イタズラ好きなエイリアンヒーロー!? 作:ヴィルヘルム星の大魔王
オハナは家族!
江入庵は、自身に宿る個性が好きだった。元来、一人に一つしか宿らない個性。庵は、例外的に複数の個性を持っている。その中には、超人的な力も含まれるが、大半がイタズラに特化している。
彼が四歳の頃だ。彼の身体から電気が流れた。その後、腕を二つ生やし、近くに有ったテーブルを持ち上げるという奇行を見せた。彼の両親は、個性科のあるクリニックで検査を受けさせた。その際、個性診断が出来る稀有な個性持ちの医師は、庵の体に宿る豊富な能力に度肝を抜かれたという。
「この子の個性は、様々な能力が存在している。失礼ですが、お父さんとお母さんの個性を教えていただけますでしょうか?もしよろしければ、御祖父母様の個性も」
医師からの言葉を聞いた父母は、戸惑いながらも自身の個性を話した。父親の個性は、『宇宙怪獣』、母親の個性は『森妖精』だ。また、祖父の個性は『妖怪』、祖母の個性は『爆速』である。共通点としては、空想や伝承における架空の存在。個性の系統としては父系に当てはまるが、父親の個性から派生した個性だと医師は結論付けた。個性検査の末、江入庵の個性は、複合型個性『エイリアン』として、登録された。
「医師として長い事、色々な個性を診断してきたが、君のように様々な能力を持った個性の子は初めてだよ。その力は誰かを守れる力だよ」
医師は、幼い庵に微笑みを向けた。その言葉が、庵の中にあるヒーロー魂の火種となった。しかし、庵は他の子と比べていたずらっ子だった。
「こら、庵!豆腐をチョコに変えるんじゃない!」
「げっ!バレた!」
庵は、触れた物をチョコに変える能力*1で、豆腐一丁を立方体チョコに変える悪戯をしていた。それを父親に見つかり、軽く説教される。そこに、庵の母が現れた。
「庵、ママの髪をこの髪型にお願い出来る?」
「いいよ。177*2」
『177』の番号を呟いた庵は、髪がリボンで一本に束ねられ、人差し指と中指の爪が長く伸びる。蟹の鋏ポーズにした指で、母が指差す雑誌の髪型を目視しながら、散髪を始める。庵本人は、その能力の恩恵を授かる事が出来ず、家族で一人だけ理髪店で髪を切ってもらっている。
庵の両親は、小学生時代における庵のイタズラを正月の集まりで、愚痴として面白おかしく語る。一般的に見て、この年頃の子供は、イタズラっ子が多い。普通なら躾によって、徐々に子供ながらの倫理観が矯正されるものである。だが、庵はイタズラ行為を止めなかった。幸いなのは、それが家族だけに実行しており、他の子や他所様に迷惑を掛けていないことだ。そのイタズラは、可愛らしいモノから厄介なモノまで揃っている。イタズラ特化の能力は、番号を呟いてから、力を行使する場合が多い。それ故に、イタズラ心の矯正に苦労してきた。
例えば、相手の片方の靴下を隠す。触れた物をレトロにする。触れた物をチョコに変化させるなど、比較的、危険性は少ないイタズラ行為だ。しかし、一部の能力には星を破壊する程の性能を持つ危険な力も含まれている。そして、偶に番号を呟かずに、行使出来る能力もある。その場合は、手を十字型やL型に組み換えて、光線を放つ。また、光輪を射出するといったヒーロー向きの能力だ。
庵の父母は、アニメや特撮が好きな人間であった。まだ庵が母親の胎内にいた頃、テレビでエイリアンが出てくる特撮やアニメ作品をよく見ていた。庵の能力は、その作品に登場するキャラの能力に似ているのだ。母親の記憶を媒介に、個性として、能力を吸収したのではないか。非現実的な事例であるが、世界総人口の八割が個性を持つ超人社会において、その可能性は、否めない。それでも、両親は庵を大事な我が子として育てた。
「筆記試験を終え、今日は実技試験か。緊張するぜ」
個性発現から幾星霜、庵は雄英高校の門を潜り、H型の奇抜な校舎を眺める。
本日は、雄英高校ヒーロー科の実技試験日。雄英高校の入試は、二日間の試験で構成されており、一日目は筆記試験。二日目は実技試験である。二つの試験の総合成績を参考に、ヒーロー科への合否が決まるのだ。国内における偏差値最高峰の高校受験に、身体が武者震いを起こす。
「庵君、ついに実技試験だよ~緊張するね」
「一緒に沢山特訓したんだ。互いに頑張ろうぜ」
「そうだね!頑張ろうー!」
彼の隣にいるのは、葉隠透。その姿は、ブレザーとスカートしか見えず、顔と腕と足は透明になっている。彼女は、庵の近所に住む幼馴染で、誰も素顔を見たことがない。
庵は、緊張気味な葉隠を落ち着かせる。彼からの激励を聞いた葉隠は自信を取り戻し、気合を高める。透明なので、誰にも見えない。二人は、入試説明の会場へと向かった。
「それでは皆、いい受難を!」
庵と葉隠は、プロヒーローのプレゼント・マイクによる入試説明を聞いていた。途中、受験者同士の小さなトラブルがあったものの、事前説明会は無事に終わった。その後は、アルファベットごとに別れ、違う試験場へと移動した。
バスを降りると、誰もが雄英の資金力による試験会場の風景に驚く。それは、街一つが試験会場として設置されているのだ。ヒーロー科として入学できれば、最高峰の施設でヒーローへの勉強に励める。受験生の間で、改めて雄英高校のヒーロー科受験に緊張が走る。
「よし、人という字を三回書いて飲み込む。そして、準備運動っと」
庵は、深呼吸を行い、屈伸や腕伸ばしなどの準備体操で身体の筋肉をほぐす。いつも通りの力を使うだけ。この日の為に、個性と身体能力を鍛えてきたのだ。身体をほぐし終えてから二分後、それは唐突に始まった。
〈はい、スタート!〉
プレゼント・マイクによる試験開始の合図が聴こえた瞬間、庵は駆けだした。後方を一瞥すれば、庵以外は動いていない。だが、彼は走り続ける。この試験会場にいる受験生は、お互いに敵同士だ。庵は試験ロボを倒しに、そのまま走力を落とさなかった。
〈ガガガッ!標的、ブッコロス!〉
1Pの試験ロボAは、キャタピラーを可動させ、庵に向かって攻撃を始める。機械腕で殴り掛かってくる機体の前にも、庵は冷静に対処する。
「221*3!」
番号を述べた瞬間、庵の髪は黄色に染まり、全身から電気を帯電する。試験ロボAに掌を向け、電撃を放出する。電撃が命中し、感電したことで起動停止状態になる。幸先の良いスタートに、庵は落ち着きを取り戻した。またもや、後ろを見れば、出遅れた他の受験生達が集まってきた。
「まずは、1P!さ~て、次だ次!」
その後も、電撃を放ち、2P・3Pの試験ロボB・Cを着々と破壊していく。また、複数体に囲まれた時は、『601*4』と呟く。紫髪に変色すると同時に、二本の腕が生え、回転ラリアットで一網打尽にする。ある時は、『001*5』と呟き、目の前のロボのサイズを豆粒程度に小さくさせ、踏み潰す。バリエーション豊富な能力を駆使していく内に、破壊ポイントは、78Pに到達していた。一方その頃、受験生の奮闘を眺めていた試験官の教師陣は、それぞれ評価を下していた。
「おお、体を硬化させる彼の個性良いね」
「いやはや、今年は例年に比べて豊作だ」
「だが、真価が問われるのはここからさ!」
瞳に傷のある人型ネズミは、目の前にあるボタンをポチっと押した。そのボタンには、実技試験の最終兵器を起動させる機能が備わっていた。巨大な機械が、受験生がいる試験会場に乱入する。庵は、救助活動に勤しんでいると、地響きが鳴る。破壊音が聞こえる方向に目を向けると、高層ビルと同じくらいの巨大なロボットが建物を破壊しながら、闊歩していた。巨大ロボである0Pの姿を見た他の受験生達は、未曽有の恐怖に悲鳴を上げて、避難する。庵は、0Pを見上げ、ポカーンと口を開けた。
「あれが、お邪魔虫の0Pロボか。たまげたな~」
能天気な言葉を述べながら、破壊する方法を考えていると、どこからか声が聞こえた。
「やばい、瓦礫に足が挟まって動けない!」
声が聞こえる方向に視線を向ける。そこには、耳たぶプラグ状の個性と思われる少女の足が瓦礫に挟まっていた。誰が見ても絶体絶命の状況に陥っていた。助けを呼ぶ声を聞いた庵は、直ぐに彼女の元へと急ぐ。瓦礫を掴み、彼女に一声かける。
「今、助けるからジッとしててくれ」
「私も手伝う!」
庵が瓦礫を持ち上げようとした瞬間、オレンジ髪のサイドテール女子が反対側の瓦礫を掴んできた。どうやら、彼女もサポートに来てくれたようだ。庵は、素直に応援を喜ぶ。
「分かった。せーので持ち上げるぞ。せーの!」
増援に感謝した庵は、掌を巨大化させた彼女に合図を送り、共に瓦礫を持ち上げる。瓦礫から隙間が空き、耳たぶプラグ少女は足を動かし、無事に脱出できた。
「ありがとう。ウチは、耳郎響香」
「気にすんな。あたしは拳藤一佳」
「江入庵だ。困ったときはお互い様だ」
耳朗は、拳藤と庵に感謝の意を伝える。二人は、当たり前のことだと謙遜する。ビルをなぎ倒す0Pロボが、三人の近くまで迫っていた。避難しようとする二人を余所に、庵は嬉々とした表情を浮かべ、0Pロボの方に歩む。二人は止めようとするが、それでも彼は歩み続ける。
「特大の花火を見せてやるよ」
庵は、0Pロボのキャタピラー部分の隙間に潜り込み、機甲部分を持ち上げる。浮力で足が浮き上がり、超怪力で0Pが宙に浮かぶ。トラック以上の重さのある0Pロボを持ち上げ、あまつさえ、空中浮遊しているのだ。驚くのも無理はない。
『はぁぁぁ!?』
試験会場をモニターから見ていた試験官達は、庵の行動に驚愕する。庵は、0Pロボを空高く投げ飛ばし、素早く必殺技を構える。全身から光のエネルギーを発し、両腕に溜める。その必殺技は、光の巨人と呼ばれる宇宙人の持つ特殊な光線技だった。
「ストリウム光線!」
腕をT字に組み、光線を発射する。光のエネルギーが0Pの機体を貫通し、空中大爆発を起こした。爆風が、彼の蒼髪を靡く。
「汚ねぇ花火だ」
〈終~了~!〉
破壊と同時に、試験終了のアナウンスが会場全体に響き渡る。0Pロボの最期を確認した庵は、地面に着地する。彼の元に、拳藤と耳郎がやって来た。
「まさか、0Pを倒すなんてやるね~」
「アンタ、最高にロックじゃん!」
治療系ヒーローのリカバリーガールが、負傷した受験生の治療に来訪してきた。耳郎は足を治癒してもらい、入試試験は終わった。二人と別れた庵は、葉隠と合流し、ひとまず試験を終えた事にほっと一安心した。あとは、神のみぞ知る。
試験終了から数時間後、実技試験成績の分析が完了し、モニターに受験者と実技成績が映し出される。
「今年は豊作だな。これは合否が長引くぞ」
「いや〜!爆発系個性の爆豪君は、救助ポイント0で戦闘ポイントだけで次席!」
「俺は、二人いるぜ!なんせ、0Pをブッ飛ばしたんだからな!思わず、YEANって叫んじまったぜ!」
「落ち着け、山田」
「本名で言うなよ!イレイザーヘッド!」
プレゼント・マイクは、同僚のイレイザーヘッドにツッコミを入れる。常にハイテンションな彼は、ツッコミもテンションが高い。
「そして問題は、彼だね」
根津校長の言葉を皮切りに、他の試験官達はある受験者の結果に唸る。その受験者の名は、江入庵。試験中の救助ポイントも高く、破壊ポイントによる戦闘能力はプロヒーローにも引けを取らない実力がある。『エイリアン』という個性に思うところはあるが、様々な能力を扱えるという点と彼の合否に長時間の議論が交わされた。最終的に、根津校長の鶴の一声により、庵の合格が決まった。試験官の誰もが、議論の終了に一息つく中、一人の男の胸中は穏やかではなかった。
(電気を操る力に、物の大きさを変える力。それに加えて、多種多様な能力。最後に見せた光線技。私の勘違いであれば良いが、奴が関わっている可能性があるのではないかと勘繰ってしまう)
頬が痩せこけた金髪男の八木俊典は、庵の戦闘映像を見て、彼への警戒を強めた。五年前に死闘を演じた最恐の敵の個性と共通しているのだ。その敵は、他人の個性を奪い、保持することで様々な能力を扱う史上最恐な犯罪者OFAだ。
(この少年が、奴に関与しているならば…私は平和の象徴として立ち向かうのみ!)
平和の象徴オールマイトとしての矜持が、庵に対する勘違いを加速させるが、彼がOFAの関係者でないことを知るのは、数か月後の話。
「透、飯食べに来いよ。久々に俺の料理を御馳走するぞ」
「庵君のご飯は太りやすいから嫌だよ!?」
「最近、低カロリーな和食料理を覚えたから平気だって…揚げ料理中心にするか」
「和食の中でも高カロリーな料理を企んでる!?」
帰り道、試験を終えた二人は、今日の夕食のことで冗談を言い合い、帰路に着く。
結局、夕食にお呼ばれされた葉隠は、庵特製の和食料理をバクバク食べてしまい、体重計の前で悲鳴を上げるのだった。