まのこい天秤   作:雪無い

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シェリーちゃん回。シェリーちゃん回が一番大変

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7話『小世界ロジック』

 

 放課後、俺は紅茶の匂いがするあの賑やかな教室ではなく、自分のクラスの自席で広げた英語の教科書と格闘していた。学生の敵、課題である。

 学校の勉強なんて「赤点さえ回避すればいい」とベンチ裏で適当にやり過ごしてきたツケが、この学園を前に回ってきていた。俺は人生をやっていたというより、野球をやっていたと言う方が正しい。構文の理屈はわかっても単語や文法をまともに覚えていない。積み上げていないからだ。

 

「勉強も真面目にやっとけば良かったな……」

 

 そうは言ってても始まらない。教科書と単語帳を開きながら明日提出の課題を消化していく。慣れないストレスに苛立つように、手元にあったプラスチック製の安っぽいペンケースのクリップ部分を指先で折り曲げるようにして弄んだ。

 

「……あ」

 

 強い力を加え続けたプラスチックの根元が、パキリと音を立てる寸前で不自然に白く濁った。白化現象。素材に対して限界に近い圧力が、じわじわと長時間かかった時に現れる変質だ。かつて壊れたプロテクターやミットの芯材で何度も見てきた、素材の悲鳴。

 勉強もこれと同じだ。無理やり詰め込もうとすれば、どこかに歪みが出る。……もう少し進めたら帰るとしよう。

 

 そんな言い訳気味の思考を遮るように、俺のクラスの教室の扉が、かつてない勢いで爆ぜた。

 

「大鐘さん!ここにいましたか!さぁ、事件ですよ!」

 

 橘シェリーが突撃してきた。教室に残ったクラスメイトたちはまたかという目でこちらを見る。もうこのくらい慣れたものだ。俺はやれやれと首を振りながら溜め息をついた。

 

「橘か、ちょうど良いところに来たな。連れて行ってくれ」

「ヤレヤレ系みたいな雰囲気出しながらノリノリなんですね」

 

 俺の脳細胞はこれ以上英単語を見ることを拒否している。橘の持ってくるなんちゃって事件でも適当にこなせば気分転換になるだろう。

 

「それで、今度はなんだ。学食の箸が一本足りないとかか?」

「ちがいますー!今回は本気の事件です!私も詳細はよくわかっていませんけど」

「なんだそれ」

「さぁさぁ、行きましょう!」

「こら、掴むな」

 

 俺は名詞と動詞の区別もつかないまま、嵐のような少女に引きずられ教室を後にした。

 

 聞くところによると、特別棟の裏手にある第二中庭で何やら騒ぎがあったらしい。文化祭実行員が多く駆けつけていたとのことだ。なるほど、それは確かに事件だろう。俺達は野次馬をしにいくわけだ。勉強に疲れた体にちょうどいいかもしれない。

 

 二人で会話しながら歩いていると、すぐに現場に到着した。

 第二中庭に足を踏み入れた瞬間、そこには異様な緊張感が漂っていた。

 文化祭の野外展示が並ぶ予定のこの場所は、校舎の影になりやすく、普段は人通りが少ない、現在は資材が置かれた死角だ。だが今は、腕章を巻いた実行委員数名と、険しい顔をした教師たちが、一本の大きな何かを囲んでいた。

 

「おぉ!この厳かな雰囲気!とんでもない事件が発生しているのは間違いありませんね!」

「厳かの正反対が合流しちゃったな」

 

 橘が声を弾ませて駆け寄る。しかし現場の空気は、彼女のテンションを拒絶するように冷え切っていた。

 

「……橘さん。ちょうど良いところに来た」

 

 今日のこいつはちょうど良いところに来るな。という冗談を考えている場合ではない。実行委員の一人が、糾弾するような鋭い視線を向けた。それに嫌なものを感じた俺は逃げるように現場の奥に目を向けた。その先にあるものを見て俺は思わず足を止めた。

 

 無残な支柱だった。文化祭のメイン展示を支えるはずだった、厚手の支柱。それが地上から一・五メートルほどの位置で、飴細工のようにグニャリと曲がっていた。

 ただ曲がっているだけではない。その歪んだ表面にはまるで素手で掴んで無理矢理握りつぶしたかのような、くっきりとした「指の形」の凹みが刻み込まれていた。

 

「橘さん、君が休憩時間中にこの近くを通るのを見たという生徒がいた。そして、この学園でこれだけのことができる怪力の持ち主は君しかいない」

 

 周囲の冷ややかな視線が一斉に彼女に突き刺さる。自分が向けられているわけでもないのに、俺は少し気分が悪くなった。橘は気にした様子もなく、心底驚いた表情でこちらを見た。

 

「ええっ!?これはまさかの、名探偵自らが容疑者として疑われる展開ですか!?大鐘さん、聞きましたか!これ以上ないドラマチックな展開ですよ! 名作ミステリーの予感がします!」

 

 橘は俺の腕を掴み、目を輝かせてぶんぶんと振った。

 こいつ、自分が置かれている状況をわかっているのか。

 

「橘さん、ふざけている場合じゃない。わずかな休憩中にこんな目立つ破壊工作をするなんて、魔法を暴走させたとしか思えないんだ。正直に言えば、事故として処理してやるから」

「違いますよー!私はこの事件を解決しに来たんですから!」

 

 橘の変わらず明るい声とは裏腹に、周囲の空気はとにかく暗い。冷え切った刃物のような視線が彼女を責め立てる。

 

「んもー、信じてくださいよぉ!」

 

 橘は唇を尖らせて抗議を続けている。その表情には悲壮感なんて欠片もなく、むしろ「名探偵の私が冤罪を晴らす世紀の逆転劇……これは映えます!」なんて不謹慎なワクワクが瞳の奥に透けて見える。この状況を楽しんでいる。橘シェリーという少女の底知れなさが、その能天気な笑顔に集約されていた。

 

 だが、俺の方はそれどころじゃなかった。周囲の連中の冷え切った視線。ひそひそと囁かれる、「やっぱりあいつならやりかねない」という、何の根拠もない納得。その空気に触れるたび、俺の心臓は嫌な早鐘を打ち、胃の奥が焼けるように熱くなる。いつの間にか固く握り込まれていた手から汗が出る。

 

 

(──お前が)

 

 かつてのチームメイトの顔が。絶望の淵にいた時の、あの重苦しい決めつけの空気が。十数分程度の休憩時間の目撃情報。怪力という特性。

 それだけで十分だと言わんばかりの、思考を放棄した断罪。胸の奥が焼けつくように熱い。怒りなのか、恐怖なのか──あの指が、再び俺を、橘を、切り裂こうとしている気がして、吐き気がする。

 

 

「……橘の仕業だと決めつける前に、少しは事実を見たらどうだ」

 

 自分でも驚くほど、冷たく刺さるような声が出た。一斉に視線が俺へ向く。俺はそれを無視して、一歩前に出た。橘の隣に立ち、肩に手をやった後、その無残な鉄柱の前に屈み込む。俺の突然の行動に、教員が訝しげに声をかけてきた。

 

「……君は?」

「一年の大鐘です。橘の友人です」

「いえ、ライバルです!」

「友達否定すんなよ……」

 

 悪意がないのはわかるがちょっと傷ついた。しかしおかげで少しは冷静になれた。俺は指先でその指跡の凹みを丁寧になぞる。

 実行委員数名の「あの転校生の……」というヒソヒソ話が聞こえてきた。何の噂か。転校初日以降は大人しくしてたはずだ。

 

「大鐘くん、友人の肩を持ちたいのはわかるが、状況証拠は真っ黒だ」

 

 教員の一人が冷たく言い放つ。俺は彼を見上げることなく静かに口を開いた。

 

「状況証拠……。なるほど。確かにこの太さの鋼管を曲げるにはかなりの膂力が必要だ。そしてご丁寧に指の形まで残っている。普通に見れば、橘の仕業だと思うだろうな」

 

 俺は立ち上がり、橘に向き直った。

 

「橘、左手出せ」

「えっ、は、はい?」

 

 戸惑いながら差し出された彼女の手を、俺は迷わず取った。柔らかくて、細い女の子の手だ。だが、その内側には戦車をも止めるほどの怪力が秘められている。俺は彼女の指の間を広げ、自分の指と絡めるようにして大きさを測った。その柔らかい感触に、胸の奥が少しだけ温かくなる。

 橘を守る。この手が、決して罪に染まらないように。

 

 

「大鐘さんのほうから握ってくるなんて珍しいですね」

「いつも手握ってるみたいな言い方はやめろ」

 

 どこかに連れて行くとき絶対腕を掴んでくるだけだ。俺がそれに抵抗できないのを良いことに毎回毎回……。こちらが本当はそれを望んでいることを見越しているのだろうか。

 「やっぱりあの人って……」なんて小さな声が周囲から聞こえてきた。だから俺は何だと思われているんだ。

 

 俺は橘の手を離し、仕切り直すように一つ咳払いをして彼らの方を見た。

 

「今から、橘シェリーが犯人ではないことを証明する。あんたらの安っぽい先入観を覆してやる」

 

 周囲がどよめきに包まれる。一介の一般生徒に過ぎない俺が、教師や実行委員を向こうに回して大見得を切ったのだから当然だ。

 だが、そんな視線はどうでもいい。今の俺にとって大事なのは、誰が犯人かを見つけ出すことじゃない。ただ、目の前で笑っているこの身勝手な少女が、かつての俺のように罪を背負わされる未来を叩き潰すこと。それだけだ。

 

「まず、単純な話だ。橘、お前の指の関節から指先までの長さを、この凹みの跡と比較してみろ」

「はいっ!」

 

 橘がとびきりの笑顔を見せながら、鉄柱の指跡にそっと自分の手を近づける。容疑者という自覚があるのか疑いたくなるほど明るいその態度に、俺は毒気を抜かれて少しだけ笑ってしまった。その笑顔を見るだけで、胸の怒りが少し和らぐ。橘は、そんな存在だ。

 

 

 比較は一目瞭然だった。凹みの第一関節の位置が、実際の彼女の指より三ミリほど指先側に寄っている。

 

「あっ……!」

「……長さが合わない。これがまずおかしい。橘の指の構造と、この跡は一致していない」

「ふん、それくらい指をずらして握ればどうにでも誤魔化せるだろう」

 

 実行委員の一人が、苦し紛れに反論を投げてくる。

 想定内だ。その程度の反論が来ることは、論理を組み立てる時点で分かっていた。

 

「そうだな。だが、ずらして握ったとしても、第二の矛盾は消えない。……この指跡、五本すべての凹みが不自然なほど均一すぎる」

「どういうことですか?」

 

 橘の疑問に頷きで返し、俺は冷徹に言葉を継いだ。

 

「人間が物を思い切り握って曲げる時、親指と人差し指、そして中指に力が集中し、小指側は添えるだけになる。もちろん小指も大事だがな。しかし、どれだけ力を込めても、五本の指にコンマ数ミリの狂いもなく同じ圧力をかけるなんて芸当、人間には不可能だ。たとえ怪力の魔法であっても、それを使う器が人間である以上、指の筋肉の出力差からは逃れられない。……橘は人間なんだ。機械じゃない」

 

 周囲が押し黙る。橘さえも。俺の言葉に、反論の余地を見出せない。だが、俺はまだ止まらない。

 

「最後に、これが決定的な証拠だ。……見てみろ。歪みの中心にあるこの白化現象を」

 

 俺は先ほど、自分の教室で見たペンケースの傷を思い出しながら、白く濁った塗装の跡を指差した。

 

「あんたたちは、休憩時間のわずかな間に橘がこれをやったと言ったな。だが、この白化現象は素材に対して限界に近い圧力を、じわじわと長い時間かけ続けた時にしか現れない。ここは人通りが多くはないとはいえ、目撃証言があるくらいだ。この中庭で、しかも休憩時間のわずかな間に、誰にも見つからずそんな悠長な真似ができると思うか? すぐに見つかるリスクを冒してまで、そんな時間のかかる面倒な曲げ方をするメリットがどこにある。それに、この鋼管はただの鉄じゃない。文化祭用のメイン支柱だから、軽量化のために中空構造のアルミ合金を採用してるはずだ。アルミ合金は多少柔らかい。橘ならこんなもん一瞬で一撃だ。そうなったら塗装は粉々に剥がれ落ちるはずで、こんな風にはならない。休憩時間中に、誰にもバレずに壊すのが目的ならそのやり方を選ぶはずだ」

 

 あっけにとられる周囲を、俺の視線が支配していく。

 

「犯行の可能性があるとしたら、授業中だ。完全に人がいなくなるタイミングを狙って、ジャッキのような機械を設置し、指に見える型を使って時間をかけて押し潰した。……橘。お前、今日の授業はサボったり遅刻したりしてないだろうな?」

 

 いつの間にか表情すら静かになっていた橘だったが、声をかけられるとすぐにいつも通りの顔に戻った。

 

「してません。そんなことしたら、ハンナさんやヒロさんに後で怒られちゃいますから」

 

 橘が肩をすくめて答える。遠野や二階堂から普段どんな扱いを受けているのかが簡単に想像できた。

 

「……だそうだ。二階堂ヒロに裏を取れば間違いないはずだ。あいつは同じクラスだからといって、身内を甘やかすような奴じゃない。あいつが橘シェリーは席にいたと言えば、それは絶対的な事実だ」

 

 俺は教員たちの顔を一人ずつ見据えた。

 

「あんたたちなら分かるだろ。あの二階堂が、授業中に隣の席の奴が魔法で鉄柱を曲げに出ていくのを見逃すはずがない。彼女が認めた出席は、どんなカメラの記録より確実な証拠だ」

 

 それでも疑うなら、それは橘を疑っているんじゃなく、この学園のリーダーである二階堂の規律を疑っているのと同じだ。そう突きつけると、教員たちは蛇に睨まれた蛙のように沈黙した。

 

 完全に空気が変わった。さっきまで橘を責め立てていた状況証拠という名の薄っぺらな壁は、俺が提示した物理的、論理的な事実の前に跡形もなく瓦解していた。

 

「……犯人が誰かは、今の俺にはわからない」

 

 俺は、立ちすくむ教師や実行委員たちを、底冷えのするような視線で見据えた。

 

「だが、橘じゃないことだけは確かだ。……これ以上、根拠のない言いがかりで彼女を責め立てるのはやめてもらおうか。橘が傷ついてないように見えても関係無い。あんたたちが今一番反省しなきゃいけないのは、犯人を見逃したことじゃない。自分の脳みそを使わず、ただの先入観で一人の生徒を罪人に仕立て上げようとしたことだ」

 

 

 あの時と同じだ。切り捨てるような。俺はもう、二度とあんな空気の中に誰かを置きたくない。

 俺の静かな怒りがこもった言葉に、誰もが言葉を失い、ただ歪んだ鉄柱を見つめるしかなかった。

 

 

 

 

 夕焼けが第二中庭をオレンジ色に染め上げる。

 嵐が去った後のような静寂の中で、俺は急に自分のしでかしたことが気恥ずかしくなってきた。過去の自分を重ねて、独りよがりに熱くなってしまったんじゃないか、と。

 

「……悪い。少し出しゃばりすぎた」

 

 俺は視線を逸らしたまま、ボソリと呟いた。

 橘は本来、この状況を名探偵として楽しもうとしていたはずだ。それを俺が、怒りに身を任せ勝手に解決してしまった。

 

「橘。お前が解決したかったんだろ。台無しにして悪かったな」

 

 言い終える前に、ふわりと、橘の独特の香りが近づいた。彼女は俺の顔を覗き込むと、可笑しそうにクスクスと喉を鳴らした。

 

「何を言っているんですか大鐘さん、名探偵の窮地をライバルが助ける!これも熱い展開ですよ!」

 

 その笑顔に俺は少し救われたような気分になった。「それに」と橘は続ける。彼女の声が優しく胸に染み込む。

 

「私達が初めて会った、囲碁部の事件と同じじゃないですか」

「……ああ、あの時も俺が勝手に盤面を片付けたんだったな」

 

 もう懐かしさすら感じる、碁石紛失事件。事件ですら無かったあの出来事も、確かに、今回と同じだ。俺が納得するためにやったことだ。橘の意思を無視してでも。

 彼女はそんな俺に怒るどころか、また前と同じように俺に笑いかけて見せた。

 

「全く、大鐘さんはすぐ私の見せ場を奪ってしまうんですから」

「まあ、あの時に比べれば、今回はちゃんと事件って感じがするな。犯人もわかってない。続きは任せる」

 

 俺が少しだけ笑い返すと、橘は満足そうに頷き、それから少し真剣な表情で俺を見つめた。

 

「はい!ありがとうございます、大鐘さん!……しかし、弱りました。ライバルに庇われるという、大きな借りを作ってしまうなんて。これは名探偵として何かお返しをしないといけません!」

 

 お返し、か。いつかのリボン探しの時、黒部にもそんなことを言われたな。

 俺が今一番困っていること、それは明確だった。

 

「橘、お前成績はどのくらいだ?」

「成績、ですか?」

 

 予想になかった質問といった感じで、橘はキョトンとした顔をして答えた。

 

「普通だと思います」

「十分だ、課題手伝ってくれ。勉強苦手なんだ」

 

 橘は意外そうに目を丸くした。

 

「へぇ!何でも完璧にこなす大鐘さんが、お勉強は苦手だなんて。……なんだか嬉しいですね!まだまだ大鐘さんについて知らないことが多いみたいで!」

 

 彼女は俺の腕に自分の腕を絡め、楽しげに顔を近づけてくる。

 

「決めました!初めて会った時の質問会、今から再開です!お勉強ついでに私の知らない大鐘さんを全部暴いてみせますよ!」

「勉強だけにしてくれ……」

 

 橘も、あの時の黒部も。俺のお節介に感謝し、応えてくれる。それが俺には嬉しかった。

 

「そうだ、黒部だ。あいつの幻視に頼れば支柱の犯人が特定できるんじゃないか?今から呼び出して───」

 

 俺がスマホを取り出そうとすると、橘がその手を優しく、だが力強く制した。

 

「ダメですよ、大鐘さん。今からお勉強の時間です!学生の本分を忘れてはいけません、携帯は禁止です!」

「……お前がそれを言うか?」

 

 普段、事件だ何だと言っている彼女に言われるのは癪だが、その表情はどこか嬉しそうで、いたずらっぽい。……まあ、いいか。

 

「それに、犯人は私が見つけますので!」

「わかったよ……」

 

 俺たちは沈みゆく夕日に背を向けて、教室へと歩き出した。絡められた腕の温度が、少しだけ熱かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。日課であるランニングの休憩中、俺のスマホに、一通のメールが届いた。

 送り主は、二階堂ヒロ。その名前に少し緊張が走る。 

 

『今日の件は聞かせてもらった。申し訳ない。仲裁する立場の私が本来その場にいるべきだった。この埋め合わせは必ず。……シェリーは、君がいなければきっと笑っていられなかったはずだ。私の友人を助けてくれてありがとう』

 

 律儀な謝罪。だが、画面をスクロールする指が止まった。続く言葉には、夜の静寂を切り裂くような不穏さが満ちていた。

 

『君たちがいなくなった後、ナノカの幻視に頼り犯人の特定を試みた。しかし、彼女が言うには「何も視えない」とのことだ。視える予感すらしないと言っていた。……こんな事は初めてだ。大鐘ヒカリ、君はこの件をどう見る?』

 

 メールを読み終え、俺は思考を巡らせる。

 黒部の力が通じない?ただの悪戯なら、何かしらの形跡が残るはずだ。彼女の幻視は確実に過去を視られるというわけではないが、何も感じないというのは変だ。

 

 思えば、なぜ犯人はわざわざ橘に疑いが向くような事件を起こしたのか。

 俺は彼女を庇うことだけに集中していて、その意図を深く考えていなかった。

 

 でも、なぜ橘を狙う?もし本当に橘を陥れたいなら、もっと直接的な証拠を残すはずだ。

 これは、橘を疑わせる「演出」……つまり、誰かが「怪力持ちの魔法少女」をスケープゴートに仕立て上げようとしてる?

 それとも……

 

 

 

「……魔法そのもの」

 

 

 

 

 

 俺は無意識に、ポケットの中の壊れたペンケースを握りしめた。

 あの白化現象と同じように、じわじわと、誰かがこの学園に「限界」を与えようとしている気がしてならなかった。

 

 

 闇に包まれた学園を見つめる。俺は拭いきれない違和感を喉の奥に感じながら、再び夜の闇の中へと、逃げるように走り出した。

 背後で学園の時計塔が、不吉な重低音で時刻を告げた。

 

 

 




シェリーちゃんメインの話はミステリーをやっていく予定です。ガバガバでも許してね。ラブコメ頑張るので
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