古の灯火   作:丸亀導師

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青島攻略戦 終

一市民の視点

 

1914年8月下旬、山東半島・青島近郊の村落。

 

夏の終わりが近づき、田畑の稲穂が黄金色に色づき始めていた。

青島周辺の村々は、中国人の農民とドイツ人入植者が混在する場所だった。

ドイツ租借地として、青島は要塞化され、港湾が整備されていたが、周囲の村落は静かな農村のままだった。

 

しかし、この夏、すべてが変わった。

日本軍の海上封鎖が、突然始まったのだ。

 

8月下旬、連合艦隊の艦影が水平線に現れ、港湾を封鎖した。

村人たちは、遠くの海から響く砲声に驚いたが、最初は、演習かと思った。

 

だが、無線や噂が、戦争の始まりを伝えたると、周囲の喧騒は一変した。

村の長老、王老は、家の縁側で煙管をくゆらせていた。

七十歳の彼は、日清戦争の記憶をまだ持っていた。

 

今度は、日本とドイツの戦争だという。

 

「日本軍が、来たらしい。青島を、包囲しているようだ。」

 

村人たちが、集まってきた。若い農民、李は、不安げに言った。

 

「補給が、止まった。市場に、物が来ない。どうすりゃ良いんだ?」

 

女性たちは、子どもを抱き、顔を曇らせた。

ドイツの要塞兵が、村から食糧を徴発し始めた。どうやら本格的に戦闘が始まるようだった。

暫くすると日本軍の偵察機が、上空を飛ぶ音が、毎日響いた。

 

飛行機は、村人にとって未知の存在だった。空を飛ぶ鉄の鳥。

子どもたちは、最初は興奮したが、すぐに恐怖に変わった。

 

9月に入り、揚陸が始まった。

龍口湾から、日本軍の舟艇が上陸。

村人たちは、遠くから煙を見ていた。砲声が、次第に近づいてきた。王老は、家族に言った。

 

「家に、隠れていろ。戦争には、巻き込まれるな。」

 

しかし、混乱は避けられなかった。ドイツ兵が、村を通過し、要塞へ向かった。日本軍の偵察機が、低空で飛ぶ。

村の道が、避難民で埋まった。青島の中国人住民が、逃げてきた。李の妻は、子どもを抱き、泣いていた。

 

「どこへ行けばいいの。家を、焼かれたらどうしたら。」

 

村は、混乱に包まれた。

 

日本軍による早期の戦闘開始が、避難の時間を奪っていた。

(史実より2週間ほど早い封鎖)封鎖が始まったため、住民の準備が整わず、パニックが広がったのだ。

 

10月、金剛型の砲撃が加わった。

 

遠距離からの砲弾が、要塞を攻撃する音が響き渡る。

村にまで、地鳴りのような振動が伝わった。

夜毎、砲声が響き、眠れぬ日々が続いた。

 

王老は、静かに祈った。

 

「戦争が、早く終わってくれ。」 

 

村人たちは、食糧を隠し、家族を守った。日本軍の進撃が、近づいていた。ドイツの要塞が、崩れ始めていた。

混乱は、深まった。

青島周辺の村々は、戦争の渦に飲み込まれていた。

早期の戦闘開始が、住民の生活を、一変させた。

 

 

1914年11月上旬、山東半島・青島近郊の村落。 

 

戦闘の音が、ようやく止んだ。

秋の冷たい風が、焼け焦げた大地を吹き抜けていた。

青島要塞の陥落が、村人たちに伝わってきたのは、11月上旬のことだった。

 

ドイツ守備隊の白旗と、日本軍の進撃。

戦争は、終わった。 

 

村の長老、王老は、家の縁側で煙管をくゆらせていた。

七十歳の彼は、日清戦争の記憶を思い出しながら、静かに周囲を見回した。

 

村は、混乱の痕跡を残していた。

 

避難民の足跡、焼けた畑、散らばった家財。

 

早期の戦闘開始が、住民に準備の時間を与えなかった爪痕は、思った以上に深い。

 

8月下旬の封鎖から、村人たちは逃げ場を失い、隠れ家や洞窟で日々を過ごしていた。

 

王老の隣で、若い農民李が座っていた。

二十五歳の李は、家族を守るために、村に残っていた。

妻と幼い子どもを抱き、食糧を分け合いながら、砲声に怯えていた日々を思い出した。

 

「長老、戦争が終わったって、本当か?」

 

李の声は、疲れと安堵が混じっていた。

王老は、頷いた。

 

「ああ。日本軍が、要塞に入った。ドイツ兵は、降伏したそうだ。」

 

村人たちは、徐々に家に戻り始めた。

女性たちは、子どもを抱き、焼けた家財を片付けた。

子どもたちは、最初は怯えていたが、静けさに慣れ、遊び始めた。

 

戦闘終了までの日々は、苦難の連続だった。

9月の揚陸開始から、砲声が近づき、村は避難民で溢れた。

ドイツ兵の徴発と、日本軍の偵察機の音が、住民を恐怖に陥れた。

10月の金剛型砲撃が加わり、夜毎の爆音が眠りを奪った。

食糧は乏しく、米糠や雑草でしのいだ者もいた。

 

李の妻は、子どもに言った。

 

「もう、大丈夫よ。戦争は、終わったの。」

 

子どもは、目を丸くした。戦争とは本当に恐ろしいものだと…。

 

「お父さん、日本兵は怖くないの?」

 

李は、笑った。

 

「怖くないさ。国が変わるだけだ。」 

 

しかし、村人たちの心には、不安が残っていた。

 

日本軍の占領が、何をもたらすか。

税金、徴発、土地の変化。ドイツ時代は、厳しかったが、慣れていた。

 

今度は、日本人の統治。

言葉も、通じないかもしれない。道理はどう変わるかなど、誰にも分からなかった。

 

王老は、静かに言った。

 

「兎に角戦争は、終わった。だが、生活は、これからだ。」

 

村人たちは、互いに顔を見合わせた。

焼けた畑を耕し直し、家を修復する。新しい時代が、始まるのだと。

 

戦闘終了までの混乱は、住民の記憶に刻まれた。

早期の戦闘開始が、避難の時間を奪い、苦難を増大させた。

しかし、静けさが、戻ってきた。

青島の空は、晴れ始めていた。

住民たちは、ゆっくりと日常を取り戻そうとしていた。

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