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ナノカお姉ちゃんの名前が公開されたらしくてこれ。後回しにしまくってる後日談を考えるターンきたかもしれません
街路樹の葉もすっかり落ちきり、本格的な冬の到来を感じさせる冷たい風が街を吹き抜けている。
期末テストが全て返却された日の放課後。俺たちは駅前にあるファミレスのボックス席で、ささやかなお疲れ様会を開いていた。
暖房がしっかりと効いた店内は居心地が良く、窓ガラスは外と内の温度差でうっすらと白く曇っている。
「どうなることかと思いましたが、なんとかなりましたね!」
「ああ、何とか助かったよ。お前達のおかげだな」
俺がしみじみと頷くと、向かいの席に座る橘は、メロンソーダのストローを咥えたまま得意げに胸を張った。
テストの結果は、赤点回避どころか全教科で平均点を超えるという、俺の基礎学力からすれば奇跡に近い大健闘だった。ほとんど遠野の思ったよりも優しい指導のおかげだろう。
「橘。そういえば手、大丈夫か」
「はい!メルルさんにバッチリ治していただきました!」
橘は怪我をしていたはずの右手を顔の前に出し、ヒラヒラと振って見せた。あの日滴っていた血も痛々しい傷痕も、綺麗に消え去っている。
「メルル、ね。治癒の魔法か。便利すぎるな」
「きっと仲良くなれますよ!」
「本当か?」
話の区切りがつき、テーブルにふっと沈黙が落ちた。
「……」
「……?」
俺はどうにも視線のやり場に困り、手元のグラスの氷をカラカラとストローで突いた。向かいに座る橘は、特に気にする様子もなくニコニコと微笑んでいる。
今、この席には俺と橘の二人しかいない。
本来なら四人が揃っているはずだったのだが、遠野ハンナは何かの用事があって、少し遅れて合流するとのことだった。そして桜羽エマに至っては、「胃が痛い」というひどく分かりやすい理由で今日は欠席している。
二人きりという状況に、俺は一人で勝手に気まずさを感じていた。
ブー、とポケットの中でスマートフォンが短く震えた。
取り出して画面を見ると、メッセージアプリの通知が一件。
『大鐘くん、ちゃんとしなくちゃダメだよ?お手伝いできなくてごめんね。でも、応援してるから』
送り主は、今日欠席している桜羽からだった。
ちょうど彼女のことを考えていたタイミングでのメールに、俺は少しだけ驚きながらその短い文面を見つめた。
「エマさんからですか?」
「ああ、みたいだな」
身を乗り出してきた橘の問いに、俺は画面を隠すようにして短く答えた。
メールの内容は言わない。言うわけにはいかない。
桜羽には、俺が橘のことを特別に想っているということが、もう完全にバレているはずだ。今日のわかりやすい欠席理由も、この『応援してる』という言葉の意味も、俺と橘を少しでも進展させようとする彼女なりの強引な気遣いなのだろう。
「ふむ?何て書いてあるんですか?私にも情報の共有をお願いします!」
橘が好奇心を隠そうともせず、テーブルに身を乗り出して俺のスマホの画面を正面から覗き込もうとしてきた。
俺は慌てて手でスマホを覆い隠し、もう片方の手で彼女の額を軽く押し返して制止した。
「おい、人のプライバシーを勝手に覗こうとするな」
「むむっ、ガードが堅いですね……」
押し返された橘が少し不満げに唇を尖らせた、その時だった。
「あっ、大鐘さん」
橘の視線が、俺の手元からそれて、横に置かれていた俺の鞄へと向けられた。
口の開いた鞄の隙間をビシッと指差し、彼女は橙色の瞳をパチクリと瞬かせた。
鞄の口が少しだけ開いた隙間から覗いていたのは、先日遠野から受け取った白い毛糸の束だった。
隠すつもりはなかったが、柄にもなく気恥ずかしくて、今日一日ずっと鞄の奥底にしまい込んでいたのだ。
「見せてもらってもいいですか?」
橘は興味津々といった様子で、身を乗り出して尋ねてきた。その橙色の瞳がキラキラと輝いているのを見て、俺は小さくため息をつきながらも、「ああ、いいぞ」と鞄からそれを取り出し、テーブル越しに彼女へ手渡した。
「わぁ……すごい!編み目がとても均一で、肌触りもすごく滑らかですね!これ、ハンナさんの手作りですよね。わざわざ持ってきたんですか?」
「まぁ、外は本格的に冷え込んできたしな。ただ、使うタイミングが掴めなくて、結局鞄に入れたままだったんだ」
俺が少しバツが悪そうに頭を掻くと、橘は「もったいないですよ!」と声を大にした。
「せっかくハンナさんが大鐘さんのために一生懸命作ってくれた特別なプレゼントなんですから、ちゃんと使わなくちゃダメです!ほら、今すぐつけましょう!」
「いや、今は店の中だし暖房も効いてるから……」
「名探偵の指示には従うものです!ささっ、じっとしててくださいね」
俺が遠慮する間もなく、橘は手にした白いマフラーを持ったまま、テーブルからグッと身を乗り出してきた。
そのまま強引に俺の首元へと腕を伸ばし、ふんわりとした毛糸を巻きつけにくる。
「おい、橘、自分でやるから……」
「いけません。こういうのは巻き方のバランスが命なんですから、大人しく私に任せてください」
有無を言わさぬ真剣な表情で、橘は俺の首元でマフラーの端を交差させ、形を整え始める。
テーブル越しとはいえ、顔と顔がぶつかりそうなほどの至近距離だった。彼女が少し動くたびに、鮮やかな青い髪がさらりと揺れ、いつもの爽やかな柑橘系の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
目の前で俺の首元に集中している彼女の真剣な横顔、長く伸びた睫毛、少しだけ開いた桜色の唇。そのあまりの無防備さに、俺は呼吸を浅くし、視線をどこへ向けていいか分からず固まってしまった。
だが、そんな緊張感と同時に、俺の胸の奥に冷たい泥のような疑問がぽつりと落ちた。
(……こいつは、何とも思わないんだろうか)
他の女子から貰った、それも手編みのマフラーだ。それを俺が身につけることに対して、ましてや今こうして、自分の手で俺の首に巻くという行為に対して、彼女の心には本当に何の波風も立たないのだろうか。
いや、そもそも俺に対して恋愛感情のような特別な想いを抱いていなければ、何も思うはずがないのだ。嫉妬や独占欲、そんな複雑な感情を彼女に期待してしまっている自分がいることに気づき、俺は内心で自嘲した。
自分の好意を押し付け、相手にも同じ熱量を求めてしまうなんて、ひどく自意識過剰な考えだ。
「はい、完成です!やっぱり白は、大鐘さんにすごく似合いますよ!」
橘が満足そうに手を離し、満面の笑みを浮かべた、まさにその瞬間だった。
聞き慣れた足音が俺たちのテーブルへと近づいてきた。
「お待たせしましたわ。少し長引いてしまって……」
声と共に現れたのは、急いで駆けつけてきたのか、少しだけ息を切らした遠野ハンナだった。
だが、彼女の足と、紡がれかけた言葉は、テーブルの横でピタリと止まった。
遠野の視線は、俺の首に巻かれた自分が編んだマフラーと、俺の目の前でテーブルから身を乗り出し、嬉しそうに笑っている橘の姿に完全に釘付けになっていた。
「あっ、ハンナさん!お待ちしていましたよ!」
橘は俺の首にマフラーを巻きつけていた手をパッと離すと、まるで何事も無かったかのように、満面の笑顔を遠野に向けた。
「ささっ、大鐘さんの隣が空いてますよ。こちらへどうぞ!」
立ち上がった橘は半ば強引に遠野の背中を押し、俺のすぐ隣の空席へと座らせた。
突然の展開に状況が飲み込めていないのか、遠野はバッグを抱えたまま、戸惑ったように目を白黒させている。間近で見る彼女の顔には、動揺と、自分が俺の隣に座らされたことへの緊張が入り混じっていた。
「あ、あの、大鐘さん……そちらは」
「ああ、これ。……実際につけてるところを見せるのは、初めてだったか」
俺が首元の白いマフラーに触れながら言うと、遠野はコクコクとぎこちなく頷いた。その瞳が、俺の首元と顔をせわしなく、すがるように往復している。
「すごく温かいよ。ありがとう」
「は、はい……っ」
俺が素直な感想を伝えると、遠野の白い頬がみるみるうちに林檎のように真っ赤に染まっていった。彼女は恥ずかしさを誤魔化すように、両手で自分の口元をきゅっと覆い隠し、深く俯いてしまう。
その初々しい反応を正面から見届けた橘は、うんうんと満足げに頷いていた。
「では!私はここで失礼しますね!」
「えっ、ちょっと、シェリーさん!?」
遠野が慌てて声を上げるが、橘は俺たちが止める間も与えず、素早い動作で自分の鞄をひょいと持ち上げた。そのまま勢いよくボックス席から飛び出す。
「おいっ、急にどこ行くんだよ」
「実は先ほど、名探偵の元に緊急の捜査依頼が舞い込んできまして!幻のスイーツ消失事件の謎を追わなければならないのです!ですので、ここからはお二人でごゆっくり楽しんでください!」
橘はお金を置いて、バサァッと見えないケープを大げさに翻すような身振りをすると、俺が反論する隙も与えず、最高に晴れやかな笑顔を残してファミレスの出口へと駆け出していった。
カラン、と軽快なドアベルの音が鳴り、彼女の鮮やかな青い髪が、冬の街の冷たい喧騒の中へとあっけなく消えていく。
残されたテーブルには、顔を真っ赤にしたまま身を縮こまらせている遠野と、首元に彼女の編んだマフラーの温もりを巻かれた俺の二人だけが、不自然なほど密着した距離で取り残されていた。
橘が嵐のように去っていったファミレスのボックス席には、ひどく重くて気まずい沈黙が降りていた。
BGMのポップスや他の客の話し声が、まるで別の世界の出来事のように遠く感じる。手元のグラスの中で、溶けかけた氷がカランと小さな音を立てた。
隣に座る遠野は、しばらくの間、真っ赤な顔をして俯いたまま身を縮こまらせていた。
しかし、数十秒の沈黙の後。彼女はふうっと長く息を吐き出し、ゆっくりと顔を上げた。
「……まったく。シェリーさんったら、本当に勝手な人ですわね」
遠野の声には、先ほどまでの初々しい動揺は消え失せていた。代わりに浮かんでいたのは、すべてを察したような深い呆れと、そしてどこか諦めに似た、微かな寂しさだった。
彼女は俺の首元に巻かれたマフラーと、橘が飲みかけで放置していったメロンソーダのグラスを交互に見つめ、小さく、自嘲気味に口角を上げた。
「ごめんなさい、大鐘さん。シェリーさん、きっと気を利かせたつもりなんでしょうけれど……こんなふうに無理やり二人きりにされても、困ってしまいますわよね」
申し訳なさそうに眉を下げ、気まずそうに俺の顔色を窺ってくる遠野。
その瞳の奥にある、確かな熱。俺の首に巻かれたマフラーを見つめる、ひどく柔らかくて切実な眼差し。
その様子を見た瞬間、俺の頭の中にあったいくつかのバラバラなピースが、一つの明確な形となってカチリと音を立ててはまった。
(……ああ。遠野は、俺のことが好きなのか)
なぜ今まで確信が持てなかったのか、自分でも不思議なくらいだった。俺はバカだ。
勉強会の時の甲斐甲斐しい世話焼きも、この手編みのマフラーも、俺が橘に感情を剥き出しにした時のあの悲痛な表情も。全ては、彼女の俺に対する好意からくるものだったのだ。
そして、その事実に思い至った瞬間、これまでの不可解だった出来事の正解がドミノ倒しのように連鎖して解き明かされていく。
テスト勉強中、桜羽エマが一人で挙動不審になり、頭を抱えていた理由。
俺が橘シェリーを好きだということを、桜羽は知っている。と同時に、遠野が俺に好意を寄せていることも、桜羽は誰よりも早く気づいていたのだろう。
さらに、橘も遠野の気持ちを知り、俺と遠野をくっつけようとしている。
そんな歪で、今にも破綻しそうな三人の関係性を目の当たりにして、あの優しくて繊細な桜羽が胃を痛めないはずがなかったのだ。
今日の露骨な欠席もそうだ。この最悪にこじれた状況をどうにかするために、あいつなりに俺たちに時間を与えたのだろう。
『大鐘くん、ちゃんとしなくちゃダメだからね』
先ほどのメールの文面が、再び脳裏に蘇る。
あれはただの俺の恋愛の応援ではなかった。
自分の本当の気持ちにちゃんとケリをつけろ。そう背中を押す、彼女からの強烈なメッセージだったのだ。
「……大鐘さん?」
黙り込んでしまった俺を心配したのか、遠野がそっと俺の袖を引いた。
「いや、なんでもない。……橘の言う事件も、どうせ大したことないだろうしな。あいつの勝手な行動には慣れてる」
俺が努めて普段通りの声で返すと、遠野はホッとしたように小さく微笑んだ。
「ええ、そうですわね」
だが、その笑顔の裏側に、彼女がどれだけの覚悟を秘めているのか。今の俺には痛いほどにわかってしまった。
橘が無理やり作ったこの不自然な状況。だが、遠野ハンナという誇り高い少女が、この逃げ場のないお膳立てを前にして、ただ黙って流されるはずがない。
彼女は今日、間違いなく決断をする。
「……ここ、そろそろ出ようか」
俺はテーブルに置かれた伝票を手に取り、静かに立ち上がった。
いつまでもこの生ぬるい空間に甘んじているわけにはいかない。桜羽の言う通り、俺もちゃんとしなければならないのだから。
「ええ。そうね」
遠野も小さく頷き、鞄を手にして立ち上がる。
会計を済ませ、自動ドアを抜けると、外は日が落ちかけていた。
刺すような冬の冷たい風が、俺たちの間を容赦なく吹き抜けていく。俺は首元にある遠野の手編みのマフラーにわずかに顔を埋め、隣を歩く彼女と共に、騒がしい夜の歩道へと歩き出した。
駅前の喧騒から離れ、静まり返った夜の公園へと足を踏み入れた。
木枯らしが吹き抜け、枯れ葉がアスファルトの上をカサカサと音を立てて転がっていく。頼りない街灯の光が、俺と遠野の影を冷たい地面に長く、濃く落としていた。
ファミレスを出てからここまで、俺たちは一言も交わしていなかった。ただ、張り詰めた冬の夜気の中を、互いの足音と白く濁る吐息だけが規則的に響いていた。
やがて、公園の中央にある噴水広場の手前で、遠野がピタリと足を止めた。
俺も数歩遅れて立ち止まり、彼女の背中を見つめる。
遠野は小さく深呼吸を一つすると、ゆっくりとこちらへ向き直った。街灯の下に立つ彼女の翠の瞳は、夜の闇に溶けそうなほど揺らいでいたが、それでも決して俺から逃げようとはしなかった。
「……ここまでお膳立てされて、決着をつけないわけにはいきませんわね」
静かな、けれど芯のある声だった。
遠野は、俺の首元に巻かれた自作の白いマフラーをじっと見つめ、それから俺の目を真っ直ぐに射抜いた。その表情には、橘が作り出したこの残酷な舞台から逃げ出さないという、誇り高き少女の強い覚悟が満ちていた。
「大鐘さん。わたくしは、あなたのことが……好きですわ」
冬の空に、透明で真っ直ぐな言葉が響いた。
誤魔化しも、照れ隠しもない。遠野ハンナという一人の少女の、最も純粋で、最も無防備な心の真ん中がそこにあった。
俺が黙ってその言葉を受け止めていると、彼女は少しだけ泣きそうに微笑みながら、ぽつりぽつりと想いの形を紡ぎ始めた。
「文化祭の時……わたくしが誰からも疑われて、どうしようもない絶望の中にいた時、あなたは当たり前のような顔をして、わたくしのことを助けてくれましたわね。あの時、どれほど救われたか……あなたには分からないでしょうけれど」
遠野は両手を胸の前でぎゅっと組み、過去の記憶を慈しむように目を伏せた。
「かっこつけてるくせに、妙に素直なところや……それに、いつも穏やかに笑っているのに、何かに向き合っている時の、あの真剣な横顔も。そういうあなたに、わたくしは惹かれていきましたの」
俺の心臓が、重く、鈍い音を立てて痛んだ。
彼女の好意は、あまりにも真っ直ぐで、痛いほどに温かかった。俺のために、手編みのマフラーを夜遅くまで編んでくれた彼女の情景が脳裏に浮かぶ。これほどまでに真摯に想いを伝えてくれる彼女に対して、曖昧な態度をとることだけは絶対に許されない。
だからこそ、俺は逃げずに、彼女の目を正面から見つめ返した。
「……遠野」
吐く息が白く混ざり合う中、俺はゆっくりと、けれどはっきりと告げた。
「ごめん。その気持ちには応えられない。俺は……橘のことが好きだ」
残酷な宣告だった。俺の首に彼女の想いの結晶であるマフラーを巻きつけたまま、別の少女の名を口にする己の業の深さに吐き気がする。だが、彼女の気高い勇気を前にして、嘘をつくことなど到底できなかった。
静寂が、公園を包み込んだ。
木枯らしが吹き抜け、枯れ葉がカサカサと乾いた音を立てて足元を転がっていく。
俺がゆっくりと顔を上げると、遠野はいつものように、美しい微笑みを浮かべていた。
「……ええ。わかってたことですわ」
その声には、微かな震えさえなかった。
泣き崩れることも、感情を乱すこともなく、遠野ハンナはただ静かに、受け入れていた。彼女が俺の横顔を見ていたように、彼女もまた、俺の視線が誰を追っていたのかを、とっくに理解していたのだ。傷ついた様子を一切見せないその気丈な姿が、逆に俺の胸を鋭く締め付けた。
「あなたが、ずっとシェリーさんのことばかり目で追っていたことくらい。……彼女の言葉一つ、態度一つに、あなたがどれだけ振り回されて、どれだけ特別な熱を向けているかくらい、わたくしには痛いほど見えていましたもの」
彼女は自分に言い聞かせるように呟き、ふっと表情を険しくし、唇を噛み締めた。
「それより、あの子のほうが心配ですわ」
「……橘が?」
「ええ。あの子、自分のことが見えていなさすぎますの。……きっと、シェリーさんも──」
遠野はそこまで言いかけて、ハッと口をつぐんだ。
そして、小さく首を横に振る。
「いいえ。これ以上は、わたくしの口から言うことではありませんわね」
「遠野……」
「探偵気取りで鈍感なあのお馬鹿さんの答えは、大鐘さん、あなたが自分の力で見つけ出しなさいな。……ちょっと、じっとしていてくださる?」
遠野はそう言うと、俺の目の前まで歩み寄り、スッと両手を伸ばしてきた。
彼女の白く細い指先が、俺の首元に触れる。
そして、まるで俺を縛り付けていた首輪を外すかのように。俺の首に巻かれていた白いマフラーを、ゆっくりと、けれど一切の未練を断ち切るような確かな手つきでほどき始めた。
シュルリと、毛糸が擦れる微かな音が鳴る。
マフラーが完全に引き剥がされた瞬間、剥き出しになった首元に、冬の刺すような冷たい風が吹き込んできた。
その寒さが、彼女の優しさと、この失恋の残酷さを俺に突きつけてくる。
「……中途半端な真似をしたら、絶対に許しませんからね」
遠野は、俺からほどき取った白いマフラーを、自分の胸にギュッと強く抱きしめた。
それは、俺への想いを自分の中で永遠に仕舞い込むための、彼女なりの儀式だった。
彼女はそれ以上何も言わず、くるりと踵を返した。
カツ、カツと、ローファーがアスファルトを叩く音が夜の公園に響く。
決して振り返ることなく、一直線に走り去っていく遠野の後ろ姿を、俺はただ立ち尽くしたまま、静かに見送ることしかできなかった。
次回、最終回です。シェリールートが一番ねっとりした恋愛してるのどういうことなんだよって感じですけど、しっかり終わらせる予定です