 

 

 時刻はまだ午前中の半ばを過ぎたあたり。昼食をとるには流石に早すぎるということで、俺たちは駅前の商業施設を適当に見て回ることにした。

 

「わたくし、少し見たいお店がありますの」

 

 そう言って遠野が先導し、迷いのない足取りで向かったのは、パステルカラーの装飾が目を引くファンシーな雑貨屋だった。

 暖房の効いた店内には甘い芳香が漂い、キラキラとしたアクセサリーや可愛らしい文房具、流行りのコスメなどが所狭しと並べられている。客層の大半は女子中高生で、俺のような男一人が足を踏み入れるには少々場違いな空気が蔓延していたが、今日の少し可愛らしい私服姿の遠野には恐ろしいほどよく似合っていた。

 

 彼女は店内を興味深そうに見回していたが、やがて壁際の一角に設けられたぬいぐるみコーナーの前でピタリと足を止めた。

 大小様々な動物のぬいぐるみが陳列される中、遠野は一つの中くらいのテディベアを手に取った。てっきりその愛らしい顔立ちに見惚れているのかと思いきや、彼女の視線はぬいぐるみの目や鼻ではなく、腕の付け根や背中の縫い目など、ひどく現実的な部分に向けられていた。

 

「欲しいのか?」

 

 俺が隣に並んで尋ねると、遠野はテディベアを棚に戻し、小さく首を横に振った。

 

「いいえ。ただ、縫製が気になっただけですわ」

「……裁縫、詳しいのか?」

「……なんですの、その意外そうな顔は」

 

 少しだけむっとしたように唇を尖らせる遠野。

 言葉遣いとは裏腹に、彼女の振る舞いや金銭感覚、物の扱い方には、庶民的で地に足のついた親しみやすさが混じっている。裁縫が得意だと言われれば確かに納得できる。

 

「いやいや、そんなことないって」

「ふん、どうだか」

「えっと、じゃあ、もしかしてそのマフラーも自分でか?」

 

 追及から逃げるように彼女の首元を暖かそうに包んでいるボリュームのある白いマフラーを指差すと、遠野はわずかに肩をビクッと揺らした。

 

「……え、ええ。これも、わたくしの手編みですわ」

「へえ、すごいな。網目が均一で、てっきり既製品かと思った。裁縫、得意なんだな」

 

 俺は素直に感心し、偽りない称賛の言葉を口にした。

 これだけ綺麗に仕上げるには、相応の技術と、何より膨大な時間と根気が必要なはずだ。彼女の几帳面な性格が、こういうところにも表れているのだろうか。

 だが、褒められた遠野の反応は、俺の予想とは少し違っていた。

 

「…………」

 

 彼女はマフラーの端をギュッと強く握りしめ、なぜか微かに視線を伏せた。

 俺がそう言って褒めると、遠野はなぜか一瞬、複雑そうな、あるいはどこか陰りのあるような不思議な表情を浮かべた。

 喜んでいるようにも見えるが、それだけではない、何か言葉にできない感情が混じっているような。

 俺が内心で首を傾げたその時、遠野はハッと顔を上げ、先ほどの複雑な色を瞬時に振り払うように、いつものようにツンと胸を張ってみせた。

 

「……ふんっ。当然ですわ。これくらい、嗜みですわよ」

「当然か?すごいと思うけどな。よく見たら遠野って、華奢なわりに指はしっかりしてるよな」

「う、うぅ……っ。あ、あまり手をジロジロ見ないでほしいですわ。せめてマフラーを見なさいな」

「すまん」

 

 遠野はそこまで言うと、ほんの少しだけ上目遣いになり、モゴモゴと口ごもった。

 

「その……どうしてもと言うなら。わたくしの気が向いた時に、マフラーでも小さなマスコットでも、大鐘さんに作って差し上げても構いませんわよ。わ、わたくしは忙しいですから、あくまで余った毛糸と布の切れ端で、お礼ついでに作ってあげるだけですけれど!」

 

 顔を真っ赤にして早口でまくしたてる彼女の姿は、いつもの素直になれない遠野ハンナそのものだった。

 先ほどの複雑な表情の理由はわからなかったが、必死に強がるその態度に、俺は思わず小さく吹き出してしまった。

 

「なんだそれ。じゃあ、気が向いた時でいいから、俺にも何か作ってくれ」

「っ……!し、仕方ありませんわね!わたくし直々の手作りアイテム、首を長くして待っていることですわ!」

 

 遠野はプイッとそっぽを向いて歩き出したが、その足取りは雑貨屋に入ってきた時よりも、ほんの少しだけ軽く、弾んでいるように見えた。

 

 

 

 雑貨屋を出て、再び冷たい風が吹き抜ける駅前のコンコースへと戻ったところで、俺はふと思い出して隣を歩く遠野に声をかけた。

 

「少し、駅ビルの本屋に寄ってもいいか?買いたいものがあるんだ」

「本屋、ですの?ええ、構いませんわよ。わたくしも、本の匂いは嫌いではありませんから」

 

 遠野はマフラーに顎を埋めたまま頷いた。

 

 目当ての大型書店は、休日の昼前ということもあって多くの客で賑わっていた。暖房の効いた店内には、インクと新しい紙の匂いが満ちていて、外の寒さでこわばっていた身体が自然と解れていくのを感じる。

 

 俺は迷わず新刊コーナーへと向かい、平積みされた分厚い単行本の中から、今日発売されたばかりの本格ミステリ小説を手に取った。

 普段の俺なあまり手に取らないようなジャンルだが、どういうわけか、最近俺の脳内には「このトリックがですね!」「大鐘さん、ここが運命の分かれ道ですよ!」と、事あるごとに騒ぎ立てる青い髪の名探偵の姿がちらついて離れない。

 

 彼女のあの突拍子もない思考回路を少しでも理解できる手がかりがあるのではないか──そんな柄にもない無自覚な動機に突き動かされている自分を認めるのが、今はひどく気恥ずかしかった。だから、遠野にはそのジャンルすら教えずに、ただ本を買うとだけ伝えて誤魔化した。

 だが、そんな内心の言い訳さえも、誰かに見透かされそうで、俺は手に取ったミステリ小説を隠すようにして脇に抱え込んだ。

 

 

 

 

 

「どうせなら、買った本をすぐに読める場所がいいな」

 

 という俺の提案で、昼食は駅前にある落ち着いた雰囲気のブックカフェに入ることになった。

 アンティーク調のランプが柔らかな光を落とし、店内には焙煎された珈琲豆の香ばしい匂いと、静かに流れるジャズのBGMが満ちている。俺たちは窓際のこぢんまりとしたテーブル席に向かい合わせで座り、パスタと食後の紅茶を平らげた後、それぞれ購入したばかりの本を開いていた。

 

 俺は橘の影響で買ってしまった新作のミステリ小説のページを繰り、向かいの席では、遠野も集中を欠きながら本を読んでいる。俺がついでに買って渡した小説なのだが、あまり好みではなかったのだろうか。

 

 俺はキリの良いところで本に栞を挟み、カップに残っていた冷めた紅茶を飲み干した。

 

「遠野。そろそろ出ようか」

 

 声をかけると、遠野は「ふぇっ!?」と間抜けな声を漏らし、弾かれたように顔を上げた。まだ夢見心地な瞳を瞬かせ、慌てて咳払いをして姿勢を正す。

 

「そ、そうですわね。というかあなた、妙に様になりますわね……」

 

 遠野が名残惜しそうに小説を俺に返そうとした、まさにその時だった。

 

「──あら、ハンナちゃん」

 

 不意に、背後から甘く艶のある声が降ってきた。

 耳の奥をくすぐるような、不思議な響きを持った声。声に呼ばれて振り返った遠野は、目を見開き、信じられないものを見るように口をパクパクと動かした。

 

「ま、マーゴさん……!?」

 

 遠野の視線の先に立っていたのは、一人の少女だった。

 真っ先に目を奪われたのは、その瞳だ。深海のように暗く、それでいて妖しく光を反射するアメジストのような紫色の瞳が、面白そうな玩具を見つけた子猫のように細められている。

 顔立ちはひどく整っているが、そこから発せられる空気感は、遠野のようなのそれとは全く異なっていた。甘く、けだるげで、どこか毒を含んだようなミステリアスな雰囲気。

 彼女がそこに立って微笑むだけで、静かで落ち着いていたはずのカフェの空気が、まるで魔法にかけられたように甘ったるい霧で満たされていくような錯覚すら覚える。

 

「うふふ。こんな休日のカフェで、可愛い二人が向かい合って読書だなんて。……もしかして甘い密会のお邪魔しちゃったかしら?」

 

 紫の瞳を艶やかに細め、彼女は悪びれる様子もなくころころと笑った。

 遠野は顔を限界まで真っ赤にし、「みっ、密会だなんて、そんな破廉恥なわけありませんわ!」と激しく手を振って否定している。

 

「遠野、知り合いか?」

 

 俺が冷静に尋ねると、遠野は慌てて俺と彼女を交互に指差した。

 

「そ、そうですわ。わたくしのクラスメイトの、宝生マーゴさんですの」

「宝生マーゴ……」

 

 俺は短くその名を反芻し、軽く頭を下げた。

 

「大鐘ヒカリだ。……ちょうど今、そろそろ店を出ようかと話していたところなんだ。だから別に邪魔じゃない。あんたも、座るならこのテーブルを使ってくれ」

 

 相手のペースに巻き込まれる前に、さっさと会話を切り上げて席を立とうとする。俺なりの、波風を立てないための合理的な判断だった。

 だが、宝生マーゴは俺のその素っ気ない言葉を受け流すどころか、ふわりと楽しげな笑みを深め、勝手に空いていた隣の椅子に腰を下ろしてしまった。

 頬杖をつき、その妖しい紫の瞳で俺の顔をじっと覗き込んでくる。

 

「噂の名探偵さんね、聞いてた通りかっこいいわ。……うふふ、そんな風に見つめられたら、緊張しちゃいそう」

 

 言葉とは裏腹に、彼女の表情には緊張の欠片も存在しなかった。むしろ、俺の反応を隅から隅まで観察し、どう弄ってやろうかと値踏みしているような余裕すらある。

 打てば響く橘や、からかえば面白いように反応を返す遠野とは違う。暖簾に腕押しというか、煙を掴もうとしているような絶対的な手応えのなさ。なんというか、やりづらい。

 俺は微かに眉間を寄せ、捉えどころのない笑みを浮かべる宝生マーゴから、警戒するように視線を外した。

 

「ハンナちゃん、お邪魔しちゃったお詫びに、二人の運命を占ってあげるわ」

 

 いつの間にか注文していたらしい、真っ赤なハイビスカスティーを優雅に啜りながら、宝生マーゴはどこから取り出したのか、ベルベットのような艶のある布の上に、美しい装飾が施されたタロットカードを広げ始めた。

 しなやかな指先が、流れるような手つきでカードをシャッフルしていく。

 

「お詫びって……あのですねマーゴさん。わたくしたち、そういう関係ではありませんのよ。それに、占いだなんて、そんな非科学的なもの、わたくしは一ミリも信じませんわ!」

「あらあら、そうなの?じゃあ、カードをしまっちゃってもいいのかしら?」

「そ、それは……せっかく準備していただいたのに、無下にするのは……。まぁ、その、マーゴさんがどうしてもと言うなら、付き合って差し上げなくもありませんけれど」

 

 遠野は腕を組み、ツンとそっぽを向きながらも、その瞳は広げられたカードの束をこれでもかと凝視していた。わかりやすいにも程がある。

 そんな遠野の様子を微笑ましく眺めていると、彼女の視線がこちらに向いた。

 

「大鐘さんは、占いなんて興味なさそうですわよね。理屈でしか物事を考えられないタイプですし」

「いや、そんなことはないぞ」

「えっ?」

 

 俺が即答すると、遠野は意外そうに目を丸くした。

 

「野球のプレイヤーってのは、実はけっこうオカルト好きが多いんだよ」

「オカルトですの?」

「ああ。バッターボックスに入る前に必ず決まったルーティンをこなすとか、ピンチ凌いだ後の攻撃とか。些細なことでも、ジンクスとか流れみたいなものを信じる人間はけっこう多い。だから、占いの結果一つで気持ちが上向くなら、それも立派なメンタルコントロールの一環だと思ってる」

 

 俺が真顔で説明をすると、遠野はあからさまに呆れたような溜息をついた。

 

「……結局、ロマンの欠片もありませんのね。乙女の神秘的な占いを、スポーツの精神論と一緒にしないでくださいまし」

「うふふ、探偵さんらしい合理的な解釈ね。嫌いじゃないわよ」

 

 宝生はくすくすと笑いながら、シャッフルしたカードの中から数枚を抜き出し、テーブルの上に並べた。

 

「今回はわかりやすく、二人の相性をパーセンテージにして教えてあげる。……そうね、ハンナちゃんと探偵さんの相性は……あら、素敵。92%よ」

「きゅ、92!?」

「ええ。互いの欠落を補い、支え合える非常に良い関係ね。探偵さんの冷静さがハンナちゃんの熱を支え、ハンナちゃんの真っ直ぐさが探偵さんの道を照らす……そんなカードが出ているわ」

 

 宝生の言葉に、遠野の顔が一瞬で林檎のように真っ赤に染まった。

 彼女はパタパタと手で顔を扇ぎ、チラチラとこちらを盗み見ながら、必死に平静を装うとする。

 

「とっ、当然の結果ですわね!大鐘さんはわたくしがいないと、すぐにフラフラとどこかへ行ってしまいますから、わたくしがしっかり手綱を握ってあげませんとね!」

 

 俺は苦笑しながら、遠野のそんな反応をからかうように見つめる宝生の横顔を見た。

 

「ちなみに……私と探偵さんの相性も、悪くないみたいよ?」

 

 宝生がふいに身を乗り出し、俺の顔を下から覗き込むようにして妖艶に微笑んだ。

 甘い香水の匂いがふわりと鼻先を掠める。

 

「八十パーセント。……うふふ、探偵さんとなら、大人の火遊びくらいは楽しめそうね」

「マ、マーゴさん!? あなた、いきなり何を……っ!」

 

 遠野がガタッと椅子から立ち上がりそうになるほど動揺するが、俺は冷めた視線で宝生の紫の瞳を見返した。

 彼女の瞳の奥には、火遊びどころか、俺に対する恋愛感情や興味など微塵も存在しない。ただ遠野がどう反応するかという一点のみを楽しんでいるだけだ。

 

「……宝生。あんまりからかうなよ」

「あら、見抜かれちゃったかしら?残念。探偵さんは、なかなか手強いわね」

 

 宝生は悪びれもせずコロコロと笑い、再びカードの束に手を伸ばした。

 

「せっかくだから、他の子たちとの相性も占ってみましょうか。探偵さんの周りには、可愛い女の子がたくさんいるみたいだし」

 

 宝生は流れるような手つきでカードを引き、次々と結果を読み上げていく。

 

「まず、エマちゃん。……95%。少し危険な香りがするけれど、深い安らぎを与え合う、癒しと愛の象徴みたいな関係ね」

「きゅ、95……っ!?」

「次はナノカちゃん、90%。背中を預け合い、同じ戦場を駆け抜けるような魂の共鳴」

「……」

「ヒロちゃんは88%。理性ではどうにも抑えきれない、強烈な引力が働いているみたいね」

 

 読み上げられるたびに、遠野の顔からスゥッと血の気が引き、やがてギリギリとハンカチを噛み締めるような形相へと変わっていく。

 

「お、大鐘さん……! あなた、エマさんやナノカさん、それにヒロさんとも、そんな高得点を……っ!節操なしですの!?ハーレム狙いですの!?」

「いわれ0%だ」

 

 俺が呆れて肩をすくめると、ふと、俺の中に一つの疑問が浮かび上がった。

 桜羽、黒部、二階堂。そして遠野。

 俺の周囲にいる人間との相性が、軒並み高い数字を叩き出している。ならば。

 

「……宝生。橘はどうなんだ?」

「シェリーちゃんね。ちょっと待っててくれるかしら」

 

 俺の唐突な問いに、宝生はすぐに新しいカードを引き、テーブルの上に並べた。

 しかし、そのカードを見た瞬間、宝生の口元から、先ほどまでの余裕のある笑みがフッと消え去った。

 彼女の妖しい紫の瞳が、珍しく真剣な色を帯びて細められる。

 

「……あら?面白いわね」

「面白い?どういうことだ。どうせ同じように高いんだろ」

「シェリーちゃん。彼女と探偵さんの相性は……0%よ」

「ゼロ……?」

 

 俺は思わず聞き返した。遠野も隣で「ゼ、ゼロですの!?」と素っ頓狂な声を上げている。

 

「運命の天秤が、一度も釣り合うことがないと告げているわ。論理も、感情も、何一つ噛み合わない。……出会うことすら本来はあり得なかった、完全なる平行線」

 

 ただの占いだ。タロットカードの絵柄に、なんの科学的根拠もない。

 頭ではそうわかっているはずなのに。宝生の、その低く落ち着いた語り口調には、妙な説得力が宿っていた。

 全く交わらない平行線。噛み合う要素が一つもない。

 その言葉を聞いた瞬間、俺の胸の奥に、得体の知れないモヤモヤとした感情が黒い泥のように広がっていくのを感じた。

 無意識のうちに、俺は眉間に深いシワを寄せ、テーブルの下で拳を硬く握り締めていた。

 

「い、意外ですわね……」

 

 遠野が、どこか複雑そうな声で呟いた。

 

「大鐘さんとシェリーさんって、いつもあんなにやかましく言い合っていて……傍から見れば、その……とても仲がよろしいのに。ゼロパーセントなんて……」

「そうみたいね。でも、カードは嘘をつかないわ」

 

 宝生は、俺の険しい表情と、遠野の複雑な反応を交互に眺め、やがて、喉の奥で「ふふっ」と小さく、けれどひどく楽しそうに笑った。

 

「……あら。そういうことなの」

 

 宝生は、俺の顔を真っ直ぐに射抜いた。

 

「探偵さん、今、すごく良い顔してるわよ。……ゼロって言われて、悔しかった?それとも、自分の手の届かない場所にいる彼女に、ますます興味が湧いちゃったかしら?」

 

 すべてを見透かしたような紫の瞳が、俺の心の奥に潜む執着の正体を、鮮やかに暴き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 






シェリールートではマーゴとミリアとハンナに頑張ってもらう予定です。やっぱりみんな出したいのでね。メルルはいつ出せるんだ



全然関係無い、まのさば恋愛シミュレーションゲームの攻略難易度あるある

難しい:マーゴ、シェリー、ノア(諸説あり)、ミリア
普通:ヒロ、レイア、ココ、ナノカ
易しい:エマ、アンアン、ハンナ、アリサ
非攻略:メルル、ユキちゃん

ん、誰かが作るべき。ちなみに書きやすさランキングだとアリサがダントツだよねと思ってます





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