全く原作沿いではありませんが、できるだけ原作のような展開が動き続ける話を目指して書いています。
今回でプロローグ終わりです!
評価、お気に入り、感想、ドシドシお願いします
橘が大きな声で宣言した瞬間、教室内には妙な緊張感と、それ以上の脱力感が漂った。
当の本人は、ロッカーの中身をひっくり返さんばかりの勢いだ。
「どうしましょう、大鐘さん! 私の『一年生調査メモ』が……昨日、あなたのことを書き留めた渾身の一ページが、跡形もなく消えています!」
「ストップだ、落ち着け橘。……遠野、他に誰かここに入ったか?」
落ち着きを失い始めた橘の肩を軽く叩く。最初は目輝かせてたのに、無くなった物が何かわかると珍しく焦りを見せた。
尋ねられた遠野は優雅に紅茶の最後の一口を飲み干し、首を横に振った。
「いいえ、今日はクラスの人以外誰も入ってきていませんわ。そんな物好きあなたくらいでしてよ」
「わわっ、大変だねシェリーちゃん! ボクも一緒に探すよ!」
桜羽が慌てた様子で立ち上がり、橘の隣でバタバタと手を動かし始めた。
橘がメモを書いたのは昨日なのだから、ロッカーに入れられたのはもちろん今日。ただ紛失したのでないなら可能性はひとつ。
俺は溜息をつき、橘が「秘密基地」と呼んだロッカーの前に立った。
(……荒らされた形跡はない。他のスクラップブックは整然と並んでいる。ピンポイントで、昨日の一枚だけが抜き取られているな)
誰かの嫌がらせか、または……
(難儀だな……)
「あうっ!」という唐突な悲鳴が、思考の糸を遮った。
見ると、橘の激しい動きに巻き込まれたのか、あるいは単に足元がおぼつかなかったのか、桜羽がたどたどしい足取りで後退さり、そのまま自分の足をもつれさせて派手に転んでいた。
「あいたた……。ごめんね、ボク、お邪魔だったかな……」
彼女は申し訳なさそうに床に手をつき、這うようにして立ち上がろうとする。その際、彼女の指先が、床に残された微かな「擦れ跡」のすぐ横を、まるで埃でも払うかのように自然になぞった。
橘と遠野が心配そうに彼女に近づいた。俺も彼女の前にしゃがみ込んだ
「大丈夫か桜羽」
「うん、大丈夫。えへへ、恥ずかしいな。……あ、あれ? ロッカーの扉の角に、何か赤いのが引っかかってない?」
彼女が照れ隠しに視線を泳がせた先――ちょうど彼女が転んで、顔を近づけた位置から一番見えやすいロッカーの蝶番の隙間に、赤い糸のようなものがあった。
(……この色)
脳裏に、今朝の食堂の光景が鮮明にフラッシュバックした。静寂の中で凛と座っていた二階堂ヒロ。彼女の漆黒の髪に添えられていた、あの鮮烈な赤の花飾り。古びたロッカーに、その糸はまるで一滴の血のように、あまりにも象徴的な「赤」を主張していた。
俺は彼女に手を貸しながら、その横顔を凝視した。
今の転び方。足がもつれたタイミングも、ロッカーに手をついた位置も。彼女が転んだ瞬間、その重心の移動は、驚くほど無駄がなかった。まるで床の擦れ跡に俺の視線を誘導し、さらに蝶番の高さまで目線を下げさせるために、これ以上ないほど効率的な転倒だった。
(……偶然じゃない)
俺の視線に気づいたのか、彼女がゆっくりと顔を上げた。
「どうしたの?」
小首を傾げる彼女の瞳をのぞき込む。濁りのない、綺麗な桜色。鏡のように俺の困惑を映し出しているが、その奥にあるはずの感情が一切読み取れない。計算も、悪意も、あるいは隠し事への後ろめたさすらも。あまりにも「無」に近い純粋な微笑み。それが逆に、俺の背筋に得体の知れない冷たいものを走らせた。
俺は手を放し、橘のほうへ振り返った。
「橘、もう探さなくても良い、犯人がわかった」
「ええ本当ですか!?」
「ああ、犯人は───」
「そこまでだ」
俺がそう口にした瞬間、教室の扉が静かに、だが重厚な音を立てて開いた。
夕日に背を向け、影を長く伸ばして立っていたのは、生徒会長・二階堂ヒロだった。
美しい黒髪に、赤い花飾りが微かに揺れている。俺の手の中にある糸と、全く同じ色の。
「ヒロさん!」
「シェリー。君のロッカーから一枚の書類を預かった。……これのことだな」
二階堂の手には、橘が探していたメモが握られていた。橘は「返してください!」と詰め寄るが、二階堂はそれを高く掲げ、冷徹な声で告げる。
「断る。……シェリー、君のこのメモには、新入生である大鐘ヒカリの、出身校や家族構成、果ては個人的な嗜好までが詳細に記されていた。本人の許可なくこれを作成し、かつ施錠もせずに放置することは、学園のプライバシー保護の観点から見て正しくない」
二階堂の言葉は、刃のように鋭い。
「私は生徒会長として、不適切な情報の流出を防ぐ義務がある。没収し、破棄するのが正しい処置だ」
「そんなぁ……ヒロさぁん……!」
「……君に悪意が無いのはわかるが、その行為が正しくないのであればそれは悪だ」
溜め息をついた二階堂は、今度はその赤い瞳を俺に向けた。
「大鐘ヒカリ。君がこのメモの存在に気づき、どう動くかを見させてもらった。どうやら君は正しい答えにたどり着いたようだ」
二階堂はそう言うと、意外にもあっさりとメモを俺に差し出した。
「本人の手に渡るなら、情報の流出とはみなさない。これをどうするかは、君が決めろ」
「……あぁ。預かっておくよ」
俺がメモを受け取ると、二階堂は一度だけ、俺の後ろにいる桜羽エマに視線を向けた。
その視線は、他の誰に向けるものよりも深く、複雑な色を孕んでいた。
「……エマ。君の『ドジ』も、相変わらずだな」
「えへへ……ヒロちゃん、怒らないでよ。ボク、ただ足がもつれちゃって」
桜羽は困ったように笑う。二階堂はそれ以上何も言わず、踵を返した。
去り際、二階堂が俺の耳元で、誰にも聞こえないほどの小声で囁いた。
「あまり、桜羽エマを深追いするな」
それだけ言い残すと、二階堂は一度も振り返ることなく教室を去っていった。残された俺は、手の中にある橘のメモと、扉の向こうに消えた背中を交互に見つめることしかできなかった。
「見つかったな」
「あぁ〜、よかったです! さすがは大鐘さん、私のライバル!ヒロさんの鉄壁のガードを崩すなんて!」
橘に屈託の無い笑みが戻る。その明るさに、先ほどまでの刺すような緊張感が霧散していく。
「……ガードを崩したわけじゃない。二階堂は最初から、俺がここまで辿り着くのを待っていたんだ。あいつの狙いが何なのかはわからんが」
「ヒロさんも相変わらずお堅いことですわ。でも、大鐘さんがいなければ、シェリーさんのメモは今頃シュレッダーの藻くずでしたわよ」
遠野が呆れたように肩をすくめる。その視線は、どこか俺を値踏みするような、それでいて少しだけ認めたような色を帯びていた。
「よかったねシェリーちゃん!」
「はい!」
二階堂が去り際に言った言葉が脳裏でリフレインする。
(桜羽エマを深追いするな……)
改めて桜羽を見る。彼女は橘の「凄いです大鐘さん!」という騒ぎに「うんうん、凄いね」と、一歩引いた位置で相槌を打っている。
その姿は、どこからどう見ても「おっとりした、少しドジな可愛い女の子」だ。
だが、俺は知っている。
彼女が転んだ拍子に指し示したあの赤い糸がなければ、俺は二階堂の仕掛けに気づくのがもっと遅れていただろう。
「……桜羽」
呼びかけると、「どうしたの?」と再び彼女は小首を傾げて俺を見た。夕闇が迫る教室の中で、彼女の桜色の瞳が、一瞬だけ発光したかのように鋭く光った気がした。だが、瞬きを一つした次の瞬間には、そこにはやはり「おっとりした、少しドジな可愛い女の子」が立っているだけだった。
「……いや、何でもない」
「……?」
彼女の表情は変わらない。俺はそれ以上追及せず、橘にメモを返した。
「ほら、橘。次はちゃんと保管しとけよ」
「はい! 肝に銘じます!」
「というか奪われたのこれだけなのか?プライバシーがどうって話なら全部持っていかれてもおかしくないよな」
「いえ、大鐘さんの分しか書いてありませんから」
なんでだよ。1年生調査メモじゃないのかよ。おい、こっちを見るな遠野。
俺は一つ咳払いをし、カバンを手に取った。
「そろそろ帰るか……今日はありがとな、話せて楽しかったよ」
「ううん、ボクも楽しかったよ!」
「こちらこそ、ですわ。今度は良いお菓子を用意しておきますわ」
「おう、またな」
俺は、静かな廊下へと踏み出した。
「あっ、運んでいくかどうか聞くの忘れました!どうですハンナさん!乗っていきますか?」
「いくわけがないでしょうに」
「あはは……」
橘たちとの騒がしいお茶会を終え、寮の自室に戻ると、静寂がどっと押し寄せてきた。必要最低限のものしかない簡素な部屋には、昨日運び込まれたままの段ボール箱がいくつか積み上がっている。
「……さて、やるか」
独り言をつぶやき、カッターでガムテープを引き剥がす。中から出てくるのは、教科書や衣類、細やかな俺の楽しみ。どれも数は多くない。
最後の一箱を開けたとき、その一番底に押し込んでいた「重いもの」が目に入った。
「……」
引き出したのは、使い込まれて黒ずんだ革の塊──キャッチャーミットだ。指先でその感触を確かめると、嫌でも思い出してしまう。かつてこのミットで、誰よりも信頼していた選手たちの球を受けていた感触を。
あの時、俺は「最善」を選んだつもりだった。チームを守るため、仲間の未来を守るため。それが、扇の要たる捕手の役割だと信じて、俺は沈黙という嘘を飲み込んだ。
だが、その先に待っていたのは、信じた相手からの裏切りと、自分を指差す冷徹な指先だった。俺が守ろうとした「最善」は、ただの独りよがりで、誰一人救われなかった。
(……だから、俺は)
囲碁部での出来事を思い出す。橘の娯楽を奪ってでも、即座に答えを示したあの瞬間。あそこで「謎解き」という曖昧な時間に付き合っていれば、誰かが誰かを疑い、不安が広がる隙を与えていただろう。あんな不透明な時間は、もう二度と味わいたくない。
ただ、目の前の最適解を叩き出す。それだけが、あの場所で「最善」を履き違えた俺にできる、唯一の贖罪のような気がしていた。
「……少し、走るか」
湿っぽくなった空気を振り払うように、俺はミットを棚の奥へ押し込み、ランニングウェアに着替えて部屋を出た。
十月の夜風は、火照った頭を冷やすのにちょうどよかった。寮の敷地内は広く、街灯が等間隔に並んでいる。自分の足音と呼吸の音だけが響く中、俺は一定のペースで走り続けた。
寮から少し離れた、噴水のある広場に差し掛かった時だった。
「……っ、ない。どこ……?」
街灯の光がわずかに届く、植え込みの近く。一人のジャージ姿の少女が、地面を這うようにして何かを探していた。
黒い髪は長く、背中まで流れ、地面に触れそうなほど低く垂れ下がっている。艶やかでまっすぐ、街灯の光を受けて黒がより際立つ。
さらに風がまた強く吹いて、彼女の黒髪が乱れる。
彼女は小さく「……っ」と声を漏らし、ますます地面に身を低くした。その姿は、まるで夜の広場に取り残された小さな影のようだった。
近寄りがたい雰囲気を持ちながら、今はただ必死に、大切なものを探している少女でしかなかった。
「……おい、大丈夫か」
声をかけると、彼女はビクリと肩を揺らし、鋭い視線をこちらに向けた。
灰色の瞳は、感情をほとんど表さない静かな色。色白の頰に、わずかな赤みが差しているのは、焦りと夜の冷たさのせいだろう。表情はクールでほとんど変わらないのに、動作の必死さが意外なほど幼く見える。動きやすいはずの服装が、這いつくばる姿はどこか痛々しい。
「……誰? 来ないで、見ないで」
「いや、そうもいかないだろ。何か失くしたのか?」
彼女は一瞬、拒絶するように唇を噛んだが、やがて消え入りそうな声で漏らした。
「……リボン、リボンを落としたの。風に飛ばされて、どこかに……」
俺は周囲を見渡した。夜の闇、生い茂る芝生、そして時折吹き抜ける強い風。こんな状況で、リボンを探す?
(……またか)
昨日の碁石、今日のメモ、そして夜のリボン。この学園に来てから、俺は探し物の現場にばかり遭遇している。俺の転校生としての属性は「名探偵」じゃなくて「遺失物取扱所」なんじゃないだろうか。
だが、彼女の震える指先を見て、見捨てる選択肢は消えた。俺はため息をつき、彼女の隣で膝をついた。
「……手伝うよ」
「いい、あなたには関係ないわ」
「関係ある。今できた」
俺はスマホのライトを点灯し、地面を照らした。
今までとは違い、ここに推理の余地は無い。風の向きから落下点から推測したところで、芝生のどこにリボンが滑り込んだかなんて最後はしらみつぶししかない。
一分、五分、十分。
沈黙の中で、俺たちはひたすら地面を探した。効率も何もない、ただの根気の作業。
かつて、泥だらけになりながら白球を追いかけた日々を思い出す。あの頃は近道なんて知らなかった。目の前の一球のために泥にまみれる事を厭わなかった。
「……どうして」
隣で、彼女が掠れた声を出した。
「どうして、そこまでしてくれるの……?」
「……さあな。自分でもよくわからん」
ライトを地面に向けたまま、俺は短く答えた。本当だ。効率を求めるなら、警備員にでも任せて自分はさっさと部屋で休むべきだ。だが、夜の闇に溶けてしまいそうな彼女の背中を見ていたら、どうしても足が動かなかった。
「ただ、探し物は一人より二人の方が早く見つかる。それだけだ」
俺はライトの範囲を広げ、植え込みの奥を照らした。
それからさらに二十分が経過した頃。
(……あそこか)
噴水の縁、わずかに水しぶきがかかる石畳の隙間に、夜の闇よりも深い黒が挟まっていた。
「……あったぞ」
俺は歩み寄り、濡れないように慎重にそれを拾い上げた。細い、だが上質なシルクのリボンだ。指先に触れると、ほんのりと冷たい。
「これだろ」
差し出すと、彼女は弾かれたように顔を上げた。ライトの反射で、彼女の灰色の瞳が潤んでいるのが見えた。彼女は震える手でリボンを受け取ると、それを胸元でぎゅっと抱きしめた。
「……よかった。これがないと、私……」
落ち着いた震えていた。安堵のあまり、彼女はその場にへたり込んでしまった。俺は少し離れた位置で立ち止まり、彼女が落ち着くのを待った。
「大事なものなんだな」
「……ええ。とても、大切な……大切なものなの」
彼女はリボンを愛おしそうに見つめ、それからようやく、俺を真っ直ぐに見た。
「……ありがとう。私は、黒部ナノカ。一年の……魔法クラスの生徒よ」
「黒部ナノカ……」
またか。これで魔法クラスの五人目だ。橘、桜羽、遠野、二階堂。そして、この黒部ナノカ。
「俺は大鐘ヒカリ。昨日転校してきたばかりだ。よろしく。……良かったら魔法、教えてくれないか」
……またやってしまった。
黒部は少しだけ視線を伏せ、リボンを指に絡めた。
「……私の魔法は『幻視』。触れたものの過去を、断片的に見ることができるの」
黒部がリボンを握りしめる。その瞬間、彼女の瞳の奥で、灰色の光がわずかに揺れた。
「あなたは……」
「どうかしたか?」
突然黙り込んだ彼女に首をかしげる。黒部は慌てたように頭を振った。
「いいえ、なんでもないわ……。ただ、あなたがとても丁寧に拾ってくれたのが、伝わってきたから」
彼女は今日、初めて笑顔を見せた。土に汚れて、暗い夜でも、その笑顔は美しく輝いていた。
「何か、お礼をしないといけないわ」
「お礼?」
少し考える。お礼なんていらないと一瞬答えそうになったが、それでは黒部の気が済まないだろう。彼女の大事な、そう、大事な……
ふと先ほどの光景が思い浮かび、口元が緩んだ。
「……黒部」
「なに?」
「その……今度、付き合えよ」
「……え?」
黒部が不思議そうに首を傾げる。俺は頭をかきながら、視線を逸らして言った。
「キャッチボールだ……久しぶりに、投げたくなった。やれるか?」
自分でも驚くほど素直な言葉が出た。
そうだ、俺にも大事なものがあった。決して、野球が嫌いになったわけじゃない。
白球の重みも、バットが風を切る音も俺は捨て去ることができない。
棚の奥に押し込んだミットの感触が掌に蘇る。裏切られ、絶望し、投げ出したつもりだった。それでも走るたびに体はあの頃のキレを求める。鼓動が早まるたび、あの白球の行方を追いかけてしまう。
競技に戻るわけじゃない。だが、これくらいはいいだろう。
黒部は一瞬驚いたように目を見開いたが、やがて優しくリボンをポケットにしまい、頷いた。
「……ええ、私でよければ喜んで。……あなたの投げる球、近くで見てみたいわ」
彼女の灰色の瞳に、月の光が反射する。またもや、その美しい笑顔を向けた。
「あなたは、不思議な人ね」
「なんだそりゃ」
「今日は本当にありがとう、大鐘くん」
黒部は一度だけ振り返って手を振ると、闇に溶けるように寮の方へ歩いていった。
一人残された広場で、俺は自分の右手をじっと見つめた。
指先には、まだリボンの冷たい感触。
俺は寮を出た時よりも軽い足取りでランニングを再開した。
俺は部屋に戻り、ドアを閉めた瞬間力が抜けた。
今日も波乱万丈だった。
俺はベッドに横たわり、スマホの画面を閉じた。部屋は暗い。窓から入る月明かりだけが、ぼんやりと床を照らしている。棚の奥に押し込まれたミットの輪郭がぼんやりと浮かんでいる。
『あまり、桜羽エマを深追いするな』
二階堂ヒロの警告が、耳の奥で何度もリフレインする。
「……」
橘シェリー、二階堂ヒロ、桜羽エマ、遠野ハンナ、そして、黒部ナノカ。
出会った五人の魔法少女たちは、誰もが欠けたパズルのピースのように、どこか歪で、切実なものを抱えていた。
魔法少女に、魔法クラス。何か、大きなものが裏にある。でも、今は考えるのをやめよう。
無難に、平穏に、やり直す。そんな計画は転校二日目で完全に崩れ去った。
けれど、不思議と悪い気分ではなかった。
過去のことは、まだ重い。でも、ここでなら少しずつ変われるかもしれない。
キャッチボールを約束した時の、胸の奥がわずかに震えるような感覚。久しぶりに、前を向ける気がした。ここへ来てよかった、そう思える瞬間が確かにある。
そんなことを考えながら、俺はゆっくり眠りに落ちていった。明日も、また新しい一日が待っている。
ここまでがプロローグです
次回もお楽しみに
牢屋敷抜きのナノカは難しくないですか。年齢は何とかします、何とか